第28話 猫と人と、人と虫と
例のダンジョンへと向かう道中、ササミの背中にしがみつきながら、俺はコイツに話し掛けていた。
「お前、ここ最近何をしていたんだ?」
「それを聞いたところでどうなんだよ?」
「俺はエリス達と過ごしてきて、今もまだお前達を本当に信用していいのかよくわかってない。
得体の知れない力、ダンジョンの存在とか色々と。
ただ、お前達がエリスの為に動いてる意思は本物であり、エリスがお前達を大切に想ってることも彼女自身の意思なんだと思う」
「………それが何なんだよ?」
「エリスとサシミはササミを今も探してる。
でも、お前が既に何人かの人間に対して手を出しているって話も出ている。
事が大きくなれば、エリス達自身の身に危険が迫る。
エリスはお前の処遇をどうするか、言葉には出さないが色々と思い悩んでいたよ」
「…………」
「ササミ、お前だって今の状況で自分達が下手な行動をすればどうなるかくらいわかってるはずだ。
エリスの目的を果たす為、彼女の為を思うのなら、尚更自らの行動の一つ一つの重さがわかってるはず。
だから俺は、お前が何の意図も無しに他の人間に危害を及ぼしたとは思えない。
さっき俺達三人を助けてくれたように、無闇な殺しそのものは避けてるんだろ……?」
「俺がどうしようと俺の勝手だろ。
助けたのは俺の気が向いたから、お前を連れてあのダンジョンの奥に連れていき、敵の親玉を倒しに向かうまでだ。
倒さなきゃ、俺達みんな死ぬんだからな」
「つまり生きる為か?」
「そうだよ、俺等は生きなきゃいけない。
こんなところで野垂れ死には御免だし、お前等人間が外から下手なちょっかいを掛けなきゃ、わざわざ殺す必要も無かった。
俺達は俺達が生きる為に動くだけ、エリス様の目的も第一だが、俺はそれ以前に生きなきゃいけない。
死んだら、目的がなんだろうと果たせないから」
「………、ならなんですぐに帰らなかった?」
「お前が気に食わない、それが一番の理由。
こうして背中に乗せてる今すぐにでも振り落としたいくらいには」
「………そうか、まぁ当然だろうな」
「分かってるのに絡むんだ」
「エリスの元に連れ帰る為だからな」
「そうかよ、ほんとお節介」
「それでお前を連れ帰れるなら、なんてことない。
エリス達がお前の帰りを待っている、だから俺は何がなんでもお前を連れて帰る。
まずはこの戦いを終わらせてからだがな」
「そうだな………」
表情はともかくとして、コイツが今何を思っているのだろうか?
自分で言ったのは、生きる為だったと……。
死んだら、目的がなんだろうと果たせないと
当然だ、死んだら目的は果たすもない。
その場の勢いに任せて動いた割には、変に理性が働いているという感じ。
サシミと比べれば粗雑というか、一人称が俺というのも相まって野生児気味………。
一ヶ月余り自分の力のみこの世界で生き延びれただけあって、生存競走で生き残る能力はかなり高い。
とにかく、それだけの能力を有しているコイツが居れば多分なんとかなるだろう。
一番の問題は、例のダンジョンにいる存在だ。
俺の推測が間違いないなら、ソイツは百花最強の一角であった沙耶さんを殺した程の存在。
自分が到底勝てるか、正直少し不安なところ。
ただ、やらなきゃ今度は死ぬだけ。
今まさに、直政や理亜、そして姐さんや百花までも恐らく動いている。
「やるしかないよな、ここまで来たんだから」
「何がだよ?」
「これから俺達のしようとしてる事だよ」
「当たり前だろ、何度も言わせるなよ。
それに俺を連れて帰ろうとしているつもりなら、生きて帰ってくれなきゃ話にならない。
せいぜい足を引っ張るなよ」
巨大な猫はそう言うと、走るペースを引き上げ目的の場所を目指し足を急いだ。
その少し前、何かに視られていたような感覚を覚えたが……、些細な事だとそんな気がした。
●
地上の兵達から送られる映像を、地下深くにあるこの場所から確認していく。
「なるほど、こんな事も出来るんだ」
「良いのですか?
彼等もまたこちらに向かう敵勢力の一つ。
足止めはしておくべきだと思います」
「兵を出したところで、多分すぐにやられるだけ。
だったら、他の奴等の対応に当ててより多くの戦力を分散させた方が有利になる。
地上は幸いにも、こちらの戦闘の余波で瓦礫が多く幼体の彼等が潜みやすい場所も多い。
地と数の利がこちらにある以上、可能な限りは彼等の対応だけに当てた方がいい。
上位兵達には、そうだなぁとりあえずここまでに至る経路のところに配置して強い奴等の相手をさせる。
その内突破されるでしょうけど、インヴィディアの使徒が来るまでこちらが例の器への対処できればいいからね」
「それが、こちらの王の命令だと?」
「そういうことかな。
まぁ、器が動いてるならあとはその器が本来の力が発揮出来るように動かしてあげなきゃね?
王の願いを果たすにも、願いを叶える為の器がまだ未熟な状態。
他の勢力の王達も健在な訳だしさ?
物事をこなす上で順序は大事、表向き下手な他の勢力との競走や対立は避けたいところもあるけど」
「あなた様はどうするおつもりで?」
「さっき言ったでしょう、例の器は私が相手するの。
それが上の意向でもあるし、私自身興味あるからね」
「そういう事でしたら、従いましょう」
「まぁ、どうせこの拠点は捨てるかもね。
一応逃げる準備はしておいていいかな?
私は事が済むまで残るけど、そっちは一応適当なところに隠れたらどう?
並の相手なら問題ないと思うけど、器と使徒相手に戦うのは流石に無理だと思うしさ」
「その判断は自分で決めます」
「了解、それじゃあとは勝手にしていいよ。
私はアレを向かい打たないといけないからさ」
「では、私は失礼します」
そう言って配下の者は去っていく。
知能は他の者達と比べてかなり高いが、正直自分の命令に従ってくれてるのかは分からない。
多分勝手に動くだろうけど、外に出たら銃を持った彼に殺されるのがオチって辺りか……。
「さてと……、ここに来るまでどれくらいかなぁ」
身体を伸ばし、後ろに横たわる巨大なソレに視線を向ける。
巨大な死骸、数十階建てのビルと同等くらいには巨大な甲殻に覆われた黒い虫のソレだ。
「君がもっと強かったら、暇潰しは出来たのかな?」
反応のないソレに触れ、私はただそれをゆっくりと撫で下ろし自分の手元を見る。
右腕に嵌められた黒い石………。
僅かに透けるように、黒い石の中にはハエの紋様が刻まれ怪しく淡い青の光を放ち続ける。
「楽しみだね、この力を……君に試せてる時が来た」
視界の先にある巨大な扉を前に、右腕を伸ばし黒い石は光を放ちその手に刀剣が顕現する。
鞘に収められた刃は私の内に秘めた狂気と同じく、今か今かと彼の来るその時を待ち侘びていた。
「玲君、楽しみだね?
ようやく君と本気で殺り合えるんだからさ……」
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