第20話 人ですか、いいえ元猫です
サシミとの話が終わり、深夜の帰路を二人並んで辿っていた。
店の外なのだから猫の姿に戻るかと思ったが、家に着くまでの間はこうしていたいとのこと。
ただ、なんというか………
「…………」
「…………」
会話がない、まぁ当然か………。
ササミ程には顔や態度に出さないにしろ、理由はどうあれ俺は彼女達の家族の仇なのだ。
店内であれだけお互いに会話を交わしてくれただけ、彼女の器は広いのだと認めるべきだろう。
しかしだ、その割にはなんというか………
「…………、サシミ?」
「どうかしましたか?」
何事もないように返事を返す彼女。
俺の言いたい事がわかってるよな、多分……。
「近いというか、腕に抱きつく必要あるのか?」
「何か問題でも?」
「わかってやってる?」
「どうでしょうか?
多分まだ猫としての癖が抜けきってないみたいです」
「あ、エリス」
「っ!!!ぐへっ……!」
試しにカマを掛けると、有効打となったのか咄嗟に俺から距離を取った挙げ句、近くの電柱に身体を正面からぶつけた。
「あ、悪い……。
てか、やっぱりわざとかよ………」
「はぁ、そこはうまく相手してくださいよ……。
さっきの冗談も流石に悪過ぎますから………」
「それは悪かった、てか驚き過ぎだろ流石に……。
出会った時の度胸や気迫はどうしたんだよ」
「私は元々そこまで戦うのは好きじゃないので……。
あの時あなたを起こしたのも、私ですよ?」
「そうは言ってもなぁ、というかいいのかよ?」
「何がです?」
「いや、俺が言うべきなのかコレ?
一応、俺って家族の仇なんだろ?
なのに、何ですぐに………」
「………、関係ありませんよ今は……」
彼女はそう言うと、俺の前に立ち塞がるように立つ。
頭のてっぺんが俺の胸までしかないのも関わらず、その覚悟や意志の強さは確かに感じられた。
まぁ、服装はゴスロリ的なアレだが……。
「さっき、お店の中で答えてくれましたから。
エリス様を助けると、だから私もあの瞬間から覚悟を決めたんです。
エリス様と同様に、あなたにも忠誠を誓うと。
私の命は元よりエリス様の為のモノ、でもあなたの為にもこの命を生涯を賭して捧げると………」
「随分重いな………」
「酷い。
それでも、エリス様よりはマシですよ……」
「ソレを言うのか。
まぁ、今は別に猫の手も借りたい程じゃないんだが」
「別に猫の姿じゃなくてもいいんですよ。
場合によっては人の姿にでも、出会った時の姿にでもなれますからね」
「便利なもんだな」
「ええ、結構便利なんですよ私達にとってもね」
そんな話も交えつつ、自分達の部屋が外から見える位置まで来ると部屋の扉の前には誰かの姿があった。
間違いない、あの影のシルエット的にエリスだ。
え、まさか先に返ったサシミがチクったのか?
いやいや、まぁ自分は嫌われたし言われても文句はない立場だが……。
自身と同じサシミまで巻き込むのは想定外……。
「………、どうやらこのままの姿で良さそうですね」
「みたいだな」
●
帰宅を済ませると、夜も遅い時間にも関わらずエリスは俺とサシミをいつものように迎え入れ温かいお茶を用意していた。
途中、サシミが自分でやろうとするも彼女に払われ
「私がやるから、座ってなさい」
まぁ、なんとも威圧感というか嫉妬丸出しで俺の横に彼女は正座で座り込む。
彼女もかなり焦ってるのか、これから何を言われるのかが余程恐ろしいのか、僅かに俯きつつ視線は泳いでいた。
「困ったな」
「ですね」
とりあえず逃げるタイミングを失った。
俺達はなんとも上手く彼女の策に嵌められたのだ。
いつから気付いたのか、エリスの事だから多分家を出てすぐかもしれない。
GPSとかで監視されてるんじゃないかと思うが、てか深夜まで監視されてるのは怖い……。
余程俺やサシミ達が信用されてないのか、まぁこの通りコソコソ動いてバレたんですけど……。
「お茶の用意が出来ましたよ、ご主人様。
それに、あなたの分もね」
そう言って丁寧にカップに注がれたお茶を受け取り、俺とサシミは一息いれる。
「さてと、それでは本題に入りましょうか?
サシミ、あなたどれくらい口を滑らしたの?」
「その………えっと………」
「答えなさい」
「………、あなた様がどのような存在で敵に狙われているのか………。
そして、こちらの世界については例のダンジョンに関連する最低限の説明のみになります。
派閥勢力が、こちらの世界の各国政府やギルド等と繋がってる事も含めてですが………」
「………そう、まぁそのくらいなら私の方からも今の内にお伝えするべきでしたね。
ご主人様も状況の判断が効かないのは困るでしょうし」
「ええ、ですから必要な事をお伝えしました」
「……いつもあなた達は勝手な事ばかりするよね?
勝手にご主人様の関係者と接触したり、下手したら私達の身が危険に晒されるかもしれないのに、わかってます?」
「それは……私もササミもあなたの為にと思って……」
「良かれとした行動が、危険だったと言ってるの。
分からない?」
「エリス、ちょっと落ち着けって………」
「ご主人様には関係ありません。
これは私達の問題です!」
エリスはそう言い、俺に対して初めて反抗の意を強く表した。
あー多分、俺じゃ無理だわ……。
彼女を落ち着かせる方法が思いつかない。
話の行方がどうなるか、もう彼女の気が済むまで終わらないのだろうなと………。
いや、待て……
「ササミは何処だ?」
「「え?」」
「いや、その………てっきりササミがエリスに俺達が一緒に行動したとかをバラしたとか思ったが………。
エリスは多分その、俺達3人が部屋出たって事にはすぐに気付いて、ササミの事は知らないんだよな?」
「そう言えば、あの子だけさっきから見ませんよね?
てっきり私も先に帰ったものなのかと………」
俺とサシミは思わず目を合わせ、状況を確認する。
エリスも、先程までの高ぶった感情が何処へやらで辺りを見渡しては、すぐに立ち上がり家の中で彼女を探し始めた。
一巡し粗方見通した彼女は僅かに間を開けて俺達を問い詰める。
「貴方達、ササミと何があったの?」
「えっと、ご主人様と話をしようにもお姉様の件がまだあの子は整理がついてないようでして……。
少しだけ揉めた後に、先に私達の元を去ったんです」
「…………そう、でもその内返ってくるでしょう。
あの子の事だし………」
彼女はそう言うと、それぞれが飲み終えた空の器を回収し洗い場へと向かった。
その背中は何処か落ち着きのないように見えた。
「エリス……」
その後、あれから2日が過ぎようとササミは……。
あの三毛猫が俺達の元に返ってくる事はなかった。
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