第4話
しばらく飼い猫と生活してみてわかったことがいくつかある。
飼い猫はとにかく人間に媚びて餌をもらうことで暮らしている。例えば、家から段ボールを引っ張て来て人目につくところでその中に入るのであるが草猫によると
「こうすることで捨て猫に見てもらえて、同情した人間が餌をくれるんだ。そして運が良ければ拾ってもらえてまた飼い猫に戻れるってわけだ。」
と言って入っていた段ボールはいつも小ぎれいだった。
それだけで、生活できれば苦労はなく、もちろん誰も餌を与えない日の方が多かったのであるが、その時はいつも草猫を助けた老婆の駄菓子屋に足を運び何とか餌をもらっていた。この店は昼間ならいつでも開いており頻繁に通うことができた。あまりにここに来ることが多いので
「いっそのことあそこで買ってもらったらいいじゃありませんか。」
と他意なく聞いてみると
「こんな汚くて、ガキがたくさん来る場所で生活なんかできるものか。人間の家にいたことがないから知らないだろうが、人間の家ってのはもっと大きくて清潔で明るいもんなんだ。それなのになんだここは犬小屋みたいに暗くてジメジメしているとても人間の家なんて言えたものじゃない。それにこのばあさんもそれほど長くないだろうから、結局一時的にすぎないなんて考えてみればすぐわかるだろう。それともなんだ、お前はここが俺にとってお似合いだといいたいのか。」
と怒鳴りだしその日は機嫌を取るのが大変だったことを記憶している。
そしてえさの取り分はいつも飼い猫の三分の一程度の量しかもらえなかった。それは体格差以上に主従であったことも関係している。
「私が人間に飼われていた時期の記憶では私はまずい餌与えられていた一方で人間の方はうまそうなものばかり食っていた。つまりこれが我々の関係における孝なのだ。」
と餌を分けながらしきりに言っていた。こちらが少しでも多く餌を取ろうとすると卑しいとされその日は餌が一切もらえなかった。
このように生活しているので草猫も草以外を口にするようになりいくつか体が丈夫になっていった。
一応、猫らしく自分たちで獲物を取ることもあった。というのはあまりにあの店に行っていると本当に飼われるおそれがあったためである。そこでもう一つ飼い猫について分かったことがある。それはその図体に見合わないほど素早く動くことができるということであり、それは草猫がこれまで見てきた者たちの中でも指折りであった。またこのような場合、餌となる獲物は山分けではなく自分がとった分だけということなのだが、いくら草以外のものを食べるようになりいくつか体が丈夫になったといっても、体が弱く体力もない草猫が獲物を取ることは至難のわざであった。ただこれについては慣れてくるにつれて、草猫も獲物の数を増やしていき狩りで十分食べていけるようになった。最終的に、草猫だけを見れば人間からもらう餌よりも狩りの獲物のほうが多く口にすることになった。
生活面では基本的にはあごで使われることが多かったが、それ以外で言えば身の回りの世話特に毛づくろいの手伝いが多かった。飼い猫は一日に二回以上毛づくろいをしないと気が済まないらしく、その二回を必ず手伝わされるのである。
こんな風にご飯は少ない、身の回りの世話をさせられるのが嫌になって飼い猫に抗議をしたこともあったのだが、その時に
「私は命の恩人なのにどうしてそんなことが言えるのか。救ってやったのだから羅これぐらいは我慢しろ。もし逃げたとしたら殺してやる、もともと私が救った命なのだから、殺してしまってもそれが遅くなっただけだ。むしろ、少しでも長生きできたのだから感謝すべきだろう。冗談だと思っているのか?本気だぞ。お前、ここら一体で他の猫を見かけたことがないだろう。それは全員殺したからだ。目をえぐったもの、内臓を引きずり回したもの、愛する者の目の前で殺したもの。お前はどう殺されたいんだ?少し世話をしてくれたから選ばせてやる。どの方法も嫌なのならば、黙って私の世話をしていればいい。」
のどが締め付けられ黙るほかにない。獲物を狩るときの動きを見ているとそれが嘘なのではないことが分かった。嘘だとしても、自分程度ならすぐに殺すことができるのだと直感した。
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