第14話 正義の味方になれますか
幼い頃、俺には憧れていた人がいた。
端的に言い表すなら、正義の味方。
いつも服を汚して、見知らぬ誰かの人助けをしているような人だった。
「俺みたいになりたいか、面白い奴だなお前は……」
そう言って、近くのコンビ二で買ったお菓子の片割れを俺に手渡した、一回りも大きい青年の姿。
「なら、約束しようぜ。
俺は必ず、何かしらで世界一の大物になる。
だからお前も大きくなったら俺を超える大物になれ。
そしたらきっと、この世界はもっと面白くなるだろ?
学者でも総理大臣でも、画家でも、冒険家でも、何でもいい。
俺より凄い何かになれ、俺はその更に先でお前を待っててやる。
より面白い世界をお前に見せてやるからさ」
何を考えてるのかよくわからない人。
ただそれでも、前向きに何かを目指そうとしたこの人の背中に俺は憧れていた。
彼の名前は、東雲彰人(しののめあきと)。
後に、世界最強の攻略者の一人として名を連ね。
世界の窮地を救った末に、亡くなってしまった。
そんな彼は文字通り、正義の味方としての生涯を全うしたのだろうと、俺は今も思っている。
●
理亜と直政と別れてから間もなくして、沙耶さんは急用が出来たとの事で彼女とも別行動になった。
姐さん曰く、仕事を幾らか放っておいたのがバレて上に呼び出された可能性が高いとのこと……。
その上、SNS上での騒ぎが拡散されたので色々と大変そうでもある。
そんな彼女の事は放っておけということで、姐さんと俺とエリスは次の目的地である集団墓地に訪れていた。
ここには、姐さんの婚約者であった彰人さんの墓が形だけ存在している。
彼の遺体は二年前の異壊による騒ぎによって回収出来なかった。
ここには同じく回収出来なかった者達の墓が建てられており、異壊で亡くなった英雄達の魂を鎮める為に建てられたのだ。
そして、俺は想い人の墓前で祈り続ける彼女の横で手を合わせて祈りを捧げる。
俺達二人の様子を見て、エリスは何かを察したのか俺の隣に立ちしゃがみ込むと同じく祈りを捧げていた。
「私と玲はな、彼と昔から交友関係があった。
ヒーロー、英雄、いわゆる正義の味方って存在を夢に描いていた奴だったよ。
言葉通り、彼はモノリスによる力を手に入れると数多名声を若くして手に入れ一躍時の人となった……。
だが、その終わりは呆気ないもの。
二年前に引き起こった異壊において、最前線で戦い多くの人々を救いその生涯に幕を落とした」
「………あの人は確かに、正義の味方でした。
俺にとっては、今も憧れのヒーローです」
「そうだな、昔からお前はアイツにべったりだったよな。
二人の暴走を私と沙耶いつも収めて、時の流れで交友は減ったがそれでも昔と変わらない関係が常にあった。
私と彼との間にも、きっと………」
俺の言葉を聞き、姐さんはそう言った。
昔を懐かしむように、彼に何を祈ったのか分からないが……。
近状報告なのか、それともいつもの他愛もない愚痴なのか………。
「この人はの婚約者だったんですよね?」
「そうだな、紆余曲折あって当時は忙しく籍も入れる暇も無かったがそういう関係だった……。
形だけ、指輪を貰った程度………。
ほんと、馬鹿な奴だったよ」
彼女はそう言って、ゆっくりと立ち上がると軽く服を叩き埃を落とした。
「さてと、私の用事はこのくらいだ。
今度はお前達の用事だな」
「そうですね、それじゃ行きますか……」
「なんとなくこの流れだと、ご主人様の両親も亡くなっていたと思ったのですが違うんですか?」
「あー、まぁそう思うのも当然か……。
確かにこいつの父親は今も行方不明だが、母親は一応生きてはいる」
「一応ですけどね……」
「どういう意味です?」
「これから行く場所でその意味が分かる」
●
先程の墓地からほど近い場所に、かの場所は存在している。
第三収容施設、古い刑務所を改修工事し現在は別の目的で運用されている場所である。
通称、狭間人(はざまびと)の家という俗称で呼ばれているこの施設にはある症状を背負って人々が収容されており、俺の母親もその一人であった。
「…………」
檻の向こう側で、縛り付けられた異形の怪物。
四之宮華という名前の看板が立てかけらており、俺と姐さんは当然、そしてその光景を視界に入れたエリスは間もなくして目の前の一室から目を背けたのであった。
「アレが俺の母親だったモノの今の姿だよ。
ここにいる人々は同じような事情を抱えた人々が収容されており、人間に戻す為の研究材料として長らく放り込まれている」
「これが人間だったと?」
「そうなんだから、そうとしか言えない。
俺もそう思いたいんだが、目の前の光景が現実だ」
「玲が私の元に入った理由がコレなんだ。
母親を元の人間に戻す為に、ダンジョンの攻略をしたいのだと……。
この施設にある程度の金銭を上納する事で、ぎりぎり母親の人体実験を控えるよう計らって貰っている。
今のこいつの実力と稼ぎじゃ、現状維持で手一杯。
私は勿論無駄な足掻きだと、諦めるように何度も諭したがコイツは諦めなかった。
だから、私の元に居るんだよ。
コイツ程じゃないにしろ、私の元にいる奴等は皆同じような理由や事情を抱えた奴等ばかりだ」
「ソレが、ご主人様の力を求める理由ですか………?」
「唯一残された肉親、そして今は何処にいるか分からない親父との約束なんだ。
自分の代わりに守って欲しいと、ソレを俺に託して何処かに行った父親が戻ってくるまで、いや戻ってこなくてもやれる限りの手は尽くす。
今もそれは変わらないよ……。
俺は、彰人さんみたく強くはなれないだろうけどせめて家族の一人は守れるくらい強くならないといけないんだ………」
「………」
「異壊の現象が起こると、稀にこういう病を背負って人間が何人か発生するらしい。
発症の細かい条件は不明、私達は異壊によって生まれる病という事で異壊病と呼んでいるが……。
俗称としては、人間とあの化け物の狭間にいる存在という事で、ハザマビトと呼ばれてるがね」
「ハザマビト………」
「私は先に失礼させてもらうよ。
ここにあまり長いすると、精神が参るからね………」
俺達にそう告げて、姐さんはその場を後にした。
俺はというと目の前の母親だったモノに視線を向けながら目の前の檻に手を触れる。
「なぁ、エリス……。
あの人を俺は人間に戻せると思うか………」
「アレが人間に戻せると?」
「戻せる方法はあるかもしれない。
その為に、あのダンジョンが何なのかを知らないといけない。
でも、その為には力が必要だ。
エリスの言う、王という存在になれば母親を……同じ境遇の人達を救えるのか?」
「…………」
「まぁ、無駄足を踏むと分かるまで俺は戦うよ」
エリスは横で何も答えない。
何かを知ってるのか?
それとも本当に何も知らないのか……。
「いつか、ちゃんとしたご挨拶をしたいですね。
こんな形ではなく………」
そう言うと彼女は俺の服を掴み僅かに力を込める。
「そうだな。
こんな形したくないから、俺は戦うしかないんだ……」
時間の許す限り、俺とエリスは目の前の家族だった存在に視線を向け静かに祈り続けていた。
いつか必ず、助けてみせると誓って………
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