第3話 いつもの面子で駄弁るだけ
事務所を追い出され、姐さんに言われた通りに俺達は訓練をしようかと思ったが一応怪我人の俺、そして気分が乗らないであろう理亜の影響もあり近くのカフェで時間を潰す事になった。
サボりもいいところだろうが、こんな状態で訓練をしたところで気を抜いて怪我しては元も子もない。
この業界は特に身体が資本だからだ………。
他にやることかあるとは思うが、ソレを熱弁するであろう本人が一番落ち込んでいるのを見るに、先程の叱責が余程堪えたのだろう。
「はぁ……」
「そう落ち込むなって、いつものお前らしくない」
「先月の仕事が失敗したのは本当の話でしょう。
それに続いてこの前のだって……」
「いや、この前の奴は俺の過失だろ………。
正直、生還出来たのが奇跡なんだ」
「そりゃあそうだけど………」
アイスコーヒーのストローに手を掛け、くるくると中身を混ぜながら、理亜は言葉を続ける。
「最近、確かに難しい仕事が多いよね………。
去年までは、私達くらいの実力で済ませられるくらいの仕事が沢山あったのに……。
報酬はさ、そこまで美味しくなかったけど、それなり私達は仕事をこなせてたと思うし、成功したらしたでそれなりに楽しかったし」
「そりゃあ、簡単なダンジョンが粗方攻略し尽くされてる訳だ。
残ってるのは、どういう物かって話になるだろ?」
「わかってるわよ、そんなこと。
でも、先月の仕事の奴で私の攻撃がぎりぎり通るか通らないかってくらいの相手だった。
あんたとアイツとの3人で連携出来たお陰で多少は囲まれてもどうにかなったけどさ………。
私があんた達より強いのは既にわかりきってる話。
だから余計に気にするのよ……。
私が負けたら、あの場でみんな死んでたかもしれないって………」
「確かにお前が実力はあるのは認めるが………」
「私のせいで、誰かが死ぬのは絶対に嫌なのよ」
「………、それは誰だってそうだろ。
それに自惚れ過ぎだ、理亜。
確かにお前は強い、だが俺達も強い。
3人で一つのチームというか、それでやってくってあの時から決めたことだろ?
ソレを一人で血気盛んに前線に切り込んでるつもりなのはおかしい話だ」
「……うん、わかってる」
「あーもう、全く、調子が狂うなぁ……。
いつもの無駄に元気で口うるさいお前は何処に行ったんだよ?」
「口うるさいのは、あんた達のせいでしょう。
私だって、好きに騒いでる訳じゃないし………」
何処か気恥ずかしそうに、俺から視線を反らした理亜を横目に、俺は先程から注文したソレに手を付けないエリスが気になっていた。
「どうかしたか?
俺達の暗い話で食欲でも失せたか?」
「今朝はあれほど仲が悪かったのに、思った以上に打ち解けていましたので、少し意外だと……」
「あー、そういやエリスには言ってなかったよな。
ただまぁ、その辺りの説明はもう一人、いや二人が来るまで待っててくれ。
俺達と組むにあたって長い付き合いになるだろうからな……」
「四之宮くん、いつの間に連絡してたの?」
「お前がウジウジしてる合間に連絡を入れたんだよ。
ただまぁ、妹のテスト開けとかで帰りの送り迎えついでに顔を出すそうだ。
一応、新しい仲間が出来るって旨は簡単に伝えてはいるが………」
「ふーん、相変わらずのシスコンぶりね……」
「家族想いの間違いだろ」
「それはそうだけど……、まぁ確かに稼ぎがいいにしろ家族の為に命懸けって姿は見直すけど…」
「ソレ、本人に直接言ってやれ。
きっと喜ぶぞ」
「嫌よ、アイツすぐに調子に乗るし」
「誰が調子に乗るって?」
横から聞こえた声に僅かに飛び退き、理亜はゆっくりと声の主へと視線を向ける。
体格は俺なんかとは比較にならない程に恵まれ、Yシャツの上からでも筋肉の形が分かる程に鍛え上げられた肉体。
少し髪を茶髪に染めて、何処かお調子モノというか陽の雰囲気を醸し出してくる、少しチャラそうな男。
加島直政(かじまなおまさ)、いつものメンバーの最期の一人であり、このメンバーの最年長である。
「すみません、私まで付いてきてしまって」
そして、そんな彼の後ろに引っ付くように隠れている制服姿の眼鏡少女は、直政の妹である加島梟香(かじまきょうか)。
あのチャラそうな男に似ても似つかぬ程にしっかりした人物であり、この兄の遺伝子が繋がっているとは到底思えない人物である。
これだけ出来た身内が居るなら直政が溺愛するのも、無理はないのかもしれない。
幼い頃から両親が居ないこの兄妹は、直政が父親代わりで妹が少しでも良い学校に進学出来るようにという目的の為に、この業界に手を伸ばした程である。
比較的休みも多い上ことに加えて、一回の仕事の稼ぎは確かにいいという利点はあるのだが、命懸けの仕事をこなすと決めた辺り、妹の為なら何を言われようとも止まらないような奴である。
普段はお調子ものなのだが、やるときはやる男なだけあり周りの人間からは好かれやすく、このメンバーで回ってるのも彼の手腕が大きく要因しているだろう。
「梟香ちゃん、今日は試験だったんでしょう?
こっちに顔を出しちゃって良かったのかな?」
「はい、大丈夫です。
その……、今日で試験の日程は終わった感じなので。
テストの出来高は多分大丈夫です、兄が日頃から皆さんとお仕事を頑張ってくれてるので、私はちゃんと応えてあげたいですから。
それに、皆さんとお会いするのは私も楽しみですし………」
「それは何より。
良かったな直政、愛しの妹からのありがたいお言葉だぞ?」
「ハハハ!!当然ちゃ当然よ!!
この俺の妹だぞ、ハハハ!!」
「兄さん、お店の中だから静かに……。
恥ずかしいでしょう」
後ろから彼の脇腹を一指しで小突き、直政は少し落ち着くと、ようやく目的を思い出したのかエリスの方へと視線が向かう。
同じく、妹の方も彼女の方を見たようだが……。
「その子が例の新メンバーって訳か?
あの人の命令ならしょうがないが、何者だよその子?
見たところ、外国の人だよなぁ………。
日本語で大丈夫か?」
「心配せずとも、そのままお話下さい」
エリスは二人を軽く見るなり、そう答えると座ったまま軽く挨拶をした。
「私はエリス。
諸事情ありまして、四之宮様の元で同棲しています。
今後、四之宮様共々宜しくお願い致しますね?」
「おいおい、同棲って……。
玲、お前いつの間に抜け駆けを………」
突然俺に掴み掛かった直政を振り払い、俺はすぐさま誤解を解くために弁明をした。
「ちょ、待てよ直政……、誤解だ誤解。
エリスもそのボケをいつまでやる気だよ?!」
「誤解も何も、ご主人様と私が一緒に暮らしているのは事実でしょう?」
「そうだが、同棲とは違うだろ。
ほら、なんだ………居候とかシェアハウス的なアレの方が近いだろ?」
「ご主人様がそう仰るのでしたら………」
「えっと……玲さん……。
その、それでそのエリスって方とは、一緒のお部屋で住んでるんですよね?
結婚を前提に」
「ああ、まぁ一緒に暮らしているって話は本当だよ。
結婚云々は違う、絶対にな。
この前の仕事が終わってから、色々あって、まぁその上手く言えないアレなんだよ……。
とにかく、正直俺もよく分かってない事が多いがなんとかなるだろうよ」
「そうですか………」
何かに安心したのか、彼女を胸を撫で下ろし一息つく。
ソレを茶化すように、理亜は彼女の頭を軽く撫でながら口を開いた。
「全くもう……。
四之宮君、あなたのそう言う楽観的なのはいいけどその内色々と痛い目に遭うわよ、特に女性関係には気を付けなさいよね……。
巻き込まれる私達の身にもなってよ」
「はいはい、ご忠告どうも。
とりあえず顔合わせは済んだし、話を進めてもいいよな?」
俺はテーブルの上に自分のスマホを差し出し、先日姐さんから受け取った案件のメールを見せた。
「梟香さんには、関係ない話だろうから適当に流して貰えばいい………。
で、話は来週に控えた案件についてなんだが………、
隣街にある猫印のスーパー、魚堂の駐車場にあるダンジョン、E4の攻略案件をうちを含めた4つのギルドが取り持つ事になった。
事前調査で、最奥までの通路及び全体の半分はマッピングされている。
カテゴリーはE、つまり昆虫系統のカムが出現する。
そして、今回の俺達の仕事は他のギルドと連携し最奥から入口までの運搬作業者達の安全を確保する事だ。
やることは新規攻略よりは簡単だが、脅威度が4。
難しい部類に入るのは間違い無いだろう」
俺の言葉に加島兄妹は聞き入っている様子だが、理亜は少し顔をしかめ、案件内容を睨んでいる様子。
「理亜、何か気になることでもあるのか?」
俺が問いかけると、皆の視線が彼女に向かう。
そして理亜は、真面目な顔で一言を告げた。
「私、虫が嫌いなのよ」
「「今ソレを言うのかよ!!」」
俺と直政の声が重なり、梟香とエリスは思わず苦笑いを浮かべる。
そして、当人はというとバツが悪くなったのか、視線を俺達から反らしてアイスコーヒーのストローに口を付け始めた。
このメンバーで本当に仕事は大丈夫なのだろうかと、不安要素が積もるばかりである。
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登場人物1
・四之宮怜
20歳 男
主人公、王の候補者としてエリスに選ばれる
基本はいいヤツ、仲間内では何かと便利枠の扱い
・エリス
年齢不詳 女
ヒロイン、巫女と呼ばれる存在らしい
主人公をご主人様と称し執着も強く何処か危うい雰囲気を醸し出す美少女
・茅谷理亜
21歳 女
いつものメンバーその1、委員長気質で何かと面倒見の良い人物だが主人公の私生活に口を出したりと行き過ぎた面もある。
本人の素行は自堕落であり、家事は苦手
・加島直政
23歳 男
いつものメンバーその2、主人公等を取りまとめる兄貴分の
リーダー各。
自他共に認めるシスコンであり、自身の妹である梟香を溺愛する余り彼女の学費を稼ぐ為、この業界の仕事を選んだ程
・加島梟香
17歳 女
直政の妹、直政のブレーキ役。
兄の溺愛には呆れるが、彼の為に努力を欠かさない同じ血筋なのかと疑う程に良く出来た人物
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