第23話 悪意のすれ違い
「この化け物がぁぁぁ!!」
「俺の家族をよくも……よくも!!」
あの男の家を離れて数日が過ぎた。
何処から嗅ぎつけたのか分からない、いや知らずに構ってくる奴等がほとんどか……。
猫の姿に騙されて餌をくれる奴もいる。
深夜に人の姿で居たら、警官から職質を受けたりもした。
そして怪物に襲われた人間を助けた際には、同じような姿の俺に対して、人間達は罵詈雑言を放ってきた。
「………」
助けた者に対してこの仕打ち……。
まぁ、当然だ。
自分達は、この世界で多くの人々を殺した。
故に、恨まれてもおかしくない。
何かの気まぐれで助けても、俺達は彼等の敵。
「死にやがれ!!
この化け物が!!」
身の丈程の大斧を振り回し、こちらの身体にその刃が突き刺さる。
「っ!!」
鬱陶しい………
「くたばりやがれ!!」
うるさい……もう、構うなよ…
「俺達の家族を返せ!!」
うるさい、うるさい、うるさい………。
俺達が何をした、俺が何をした……
「ーーーー!!!」
「全員掛かれぇぇぇ!!」
何度も何度も刃を向けられ、斬られて、斬られて。
何度も何度も………何度も何度も何度も何度も………。
痛みもある、血だって溢れる……。
でも、この程度で死ねる訳もない………。
お前達に大人しく殺される程弱くもない。
「イイカゲンニシロヨ?」
前足を振り上げ、目の前の猿を容易く吹き飛ばす。
二、三人の人間が吹き飛びそのまま、近くの建物に身体を叩きつけられ今にも死にそうな様子。
「…………、ハァ」
当然の報いだ、奴等は俺を殺そうとした。
だから、やり返した。
傷だってある、血だって当然流れてる。
「助け…て……」
「死にたくない………」
「っ……!」
「助けて………助けて………」
やめろ……やめろよ………。
なんだよ、なんだよ………。
こいつ等は俺を殺そうした奴等だ。
だから、殺す!
そう俺が決めたんだ!!
今にも死にそうな人間の命乞い………。
俺達の事は殺した癖に、自分達が殺される側になった途端にコレとか………。
気持ち悪い、気持ち悪いんだよお前等!!!
「ーーーー!!!」
殺してやる!お前等は俺を殺そうとした!!
なのに、殺される側の気持ちも考えないで自分達の都合だけしか考えない馬鹿共が!!
「助けて………兄さん……」
「ッ!!」
今この瞬間、僅かにでも力を込めればこの猿共の命を奪える。
でも、動かなかった……。
血に濡れた身体は、殺意に意志を委ねたはずの俺の本能は目の前の命を奪えなかった。
「……………」
家族がいる………。
俺達に家族が居たように、この人間も家族がいる。
ならどうして………どうしてなんだ?
その優しさをどうして俺達には向けないんだよ!!
この姿のせいか?
俺達があの化け物と同じだから、殺すのかよ!!
俺は襲われたお前等を助けた側なのに!!
助けた者に対しての、殺そうとした癖に!!!
どうしてその優しさを俺達には向けられないんだよ!!
「…………」
殺そうとしたその手を引き、猫の姿に戻る。
血に染まった身体が目立つが、数日経てば治る傷だ。
何の問題もない。
「命拾いしたな、そこの人間。
あとは、近くの人間が助けを呼んでくれる」
僅かに視界がふらふらするが、問題ない。
行く宛もない、でも死にたくもない。
あの家には居たくない。
あの家には俺の居場所がない。
エリス様は私を見ていない、新しいご主人様にかつてのアイツを重ねているだけ。
私と同じく残った彼女も、新しいご主人様にほだされている始末。
一番上の姉上はもう居ないのに。
俺達の家族は、お互いしか居ないのに……。
俺の事は愚か、姉上のことも何とも思ってない。
「死ねないんだよ………俺はまだ………」
生きなきゃいけない………。
残されたモノとして、生かされたモノとして……
●
「ここが昨夜も暴れたっていう奴の現場か………」
「だそうだ。
襲われたのは、公認ギルド所属の5人。
重傷が3名、軽症が2名……。
傷が軽いやつは、あまりの敵の強さに戦意喪失したらしい。
傷が重かった奴は、あの現場が物語っているな」
俺が指さした先には、半壊した4階建てのオフィスビルがある。
ついさっきまで人が居た証拠を示すかのようにかなりの量の血の跡が今尚残されている。
「うわぁ……これは酷い……」
「堺さんの話だと、コレを引き起こした奴を処理して欲しいらしい。
姿形は、この前送った画像の通りだ」
と、堺さんからこの前送られた怪物の写真を改めて見ていく。
敵は体長10メートルはある猫のような黒い巨体の怪物、脅威度はなんと5相当らしい。
「………」
「どうかしたか、玲?
さっきから調子悪そうだが?」
「そうか?
ちゃんと、いつも通りだよ」
理亜は現場の方に近づき、当時の状況を把握するために色々観察している模様である。
直政は俺の様子に僅かな違和感を覚えたが、こんな時に察しが良いのはこれまた直政らしいところである。
「そうか、ならさっさと次の現場に行こうぜ?
ここには居ないみたいだからさ?」
「そうだな……」
エリスに例の画像を見せたところ、ほぼ確実にササミらしい。
とうとう一般人にも手を出してしまったとなれば、エリスやサシミとしても無視は出来ない問題。
早々に何かしら対処や処置を検討するとの返答が返ってきた。
俺としては、まだササミと決まった訳でもないし何かしらの事情があった可能性もあるとは思ったのだが……。
「しっかりしなさい、四之宮君?
ほら、仕事は始まったばかりなんだからさ?」
そう言って俺の背中を軽く叩いてくる理亜。
そして、俺の前を歩く直政の方により次に向かう場所を確認していた。
本当にササミがやったのだろうか?
出会った当時、俺を殺したように一般人を手に掛けようとしたのだろうか?
幸いな事に死者は居なかったみたいだし。
いや、ササミが意図して殺さなかったと考えられないだろうか?
エリスもサシミも一緒に暮らしている内に、最初の頃にあった何とも言えない気まずさは少なくなった。
特にサシミは、最初は俺に近寄りもしなかったものの今はべったりし過ぎてエリスの嫉妬を買っている。
ササミも彼女程には無いにしろ、多少は変わってくれたのかもしれないと、俺は僅かな期待をしていた。
今は分かり合えなくとも、時間を掛ければ幾らかはマシになるはずだ……。
サシミが寄り添ってくれたように、アイツもきっと
「ほら、次の現場に行くぞ玲!!」
「わかってるよ!」
とにかく、今は仕事をこなすしかない。
その内ササミとも再開出来る可能性もある。
その時、どう向き合うか………。
せめて、サシミがエリスやサシミと和解出来るようにしないといけない………。
最悪を想定しても、道を外したのなら俺がその責任をとってササミを殺す必要がある。
エリスとサシミを思うならば尚更だろう。
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