第22話 最近なんか人多くね?

 謹慎処分を受けて3週間以上が過ぎていた。

 最初の方は、いつもみたく3人でいつの間にか集まってしまう日々が続いていたが。

 最近では、四之宮君は家で飼ってる猫が逃げ出したので探しに向かうので私と直政だけで集まる機会が増えている。


 そして今日、猫探しをしているはずの四之宮君の方から私達への呼び出しである。

 場所はいつものファミレスで待ち合わせをすることになっていた。

 目の前には適当につまむ程度のポテトの山と揚げ物少々、そしてそれぞれ頼んだドリンクバーの飲み物が置いてある。


 しかし気になったのは、集まったメンバーである。

 いつもなら、私と彼と直政。

 加えて新メンバーであるエリスか、直政の妹の梟香ちゃんくらい。

 稀にギルドマスターが来る可能性もあるのか?

 しかし、今日集まったのは………6人……。


 私と四之宮君、直政、エリス、梟香、そして……


 「誰、その子?」


 見知らぬ人物がそこにいた。


 「サシミ・インヴィディアと言います。

 エリス様のご親戚みたいなものです」


 薄茶に染められた、いや多分地毛の小柄で可愛らしい美少女がそこにいる。

 刺し身という名前が少し気になったが、まぁ外国の人ならそんな名前もあるのかもしれない……。

 てか、外国なの?

 エリスの関係者なのは確実そうなので、巫女に関係する存在なのかもしれないが………。

 

 「えっと……その、サシミさん?

 あなたはその、エリスの……というか四之宮君の何?」


 「私はご主人様に仕えているエリス様に仕えている者です。

 つまり、ご主人様に仕えているとも言えますね」


 「………、そう……なるほどね」

 

 え、ご主人様に仕えているエリスに仕えている?

 姓は同じなのに……?

 というかそうことじゃない!


 「まぁまぁ、サシミの事は後でちゃんと紹介する。

 とにかく、その今回集まってもらったのは仕事の話があるからなんだよ」


 「でもよ玲、俺達謹慎処分中だろ?

 いいのかよ、仕事受けちゃってさ?」


 「堺さんの方から、どうにか姐さんに話を通しておくらしい。

 どうも、向こうは向こうで色々忙しくて手が回らない仕事があるようなんだ」


 「なるほど、つまり百花の下請けってこと?」


 「そうなるな」


 仕事の話だとは思ってたが、なるほど百花の下請けって話なら納得がいく。

 

 「それで、下請けって何の仕事するの?

 いつもみたく、物資の運搬とかマッピングの補助?」


 「いや、外に溢れたカム達の討伐だ。

 その中で特に倒して欲しい個体がある程度絞られてるってところ」

  

 「なんだ、野良の退治かよ。

 あんなの対して金にならないよ」


 「あの百花の対応が追いつかないくらいだ。

 それくらい問題は深刻なんだよ」


 「それはまぁ分かるけどさ………」


 玲が言ったのは、私達の業界でいう野良の討伐。

 要はダンジョンから溢れた個体の討伐で、あまりお金にならない。

 強さにもよるが、脅威度3を一体倒して十万程度の報奨金が出る。

 ソレを倒した人数で割って、三割くらいがモノリス協会、いわゆる私達攻略者向けの役所に上納金として納められる。

 それから細かい税金が取られて、3人で倒したなら手元に1万円と少しくらいだ。


 一応、命の危険もあるこの業界でこの金額は流石に割に合わないと思う………。

 

 「贅沢言うなよ、理亜……。

 一応俺達謹慎処分食らってる身なんだぞ。

 仕事出来るだけマシなんだからな」


 直政はそう言いながら、目の前のポテトを一つ摘む。

 それを追うように、サシミさんもポテトを一つつまむと両手で可愛らしく食べ始めた。

 

 「それはそうだけどさ………」


 「それで、この仕事はやるのか?

 俺は受ける、直政も勿論受けるよな?」


 「当たり前だろ、やっぱ生活掛かってるからな」 


 「理亜はどうする?」


 「やる、私だけ仲間はずれにはさせないから!」


 「よし、決まり!

 玲、俺達二人も仕事を受けるからその旨を堺さんに伝えといてくれ」


 「了解、ちょっと電話してくる」

  

 彼はそう言って、席を離れる。

 残されたのは、彼以外の5人。

 エリスは相変わらずの澄まし顔というか、余裕満々の表情を浮かべている。

 梟香ちゃんは自分が場違いじゃないのかと気にして、まるで自分は空気ですかと言わんばかりに存在を消そうと静かにしている。

 そして気になったのは、先程から口にホイホイとポテトを頬張っている。

 何この子………。


 「………サシミさん?」


 「?」


 なんかリスみたいな姿の少女の様子に、なんというか………。

 

 「ポテト、そんなに美味しい?」 


 「ん」


 私がそう尋ねると、彼女はもぐもぐしながら頷き一言そう答えた。

 見た目以上になんというか、子供らしいというか……。


 思わず頭を撫でたくなるというか、構いたくなる欲求を掻き立ててくるのである。


 いやいや、駄目駄目……。

 あのエリスの関係者なのよ、こいつは……。

 腹の内に何を抱えてるのか分からない存在だ。

 私がしっかりしなきゃいけないのだ。

 直政や玲みたくいちいち鼻の下伸ばしてる連中が居る中で、私がしっかりと監視の目を光らせなければならない。


 でも………


 「んー、少し眠いです」


 私が葛藤をしていると、目の前の彼女はウトウトし始め、横のエリスに肩を寄せ始めたのである。

 何この子、クソ可愛いじゃん……。


 まるで小動物……。

 こんな子現実に居るのかという思う程に………


 いやでも、我慢……ここで私がしっかりとしなきゃ



 「理亜、お前さっきから何やってんの?」


 俺が堺さんと仕事の連絡を終え、元の席に戻ろうとすると視界には先程からなんかくねくねと身体を揺れ動かしている理亜の姿が目に入った。

 直政、そして梟香ちゃん、エリスも含めて彼女の奇行に対して見ないフリをしているが……。


 「………四之宮君、どうかした?」


 「いや、その………なんでもないよ。

 とにかく仕事は受ける事になった。

 とりあえず明日の朝から仕事開始って事で。

 討伐対象と場所は追って連絡するそうだ。

 てか、サシミはなんか眠そうだな……」


 「ええ、慣れない場所に来たからでしょう」


 「なるほど、まぁそれは仕方ない。

 済まないみんな、サシミの紹介はまた後にする」


 「はいはい、今度はちゃんと説明しろよ」


 「わかってるよ、直政……。

 それと、理亜と梟香ちゃんもこれからその彼女とも仲良くしてやって欲しい。

 少々手を焼くかもしれないがな……」


 「分かりました、四之宮さん」


 「言われなくても、大丈夫よそれくらい」


 みんなの反応を見るに、ひとまずサシミの顔合わせは問題なさそうである。

 細かい説明はいつになるのか分からないが………。


 「ほら、サシミ……起きて挨拶しろ」


 「ふぇ?

 あーはい、その……。

 これからよろしくお願いします、皆さん」


 眠そうな彼女の声に、何とも言えない苦笑いを皆は向けていた。

 あともう一匹の紹介もあると思うと先が思いやられそうである。


 というか、二匹の事を含めてどう説明しようか?

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