第21話 誰が敵で、敵は誰で

 「うーん、困ったなぁ………」


 「そうですね、ご主人様………」


 飼い猫、もといエリスの部下なのか友人なのかとりあえず親しい関係にあったササミが居なくなってから、この日既に5日が経過していた。

 謹慎を食らってる身なので、仕事や予定がある訳もないから昨日から彼女の捜索をしていたのだが……。

 

 まぁ見つからない、朝から日没近くになるまで手当たり次第に探したが野良猫3匹を確認した程度で、勿論ササミではないのだから苦労する。


 猫を見つけては、エリスが「ササミ!」と声を掛けては逃げられる始末……。

 あれだけ彼女達に強気で威圧気味だった彼女が、このざまなのだからササミ達の存在は彼女にとってとても大切な存在なのだろう。


 サシミとは別行動、本人曰く猫達しか知らない独自のコミュニティが存在するとかで、彼女達の経験した猫ライフが上手く活用されている模様。

 捜索に向かう朝方には自信満々のドヤ顔を俺達に向け、私に任せなさい言わんばかりの様子だった。

 しかし、捜索は難航しているのか帰る頃には朝の自信は何処へやらで、帰宅してはすぐさま俺やエリスに構って下さいと泣きつくのである。


 尚、猫の姿か人の姿かは彼女の気分次第。

 昨日は猫の姿、そして今日は人の姿である。


 「ご主人様……わたし頑張ったんですよぉぉ………」


 「はいはい……わかってるわかってる」


 人の姿で出会った当初は可愛げな美少女。

 エリスと似たような雰囲気を感じたが、今となってはなんというか……少し残念な子というか……孫を持ったおじいちゃんのような感覚になりそうである。

 いや、親戚の小さな子……娘とか姪とかそう言う類いの方が俺の年齢からは近いだろうな。


 「サシミ、あなた最近ご主人様に近過ぎない?」


 「はっ!いえいえそんな事は!」


 猫としての気分が人の姿で抜けないようで、二つの姿を行き来した結果なのか………。

 エリスの嫉妬を買う判定が増えた模様。

 しかし、別に嫌ってる訳でもなく俺と同じように夕食を用意しているので、なんだかんだ優しいのである。


 「全く……」


 二人のそんな様子を眺めていると、手持ちの携帯から着信が来たようだ。

 そして、その相手は堺さんである


 「ちょっと電話に出てくる」


 「お相手は?」


 「堺さんだよ、多分仕事の話かな?

 あるいはこの前の一件について根掘り葉掘り聞かれるのか……。

 とにかく電話に出てくるよ」


 エリス達にそう言い、俺は彼女達の元を離れ電話に出ることにした。


 「堺さん、自分に何か御用で?」


 「まぁそんなとこ。

 この前の仕事の件で聞きたい事があってね、沙耶ちゃんの件もあって色々と大変な時期なのはわかってるんたが、こちらも仕事なんでね……」


 「わかってますよ、自分もあの仕事の件については思ったところがあったので……」


 「ほう、思うところとは?」


 「沙耶さんを殺したと思われる怪物について、俺の倒したアレとは恐らく別個体ですよね?

 あの程度の敵に、沙耶さんが殺されるとはまずあり得ないと思ったので」


 「それがわかってるなら話が早い。

 いやね、僕もその件に関してはおかしいって思ったんだよ。

 ほら?、沙耶ちゃんは実質彰人を継いだうちの顔役だからね。

 実力は僕もわかってる。

 だからこそさ、そう簡単に死んだのかって今にも不思議に思うんだよ」


 「………、あのダンジョンの奥は自分もまだ確認していませんけど、やはりナニカがありますよね?」


 「恐らくはな………。

 上層部は何かを知ってるのかもしれない。

 あのダンジョンに存在するモノリスや財宝だけに目が眩んでるだけだとは到底思えないっていうのは俺も鈴ちゃんも同意見。

 実はね、あのE4いや今はE7か……。

 また次の攻略に向けての話が進んでいるんだよ、依頼は勿論こちらや他の公認ギルドと連携して遂行する手筈になる予定………。

 だがまぁ、うちとしてはかわいい顔役やメンバーの何人かが当然死んでる。

 この仕事をもう一度受けるか正直悩んでるんだよ」


 「故に俺達に対して再攻略の依頼をしたいと?」


 「うーん、それはどうだろうね?

 ただ今の君達にあまり大きな仕事を与えるのは危ないと思ってる。

 君の力の出処は勿論だが、鈴ちゃんが死に急ぐようになるのは避けたいのでね。

 ついては、こっちが再攻略に出向くまでの間別の案件を片付けて欲しいんだ。

 今君等、謹慎処分中で稼ぎがないんだろ?

 だからこれはそうだなぁ、僕個人から君達への小遣いとかだと思ってくれ」


 「ははは……それで、仕事の内容は?」


 「いやね、ここ数日遺跡内から内部からカムが漏れ出す自体が発生しているんだよ。

 ある程度はこちらで対処してるんだけどさ、どうにも手が負えない強い個体がまぁそれなりにいる訳。

 僕も含めて、強い子たちをそっちに派遣したいところなんだけどさっき言った通りE7と同じく高難度の現場に人員を割いてる影響で手に負えなくなってるんだよ」


 「そこで俺達に依頼を?」


 「そゆこと、まぁ倒して欲しい個体の大まかな出現エリアは後で送るよ。

 ただ、脅威度4相当だから無理そうなら早めに手を引いた方がいいかもね?

 で、どうするこの仕事。

 受ける、受けない?」


 「理亜と直政とも相談してみます」


 「了解、一応僕から君達が仕事を受けるかもしれないって事は伝えてくよ。

 何処も人で不足だから、ほんと猫の手を借りたいくらいだ」


 「あはは……」  


 「そうだ、猫と言えば……コレを言うべきだったね」


 「猫が何か?」


 「結構強い猫型のカムが街で見つかったんだ。

 そこそこ名のしれたギルドの戦闘員が全員返り討ちにあったみたいでね……。

 ただ、全員命までは取られなかったみたいなんだ。

 例の猫型は今現在行方をくらましているが、推定脅威度6相当だとさ………。

 近い内に討伐部隊が組まれる手筈になっている、何かの拍子で出くわした際は気を付けるように……」


 「猫の怪物ですか………」


 「まぁ、猫だろうがなんだろうがアレは化け物だ。

 人間のような知性もロクにない、本能に従い人を襲い喰らい尽くす人類の敵だ。

 だから気を付けろよ、奴等を決して信用するな。

 この仕事で生き残る為には、何が何でも奴等を全て殺す必要があるんだからな」


 「分かってますよ、倒さなきゃ俺達が殺されるので」


 「確かにそうだな、それじゃ良い返事を待ってるよ。

 今日もお疲れ、四之宮玲君」

 

 その言葉を最後に、彼との通話は途切れた。

 

 「奴等を決して信用するな、か………」 


 当然だ。

 あの遺跡の、ダンジョンの中に居るのは化け物だ。

 人類の敵であり、勿論俺の家族を狂わせた存在。

 姐さんから彰人さんを奪った元凶でもある。

 俺の憧れの人を殺した、多くの人々の命を奪った。


 わかってる、そんなこと………。

 

 なのに、何かが引っかかる………。


 あの人がエリスにとっての敵に関係がある可能性が高いからか?

 いや、違う………そうじゃない。

  

 「もしかして、俺達が今まで戦ってきたのは………」


 離れたところで、楽しげに会話をしている彼女達に視線を向ける。

 これまで仲間達とダンジョンで戦ってきた過去と、今の二人が重なりなんとも言えない不快感のようなモノを覚えた。

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