第11話 勝てる見込みのないゲーム

 今日は元々、エリスと二人で出掛ける予定だったのだが突如襲来した姐さんの友人である東雲沙耶に絡まれ、気付けば近くのファミレスで一緒に休憩する事になっていた。

   

 「玲くん、さっきから私を何かの変な怪物扱いしてない?

 お姉さん悲しいなぁ………」


 「人の思考を勝手に読むのはやめてくれ、沙耶さん」


 この人、昔から姐さんである鈴と仲が良いんだが何というか姐さん曰く、根っからの年下好き(性別問わない)らしく俺や、最近は理亜にも同じように接してくる始末である。

 その内、警察のお世話にならなければいいが……。


 尚、彼女より2つ年下の直政の方は身体付きが逞しすぎて彼女の好みではないらしい……。


 彼女はそういう人物であるから、正に俺の目の前にいるエリスは程よいサイズ感の美少女という訳で、好みのタイプのど真ん中。

 故に店内で多少の人目もある中、彼女頬を指で突っついたり抱き締めたりと若干百合に近い光景を見せつけられてる。

 しかし、剣聖と謳われる彼女であるから剣を扱う訳でして、俺より当然力は強い。

 彼女の抵抗虚しく、先程からされるがままにされて助けの視線が俺に向けられていた。

 

 「沙耶さん、流石にそのくらいで……。

 というか、仕事で忙しいんじゃないんですか?

 自身の立場分かってますよね?」


 「そりゃ分かってるよ。

 でも、鈴から君がこの前の仕事終わって次の案件までのは休日だってこの前聞いたからさ。

 色々と貯めた仕事終わらせて、今朝には君の家に押しかけたんだけど居なくてね……。

 だから、探しに来ちゃった!」


 「来ちゃった!じゃないですって、何考えてるんですかこの人!」


 「えー、別にいいじゃん。

 私、君以外にはそういうことしないよ?」


 変にあざとく上目遣いで媚びてくる彼女を見て、何とも複雑な心境である。

 素行はアレだが、見た目は良いからまぁ普通にモテるし、最近はどっかの雑誌の取材とかでモデルをやったとかないとか……。


 「しないよ?じゃない!

 何を考えてるかと思ったら、全くこの人は……」


 と、まぁ一悶着しているとエリスから離れて目の前のコーヒーを一口含んで話題を変えた。

  

 「堺さんから聞いたけどさ……。

 あの仕事に行くらしいね君達?」


 「何か問題でも?」


 「正直、玲くん達の今の実力では足手まといかな」


 笑顔でそう告げた彼女の様子に、俺の背筋に悪寒に近いモノが全身に巡った。

 わざわざ俺の家に押しかけた理由、どうやら単にふざけて足を運んだ訳じゃないらしい。


 「足手まといですか、そりゃああなた方と比べたらうちのギルドは中堅と弱小の間ってところの評価でしょうよ。

 幾ら身内が代表として顔役を勤めているとしても、あの場所で生き残れるかは別な話なのでね」

  

 「分かってるじゃん、流石玲くん」


 「わざわざ俺達を止めに来たと?」

  

 「うーん、惜しい。

 半分正解!」


 「もう半分は?」


 「君達の実力が見たいかな?

 特に今の玲くんの実力とか?

 以前よりそこそこ強くなったみたいだけど、私の知る限りでは、あの子達の中で個の実力は一番下だったからね。

 まぁ元々玲くんの目的は怪物相手とやり合うって事じゃないっていうのはわかるけどさ………。

 これからの業界で生き残りたいなら、今の君達じゃ弱すぎるの。

 単純に足手まとい?」


 表情は変わらず、明るいままで淡々と告げる彼女の様子に一種の恐怖を感じた。

 あの世界で実際に最前線で戦う人の言葉であるが故に、他意を込めずともその言葉の重みは違っていた。


 「………、容赦ないですねそういうところは」


 「君や鈴の事を心配してるからこそだけどね。

 あの現場には私も足を運んだけど、脅威度5以上はまだ君達に早過ぎると思うよ。

 堺さんが許したなら、まぁいいとは思うけど。

 私もあのくらいになると、あまり構ってる余裕がないからね」


 「それでも、俺達は行くって決めましたから」


 「…………そう。

 まぁ、私が止めたところでどのみち君達自身で決める事だからね。

 うーん、まぁいいや。

 止められるとは思ってないからね、とにかく今の玲くんの実力が見たいから、久しぶりに試合しようよ」



 先程の沙耶さんの言葉の通りに近くの訓練施設に足を運んでいた。

 俺達のような迷宮探索で食っていく者達の為に作られた施設で、ほとんどはジムと併設させれいる事が多くいつも多くの人で賑わっている場所である。

 特に、迷宮内での怪物相手の練習を兼ねて人間同士での練習試合は、見物客も多く来るほどのある種の新スポーツに近い。


 ただ、他のスポーツと違って一回の試合毎に誓約書を何枚か書かなければならない。

 それは文字通り、命のやり取りと他ならないものであるから……。


 「うーん、思ったより空いてて良かったね。

 いつもは予約で一杯なのに、すぐに順番が回ったからさ」


 「あはは……そりゃ良かったですね」


 予約が空くのは当然だろう。

 目の前の沙耶さんは有名人、この施設でも顔パスで入れるくらいだ。

 見物人もいつにも増して人が多く、遠くから俺達の方をスマホとかで撮ってる奴が多い。


 「で、正直俺が沙耶さんに勝てる要素なんてあるんですか?

 どうやっても勝てるイメージが無いんですけど、というか一方的に負けますよね」


 「そりゃあ、私と玲くんが戦ったら当然私が勝つに決まってるよ。

 まぁでもそれじゃあつまらないか。

 うーんと、そうだ!」

 

 彼女はそう言うと軽く俺から距離を取り、深呼吸をすると何かの風を切る音と共に、本人から半径五メートル程の真円が床に刻み込まれた。

  

 「私は、この中でしか戦わない。

 私がこの円から追い出せたかあるいは制限時間内に一本取れたら勝ちなのはどう?」


 「ハンデなんですかソレ?

 むしろコレあなたの間合いじゃないですか……」


 床に刻まれたあの傷の通り、俺にはアレの太刀筋なのかよくわからない攻撃のソレが全く見えなかった。

 あの半径五メートル内に入れば、俺は確実に死ぬんじゃないか?


 「大丈夫大丈夫、私も手加減するし。

 ソレに、エリスちゃんもあなたの活躍には期待してるみたいだよ、ほら?」


 俺の後ろから様子を伺う彼女はいつになく静かだったが、俺の方にゆっくりと近づくと耳元で何かを囁いた。


 「今のご主人様なら大丈夫ですよ。

 ですが気を付けて下さい、あの人からは嫌なモノを感じますので」


 「どうだか、まぁやれるだけやってみるよ」


 エリスの言葉の意味、言われなくてもあの人がめちゃくちゃ強い事くらい分かってる。

 加えて、エリスと出会ってから初めての戦いだ。


 勝てるかどうかはともかく、せめて一泡吹かせるくらいの事はやってやる。


 「エリスは下がってろ。

 それじゃあ、試合を始めましょうか沙耶さん」


 俺の言葉を聞くと、沙耶さんは僅かに微笑み左腕に存在する彼女のモノリスが淡い光を放ち始める。

 完全に戦闘モード、まぁ怖い。

  

 「いつでもどうぞ、玲くん。

 君の実力、私に見せてよ」

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