第25話 災厄の狼煙

 「直政、理亜!

 そっちに行ったぞ!!」


 「了解!」


 「任せなさい!!」


 俺の声に反応し、目の前の怪物は巨大な棍棒らしきモノを振りかざし向かってくる。


 「戦えるのは玲だけじゃない!!」

 

 理亜はそう言い、腕を天にかざすとその手に雷鳴のような音と光を放ちながら両端に双頭の刃を持った光輝く槍が現れる。


 「直政、援護よろしく!!」


 「了解!!」


 彼にそう言うと、光の軌跡を残像のように残しながら高速で理亜は敵に目掛け単身に突っ込んでいく。

 速度だけなら業界でも上澄みに居る部類の彼女、故に目の前の怪物が攻撃を繰り出す間もなく、先に彼女の一撃が敵の右腕を肩の近くから容易く切り落として見せた。


 「ーーーー!!」


 「もう一撃!!」 


 敵が雄叫びを上げる刹那、背後に回り込みつつ彼女の手に持った武器の刃が激しい閃光を放ちながら、神速の如く振るわれた。

 確実に敵の頭を仕留めたかに思えたが、ソレを予知していたかのように寸前で敵は頭を低くく下ろし残された左腕から拳を振るい反撃を仕掛けた。


 「敵は二人だぜ、デカブツ!!」


 敵の視界が理亜を捉えていた瞬間、死角となった敵の胸元に直政の攻撃が命中する。

 その恵まれ体格から放たれる、炎の剛拳。

 理亜への攻撃は空を切り、敵の巨体は直政の攻撃によって大きく吹き飛ばされる。


 「ちょっと、直政やり過ぎ!!

 修繕費の事考えてよ!!」


 「んだよ!一応助けてやったんだぞ!!

 感謝しろよな!!」


 「ーーー!!」


 敵がすぐさま反撃を仕掛けるも、理亜は再び武器を構えて敵に突っ込んでいく。


 「後でなんか奢ってあげるから!」


 敵の目前に迫り、互いの攻撃がいよいよ衝突するかに思えたが理亜の姿は敵の目の前かれ突如として消え、遥か上空から地を見下すように槍の切っ先を空に掲げた。


 「これでラスト!!」 

  

 落雷が落ちたかのように、彼女の神速の刃が敵の脳天を穿ちその身体が大きく焼け焦げていく。

 絶命の間際の最後の抵抗で、その身体が大きく跳ねるも間もなくしてその命は絶たれた。


 「ふぅ………。

 脅威度4って聞いた割には大したこと無かったね。

 このくらいの敵なら直政一人で何とかなったんじゃない?」


 「おいおい、冗談はよしてくれ……」


 「あはは、わかってるわよ。

 流石に今の敵くらいだと直政は力負けしちゃうよね」

  

 「はぁ、俺もお前みたく雷の異能を使えれば良かったのになぁ………」


 そんな悪態を直政は吐きつつ、後ろで控えていた俺の元に二人はゆっくりと歩いてきた。


 「お疲れ、二人共。

 俺の出番は無かったみたい………」


 「このくらい私なら当然よ!」


 「俺の事を忘れるなよ、理亜………」


 一時の勝利を分かち合い、3人でハイタッチを交わしていく。

 現在の時刻は午前2時前後、まぁ深夜もいいところで俺達はかなりの激闘を繰り広げていた。

 幸いなのは、この辺りは廃墟がほとんどでありせいぜいホームレスがたまに彷徨く程度。

 人影が少ないので、かなり思う存分戦える良い立地でもあるが………。


 「にしても、なんかおかしくない?

 幾ら人が少ないからって、静か過ぎるのよ。

 私達、あれだけ目立つように戦ったんだから同業者や他の敵の姿や気配が全くないし………」


 「言われて見ればそうかもな………」


 理亜と直政はそう言い、俺も確かにソレは感じていた。

 あまりに他の存在少ない。

 別に悪い事じゃないんだが、嵐の前の静けさというかなんというか……。

 やはり、あまり良い兆候とは思えないのが俺達3人の本音ってところなのだ。


 「うーん、少しだけこの辺りを見てみましょう。

 アレを倒した証明写真とサンプルを回収したらさ」


 「そうだな、何かあってからじゃ困るし……」


 

 

 という訳で辺りの散策を俺達3人は始める事にした。

 小一時間程、何か異変が無いか探ろうとするも既に廃墟もいいところのこの区域で、異変を探すというのある意味至難の技。

 たまに腐りかけの死体と目があったりして、思わず目と口を塞いだことがあったくらい。


 結果として、何かがすぐに分かるまでも無くそろそろ夜も明ける頃合いの時間が迫っていた。


 「見つからないね、何も………」


 「そりゃ簡単に見つかるなら苦労しない」


 「そもそも、こんなに歩き回って人やカムも見えないのはやっぱりおかしいと思うが………」


 「「確かに………」」


 そう、俺の言葉の通り死体は何回か見つけたものの生きた人間や怪物の類いはほとんど無かったのだ。

 あまりに危険なエリアという事で、ホームレスまでも見えないとなるといよいよゴーストタウンも本格化したって事になる。


 しかし、怪物達の姿が全くないのは気がかりだある。

 朽ちた建物の影に隠れてるのか、あるいはダンジョンの中に戻ったのか………。


 はたまた、異壊の前兆を知らせるモノなのか……。

 

 「おい?玲、理亜、これってなんだ?」


 「どうかしたのか、直政?」


 彼に呼ばれ、俺と理亜は直政の見つけたとあるモノに視線を向ける。


 「………抜け殻……セミとかじゃないよね?」


 「ああ、だよな……」


 そこにあったのは、昆虫の抜け殻。

 少し大きいカマキリの抜け殻である。

 というか、カマキリって脱皮するんだ?


 「てか、脱皮にしてはかなりデカいよな?」


 「…………」 


 なんと、体長50センチ程度の大きさの抜け殻である。

 え、カマキリってこんなに大きいものか?


 「こんなの居るの?

 でも、え……そんな大きいの見てないよね?」


 「ああ、それらしきモノは何処にも見なかった」


 「俺も、これを見るまでそんなの本当に居るのかって思ってたが………」


 「………、とりあえず写真とか現場の状況を残して姐さんに報告しよう。

 堺さんの方にも、俺から伝えておく」


 「………、ねえ。

 このくらいの虫が成虫なんだよね?」


 「成虫でも大き過ぎるだろ、流石に………」

 

 「じゃあさ、これがもしカムだったらどうなの?」

  

 「「え……?」」


 「その、カマキリって確か生まれてからそのままの姿で大きくなるんだよね?

 卵から出た時から、このままの姿でさ……」


 「……おい、マジで言ってるのか理亜……」


 「いや、だってこの大きさがまだ子供ってことなら……成虫は一体どうなるの?

 その間、何を食べて彼等は大きくなるの……」


 「…………」


 ゴーストタウンと化した廃墟。

 人は愚か、化け物の姿や気配がない………。


 残っていたのは腐りかけの死体のみ………。


 新鮮な餌は、全て奴等の餌になった………。


 だから、ここは既に……


 「ニンゲン?」


 「っ?!!」


 何かの声が聞こえた。

 明らかに人ではない、何かの声。


 俺達を何処からか見ている。

 何者かが、俺達を狙って……… 


 「真上だ!!!」


 刹那、何かが空から俺達の目の前に降り立った。

 巨大な影はその真の姿を俺達の前に晒す。


 黒い外殻に覆われた、カマキリのような怪物。

 赤い複眼で獲物を睨み、4つの鎌をチラつかせながら俺達を狙っていた。


 「アー、イイ………。

 エサエサエサエサエサエサエサエサ………!!」


 「来るぞっ!!」 


 「ニンゲン、エサァァァァァ!!」


 言葉を発しながら、ヤツは俺達に襲い掛かった。



 今日があの一件から丁度一ヶ月だった。

 E4からE7と脅威度が急激に上がる事になった例の一件は日本の公認ギルドである百花繚乱のギルドマスター、堺桐壱を筆頭に、日本モノリス協会及び国際モノリス協会に対して協力を要請していた。


 近い内に、この国に甚大な被害をもたらすであろう異壊が発生する可能性が極めて高い事実。


 そして、俺と直政がやっと思いで倒した個体を解析した結果……。

 内蔵のほとんどがモノリスによって構成された疑似的な生態組織であり、あれ等全てがカム本体の抜け殻であった事が明らかになる。

  

 俺達が敵の尖兵と会遇したその時既に、ダンジョン周辺の約半径30キロメートルに渡っての領域が奴等の縄張りになっていたのだった。

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