第27話 猫の手を、人の手を

 激しい戦いが繰り広げられていた。

 多くの血と異能と虫が行き交う、現代の戦場。

 モノリスを主体とした、新たな戦争の形がそこにはあった。


 最も、敵が人間に限らない。

 今も目の前で俺達を囲うように、どんどん数で漆黒のカマキリ達が湧いてくるように………。


 「あーもう、終わらない!!

 あと何匹居るのよ!!」


 「カマキリって卵から沢山出てこなかったっけ?

 あれと同じくらいじゃないのか?」


 「そんなの嫌!!

 私は虫が嫌いなの!!」


 「わがまま言うなよ!!

 俺だって虫はそんなに好きじゃない!!」


 「二人共!!

 喧嘩するくらいなら一匹でも多く倒してくれ!!」


 こんな時でもこの調子とは、まぁどうにか倒せてるだけマシな状況というか………。

 しかし、数が多くてキリが無い………。

 そして、倒した敵の死骸が増えていき安定した足場が無くなっていく始末。


 「ヤバい、これ多分時間の問題か……?」


 理亜や俺なら武器を持ってる。

 故に、ある程度間合いを取れるのだが直政は己の身体が武器という感じなのでカマキリの敵とは相性が悪いように見え、実際のところ敵を抑えてはいるが常に神経を使っているように見え苦戦を強いられてるように見える。


 理亜の方はというと、直政よりは余裕があるが体力面ではやはり直政に劣っている為、息が既に上がり始めている。


 俺はというと、余裕はあるがいつまで保つか分からないってところ。

 必死にこの乏しい頭を回してるんだが、強い力を使えば余計に敵を寄せかねないというのが………。

  

 「玲!!これなんとかならない?!」


 今この場にいる二人にはいい感じの範囲技がある。

 しかし、お互いの距離が近くて巻き込みかねないのだ


 理亜がやれば、俺達は感電する

 直政がやれば、もれなく火ダルマ


 で、期待されてるのが水得意の自分である。


 今の自分がどの程度までやれるのか正直まだよくわかってない。

 不安が残るが、出し惜しみで仲間が傷つくのは流石に耐えられない。


 「やるしかないよな!!」


 覚悟を決めて、武器に込める力を引き上げる。

 その刹那、俺の前を横切るかのように巨大な黒い影が横切り目前の敵達を蹴散らした。

 

 「っ?!」


 あまりの出来事に驚くも、ようやく助けに迎える機会を得られた。

 引き上げた力に身を任せ、一気に解放し理亜、直政の前に立ち塞がるカマキリ達を処理していく。

  

 「これでいいんだろ!!」


 とにかく手当たり次第、目前の敵を蹴散らし続けていきく。


 「理亜!!」


 「分かってる!!」


 「玲、こっちも頼む!!」


 「了解!!」


 ようやく勢いがこっちに乗り、敵をどんどん蹴散らしていく内に、先程の影の存在に意識が向いていく。


 黒い巨体の猫っぽい奴、熊みたいな硬い毛に覆われた象くらいはある存在がそこにはあった。


 「っ!!!」


 最後の一匹と思われるカマキリの敵を倒し、俺達は先程の巨大な猫の怪物と対峙した。


 「………助けたのか、俺達を?」


 「酷い怪我……」


 目の前のソイツは、大人しく俺達の前に座り込み、敵意は無いことを示していた。

 全身に酷い怪我があり、血が流れている部分もある。

 治りかけというのか、あるいは治りきっていない傷があまりに多く、生きているのが不思議に思えた。

 そして、俺にはコイツが何のかを分かっていた。


 「ササミなのか………お前……」


 「………へぇ、分かるんだ。

 そりゃそうだよね、エリス様から聞いたんでしょ?

 そこの二人、一人はリアって奴でもう一人はエリス様が言ってたナオマサって奴で合ってる?」


 「玲、コイツを知ってるのか?」


 「知り合いなの?

 てか、私とどっかで会ってたの?!」


 「ササミだよ、うちで飼ってる猫の………」

 

 「「えーー!!」」

 


 それから俺は二人にササミ達について、簡易的にだが説明した。

 俺と彼女達との出会いから、彼女達のこの姿について。

 そして、普段は猫の姿をしているが。


 「なんだよ。

 せっかくこっちからお前教えてやったのに言って無かったのかよ?」

  

 「説明に迷ったんだよ、普通あり得ないだろ?」


 「まぁ確かに………」


 「というか、今まで何処に行ってたんだ?

 俺とエリスとサシミでずっと探してたんだぞ!」


 「………、みたいだね。

 てか、お前達なんでこんなところにいるんだよ?

 この辺りの敵なんて、虫がウジャウジャ出るくらいだろ?」


 「いや、仕事で敵を追ってたらここに来たんだよ。

 それでやむなくさっきまで苦戦してたんだ」


 「エリス様からの力があればなんとでもなった癖に?

 やっぱり、お前馬鹿なの?」


 「馬鹿とはなんだよ、馬鹿とは!!」 


 「お前等、やっぱ仲良いよな?」


 「確かにそうだよね?」


 「「仲良くないだろ、絶対!!」」


 お互いの言いたい事が被り、何とも言えない気恥ずかしさを覚えたが……。


 「とにかく、これからどうするの?

 帰るなら俺の背中に乗ればいいけどさ……」


 「まさか、帰る選択肢がここで来るとはな……。

 どうする理亜、玲?」


 ササミからの提案に対して僅かに悩む。

 しかし、気になったのは……


 「ササミはどうするつもりだ?」


 「敵の親玉を叩きに行く。

 この辺りの敵を倒しても、正直意味ないからね」


 「意味がないってどういう事だよ、ササミ?」


 「奴等はグーラに所属してる、無尽蔵に数を増やしてくるんだよ。

 餌を求める為に、王に餌を献上する為の手足のような使い捨ての傀儡なんだ。

 だから、末端を倒しても司令塔が命令を出してる限り幾らやってもこいつ等は湧いてくるよ」


 「俺達の今までが無駄だったと?」


 「そういうこと、だからこれから俺は敵の親玉を殴りに行こうと思ってる」


 「いやだからって流石に………」

 

 「はぁ………。

 どのみちやらなきゃこいつ等に負けるよ?

 お前等人間で勝てる相手じゃないし、そもそも不完全な力しか使えない不甲斐ないご主人様を頼るなんてさ?」


 「完全な力を使えれば、勝てると?」


 「それが出来て当然の力じゃないの?

 王の候補者と渡り合えるかまでは分からないけど、この程度の奴等に遅れを取るエリス様の御力ではないからね……」


 「倒して当然の力………」

  

 理亜はそう呟き、直政もまた俺の方を見て何かを察したような様子で小さい溜め息をつく。


 「今の俺達じゃ、不完全なお前にも届かないんだな」


 「直政、いやそれは……」


 「下手な謙遜は、かえってムカつくわ。

 玲、今の貴方は私達よりずっと強い。

 これは事実でしょう?

 私達の琴を気にして全力を出せずいる、私達が邪魔だったら正直に言いなさい。

 対等な仲間だと思うなら尚更そうでしょ」


 「…………」


 「ササミさん、私達に構わず彼一人を連れて敵の親玉のところに行かせてあげて。

 彼が戦う方が、この戦いの勝率は高くなる。

 少し気に食わない存在みたいなんだけど、実際そうでしょう?」

  

 「理亜の仰る通りだよ、ご主人様の手を借りないと俺一人じゃ到底無理。

 人の手を借りたいってところだ」


 「猫の手も借りたいだろ………そこは……」

  

 「俺からしたらそうなんだよ。

 あーもう、分かった……。

 で、ご主人様は来るの?来ないの?

 どっち?」


 「勿論、行くに決まってる。

 お前を家に返すまでやらないといけないからな。

 それに、倒すんだろ向こうの親玉をさ」


 「当然だ」


 「なら決まりだな。

 理亜、直政、俺達はダンジョンに向かう。

 ギルドの増援ともそろそろ合流するだろうから、彼等と協力して被害を抑えて欲しい。

 それくらいなら今のお前等でもやれるだろ?」


 「当然でしょう?

 私達の事舐めてる?」


 「こっちの事は任せろ、玲。

 お前はこのでっかい猫と敵の親玉を倒してこいや!」


 「当然だろ、必ず倒してくる」 


 直政と理亜とハイタッチを交わし、俺達はそれぞれの戦いに向けて動き始めた。

 

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