第12話 些細な、確実な変化
「おい、聞いたか?
百花の剣聖がここで試合をしているらしいぞ?」
「まじかよ?
相手は何処のどいつだ?」
「さぁ、剣聖の知り合いっぽいが誰かは俺もさっぱりわからない。
ただ、妙な女を連れてたとからしいが………」
「なるほど、まぁとにかく行ってみようぜ!」
次の仕事に向けてのトレーニングしていた私は、休憩の為に施設内の自販機でスポーツドリンクを買っていた。
最中で聞こえた周りの会話の内容が僅かに興味を誘っていた。
百花の剣聖がここに来ている……。
女を連れた、彼女の知り合い………。
「まさか……、四之宮君が来ているの?」
百花の剣聖である沙耶さんと、うちのとこの彼とは昔から交流があったらしい。
そのツテで私も何度か絡まれた事はあったが、あの人が直接戦う場を私は見たことがない。
ましては、三人の中で一番弱い彼を相手に試合をするなど、何かの間違いかもしれない。
でも、今の彼なら以前までと違ってエリスと呼ばれる巫女らしき存在がいる。
あの人に届きうる実力を備えているのか?
「少し、気になる」
僅かに抱いた好奇心で、彼女達が居ると思われる試合会場へと足を急いだ。
私が来た頃既に、噂を聞きつけた観客達で会場はほぼ満員、凄い熱気で会場は盛り上がりを見せていた。
そして、会場の中心に立つ二人の男女。
間違いない、玲くんと百花の剣聖である沙耶さんだ。
そして、彼の少し後ろにはエリスが居る模様。
「来てるって噂、本当だったんだ………」
沙耶さんの左腕には、モノリス特有の淡い光の輝きが溢れ出し、ここまでその威圧感がひしひしと伝わってくる。
相対する彼は、何処にあるの分からない謎の自身満々な表情で彼女を見据えていた。
「お、理亜も来てたんだな?」
「直政、そっちもも来てたんだ?」
「まぁな、梟香は学校なのが残念だが。
理亜、やっぱり玲を心配してわざわざ?」
「違うわよ!!
沙耶さんが来てるって話を聞いてなんとなく足を運んだだけ。
ていうか、あんたこそどうなの?」
「俺はバイトしてる友人に沙耶さんの写真撮ってきてって頼まれてな……。
全く、自分で行けっての」
「ふーん、まぁ確かにモデルもやってるくらいだからね……。
そういう目的の人も多い訳か……」
「この観客のほとんどはそうじゃないのか?
まぁ、俺としてはあの人の実力が気になる。
というか、玲があの人に勝てると思うか?」
「無理でしょ、流石に………。
相手は国の顔役ってくらいの実力者よ。
勝てる話がまず無理でしょう?」
「だろうな、能力の扱いは色々と器用なんだが肝心の威力が乏しいからな。
決定打には欠けるだろう」
「元々、私達のサポート役って立ち回りだし………。
本人もそれは分かってるはずよ。
いずれは高ランクのモノリスで強くなるって意気がってるけど……」
「まぁ、アイツの事だ。
何かしらの考えがあるんだろ?
おっ、そろそろ始まるぽいぞ」
直政のその言葉の通り、戦いが始まった。
最初に攻撃を仕掛けたのは玲の方。
彼が先手に出て、右腕に存在する彼のモノリスが淡い光と共に手のひらから液体が出現し刃の形を成していく。
攻撃と同時にソレは刃の形を完成させ、相手の攻撃と激しい衝突を繰り返した。
「……ねぇ、何かおかしくない玲くんのアレ」
「ああ、アイツの攻撃ってあんなに威力があったか?」
「ううん、あんな攻撃を何度もやったらガス欠しちゃうでしょう……。
自分で言ってたくらいだし、だから普段は攻撃じゃなくて私達の後ろでサポートをしてくれてたけど……」
「沙耶さん、もしかして押されてる……?」
「見間違いって訳じゃないよね?」
思わず直政と顔を合せて、目の前の状況に困惑していた。
解除全体にも、どよめきのような声が漏れ始め彼が何処の誰なのか、スマホで調べ始める輩が現れ始めていた。
剣聖が押されている。
それも、私達がよく知る彼が今まで見たことない程の気迫と力を兼ね備えて……。
目の前のその事実に私達は戦いの行方を見守ることしか出来なかった。
●
目の前の剣士に俺はひたすら攻撃を繰り返していた。
全身に溢れてくる力に任せて、ただ目の前の敵を倒す為に攻撃を繰り出し続ける。
左手に構えた彼女の剣が、こちらの頬を僅かに掠めた瞬間に生まれた僅かな隙に目掛けて渾身の一撃を込める。
しかし、その瞬間こちらの攻撃は空を切っていた。
「っ!?」
「玲くん、焦り過ぎだよ?」
軽く俺の身体を押しのけ、やっと思いで詰めた間合いが再び開いてしまう。
最初の攻防戦は意表を突き、そこそこ追い詰められたと思ったのだが実力の底が見えるとすぐさま目の前の剣士が優勢に回っていく。
「はぁはぁ………」
「玲くん、ちょっとバテるのちょっと早過ぎない?」
「まだ慣れてないんですよ……。
そもそも対人戦なんて、あの中で役に立った試しがないですからね」
「まぁ、それはそうだけど……」
「そっちこそ、余裕がそこまでないのでは?
俺程度の攻撃にそこまでヤケになるのは、ギルドの面子にも関わるでしょう?」
「別にそうでもないよ?
君も百花に来てくれれば済む話だからね」
「非公認、それもそっちでは裏切り者の彼女の元に席を置いてる自分が国内最強の公認ギルドに?
あまりに虫が良すぎる話だ」
「君が来てくれたら、私は嬉しいけどね。
勿論、鈴も戻ってきてくれたら尚良いんだけど」
「それが無理なことくらい、あなたが一番よく分かってるはずだ」
「…………」
「俺は俺のやり方で、あの迷宮を攻略する。
それに何か問題でも?」
「うーん、まぁ玲くんがそうしたいなら止めないよ。
でも、今の君達じゃこれからのステージは追い付けないと思うなぁ?
私一人に勝てない程度で、迷宮を攻略したいのは流石に大口を叩くにも程がある。
私は強いけど、あくまで人間一人の強さだからね」
「………、今の俺ならあいつ等と並べますよ」
「そっか、まぁとにかくこの勝負にさっさと決着をつけなきゃね。
次に使う人が居るわけだしさ?」
彼女がそう告げた刹那、辺りが張り詰めたような緊張に包まれる。
その手に構えた刀剣のソレが僅かに揺らぎ、刀の刃が目の前から消え去った。
「この際だから本気で相手してあげるよ。
今の玲くんに負けてあげられる程、私は優しくはないからね」
「でしょうね………。
それでも俺はやれるだけやりますよ、沙耶さん」
俺は右手を掲げ、その手に水の塊を出現させ辺りに水滴が散乱に自分の周りを水滴達が公転し俺と彼女を囲んでいく。
「流石、玲くん。
やっぱり君はそれくらいはしてもらわないと」
「………」
この水滴達は攻撃よりかは、あくまで彼女の攻撃を可視化させる為のモノ。
彼女は恐らく何らかの異能力で光学迷彩のような効果を自らの刀剣に付与した。
つまり、武器の実態は見えないが存在はしている。
この水滴達が彼女の武器を見えるようにしてくれているはずなのだが………。
正直、今の俺に勝てるイメージは湧かない………。
先程の言葉通り、勝たせる気など毛頭ない模様。
彼女の武器が目の前の水滴達によって多少は可視化されてるはずだと思ったのだが、正直よく見えない……。
何かの異能力で見えなくしているのは確かだが、そもそもの当たり判定みたいなモノすら消しているらしい………。
どうやってるんだよあの人………。
唯一幸いなのは、最初の宣言通り一定の範囲内からは動かないというモノ。
しかし彼女からすれば、この範囲内のみで勝算が取れると判断してるということだ。
こちらから攻めない限り攻撃は来ないし、負ける事はない。
が、いつまでの時間稼ぎが利くとは思えないし多少の時間稼ぎであの異能のタネを明かせる自信がない。
さて、どうしたものかな………
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