第10話 最強の剣聖
事務所での用事が終わり、家に帰宅すると黒い猫を抱えたエリスが迎えに来た。
彼女の足元には、白と黒と茶色の言わゆる三毛猫が彼女元に引っ付いていた。
黒い方はサシミ、三毛猫はササミ。
ちなみに両方共メスである。
二匹は、エリスと同居を始めた翌日、彼女が道端で拾ってきた存在である。
状況的に元野良だろうが会ってすぐのエリスには懐いている辺り、今のご時世で生き残れる愛嬌を持ち合わせてるのは流石だと思う。
一応ペット可の部屋であるから、あんまり強く断りを入れるわけにもいかず、彼女が責任持って世話出来るならという事で俺は二匹を飼う事を認めた次第である。
二匹の名前に関しては飼い始めたその日の夕食をつまみ食いされた際に、口に咥えていたのがささみ肉と刺し身だったという理由である。
しかし、なんとなく彼女等には嫌がられた気がしたが、エリスはそれで満足した模様。
以後、二匹の名前はそれで通っている。
「お帰りなさいませご主人様。
お仕事お疲れさまです」
「ああ、ただいま。
相変わらず二匹には凄い懐かれてるよな。
俺にはさっぱり懐かないのにさ……」
「あー、まぁ来てすぐの時期ですからね。
慣れれば多分この子達も受け入れてくれますよ」
「そうだといいけどな………」
エリスはそう言うが、彼女が近くに居なければ俺に近寄ろうともしない。
彼女達にとって、家主である俺の地位は一番下なのだろう。
現にこの前、理亜が訪ねた際にも顔出さなかったくらいだ。
俺の知り合いにまでこの態度をする辺り相当嫌われているのだろう。
「次のお仕事は上手くいきそうですか?」
「………、分からない。
少しばかり状況が変わったが、やれるだけやる」
「そうですか、ご無理はなさらないで下さいね」
至って普通の会話。
だが、未だにエリスについて俺は何も知らない。
堺さんが去った後の時間に3人で色々と話をしたが、
直政からは、「ちゃんと避妊はするんだぞ」という言葉を投げかけられた。
コイツは一体何を考えてるんだと思ったが、どうやら俺が彼女に襲われる側らしい。
ソレを聞いてすぐに納得した俺と理亜もあれだろうが、身の危険は確かにあるのかもしれない。
自分が無害認定されてるのもなんか腑に落ちないが……、まぁそれはいい。
そして、理亜の方からは「一度ちゃんと話し合ってみたらどう?」と至極真っ当なお言葉を貰った。
それが出来たら苦労しないのもまた事実である。
しかし、彼女曰く聞き方が悪いらしい。
「世の中あなた達みたいに素直に直接聞いたら、はいそうですって素直に答える奴ばかりじゃないのよ。
特に、あの子のような腹の底に何抱えてるか分からないようなタイプはその典型なの。
一緒に出かける口実やらを付けて、上手く彼女の心の内を探るとかしないと、その内痛い目に遭うわよ」
と、なんとも実体験がこもったような話を言われ俺と直政は納得した。
同性だからこそ分かる何かがあるのだろうが、コレは非常に参考になるだろう。
「なぁ、エリス。
今度の仕事行く前に何処かに出掛けないか?」
「デートのお誘いですか?」
「まぁ、それでもいい。
近所の案内とか、世界での出来事や俺達の仕事についてとか、説明が足りないところもあったからな。
だからいっそ、この機会にどうかなと?」
「私はいつでも構いませんよ。
ご主人様が望むであれば今すぐにでも出掛ける支度を致します!」
「いやいや、行くのは明日だ。
で、その……行きたい場所とかはあるか?」
「行きたい場所ですか……。
そうですね……、ではご主人様のご実家にて貴方様の両親へのご挨拶に行きたいです!」
「………、分かったよ。
その辺りもちゃんと話さないといけないな……」
「ありがとうございますご主人様!
私、明日が楽しみです!」
愛顔で子供のようにはしゃいでいる彼女。
見た目相応の反応しているように見えた。
●
翌日、昨晩の約束通り俺とエリスは出掛ける事になった。
行く場所の宛はあまり決めてないが、彼女の要望は俺の両親への挨拶がしたいとのこと………。
なんとも行き過ぎた想いが暴走してるが、彼女と出掛ける口実が出来たのはこちらとしても好都合であった。
「さてと、これからどうするか……」
「ご主人様のお仕事の内容の説明でしたよね?
ソレを兼ねるなら、ご主人様の職場とか?」
「行ってもいいが、今日は閉まってる。
姐さんも、今日は流石に身体を休めるそうだ」
「姐さん……、確か彼女はあのギルドの経営者でしたよね?
どうして、彼女の元のギルドにご主人様が入る事を決めたんです?」
「無名時代からのスカウトって形だよ。
子供の頃に、両親とは近所付き合いがあってそれなり交友はあったんだ。
だが、彼女が最初に入ったギルドは色々あって揉めた後に今のギルドを設立することにしたらしい。
その人数合わせって事で、元々この業界に興味があった俺が彼女の利害の一致もあって入った訳」
「昔から交流があったと……」
「学生時代は時間があれば家庭教師とかしてもらって勉強とか見てもらった。
成績が酷いと、まぁ怖かったな……」
「なるほど……」
「そう言う訳だから、まぁあの人は怒らせないようにしろよ。
ほんとに怖いからさ……」
さて、姐さんの話はこれくらいにしてさっさと何処に向かうか決めないといけない。
ふと、近日行われるトーナメント戦のポスターが目に入った。
ポスターの真ん中に映る刀を構えた黒髪の女性に思わず視線が向かい。
ポスターの右側には、「百花繚乱に所属する凄腕剣士、東雲沙耶が参戦!!」と大々的に書かれている。
「あの人が出るのか……」
「お知り合いですか?」
「姐さんの後釜、百花繚乱の副団長である東雲沙耶(しののめさや)って人だ……。
そうだなぁ、百花の現右腕って言われるくらい。
単独で脅威度6の仕事を成功させたって逸話もあるし、個の実力だけなら姐さんより数段上。
界隈からは剣聖って二つ名が与えられてるくらいだ、本人はその名を謙遜してるが与えられて当然の実力があるだろうと思うよ」
「………、なるほど。
この方とも面識が?」
「姐さんとは昔からの友人なんだよ、あのギルドを抜けても今も昔も変わらずにさ……。
だからまぁ、元々あの人と交流があった俺も一応何度か会った事はあるんだが……。
そのなんというか………」
「あー!!
玲くん見っけ!!」
聞き覚えのある声と共に、突然俺は背後から抱きつかれる。
俺よりも数センチ程も背が高い女性、多分174以上くらいはある彼女からの抱擁に俺の横に立っていたエリスは驚きの表情を浮かべ狼狽えていた。
先程まで眺めていたポスターの中の人物が、今まさに俺の後ろにいるのだから。
「君、鈴が言ってた例の子だよね?
はじめまして、玲くんのお姉さんの東雲沙耶です!
玲くんと一緒に棲んでるみたいだし、今日からあなたも私の妹だね、イエーイ!」
そう言って、エリスの元に近づき俺と同じく彼女を思い切り抱きしめた。
あまりの行動力に、エリスの思考回路が混乱し両手を上げてあたふたとしている。
東雲沙耶、国内最強ギルドの百花繚乱の現右腕。
人々から剣聖とも謳われる彼女は、昔から異様に俺に絡んでくる面倒な人なのである。
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