1-2
「大丈夫です。少し考え事をしていまして」
「そうか。疲れたか?」
「いえ、そんなに」
「王太子殿下とお話しただろう?どうだった?」
「どうだった、とは?」
素敵な方だとは思った。実は私のタイプでもある。でもゲームのエリメラみたいに一目惚れはしなかった。
「婚約者になりたいとか、どこかで話したことがあるような、とか思わなかったか?」
「いえ、別に」
「そうか。……殿下も完全に忘れられているな」
「?何か言いました?」
「いや。何でもない。俺はちょっと殿下のところに行ってくる」
何かボソッと言っていたが聞こえなかったし、誤魔化された。それにしても王太子殿下と仲が良かったのだろうか?
「エリメラ、楽しんでる?」
「お母様。ええ、とても」
私に似ている…いや、私がお母様に似ているのだが、そのお母様が笑顔で私に話しかけてくる。
「それなら良かったわ。そろそろお開きになるけれど終わったらサロンで待っていてくれる?」
「分かりました」
(なんだか嫌な予感がするわ。当たらなければいいけれど…)
残念ながらこういう時の勘程当たるものである。
「エリメラ。楽しめたかい?」
「ええ、お父様。それでどうなさいましたの?ここに来るようにお母様に言われたのですけれど」
「それは殿下から聞いてくれるかい?私達は取り敢えず出ているよ」
「ありがとうございます。公爵」
何故か王太子殿下がサロンに残り、お父様達が出ていくと私の方へ歩いてくる。まさかとは思うが……
「エリメラ嬢。時間を取っていただきありがとうございます。お時間を頂いたのは私から貴女へ伝えたいことがあって」
そう言って私の前で膝をつき、
「エリメラ嬢。私と婚約して頂けませんか?」
と言った。……まあ、やっぱりそうなるのは当然だろう。ここまで来たら。出来ればこの方とは婚約したくなかった。だが相手は王族。断れるわけがない。
それにゲームのエリメラはとても嫌われていた。この方は人気があるからきっと私は女避けなのだろう。身分も釣り合うし。
学園に入学したらゲームが始まる。そうすれば彼はヒロインに恋し、卒業する頃には断罪されて婚約破棄されるのだろう。もちろん、断罪されるようなことをするつもりはないが、そこはゲームの強制力というやつだ。
「……王太子殿下にそう言って頂けるのはとても光栄に思います。勿論お受け致します」
「ありがとうございます。では私達は今から婚約者同士なのですから、名前呼びに敬語もなしですよ」
「名前呼びはともかく、敬語なしは難しいですわ。それと手続きなどは宜しいので?」
名前呼びは敬称を付ければいいが、敬語なしは公爵令嬢でも流石に恐れ多い。
「大丈夫ですよ。国唯一の公爵家の令嬢である貴女と王太子である私の婚約ですから、反対はされません。ですから早速名前で呼んでくれますか?」
「分かりました。でもジュリアス様も敬語はやめて下さいね」
「分かったよ、エリメラ。これから宜しくね」
「はい」
こうして私は結局王太子殿下と婚約することになってしまったのだった。…別に一目惚れしたわけでもないのに…!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます