ある猫の社会にて
月下美花
第1話
これがいつの時代の話なのかということについては人間以外には存外どうでもよいことで、ことその日の生活が大変な野良猫にとって言えば腹の足しにもならないことなどはどうでもよいなんてことは言うまでもない。ただ、日が昇り沈むことの繰り返しである。
ある路地の陰に草を食っている猫がいた。この猫は習慣的に草を食っているのであるが、その理由をある猫に聞くと、あいつは潔癖が行き過ぎていてゴミをあさりたくないのであんな草ばっかり食っている変わり者なんだ、という一方また別の猫の話によると、あいつはもともと胃が弱いので肉だとかその手のものを食うと腹を下してしまうから仕方なしに草を食っているんだ、という。様々な猫に話を聞いたが、十人十色、皆言うことが違うので本当のところの理由は実際のところ誰もわからないようである。
ともかく、このような変わった猫がいるということは皆知っているらしく、彼が住んでいる地域の近くで知らないものはいないほどであった。誰も理由を知らないことから皆なぜ草を食っているのかを話し出すようになり、いつの間にか皆の間で草猫といわれるようになった。
なぜ皆彼のことは知っているのに直接理由を聞くものが現れないのかというと、草猫がどの野良猫たちの社会にも属さなかったためである。人間にも社会があるように野良猫たちにも最近ではありますが社会ができ、草猫は草を食うという珍しい特性上どの社会にも入ることができなかった。どの社会からも一度お人好しから自身が所属するところに来ないかと勧誘を受け、草猫自身も承諾こそするのですが、所属を認めるかどうかの決議において、猫にもかかわらず肉の一つも口にせず草ばかり食すことは我々の社会においては受け入れがたいといわれ、今に至るまでどの社会にも属することは出来なかった。
その結果、猫の社会はその環境ゆえに外部に対して厳しいこともあり、今となっては誰も話しかけるものはいなくなり噂ばかりが広がっているのであるが、当の本人はそのような噂というものを知りようがない。そもそも、彼はそのようなことに微塵も関心を寄せない性格であるので、知っていようととくには気にすることはなかっただろう。
しかし、それだけならよかったものの、集団の中でのうっぷんを草猫にぶつける者もいた。これには無頓着な猫も困り、一度ダメもとで理由を述べたうえでグループに入れてくれと頼みに行ったのだが聞き入れてもらえず、むしろ草猫が暴力を受けているということを聞いた他の猫たちまでもがそのようなそのようなことをするようになった。最初こそは抵抗こそしていたが、草しか食べていないので体が弱く無意味であった。頭数が増えてからはどうしようもなく、自身がネズミであるのかと錯覚するほどで、ぼろぼろにされた草猫は仕方がないのでそこから少し距離を置いたところで生活をすることにした。
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