第19話 口軽いぞ、サシミさん

 ササミが飛び出し、残された俺とサシミはとりあえずエリスについて、あのダンジョンについて色々と聞く事が出来た。

 最初の方にサシミが口を滑らした後、色々と吹っ切れたのかまぁ粗方は語ってくれた。

 

 とりあえず聞いた限りの情報を簡易的にまとめると。


 ・エリスを含む自分達はこの世界とは異なる異世界の存在である。

 ・エリスは願いを叶える不思議な力を持った存在で色々な奴等に狙われてきた。

 ・そんなエリスの力を求めて、王の候補者達は長年争っているということ。

 ・俺達が巫女と称している存在は、この世界に生まれた人間がこちらの世界に存在するモノリスの力に触れる事で稀に生まれる存在と、元々こちらの世界に居た巫女に分かれる。

 ・巫女はエリスを除くと全部で七人存在する。

 ・各派閥はこの世界各地に散らばっており、エリスの捜索及び敵対する派閥との権力争いをしている

 ・そしてこの世界に生まれたダンジョンは王候補者達の尖兵及び支援物資を格納しているモノ。


 まぁ、色々と出てくる出てくるわ……。

 つまり、エリスを巡る争いがこの世界の異変の元凶という訳で、あのダンジョンやモノリスの類いはエリス達の世界に元々存在していたモノで、各王候補者達が有利に動ける為のアイテムボックスみたいなモノ。

 そして、トラップも兼ねている。

 

 コレを聞いて俺は真っ先に、とりあえず適当な派閥にエリスを回収させれば問題が解決するのでは?

 と、こんな疑問が浮かんだが。

 何とも、地雷というかやっちゃいけない選択肢というのを目の前の彼女に言うまでもなく、ソレを察してしまった。


 「何か気になることでも?」


 「……あー、いや……その、なんというか………」


 「何かありますよね?」


 「ちなみにさ?

 どっかの派閥にエリスが渡ってしまって王候補者同士の争いが終わるとどうなるんだ?」


 「エリス様の力で彼等の願いが叶えられた瞬間、この世界が滅びます。

 その代償を経て、こちらの世界で彼等の願いが叶えられるんです」


 「そう来たかぁ………」


 思わず頭を抱えた。

 マジもんの地雷やん、思った通り世界が滅びるみたいなこと、いやそのまま来ちゃったよ………。


 「ですから、その………。

 エリス様を守って欲しいんです、彼等から……」

 

 「本人は、その王候補者達を返り討ちにしようと考えてるみたいだがな………。

 正直、その王候補者って奴等と今の自分どっちが強いと思う?

 一応、あの猫の怪物の一部だったんだからざっくりとした判断はできるだろう?」


 「エリス様から得たあなたの力と、あの人達が使う力は似て非なるモノです……。

 同程度、あるいは全く太刀打ち出来ない可能性も……」


 「そう言われてもなぁ………。

 俺、これからそいつ等と戦うことになるんだろ?

 勝てないなら鍛えないといけないし、勝てるなら早々に問題を片付けたいし………。

 ただ、ダンジョンの存在は彼等の恩恵以上に厄介なモノでもあるんだろ?

 要は、掘りというか、柵というか……直接敵に攻め込まれない為の障害物的な……」


 「その認識で良いかと………」


 「なるほどな、つまりダンジョンは各候補者に所有権があると………。

 俺が狙ってるG8もそのいずれかの陣営を支えている物資って訳か………」


 「そういうことになりますね」


 「ちなみにその、各陣営の特徴とか種類とか分かったりするのか?」


 「ええ、それは勿論。

 ただ、こちらの世界での名前ですから………。

 この世界では、名前を隠すなり表には多分ほとんど出てこないと思います。

 ソレにご主人様の所属しているギルドという組織、そこに彼等の息が掛かってるのはほぼ確実かと……」


 「………お、おお………。

 まぁ、そうだよな。

 そりゃゼロから表立って勢力の権威を示してギルドを建てるよりこっちのやり方に合わせてやるよな……うん」


 「ええ、以前ササミが堺桐壱を何らかの敵の勢力だと疑い勝手な尾行をしてまんまと返されてきましたが……。

 恐らく、彼も何らかの勢力に属している可能性が非常に高いと伺えます。

 その実力的に、王の側近かソレに近い人物。

 候補者その人である可能性は非常に薄いとは思いますが……」


 「堺さんが、どっかの勢力に……。

 そうなると、百花全体……いや世界各国の有名なギルドはサシミ達の言う候補者の勢力に入っていることになるか………。

 一応、ギルド間での直接的な抗争は禁止になってるが恐らく異様に乱立したダンジョン達のせいって辺りなのかな?

 支援物資を手配したものの、勢力が固まらず乱立したのでどれが味方のモノなのか分からなくなった辺り?」


 「ええ、恐らくは………。

 しかし、何かの考えあってのモノである可能性も拭えませんよ………」


 「そうだよな………」


 なんかもうよく分からなくなってきた。

 とりあえず、サシミから各勢力について一通り聞いてみてその情報をまとめてみる。

 

 ・スペルビア

 ・イーラ

 ・アワリティア

 ・インヴィディア

 ・アーケディア

 ・グーラ

 ・ルクスリア


 とりあえずなんか聞いた事あるような言葉。

 向こうの世界からこっちに伝わったのか、あるいはその逆か………まぁ今はどうでもいいことだが……。

 気になったのは………


 「エリスの名前だよな、インヴィディアって?」


 「ええ、エリス様はインヴィディアにおいてそれなりに地位を持っていた家系で生まれたお方でしたから」


 「そこも敵なのかよ……。

 いいのか、同郷の人達と争うことにはさ?」


 「………それも、エリス様は覚悟の上です」


 「まぁ、戦うって決めたんだよなアイツは……」


 自分を巡って起こっている戦いに、自ら終わらせに立ち向かう………。

 エリスはどうやら、あの見た目でそこそこ分厚い自伝が書けそうな経歴を送っているみたいだ。

 

 恐らくだが、その過去に俺をご主人様と呼ぶようになった理由がある………。

 素直に言ってくれるかわからないが………。

 サシミに聞けば言ってくれるか?


 「なぁ、何でエリスは初対面の俺に対してご主人様って言うんだ?

 俺にはさっぱり検討がつかない。

 例えばさ、そっちの世界でエリス達が暮らしてた時とかに、俺に似た奴でも近くに居たのかよ?

 そいつが元々、自分のご主人様だったとか?」


 「………それは、その………」


 「これは、言えない事に含まれるのか?」


 「言葉の通りかと、ただ経緯はその………」


 「………居たんだな、俺に似たような元ご主人様が」


 「ええ、だからこそ………。

 エリス様はあなたをその方に重ねているんだと思います………」

  

 「サシミから見ても、そいつと俺はそんなによく似ているのか?」


 「雰囲気は似ているのかと……、それと……」


 「それと?」


 「あの方に対して最初に手を差し伸べたのは、あの世界での彼であり、この世界でのあなただった。

 私達には出来なかった事を、あなたと彼はエリス様にしてくれた………」


 「…………」


 「だからどうか、エリス様を助けて下さい。

 どうかお願いします、四之宮玲さん……」


 彼女はそう言って、俺に向かって深く頭を下げた。

 何故、ここまでするのか……。

 何故、俺なのかこの時は何もわかってなかった。


 エリスや彼女達が背負ってるモノの重さも何も分かってはいなかった………。


 でも、俺は……。


 「分かってる、俺もエリスには一度命を救われた。

 だから今度は俺が彼女を助けるよ」


 「その返事を聞けて良かったです。

 あと、その、食事の方もありがとうございます………」


 果たせる見込みのない約束。

 自分の手には到底収まらない、不相応なモノ。

 

 でも、彼女達のエリスを思う誠意に対して、俺は応えなくてはならないと思った。

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