第17話 謹慎処分くらいました
「この大馬鹿者めがぁぁぁ!!!」
ギルド及び会社に俺達3人が顔を出すまでもなく、会社の玄関先で仁王立ちで俺達を待ち伏せていたギルドマスターこと、久尾鈴から放たれた第一声。
朝からまぁなんとも元気なことだと思ったが、理由はまぁ当然わかってますよ、はい……。
「向こうから話は聞いてる。
E7、脅威度7の敵相手に勇猛果敢に戦いを挑んだそうじゃないか?
なぁ理亜、怜、直政?」
「いや、ソレはですね………ほらなんというか」
「直政と怜が悪いです、私はちゃんと止めましたよ。
直政を放っておけないとかで私を置いて先に向かいましたし……。
私は何も悪くないです」
「おい、理亜?
確かに結果だけ見ればそうだが、ちょいと話がねじ曲がってないかい?
お前だって直政を心配して、ついて行こうと………」
「知らない、ワタシハシラナイ………」
「酷くね、てか一番悪いのは直政だからな!
俺はちゃんと止めたからな!」
「何だよ、あの場で見捨てる方が薄情だろうが!」
「俺達を巻き沿いにするなよ!!」
まぁ酷い有り様、この通り責任の擦り付け合いをギルドマスターの前で繰り広げたので……。
ただでさえ怖い彼女よ怒りの形相が、般若も泣きそうな程に恐ろしき気迫を放ち始める。
もうこの人一人の怒りのオーラであのダンジョンの敵全部片付くんじゃないかってくらいである。
「貴様等、そこに全員正座しろ!!」
「お前等全員、今後一ヶ月仕事無しだ!!
いいか?
私は別に任務失敗を咎めてるわけじゃない。
私の命令を無視して自ら命を無駄にしようとしたその愚行を咎めてるんだ!」
「「はい……おっしゃる通りでございます」」
「命が助かったからいいものの、五体満足どころか軽症もいいところじゃないか?
どれだけ私に心配を掛ければ気が済むんだ、おい?」
怖えぇぇ……。
正直昨日の怪物の方が可愛く思える………。
まぁでも、3人で説教を受けられたのはある意味一番良いのかもしれない。
とは言っても、目の前のギルドマスターが怖いのは事実である。
●
結論から言うと、俺達は最初の方にギルドマスター直々に告げれた通り一ヶ月間の謹慎処罰を受けた。
この間、まぁ仕事は出来ないのは当然のことなんだが、まぁ特にやることがない俺達はいつの間にか連日のように昼間はファミレスで待ち合わせして駄弁ったり
?、近くのジムで身体を鍛えたりとかして、なんかもう遊んでばかりの日々を過ごしていた。
途中、勿論姐さんに見つかって説教や小言を言われたりもした。
それから事件から二週間も経つと、沙耶さんを含めた今回のダンジョン探索によって亡くなった人達の集団葬儀が行われた。
そこには俺達も勿論同席し、彼女等の鎮魂の為に祈りを捧げた。
しんみりとした空気もあったが、すぐにいつもの日常に戻る。
あまりにも死が近くにある生活故に、今の自分が生きているのか、今もあいつ等は本当に生きてるのか、明日も生きてるのか、色々と分からなくなる。
そして気づけば、事件の事など記憶の隅に置きいつもの日常に戻りつつあった。
仕事がないことを除いて………
●
「うーん………まぁ貯金してるからいいけど……。
やっぱ出費増えてる気がする……」
自分の家のソファーで仰向けになりながら、自分の通帳を眺める。
日頃の給料のほとんどを、貯金か母親の居る施設に送るかくらいの生活をしてきた俺にとって、今の生活は大きく変化したと思う。
エリスと一緒に暮らして、そしてすぐにエリスが猫を二匹拾ってきて………。
「別に余裕はあるからいいけど……。」
気づけば、俺の腹の上には一匹の黒猫が乗っていた。
名前はサシミ、飼い始めたその日につまみ食いしてきたモノが由来でそう名付けた。
同じく、三毛猫のササミも何処かに居るはず。
正直気分屋、エリスと似たような……いやアレはちょっと違うか……。
とにかく、昔と違って出費は増えたのが事実。
別に収支が大きくマイナスになった訳ではない、一応稼ぎは多かったので謹慎食らっても生活費を差し引いてプラスにはなるし………。
とは言っても、なんというか………。
「良いよな、お前等は気楽で………」
腹の上に乗った、サシミの頭を軽く撫でる。
最近は特に嫌がる素振りも見せず、懐いてくれたように見えるが………。
「あら、随分と楽しそうですねご主人様?」
エリスが俺を呼び出すと、何かを察したかのようにサシミが慌てふためいて俺の元を離れていく。
「あ……」
「どうかなさいました?」
「いや、サシミの機嫌を損ねたみたいだ……」
「そうですか……、まぁ猫は気分屋ですからね」
「だよな、まぁそういうもんだろうけど……」
俺はゆっくりと身体を起こし、通帳を机の置き身体を軽く伸ばす。
「通帳を見ていたんですか?
何か不審な金銭のやり取りが?」
「いや、別にそういうんじゃないよ。
ただ、お前等が増えたから出費が増えたなぁと」
「それは申し訳ありません……」
「いや、このくらいは別にいいよ。
家事とか色々任せてもらって正直助かってる。
ここ最近はこの前の一件で仕事やってないから余計に立場がないというかな………」
「ですが、直政様や他の皆さんを助ける為に仕方なく力を振るったとのことでしょう?
ならば、ご主人様は何も悪くはないはずです」
「そうだろうけど、姐さん………ギルドマスターには心配も迷惑も色々とさせちゃったからな……。
犠牲者が無かったわけじゃないし。
俺達ではどうにもならなかった人もいる、ソレに沙耶さんだって亡くなってるんだ……。
やっぱ、責任感じるよ色々と……」
「そうですか………」
自分手の平を見つめ、これからの事を考える。
今の実力が脅威度5相当なら十分過ぎるくらいに通じるのは、この前の仕事で分かった。
ただ、それでも………。
「G8………、アレに挑むのはまだ早いか………」
「ジーエイト?」
「俺の母親が今の姿になってしまい、そして彰人さんが亡くなってしまうきっかけになったダンジョンだよ。
この日本に存在する中で最も被害を出したモノ。
G8、変遷系の脅威度8。
通称、無限地獄と名付けられた最悪のダンジョンだ。
そして、俺が最も優先的に攻略したいダンジョンの一つで今現在封印されている場所だよ」
「無限地獄……そのような場所が………」
「個体の強さよりかは、数が酷くてな……。
その物量に対応出来ず、10万人以上の被害をもたらしたんだ。
今程、俺達みたいなギルドがあった訳でも無かったんだが、それでもたった一つのダンジョンが引き起こした被害としては当時最大規模であった……。
入口をどうにか封鎖出来たのは、彰人さんのお陰なんだがあのダンジョンの危険が消え去った訳じゃない。
いつかは必ず入口は開く、その時は俺が………」
脳裏に過ぎる、あの日の記憶………。
二年前の地獄を………。
あの日から全てが変わった………。
あの日が無ければ、俺は普通に高校を卒業してまもなく就職とかもしていただろう……。
「あのダンジョンだけは、いつかどうにかしないといけない。
多分、ギルドマスターも同じ考えだろうよ。
このギルドを作ったのも、恐らくはな……」
そんな事を言ってると、俺の足元に黒猫のサシミが寄ってきたのでゆっくりと抱き上げる。
「とにかく、俺はあのダンジョンを攻略するというのも目的の一つにある。
いずれは、やらないといけない。
いや、俺がやらないと彰人さんの無念を晴らせないからな……」
膝の上に座らさたサシミはのんびりあくびをかいてる中、理亜は何処かサシミに対して恨めしい視線を向けていた。
「猫にまで嫉妬するのか?」
「いえ、そういう訳ではありませんよ……。
ええ、勿論……」
「全く、やっと少し懐いたと思ったらコレかい……」
そのうち、もう一匹のササミの方も懐いてくれればいいんだがなぁ。
しかし、部屋の隅から俺を睨むような視線を先程から向けてくる。
これは懐くまでもうしばらくかかりそうだ。
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