第2話

 危害の及ばないところまで来ることは出来たにしても、草猫にはいまだ生活の苦というものが残ったままである。逃げる前の地域でしか生活してこなかったので、縄張りなど、ここらの状況というものがまるで分らない、もちろん土地勘もない、奴らにやられた傷はまだ残っており血も止まっていないところも多々。そんな状況なのでなにもできずにいた。このまま死んでしまうのかもしれない。ハエなんかがたかって、死体からまた新しいハエが生まれてきたって、同族に殺され生首をもてあそばれ飽きた末にドブに捨てられるよりかは幾分かはましな気分だ。混濁した思考の末に同族を呪い静かに瞼を閉じた。

 暖かく、やさしい気持ちとでもいえばいいのか、どこか懐かしいようなけれどもあまり知らないようなそんな心地がしたので、うっすらと目を開けた。太陽かと思われるその光が目を刺激するので驚いてまたとしてしまった。どれくらい眠っていたのだろうきっとこの明るさから考えるにもう春は過ぎてしまったのだろうか、そんなことを考えているうちに目が慣れてきた。あたりを見ると、屋内あった。

 明るかったのは天井からぶら下がっている球体によるものであると察せられた。棚には箱がありその中に小さい個包装のものがおお見られ、中に漂っているであろう甘い匂いがこちらまで伝わってきた。

 視覚以外の情報が整理されたことによって視覚以外からの情報を受け取るようになってきた。何者かに抱えられている、そのことがわかるや否やすぐにそこから抜け出そうと試みようとするまでもなく、スルッと抜け出すことができその相手と対峙するように向き合った。人間の老婆であった。その老婆は草猫が腕から抜けてしばらくしてから、もう大丈夫なのかい、と枯れ枝のような声で言った。無論、人間の言葉は猫にはわからない、敵かとばかり思うのみである。

 その様子を見て老婆がおびえていると勘違いしたのか、大丈夫ですよ、とやさしい声色にしようとしながら言うが、草猫にしてみれば敵が近づいてくるのでもはや攻撃しようというその間際に、

「おばちゃん、お菓子頂戴!!」

 というのを皮切りに続々と子供が部屋に入ってきた。老婆はすぐに子供たちの相手をはじめ

「チョコとラムネを一つずつだから、50円だよ。」

「おばちゃん、当たり出たよ!」

「はいはい、じゃあもう一本だね。」

と何やら棚にあるのもを取引しているようである。今しかないと、いつの間にか震えていた体を動かしできる限りの速さで外へ出た。外へ出て、長い軒下をでてもなお子供たちの入れ替わりは絶えなかった。ちとまず安心したのもつかの間、ある子供が、猫ちゃん!、というと周りの子供全員がこちらを向いたので、草猫は本能的に危険を感じ今いるところから見える一番近い路地に逃げ込みふと子供たちの方を見ると、もう猫への興味は失われていた。

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