石板の迷宮と碑の巫女
ラヴィ
第一章 猫は気まぐれ、巫女は羨んで
第1話 修羅場ですね、ハイ
この業界にも慣れ始め、先月程に引っ越した商店街や職場にもほど近い、家賃6万程の1LDKの我が家。
心機一転、新たな我が家での明るい未来に多少の期待をしていたのだが……。
「で、その子は誰なの?
こっちはさ、割と本気であなたを心配していたのよ。 ソレを蓋を開けてみれば……ねぇ?」
「…………」
現在俺は修羅場に居る。
生まれてこのかた、彼女のかの字も無かった俺の人生のはずなのだが、珍妙な物事とあらゆる偶然が重なり、この場が生まれてしまった模様。
全身打撲のような傷を負ったが、比較的軽症で包帯ぐるぐるのミイラ状態なんて事もなく、少し大きめの湿布や絆創膏が貼られてる程度のもの。
そんな俺の向かいに居る一人の女性。
年相応に化粧や髪を染め、誰もが一度は振り向くであろう端正で整った顔立ちからは、これでもかという程の軽蔑の眼差しを今現在俺ただ一人に向けられている。
彼女の名は茅谷理亜(かがやりあ)、俺と同じ職場で仕事上で組まされているメンバーの一人だ。
最近は俺の私生活の乱れにまで口を出すようになりプライベートな休日にまで踏み込んでくるいわゆる委員長気質な人物である。
この上なく俺の苦手な部類の人間だ。
そして、問題の人物は俺と理亜の挟む卓の横で呑気に茶を飲んでいる。
理亜と同じく非常に整った顔立ちをしているが、異国風特有というか俗世離れした不思議魅力を醸し出す赤い瞳をした華奢な少女、エリス。
正直、俺も彼女の素性はよく知らない。
というか出会って3日と少しだ。
にも、関わらず………。
「ご主人様、随分とご無礼で野蛮なお客様ですが一体どのようなお知り合いで?
先程から随分と発情期の猪のように興奮なさっているようですが、まさか何かの病気を患って……?」
茶を飲み終えて、放った第一声がこれである。
「何コイツ……初対面で流石に失礼過ぎない!?
ソレにその……ごご、ご主人様って貴方!!」
「事実を述べたまでですよ。
四之宮様は、私が見出した素晴らしい御方。
私と運命を共にするにふさわしく、私の持つ全てを持って支えるべき御方なのです」
「待て、非常に誤解を招く表現が多いぞエリスさん。
というか、理亜さん?
少しくらいの事情は姐さんから聞いてるだろ?」
「事情って、その子にお世話される事が?」
「いや違う、全く違わないとは言わないが……。
お世話の部分は違うはずだ」
「そうですね、確かにお世話の部分は違いますね」
エリスは俺の言葉に合わせる。
場の空気を察したと僅かな期待に安堵した刹那、
「お世話ではありませんよ。
私とご主人は同棲しているんです」
「そう、じゃあ帰らせて貰うわ」
満面の笑みで理亜はそう言うと、すぐさま立ち上がりこの場を去ろうとする。
「待って、誤解をしたまま帰らないで!!」
「何よ、良かったじゃない?
こんなかわいい女の子にお世話されるどころか同棲なんてねぇ?
羨ましい限りじゃないの、四之宮くん?」
「いやだから、確かにこの場を見たらそう思われてもしょうがないというか………。
とにかく色々と違うんだよ!!
その、この前の仕事で色々あったのが関係してて……」
俺はそう言い、彼女にこの前の仕事で出来た傷を見せる為に服を脱ぎ始める。
「ちょっ、何よこの変態……!!
って、え………何その傷、というか入れ墨というかなんというか?」
例の傷、いや入れ墨じみた蛇っぽいソレを見るなり先程までの彼女の態度が落ち着く。
「コレの件で、今はまだギルドに顔を出せないんだ。
本当は姐さんにも、コレの件やエリスに関しての諸々が口止めされてるんだよ………。
で、一応同じパーティーというかパートナーのお前やアイツには遅かれ早かれ伝えないといけないとは思ってたんだがな………」
「………、その傷とその子と何の関係があるの?」
「碑(いしぶみ)だよ、分かるだろ?
あの迷宮と同じく関わってる理亜ならさ……」
「碑って……、まさかあの七罪の…………?」
そして、言葉の意味をようやく理解したのか、理亜の視線が再び彼女に向かった。
警戒の眼差しは相変わらず、しかしその意味合いが変わった。
そして、それに反応するかのようにエリスの方は何処か怪しい微笑みを浮かべる。
このエリスという少女の正体は碑の巫女。
王の選定者と呼ばれる存在である
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