第18話 最近の猫って喋るの??


 エリスと二年前について僅かに触れた話をしたその日の深夜、何かが顔をペチペチと叩いてくる感触があった。

 

 「エリス……?いやでも………?

 なんか若干違うよな……」


 とりあえずゆっくりと目を明け、起き上がり部屋の明かりを付けると、飼い猫二匹が俺の布団の上に居た。

 ササミとサシミである。

 

 「なんだ、お前等か………。

 悪いな、今は遅いから遊んでやれないんだ……」


 「そう言わずにさぁ……、あと別に遊びに来たわけじゃないよ。

 ちょっとばかりご主人様に話があるの」


 「まぁ、そうゆう事だから……」


 「そうかそうか………ん?」


 アレおかしい、こいつ等さっき喋らなかったか?

 なんか人間の言葉を流暢に喋りやがったぞ。


 「………、悪い夢を見てるんだなきっと………。

 疲れてるんだ、別にそこまで疲れてないけど……」


 とりあえず電気を消して、布団に戻ると思い切り顔面を叩かれまくる。

 爪を立てないだけ、凄く優しい。


 「痛い痛い痛い痛い……やめいやめい………」


 再び起き上がり、二匹の前に座る。

 さて、困ったぞ………この猫達どうやら喋るっぽい。


 最近の猫って喋るのか?、んな訳ない。

 それとも飼い主に聞こえる幻聴か何か?

 ここ最近は色々とあったから、ある意味聞こえなくはないかもしれないが……。


 「そんなに考え込まなくても……。

 ちゃんと貴方の頭は正常ですよ、ねぇササミ?」


 「俺をその名前で呼ぶなよ………。

 まぁ今はこれで通すしかないよな、サシミ……」


 「………、で何なんだよお前等は?

 ただの猫って訳じゃないんだよな?

 そもそもエリスが連れてきた訳だし、エリスをその見た目でたぶらかして何を企んでる?」


 「あの方を騙すなんて真似をする訳ありませんよ。

 こちらのやり方に合わせる為に私達は仕方なく、この身体にしているので………。

 人の姿の方が良かったのですが、あの方は人の姿は控えるようにと言われてますので……」


 「とりあえず、場所変えない?

 ここじゃ、あの方に勘付かれるかもしれないから」


● 


 ひとまず、猫二匹の言葉に従い近くの二十四時間営業のファストフード店に入る。

 モノリス事業が発展した事により、より二十四時間営業の店舗が増えたのは嬉しい部分もあるが、店側からしたら色々と大変そうではある。

 特に、本来暇で翌日に向けての準備をしようとした辺りで店に来た俺を見るなり、なんか舌打ちされた。


 悪かったな……というか一応客だぞ、おい……。

 

 まぁ、猫二匹はあのままの姿で店内に入れる訳もなく少し遅れて店に入ると言って食いたい物を聞いてそこまで目立たたない隅っこの席で、二匹を待つ。


 「おまたせしました、ご主人様。

 この子はやっぱ猫のままがいいとか言って聞かなくて……」


 「別にそんなんじゃ……」


 「………、お前等?

 本当にあのサシミとササミか?」


 右側にサイドテールだったかそんな感じの髪型をしているゴスロリ系?みたいなフリフリな衣装を着た背の低めな薄い茶髪の女性。

 そしてその横にショートカットの髪型のようだが、パーカー姿でフードを深く被り顔があまり見えない人物。

 俺と同程度、いや少し小柄な人物がそこにいた。


 「……なんだよ、悪い?」


 「いや、顔が分からないからなんとも……。

 ええと、とにかくどっちがササミでどっちがサシミ?」


 「私がサシミで、パーカを着てる方がササミです。

 この姿をご主人様に見せるのは初めてですよね?」


 「いや、そもそもお前等、猫って建前で来たんだろ?

 なんで、人間の姿を隠していたんだ?

 エリスがお前等に何か言ってたのか?」


 「まぁ、当然そうなるよね……。

 だから俺は面倒な事になるからさっさと正直に話した方がいいって言ったんだ。

 そうすれば、こんな回りくどいやり取りしなくて済むのにさ……」


 ササミと思われる人物はそう悪態を吐きながら俺に事前に頼んでいた飲み物に口を付ける。

 

 「まぁ、そもそも私達が人間でもありませんからね。

 この姿も私達の扱う仮の姿ということなので」


 「仮の姿って………じゃあなんだ?

 犬でも牛でも、お前等の姿は自由って事か?」


 「そういうこと、てか分からない?

 元の姿の俺達には一度会ってるのにさ?」


 「は?会ってるって何処でだよ?

 猫としての姿以前にお前等と会った事がある訳……」


 「エリス様にお会いした際に、貴方が倒した三つ首の猫型の怪物なんですよ、私達は、

 その中でも貴方が殺し損ねた、両脇の頭の人格と言えばいいでしょうか?」


 「両脇の頭って………あ……お前等あの時俺を殺そうとしたあの化け物なのかよ!!

 お前等、突然襲いかかって一体何を!!」


 「お前が俺達の眠りを妨げたんだろ!

 あの人がもう2度と苦しまないように、俺達姉妹がずっと彼女を守ってきたんだ!!

 そんな彼女の為の聖域を荒らしたお前等の方が悪いに決まってるじゃないか!!

 お前等のせいで、俺達の家族は死んだんだぞ!」


 「…………」


 「そのくらいにしなさい。

 私も思うところがあるのは同じだけど……、今となってこの方はエリス様と同等、いや彼女が仕えている更に高い身分に位置するお方です。

 貴方はもう少し自分の立場をわきまえなさい、エリス様がこの場に居たらただじゃ済まないわよ」


 「なんだよ、悔しくないのかよ……!!

 自分だけはいい子のフリして、姉様の事は何とも思ってないのかよ!」


 「まだわからないの?

 あなた、いい加減に……」


 「もういい、やっぱりこいつは嫌いだ!!

 さっさと化け物に喰われて野垂れ死ね!」


 怒りに身を任せ興奮した彼女はそう言うと、俺とサシミを残してそのまま店内を走り去ってしまった。

 

 「申し訳ありません、ご主人様。

 ちゃんと私がアレに言い聞かせなかったから……」


 「いや、構わない。

 身内を失ったんだ、その気持ちは当然だ。

 それに、君だって俺に思うところはあるって言ったろ?」


 「…………」


 「だから別に構わないよ。

 今すぐその感情に整理がつく訳ないからな………。

 ただまぁ、面と向かって言われたのは堪えたが……」


 「あの子は特に、姉様を慕っていましたから」


 「………、君達はエリスの何なんだ?」


 「エリス様とは、友人だった………。

 でも今は少しだけ、違うのかもしれません。

 ただの主従関係に落ち着いている、いやそれ以下の関係なのかもしれないです……」


 「………」


 「今回、ご主人様と話の場を設けようとしたのはエリス様の事を知って欲しかったからなんです。

 勿論、全てをお話する事は今はできませんが今話せる限り、これからご主人様が彼女と共に歩むに当たって必要な事であるという考えに私とササミは至りました」


 「必要な事か………」


 「はい、恐らくはご主人様も薄々と勘付かれていると思いますが彼女はあなた方の言う他の巫女達とは違う存在に当たります。

 彼女はいわゆるどんな願いを叶えられる力を持った特異な力を持った存在と言えばいいでしょうか。

 唯一、白き碑石を生み出す事が許されたお方。

 人々のありとあらゆる欲望を具現化させる事が出来る力を秘めたソレは、この世の誰もが一度は望んだ事がカタチに出来る奇跡のようなモノなのです」


 「そうか、彼女が噂で聞くような他の巫女とは違う存在っていうのはさっきサシミが説明したような理屈ではなく。

 俺が異能力を使った際になんとなく体感的に感じたってくらいの微微なモノなんだが……。

 なるほどなぁ……」


 「………、ちょっと口が滑り過ぎましたね……。

 今のは聞かなかったことに………」


 「おいおい、そこまで言って伏せるのかよ……。

 この際さ、一通り言ってくれた方がいいんじゃないのか?」

 

 この子、なんか普通に今言ったらまずいようなことまでペラペラと喋ったらしい。

 先行きが不安になるなぁ……。

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