第13話 いつの間にか、いつものメンツ

 目の前の剣士は余裕の表情を浮かべ刀を構えていた。

 嵐のように水の流れに視界を遮られながらも、狙いを俺から逸らすことなくその機会を伺っている。


 俺が彼女の間合いに入ったその時、敗北が確定する。


 「ほら、どうしたの?

 コレが玲君の奥の手なのかな?」


 「………」


 勝算が見出だせない。

 いかにこちらの攻撃が以前より強かろうと、目の前の彼女の方が強い事は既にわかりきっていた。

 なんなら、よくやった方だろう。


 「ほら?

 さっさと来なよ、玲くん?」


 覚悟を決め、右足に力を込めた刹那。

 間に割り込むように、一人の人間がいつの間にかそこに存在していた。


 何の音沙汰もなく、不意に現れた第三者の存在に俺は思わず足を取られ膝を付いてしまう。

 

 「全く、休暇まで余計な手間を掛けさせるとはな」


 両手に黒い拳銃を構えた、黒いロングスカートの女性が立っていた。

 長い黒髪が特徴的な彼女は、間違いなく俺の所属しているギルドマスター、久尾鈴その人である。


 「鈴……来てたんだ?」


 「そのくらいにしろ、仮にも病み上がりなんだ。

 何処ぞのバーサーカーのせいで次の仕事に支障が出ては困るのでね」

 

 「あらら、ちょっと目が本気過ぎない?」


 「それはこちらの台詞だ、沙耶。

 今後のうちの稼ぎ頭にちょっかいを掛けられては困るのでね」


 「………、はぁわかりました。

 少し遊んだだけでこれとはねぇ………。

 鈴ちゃん、相変わらず玲くんに過保護過ぎるよ?」


 「何処ぞのショタコンに食われるよりはマシだ」

  

 「はいはい、じゃあこれでおしまいってことで」


 お互いに向けられた武器を下ろし、煙を撒くように手元からそれ等は彼女達の元から消え去った。

 そして、膝を下ろしている俺に向かって間に割り込んできた彼女はゆっくりと手を伸ばしてきた。


 「いつまで、へたり込んでいる。

 全く、いつも無茶をしてばかりだなお前は………」


 「………、そちらこそ急に来るなんてどういう風の吹き回しで?」


 伸ばされた手を取りながら俺は目の前の彼女に意図を尋ねると、後ろで頬を膨らませ不機嫌を振りまく沙耶さんの方を軽く指差した。


 「お前達の様子がネットで流れてきたからな。

 大問題になる前に飛んできた」


 「流れてきたって、ほんの数分前ですよ?」


 「そんな事はどうでもいい。

 全く、深くはないにしろズボンは破けてるわ切り傷は残すは………はぁ……このザマなら君の親御さんに合わせる顔がないな」

 

 「そうですかい………」


 俺の様子を見るなりそんな事を言うと、俺の後ろに控えていたエリスの方に彼女は視線を向けた。

 思わず俺も、彼女の方に視線を向ける。


 「エリス、ソレに沙耶も。

 あと上にいる、そこの馬鹿二人!!

 お前等全員後で話あるからな!!

 覚悟しておけよ!!」


 「「ひっ!!?」」

 

 先程垣間見せた優しい声音から一変、まぁ怖い怒声が聞こえ、その恐怖に辺りにいた観客達が静かにこの場から走り去っていく。


 やばい、コレはガチで怒られるヤツだ………。


 この状況の怖さをより肌身で理解している俺と沙耶さんは、思わず視線が重なり……。

 お互いに、乾いた笑いが溢れていた。


 

 「ほら玲、今度は右足傷のところ見せてみろ?」


 沙耶さんとの試合が中断された後、入口近くのフロアにて俺はギルドマスターである久尾鈴から傷の手当を受けていた。


 「全く、いつも世話の掛かる奴だなお前は……。

 理亜と直政、お前等がさっさと連絡を寄越さないからこんな騒ぎに発展したんだぞ?」


 「はい……」


 なんか偶然居合わせただけの二人がとばっちりを受け、俺に恨めしい視線を向けてくる。

 後で二人からも言われそうだな……。

 そして、騒ぎの張本人その2である沙耶さんに至っては彼女の命令によって床に正座させられている様子。

 

 「もう、玲くんばっかり甘やかしてずるいよ!」


 「沙耶の方は怪我どころか汗もほとんどかいてないだろ?」


 「えー、私だって少しくらい怪我してるよ?

 ほら見てよ、右手の人差し指のこことか!!

 このささくれ君ががちょっと気になってさぁ……」


 「こいつよりは健康そのものだ……。

 玲、それで身体に異常は何もないか?」


 「心配し過ぎだよ、姐さん。

 別に今のところは何ともない。

 多分そこら辺はエリスがよくわかってる部分だと思うし、それにこのくらいの怪我ならすぐに治る。

 これくらい仕事上つきものだろ?」

 

 「まぁそうだがなぁ……」


 「いつも心配し過ぎなんだよ。

 俺は大丈夫だ、そこまでしなくても問題ない」

  

 「………、そうだな。

 悪い、コレは私の悪い癖だな」


 沙耶さんの方を構う気はなく俺をただ心配して話してくる彼女の姿は俺が昔から見てきた心優しかったかつての姿そのものだった。

 

 「あの、ギルドマスターさんはご主人様とどのようなご関係で?」


 「腐れ縁みたいなものだ。

 どちらかといえば、そこで正座している奴も交えた関係というのが近い表現だろうな」


 「近い関係とは?」


 「こいつの兄は私の婚約者だったんだ。

 まぁアイツの影響もあって今のギルドを立てるきっかけにもなったがな……、

 まぁ昔の話だ、そんな事は今はどうでもいい……」


 「昔って、そんなに年取ってないでしょう私達?

 ほらほら、私達同い年なんだから、まだピチピチの二十代でしょう?」


 「そうだな……。

 玲、このあとはどうする予定だ?」


 「両親の元へエリスと一緒に挨拶をと」


 「そうか、私も丁度同じ用だった。

 そもそも、沙耶もその為に玲を探していたんだろう?」


 「えー、分かってたの鈴?」

 

 「もはや、習慣だからな。

 理亜と直政も来るか?

 コレに関しては強制はしないが」

 

 「あー、そういうことですか……。

 なら私は辞めときます、あんまり大勢で行くのは迷惑になりそうなので」


 「じゃあ俺は……行こっか……ぐふっ?!

 おい、理亜何してんだよお前!?」


 「流石に空気読みなさいよ!

 こんな調子だから、梟香ちゃんに愛想尽かされるのよ!!」


 「何?!俺が梟香から愛想を尽かされるだと?!

 俺の何が悪いんだ!

 教えてくれ、理亜!!頼む!!」


 「うっさい、暑苦しい!!

 ほら、とにかく私達はこの場に邪魔なの!!

 何か飲み物くらいご馳走するから、邪魔者のあたしたちは退散するの!!

 じゃあ、皆さんまた会いましょうね!」


 直政を無理やり引張りながら立ち去っていく理亜を俺達は呆然と眺めていた。


 「全く、要らない気を使われたな………」


 どころか呆れながらも口喧嘩する二人を見ていた彼女の姿は何処か懐かしい面影を追っているようだった。


ーーーーーーーー


久尾 鈴

年齢 24 女

基本能力 不明


 主人公等の所属する非公認ギルド、百鬼夜行のギルドマスター。

 以前は桐壱と共に百花繚乱の副ギルドマスターとして活躍していたようだが、とある事件を境にギルドを脱退し彼女が新しく現在ギルドである百鬼夜行「通称、百鬼」を設立した。

 戦況を先読みする能力に関して非常長けており、仕事毎の人選に関しては彼女の命令が絶対である。

 非常に殉職率の高いこの事業において、大手で成功率50%前後のところを成功率80%まで引き上げておりその信頼はかなり厚い。

 怒らせると非常に怖いが、情に厚くなんだかんだ優しいのでギルドメンバーからの好感度は高く、ギルド内外問わず今尚ファンも多い

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