第2話 とりあえず、今の現状
今から十年程前、世界に謎の建造物が現れた。
地中から突如として現れたそれ等を、人々はダンジョンや迷宮等と呼び始め、あっという間に一躍ミームとなり流行り始めた。
すぐさま、謎の建造物達の調査に世界各国が乗り出したが調査に向かった数多くの人々が帰らぬ人となった。
それを後押しするかのように、粋狂な動画配信者が中へと潜り込み行方不明となる事案が後を絶たなくなってしまう。
事態を重く受け止めた各国政府は軍を用いての本格的な調査に乗り出したが、突如として建造物達から溢れた異型の怪物が溢れ出る事案が発生し人類に多大な被害をもたらした。
異型の怪物達にはCategory Materialという名前が付けられ、その頭文字からCM(カム)という名前が付けられ、この対処にありとあらゆる現代兵器が使われるも有効打とはならなかった。
名前の通り、現実に存在する多くの動植物の形をしているが生物と無機物の両方の性質を持つという特異な性質により、生半可な攻撃では効かない上で人類は徐々に劣勢に立たされていく。
各国が核兵器を使用する一歩手前の選択を強いられた頃に、例の建造物からの生還者が現れると、カム達を容易く殲滅し、人類は彼等に対しての反撃の糸口を見出した。
モノリスと呼ばれる、スマホにも似た石片。
これが迷宮の最奥に存在しており、生物に埋め込む事でカム達に有効な攻撃を放つ事が出来る。
まるでそれは、ファンタジーやゲームの世界のような能力が身につくという事で、一部は一般人にも流れてしまい彼等が独自にギルドという組織を形成するとある種の軍事ビジネスとして、世界各国で広まっていった。
ソレが今のこの世界の現状。
俺こと、四之宮玲(しのみやれい)も諸々の事情を抱え現在のギルドという民間企業の社畜として例の迷宮及びダンジョンを攻略している者の一人である。
先程の茅谷理亜も色々な事情があってこの業界に手を出した人物の一人であり、個人の実力に関しては俺よりも上である。
誰もがある種の憧れや複雑な事情を抱えた中で、この一大ブームが巻き起こっているのだが、その裏で俺達の業界では、とある噂が流れていた。
それが、巫女の存在である。
正確に言うなら、巫女や歌姫等の迷宮から現れた特異な能力を持つ少女達の存在というのが正しい。
彼女達は、王と呼ばれる存在を見出す選定者として、七罪の碑という人智を越えた力を持つモノリスを王の候補者達に与えているという都市伝説染みた噂だ。
この噂の信ぴょう性が上がったのは、最初の迷宮攻略者の側にいた謎の少女の存在である。
当初の迷宮の調査団に、この少女は存在せず政府は彼の親戚、及び兄妹であるという説明をしたようだが……。
彼女の存在が広まり、最初は巫女よりかは天使か何かの使いではないかという噂程度であったが。
それはいつしか、巫女や踊り子、歌姫と例えられ、俺達では一括りに巫女と呼ばれるようになった。
そして、この界隈に入ってそれなりに経つとこの噂の真意が多少なりとも分かってくるようになる。
巫女は確かに存在する。
そして、王の候補者にはその証が身体に刻まれるのだということを………。
●
「なるほど、それでこのザマという訳か」
事務所のデスクで腰を掛ける大人びた女性。
長い黒髪を後ろに束ね、目の前の書類をペラペラと捲りながら、適当な返事を返してきた。
「マスター、それでコイツが王候補って本当なの?!
何でコイツみたいなのが、突然王候補なんてモノに選ばれるんですか!」
「はぁ、全く。
理亜、少しは落ち着け。
言いたい気持ちは分かるが、私だって分からない事が多いんだ。
それに、彼が王候補って話が本当なのかもちゃんと真意を彼女本人からの証拠とか諸々を確かめないといけない訳だし?
この子の身元保証人やら、色々と面倒な手続きもあったりと、このご時世で戸籍をどうにか確保するのは大変なんだよ。
だったらほら、上手い具合に彼女と彼に事実婚って事で籍を入れちゃった方が色々と手間が省ける訳でね?
監視役も兼ねて色々と丁度いいだろう?」
ペンで彼女を指し、姐さんはそう告げた。
俺達の所属する迷宮攻略を専門とした民間ギルド系の企業、百鬼夜行のギルドマスター及びこの会社の代表取締役でもある彼女の名は久尾鈴(くおうすず)。
元は国家主導の公認ギルドである、百花繚乱の右腕として全盛期をその身に置いていた逸材。
彼女もまた色々な事情があって、公認ギルドから離れ自らこのギルドを設立した。
少数のギルドでありながら、これまでの経験を活かして迷宮の攻略確率は8割を超えている程。
同事業者であっても、高くて6割程度である事からこの数字は破格と言えるだろう。
そんな彼女の発言というか、命令は絶対であり歯向かうのは余程の肝が据わった者か何も知らない愚か者くらいであろう。
「だからって……、こんな得体の知れない奴といきなりコイツが一緒に暮らすのは流石に……」
「なんだ、羨ましいのか?」
「違います!!
あくまで仲間!、戦友として、あのダンジョンに命を預ける仲間としての信頼とか、そういうモノに関わるんです!!」
「あくまで、彼女の存在に反対であると?」
「ええ、そうです。
ですから彼女をどうにかしてください!
せめて別の部屋に住まわせる程度の計らいは出来るでしょう?」
「うちは経営難なんだよ。
依頼は多いんだが、人手や戦力が少ない。
君達の実力はちゃんと評価している。
その上で改めて言わせてもらうが………、
この業界の殉職率を見れば分かるだろう?
例えば、そうだな……」
そう言って彼女は、俺達に依頼書の一つをタブレット端末から見せられる。
Saitama A5
そう書かれ、依頼書には現在判明している範囲内での迷宮の地図と主な依頼内容が記されていた。
「A5、動物系の脅威度が5の仕事だ。
君達に先月行かせ、やむなく撤退させた仕事の内容は覚えているかい?」
「C3、鳥類系の脅威度は下から3番目です……」
「詳しい数字はまだ出ていなかったが、先週程にようやく出たんだよ。
ええと、確か当時君達を含めて調査隊約50名の内、うちより先に向かった攻略部隊14名のうち8名の死亡が確認されている。
いいか?、下から3番目で14人中の8人だ。
彼等の実力は決して悪くはない、むしろ今の君達といい勝負あるいは上の者達だ。
ソレがたった数日で半数以上が亡くなっている。
遺体だって全部回収された訳ではないんだ。
これを踏まえた上で、こちらに来ている仕事の平均でコレなんだよ。
報酬に目が眩んで、アレの餌になりたいなら別だがね?
公認ギルドに比べて中抜きは少ないのがうちみたいな非公認の民間ギルドだが、その分求められる技術や能力は高い。
で、それであっても失敗や殉職者は絶えない。
結果を急ぐのは勝手だ、だがうちに来た以上は私の命令が絶対だ、わかったか?
私も色々と忙しいんだよ、彼女の件も追って対応するから、お前らは次の仕事に備えて訓練でもしていろ、分かったらさっさと出ていけ」
彼女はそう言うと、手を仰いで俺達を事務所から追い出した。
巻沿いを食らった俺とエリスはなんとも言えない表情を浮かべる中、理亜の方は大人げもクソもなく、まるで子供のように頬を膨らませ僅かに涙ぐんでいた。
全く、先が思いやられそうである。
ーーーーーーーー
遺跡や怪物について
突如として世界各地に存在した謎の存在。
外見は様々で、しかし地球上には少量しか存在しないレアメタル等で構成されている代物。
内部には異形の化け物が存在し、現代兵器が効きづらく確実に弱点となるコアを潰さなければ殺せない。
しかしコアは堅い外皮によって守られており、拳銃程度では外皮にすら傷が付かない程。
遺跡の奥深くには、数多くの金銀財宝とモノリスが眠っており、これ等を求めて人々は遺跡の調査に向かっていく。
遺跡内部に存在する異形の強さや性質によって、それ等は区分分けされている。
強い異形が巣食う遺跡程、ランクの高いモノリス及び大量の報酬が得られやすい
A〜Gで異形の出現する系統
1〜10で出現する異形の強さ及び脅威度がわかる。
A5等と遺跡毎にカテゴリー分けされており攻略者達は自身の実力と見合わせて調査に向かう。
A 動物系 F 機械系
B 植物系 G 変遷系
C 鳥類系
D 魚類系
E 昆虫系
1は比較的簡単に攻略出来るが、それでも10数人の能力者が必要な程に難易度加えて報酬は不味い。
10は各系統の頂点に立つ異形が巣食っており、各系統一つずつが世界に点在している。
現在攻略されている最高難度の遺跡がA7。
系統の中でも変遷系のダンジョンは難易度が非常に高く、遺跡の奥へと進む毎に出現する異形の系統が変化し対策がし辛い。
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