第26話 引こうにも引けない戦い
「ーーーー!!」
奇声のような甲高い鳴き声を上げ、目の前の巨大なカマキリの化け物は倒れた。
あまりに突然の出来事により、俺達は気が動転するも何とか討伐に成功する。
そしてすぐさまこの場から撤退し、安全な場所を探しながら俺達はひたすら走り続けていた。
「何なのよコレ!!!」
「知らねぇよ、そんなの!!!
俺が知りたいくらいだーー!!」
「とにかく逃げるぞ!!」
まぁ一目散にその場凌ぎの為に走り続ける。
それしか出来ない。
そしてようやく逃げ延びたと思ったところで、俺達は互い息切れし、今の状況を確認していた。
「ハァハァ……ねぇ、今のアレ何なのよ?」
「だから知らないって!」
「そうじゃない!!!
アイツ、喋ったよね?!!
私達の言葉を!はっきりと喋ったよね?!!」
そう、理亜の言う通り奴等は言葉を使った。
こんなの前代未聞、学会とかそんなのに出したら賞とか取れそうな大発見じゃないかな?
まぁ、例外を俺は知ってる訳だが……。
「あーもう、とにかくどうする?
流石に今回は危ないところにきてるっぽいよね」
「で、何処に逃げるんだよ?」
「それは………」
「あのカマキリ、何処まで居ると思う?」
「何処までって、そりゃ少なくともあのダンジョンの近辺には生息してるでしょう……」
「だからヤバいんだろ、とにかく急いで連絡を」
と、すぐさま直政がギルドマスターである姐さんに連絡を入れようとした刹那、掛ける間もなく俺の携帯から着信音が鳴り響いた。
携帯を手に取ると、第一声が……
「お前等、今何処にいる!」
「姐さん、いやそれが敵を追ってたら先月現場近くまで来てしまって。
今それで、丁度連絡しようかと思ったところです」
「な……、お前等今すぐそこから離れろ!」
「ちょっと待って下さい!
とにかくこっちの状況を聞いて………」
「いいから早く逃げろ!!
そこは……」
姐さんの声を最後まで聞く間もなく、爆発音のようなモノが聞こえ始めてきた。
「姐さん、今さっき何処かで爆発が?」
「っ……、そこはもう異壊の中心だ。
そろそろ政府からも避難命令が出る、お前達もすぐに避難するべきだろうが……。
これから、協会と百花を筆頭としたギルド連合で異壊の対処を行う。
先程の爆発は恐らく彼等の手によるものだ」
「協会とギルドがここに?」
「私も召集が来ている、正直逃げろと言いたいが。
だが、お前等は戦いたいか?
これに関しては強制はしない、どちらの選択を取ろうとも今後の仕事には問題ないように手配する」
姐さんの言葉に対して僅かながら、言葉に詰まった。
二つ返事で行っても良い、でも異壊の恐ろしさは俺も身を持って知っている………。
「理亜、直政……どうする?」
俺の言葉の意味をすぐに二人は理解したのか、二人は僅かに考え込む。
正直利点が無いに等しい……。
敵の強さは、俺達が身を持って知ってる。
3人で上手く連携して、ようやく一体倒せる。
残りがどの程度か分からない中、俺達が行ったところで足手まといになりかねない。
だが、今こうしている内に………
俺達3人はいつの間にか敵に囲まれつつあった。
二人と視線が重なり、今取るべき選択肢が合致する。
「姐さん、俺達は戦います。
どうやら、逃げ場が無いみたいなんで………」
「………、分かった。
必ず生きて帰ってこいよ、お前達………」
そう言い残し、彼女との通話は途切れた。
●
「おー、やってるやってる………。
外で戦うのはいつぶりかな?」
「高み見物のつもりか、堺桐壱」
「……、お前さんもかい?
今はリベラティオ殿でしたか」
「……」
タバコを吸いながら、男はそう声を掛けてきた。
「一年半程前に、協会に入った新参者。
しかし、その圧倒的な実力で現在は協会のナンバー2であり最高戦力の一角を担う……。
噂でその存在を聞いてはいたが、まさかお前さんがリベラティオ殿とはな……」
「それが何か問題でも?」
「色々と面倒な事になったものだよ………。
その顔、この辺りでは特に晒すなよ?
色々と面倒になるからな」
「この国の最高戦力である貴方がそう言うとは、随分と俺は嫌われたものだな」
「別に嫌ってる訳じゃないさ。
で、これからどうするつもりだい?
上からの命令を待つのか、それとも今すぐにでも動くのか?」
「敵の本拠地を叩きに向かう機会を伺っている。
先月回収されたサンプルの調査結果から、敵の弱点に幾つか見当がついた」
「ほう、弱点とは一体?」
「体内にモノリスを有している、カマキリ型。
モノリスを通じて、体内の筋組織は愚か外殻のみでも活動を可能にしている点からして、恐らく本体から何らかのエネルギーや指示を受けて動いてる可能性が高い。
幼体のモノに関しても、体内のモノリスがいわゆるフェロモンの役割をして彼等の動きに統率を生み出しているのだろう。
つまり、敵の親玉を倒せば抜け殻の動きや幼体の動きを比較的楽に対処出来る。
しかし、本体は恐らくダンジョンの最奥。
表層に出ているのは、切り捨て前提の下っ端と見ていいだろう。
親玉の元へ近づこうものなら、敵の本隊との激しい抗戦は避けられない」
「敵の親玉を倒せばいいが、そこまでの道のりが遠いという訳か………。
いや、自分がその役目を担ってもいいが生憎多数を相手取るのは得意じゃなくてね」
「いや、その点は問題ない
この程度の敵なら道は俺一人で切り開ける。
ただ……」
「ただ?」
「今は彼等に任せるべきだろう。
いや、器の覚醒に至るまでは静観していたい」
「器ね、彼の事そりゃ知ってるか……。
あの子さ、君の連れとよく似てるよね?」
「どうだろうな、ただ今後を考えるなら彼にも強くなって貰う必要がある。
今回の事で、その力が目覚めればいいが………」
「それまでにどれだけの犠牲が出ると思ってる?」
「この先に起こりうる犠牲と比べれば、マシなものだろう?
この世界を守るモノとしてはな………」
「………、そうだな」
彼はそう言うと残ったタバコの一本を吸い終え足でクズ殻をすりつぶした。
その後、ゆっくりとその手に黒い拳銃を持ち額に銃身をあて何かの祈りを捧げていた。
「さてと、タバコ休憩は終わりにしようかな……。
というわけで、おじさんはこれから仕事に行ってくるとするよ。
君も自分の仕事をせいぜい頑張りな」
桐壱はそういう残すと、ゆっくりと敵の潜む戦地へと歩いて向かった。
手に持った銃からは青の入り混じった閃光が銃身を奔っておりスーツ姿であってもあまりある彼の異能の力によりモノリス特有の光が心臓部分から右手に掛けて光が溢れ出していた。
リボルバー式の拳銃に、光を通さないような漆黒の弾丸がゆっくりと詰められていく。
恐らく彼の持つ異能に合わせた、モノリス製の特注品の弾丸達だろう。
弾丸一発で車の一つは買えそうな代物だろう。
「アレが例の執行者としての姿か………」
男の背を見ながら、俺はただ自分の行くべき時を探り続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます