第7話 それがエリスとの出会い
一瞬の時間にも満たない間。
意識の切れ目、目の前には巨大な怪物。
3つの虎のような頭を持った、己の数倍はあろう巨体を誇る異型の怪物。
「ーーーー!!!!」
今にも俺を喰らい尽さんと、俺の命を奪おうとする奴の殺意の衝動を感じていた。
俺を殺そうとする怪物の姿。
だが、それは今の俺にとって……。
羽虫に等しい、僅かに気が障る程度の存在だった。
「…………」
食事をするかのように、息をするかのように。
万有引力によって、物が上から下へと落ちるように
目の前の怪物は俺に触れる間もなく、俺がソレに先が消えた右腕を伸ばすと、
お互いの力関係の逆転が形を成したのだった。
「ーーーーーっ?!」
奴が雄叫びを上げて刹那に声は途切れる。
俺との力の差を本能で理解した時、
全ては終わっていた。
鋼鉄にも勝る強靭な怪物の巨体は、容易く二手に両断されていたのだから。
死の間際の刹那の領域、走馬灯でも見ているかのような意識の狭間の中で俺を過ぎる二手に別れた怪物の視線。
その身体は残された自我で自身の命を奪った俺の姿を死にゆく意識で捉えていた。
俺の身に起きたその変化に、奴が一体何を感じたのかは定かではない………。
ただ、今の俺は自然と……。
死にゆく彼に向けて、言葉を投げ掛けていた。
「悪かったな……起こしてしまって………」
刹那の中で両断された奴の身体。
その勢いは生前の勢いを保つように、奴の骸はそのままこの迷宮の壁面に衝突する。
役目を終えた怪物の鋼鉄のような硬い外皮からは、血にも似た黒っぽい体液が流れ出てきておりこの戦いの決着を物語っていた。
「………やったのか、俺が?」
戦いの終わりを認識するも、今の状況の理解が追いつかない。
己の身に起きた変化も分からず、本能のままに何かをしたという感覚が残滓のような曖昧なモノとして感覚が僅かに残っていた、
そんな、身体を巡る異様な力の流れの反動なのか身体は拒絶反応を示す。
当然、身体が立っていられる訳もなくそのまま膝をついてしまった。
膝をついた瞬間、失われたはずの右腕の先は元通りである事を認識する。
そして、元々その腕に嵌め込まれたはずの黒いモノリスは赤と白の血管のような模様が、まるで蛇のような形の光を放っていた。
「何が起こって………」
誰かが手を叩くようなような音が聞こえてくる。
少し遠い、怪物によって破壊された台座の方からその存在は確かに居た。。
「やはり流石ですね、ご主人様。
私が見出しただけはありますよ」
「お前は確か……」
俺は、アレに襲われる前に何かの光に包まれていた。
光の中で出会った少女そのものである。
銀髪と赤い目をした、異国情緒あふれる容姿の彼女。
俗世離れした、その可憐さには何処か見惚れる程の魅力があったが、本能的に何かの警戒心が頭に残り続ける。
「私が分かりませんか?
これでも、あなたの命の恩人ですのに。
ご主人様?」
「エリス、本物なのか?
あの声は本当に君の?」
「はい、勿論です!
あなたが訪れる日をずっと待ち侘びていました。
あなたが私を迎えにくるその日を。
ここでずっと、ずっと前からあなた様の到来をお待ちしていたんです」
「………」
純粋な想いからなのか、彼女は俺に対して明るく振る舞い続ける。
俺を昔から知ってるような口振りなのが少し気になるが………。
俺の記憶の中では、彼女と出会ったのは今日が初めてである。
何処かで既に出会っていたとか、そういう可能性も僅かに考えたが既に彼女自身でここで待っていたと言っている。
つまり、何処かで既に出会った可能性もない。
完全な初対面、その上で彼女は俺を昔から待っていたと………。
「私ずっと寂しかったんですよ、ご主人様?」
うーん、コレは明らかに関わってはいけない奴だな。
俺はすぐさま、彼女から視線を反らし出口探す為に大きく開いた扉の跡を過ぎようとする、しかしソレを止めるべくエリスと名乗った少女は俺の左腕をがっちりと掴みにいった。
「待って下さい!!
何で私から逃げるんですか、ご主人様!!」
「人違いだ、君の素性はよく知らない。
ソレに初対面のはずだ、なのに何で俺を知っているんだよ!!」
「それは、その……。
なんというか、色々と私にも事情というものが……」
「事情って言われてもなぁ……。
突然ご主人様って言われて、はいそうですとはならないだろう?」
「証拠なら、一応身体の何処かに証があるはずです」
「身体の何処かって………」
まだ完全に本調子とまではいかないが、身体に元の感覚が戻っていく。
そして、彼女はそのご主人様との証とやらを証明する為なのか俺の上着に手を掛ける。
「おい待て、何やってる!!」
「ですから、証拠をですね。
ほら、今すぐ万歳して脱いで下さい!」
「子供じゃねぇよ!!
というか勝手に服を脱がすな!!
何を考えてるんだよ、おい!!」
「いいからさっさと脱いで下さい。
じゃないと分からないでしょう!!
ハァハァハァ………」
「だからって………、てか息荒いの何なんだよ」
必死の抵抗をするが、なんというか……。
このエリスという少女、力がほとんど無い。
いや、まぁ身体を普段から鍛えてる俺と比べられたら当然なんだろうが………。
にしても、弱くね……。
というか途中から少しずつ泣きそうになってるし。
「早く脱いで下さい!!
ご主人様の証が見れないじゃないですか!!」
「わかった、わかったから……。
泣き叫ぶのはやめてくれ……」
正直、下手に騒いで敵の増援が来るとかの方がより面倒な事になるので俺はとりあえず上の服を脱ぐ。
シャツに手を掛け、僅かに肌が露出してくると何やら痣のような黒っぽい何かが見えた。
「……、蛇の入れ墨かタトゥーか?」
腹部の右側から背後に掛けて蛇のような黒い線が俺の身体には刻まれていた。
身を覚えないソレに戸惑うも、これを見たエリスの方はドヤ顔で胸を張っていた。
「ほら、ありましたよね!
私の言った通り、あなたは私のご主人様なんです!
ちゃんと、身体にはしっかり刻まれてますし……。
まさにご主人様の身も心も、私と一心同体となった事に変わらない証なのです!」
「その契約、破棄に出来ない?
こんな姿じゃ、温泉とかプールや海に行けないからさぁ………。
ほら、クーリングオフとかあるだろう?」
「なっ………。
酷いです、あなたの命の恩人でもある私との繋がりを会って早々に破棄したいとは……。
私の何が駄目なんですか!!
私、見た目もこの通りかわいいですよ!!」
「いや、そういうことじゃなくてだな……」
うーん、面倒な奴に絡まれてしまっている。
しかし、この子を置いてこのまま出口を探すのはいかがなものだし……。
いや、だとしてもこの入れ墨が残るのも困る。
ソレに、面倒な奴だとしても目の前の彼女は俺を助けてくれた恩人のようだし……。
諸々の発言が怪しいのは確かだが……。
ちょっと残念な面が目立つが、なんとなく悪い奴ではないのかもしれないとは思う。
●
その後、なんやかんやあって今に至る。
迷宮の出口までの案内を兼ねて、俺の説得を何度も試みたり……。
その途中前線の攻略部隊と鉢合わせて、俺と彼女は無事保護された訳だ。
彼女の身柄は、警察とかに一度送る手筈になったのだがうちの姐さんが警察にコネを効かせてこちらで保護をする事になった。
以降、彼女と俺は姐さんの何らかの意図によって監視も兼ねて俺と二人で暮らしている。
俺からも、向こうであった出来事を伝えたが迷宮の細かいところは不明なのが事実。
姐さん曰く、彼女の戸籍関連の手続きが少々面倒らしい……。
だが、それが些細な面倒事に思える程に下手にこちらの管理外に彼女を置くのが迷宮関連という事もあって今のご時世だと色々と危ないらしい。
俺がよく分からずに倒した怪物の強さは、簡易的な評価で脅威度6相当。
E2程度のダンジョンからあんな化け物が出たが、それを誰が倒したのかが今まさに問題になってるらしい。
うちはそもそも非公認ギルドという建前があるので、公認ギルドとの揉め事を避ける為だということ。
故に今回の件に関しての諸々は隠しておくらしいが、どこまで隠せるかは時間の問題だろう。
だが、いきなり俺と住まわせるのもどうかと思う。
向こうはそれを至極当然のように受け入れているし。
同棲だとか言い張って理亜と揉めるくらいには、俺に対してのみ異様な程の執着を見せている。
扱いに多少難はあるが、まぁなんとかなるだろう。
エリスが一体何者なのか?
あの迷宮が何なのか?
彼女と共に進み続ければ何かが分かる。
そんな気がした。
ーーーーーーーー
主な用語
●遺跡
ダンジョンとも呼ばれる。
個別の名称よりかは遺跡の攻略難度の目安として、ダンジョンの存在する国や都市や地名・異形の系統、脅威度で言われやすい。
tokyo・A5 los angeles・C4 等。
●公認ギルド
各国政府が管理しているギルド。
最大勢力の組織であり、遺跡を攻略する為にこれ等のギルドに所属するのが基本。
大人数での攻略が基本であり、装備も支給品が多い。
しかし、報酬の配当はそこまで多くはない。
●非公認ギルド
文字通り政府非公認のギルド。
少数精鋭の組織であり、一部反社会的勢力も所属していたりと危険が伴う存在。
少数精鋭の攻略が基本の為、一人一人の基本能力が非常に高く、その報酬の配当もかなり高い。
実力が伴うならば、最も出世が早いところであり一攫千金が狙いやすい。
●攻略者
遺跡に挑む者達の総称。
遺跡の調査、及び遺跡内の怪物達の殲滅。
モノリスの回収、運搬など様々な役割が存在しており、それぞれの役目に数多仕事が各ギルドへと舞い込んで来る。
最も報酬が高いのは最前線の戦闘係。
続いて、各フロアのマッピング係。
そして、モノリス及び財宝の運搬係。
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