第5話パン屋のアルバイト橋本杏の依頼
夏休みが終わり新学期が始まった。
長い休みの後の学校ほど行きたくないものはないな。
そんな俺達に追い打ちをかけるように黒井先生から有り難い話があった。
黒井「お前達も来年は3年生だ。そして、卒業するわけだが卒業後の進路について今のうちから考える必要がある!」
黒井「そこで、近々職場見学が行われる。グループに別れて希望する職場に見学に行き将来自分が何の職業に就くのか考えるきっかけにしてもらうから各自よく考えるように。グループは最低でも3人は必要だからクラスメイトで話し合って決めるように。」
黒井「委員長。グループと希望する職場が決まったら私の所にこのプリントを提出しに来なさい。」
長谷川「分かりました。」
黒井先生からの有り難いお言葉は終わった。
職場見学か。将来何になりたいとかまだ分からないのに行って意味があるのかね?
まぁ直接見てみないと分からないこともあるか。
理想と現実はいつも違うのだ。
放課後になり俺は久しぶりに相談部の部室に向かった。
部室の扉を開けるとアイリスが椅子に座り本を読んでいた。
昌磨「おっす。久しぶりだな。」
アイリス「そうね、貴方は相変わらず眠そうな顔をしているわね。」
昌磨「まだ休み明けの初日だからな。仕方ないだろ。」
アイリス「どうせ自堕落な生活をおくっていたのでしょう?」
昌磨「休みなんだから当然だろ?アイリスはそうじゃなかったのか?」
アイリス「私はいつも通りに過ごしていたわ。」
昌磨「マジか。そんな奴いるんだな。」
俺達が話しているともう1人が部室に入ってくる。
茜「先輩方お久しぶりっす!」
昌磨「久しぶり。茜ちゃんは今日も元気だな。」
茜「元気っすよ!それだけが取り柄っすから。」
アイリス「そうね。貴方から元気を取り上げたらあとは何が残るのかしら?」
茜「なんかヒドイことを言われてる気がするっす。」
昌磨「気がするんじゃなくて言われてるから。」
茜「む〜。そんなアイリス先輩にはお土産はあげないっす!」
昌磨「お土産?夏休み中に何処かに行ってきたのか?」
茜「その通り!北海道に行ってきたっすよ!お土産も買ってきたんすよ?でも、アイリス先輩にはあげないっす。」
アイリス「あらそう。それなら私も本当は皆に渡そうと思っていたのだけれど、貴方には渡さないでおきましょうか。」
昌磨「アイリスもお土産買ってきてくれたのか?」
アイリス「えぇ。お土産に紅茶のティーバッグを買ってきたのだけれど、茜さんはいらないようね。昌磨には1つあげるわ。」
昌磨「あぁ。ありがとう。悪いな。俺はお土産用意してないから今度何か奢らせてくれ。」
アイリス「分かったわ。」
茜「むむむ。分かりました。私が謝りますからアイリス先輩のお土産、私も欲しいっす。」
アイリス「そう。なら、貴方のお土産と交換しましょうか。」
茜「するっす!昌磨先輩にもあげるっす!貸しっすからね?」
昌磨「あぁ。分かったよ。」
コンコンッ
誰かが部室の扉をノックする音が聴こえた。
アイリス「どうぞ。」
橋本「失礼します。」
入って来たのは俺と同じクラスの女子で橋本杏(はしもとあん)だ。
昌磨「橋本さんか。ここに来たってことは何か相談しに来たのかな?」
橋本「うん。海城君は今度の職場見学何処に行くかもう決めた?」
昌磨「いや、まだだけど。」
橋本「そっか!実は相談なんだけど、私と同じグループにならない?」
昌磨「橋本さんと同じグループに俺が?」
橋本「私とあと憂君もいるよ。野阪憂(のさかうい)君。憂君と私は同じお菓子研究部に所属してるんだ。」
昌磨「なるほど。ってことは行きたい職場ってお菓子関係の職場?」
橋本「そう。実は憂君の実家がケーキ屋さんなんだ。隣町にあるケーキ屋さんなんだけど、そこのケーキ屋さんに職場見学に行きたいんだよね。」
昌磨「ケーキ屋に職場見学に行きたいのは分かったけど、俺を誘う理由がまだ分からないな。」
橋本「実はここからが本題なんだけど、憂君の家のケーキ屋さんは結構人気なお店なんだけど、その人気の秘密を一緒に調べてほしいのよ。」
昌磨「人気な理由を調べてどうするんだ?将来ケーキ屋でもやるために知りたいとか?」
橋本「違うわよ。人気の理由を調べて私がアルバイトさせてもらってるパン屋に活かしたいと思ってるの。」
昌磨「パン屋?それが橋本さんがケーキ屋に職場見学に行きたい理由なのか。」
アイリス「だけど、それぐらいなら直接野阪君に聞けばいいんじゃないかしら?」
橋本「それじゃ駄目だよ。自分の目で見たり体験しないと意味ないのよ。」
昌磨「それで、なんで俺も行かなきゃならないんだ?」
橋本「実は今私のバイト先のパン屋さんに来るお客さんの数が減ってきてるんだよね。」
アイリス「お客の来店数が減っている心当たりはあるのかしら?」
橋本「多分だけど最近近くにコンビニが出来たんだよね。」
茜「コンビニっすか。確かにコンビニのパンも安くて上手いっすからね。」
橋本「そうなんだよね。だから、今までパン屋で買ってくれてたお客さんがコンビニで買うようになっちゃったのが客が減った理由だと思うんだよ。」
アイリス「それで、人気のケーキ屋さんに職場見学に行って人気の理由を調べてパン屋さんに活かしたいってことね。」
橋本「そう言うこと。だから、海城君にも一緒に職場見学に来てもらって海城君の意見も聞きたいと思ったの。」
昌磨「なるほどね。分かったよ。」
アイリス「それじゃあ、私と茜さんはコンビニの方を調べましょうか。どういう商品が置いてあるのかとか学生に聞いてコンビニでなんのパンを買ってるのとか。」
茜「了解っす。ついでにコンビニのパンも食べましょう!」
アイリス「まぁ比較するためにも食べておいた方がいいかもしれないわね。」
昌磨「お前ら楽しそうだな。」
茜「楽しいっすよ?昌磨先輩は楽しくないんすか?」
昌磨「楽しいっていうか仕事として捉えてるからな。」
茜「仕事でもなんでも楽しまなきゃ損っすよ?」
昌磨「そうだな、善処するよ。」
橋本「皆ありがとうね。」
アイリス「気にしなくていいわ。それが私達の活動だから。」
茜「そうっす。パンも沢山食べれそうっすしね。」
昌磨「お前はそれが目当てだろ。」
こうして俺は橋本と野阪のグループに入り野阪君の実家のケーキ屋さんに職場見学に行くことになった。
職場見学当日。
俺達は隣町の駅前で集合することになった。
俺が1番早く着いたようだ。
しばらくして橋本さんがやってきた。
橋本「海城君が1番か。今日は改めてよろしくね。」
昌磨「こちらこそよろしく。」
橋本「海城君は洋菓子とか食べるん?」
昌磨「いや、あまり食べないかな。外食した時に相手に合わせて頼むぐらいかな。」
橋本「なるほどな〜。私とはそもそも食事のメインディッシュが違うんやね。」
昌磨「メインディッシュが違う?」
橋本「海城君にとってのメインディッシュはご飯を食べることやろ?」
昌磨「そりゃあそうだろ?」
橋本「私はご飯がメインじゃなくてデザート目的でお店を決めるんよ。」
昌磨「なるほどな。それぐらいデザートが好きってことか。」
橋本「そう言うこと!」
野阪「お待たせ。2人は何の話をしてたの?」
橋本「デザートがメインディッシュやって話。」
野阪「あぁ〜なるほどね。まぁ気にしなくていいよ。海城君。」
昌磨「あぁ。分かった。」
野阪「それじゃあ、行こうか。お店というか家に案内するよ。」
橋本「家がケーキ屋って羨ましいな。」
野阪「よく言われるよ。確かに特したところもあるけど大変なこともあるよ?」
昌磨「へ〜例えば?」
野阪「一時期ケーキとか食べ過ぎてケーキに飽きたり誕生日も正直ケーキよりお寿司とか焼肉とかの方が嬉しい。」
橋本「なるほどね。確かに最初はいいかもだけどそれが何年も続くと嫌にもなるか。」
昌磨「ほどほどが1番ってことか。」
雑談しながら歩いていると目的地に着いたようだ。
野阪「ここが僕の家だよ。」
橋本「海城は初めてだよね?」
昌磨「そうだな。初めて来た。」
野阪「まぁ入ってよ。今日は平日だからお客さんもあまり来ないはずだから。」
お店に入るとよくあるケーキ屋さんって感じだ。
ショーケースには色んな種類のケーキが並んでいる。
野阪母「いらっしゃいませ。」
橋本「初めまして。今日は職場見学よろしくお願いします。」
野阪母「こちらこそよろしくね。私は憂の母です。」
野阪「奥にお父さんもいるから挨拶してこようか。」
野阪母に挨拶をしてからお店の奥に案内された。奥には野阪君のお父さんがいらした。
野阪「お父さん。2人を連れて来たよ。」
野阪父「あぁ。いらっしゃい。憂の父です。今日はよろしくね。」
昌磨「よろしくお願いします。」
野阪父「それじゃあ、早速だけど着替えてもらおうか?憂。案内してあげて。」
野阪「はい。それじゃあ、2人共こっちに来てくれるかな?」
野阪君に案内され奥の部屋でお店の服に着替えることになった。
着替えを済まし野阪君のお父さんの所に戻って来た。
野阪父「2人共似合ってるよ。」
野阪「うん。似合ってる。」
橋本「そうですか?ありがとうございます。」
野阪父「それで、今から簡単にケーキ屋の仕事内容の説明と少しだけ仕事を手伝ってもらおうと思うんだけど大丈夫かな?」
昌磨「はい。よろしくお願いします。」
野阪父「ケーキ屋の仕事は大きく分けて2つです。販売と製造の2つになります。販売は店内で来店されたお客様の接客対応や清掃等で製造は店内に置く商品を作ったり翌日以降の仕込み作業が主な仕事だね。」
野阪父「それで、販売と製造とで別れてもらおうと思うんだけど、希望はあるかな?」
橋本「私は製造がやりたいです。」
昌磨「それなら、販売でお願いします。」
野阪父「分かりました。憂も製造で良かったよね?」
野阪「はい。」
野阪父「それじゃあ、海城君はお母さんの所に行って来てくれるかい?」
昌磨「分かりました。」
俺は言われた通り野阪君のお母さんの所に向かった。
昌磨「すみません。販売を手伝うことになったんですけど。」
野阪母「海城君ね。よろしくね。それじゃあ、まずはお掃除からやってもらおうかな?」
昌磨「はい。分かりました。」
俺は言われた通りに店内の掃除を始めた。
掃除しながらショーケースの商品を見ると今が旬のフルーツを使った商品が並んでいたり人気の商品が並んでいて商品にわかりやすくポップが貼られている。
一通り掃除が終わったので報告に行く。
昌磨「掃除終わったんですが、次はどうしましょうか?」
野阪母「それじゃあ、この商品の写真を撮ってもらってもいいかしら?」
昌磨「はい。分かりました。」
俺は言われた通り商品の写真を撮った。
昌磨「撮りましたけど、何に使うんですか?」
野阪母「SNSに投稿するの。今の時代やっぱりSNSも使いこなさないとね。」
昌磨「なるほど。」
野阪母「結構見てくれてるのよ?写真を見て買いに来てくれるお客様もいらっしゃるの。」
昌磨「若いお客様が多いんですか?」
野阪母「今までは若い人よりも大人のお客様の方が多かったかな。誕生日のケーキとか誰かへお土産とかね。」
野阪母「でもね、憂の影響もあって若い子達が好きそうなケーキを売るようになってからは若い子も買いに来てくれるようになったのよね。」
昌磨「そうなんですね。」
野阪母「ちなみに、海城君はどんな洋菓子が好きかな?」
昌磨「俺は抹茶が好きなので抹茶のケーキとか好きですね。」
野阪母「渋いところ選ぶね。でも、私も好きよ。抹茶ケーキ美味しいわよね。」
野阪君のお母さんと話をしているとお客様が来店された。
野阪母「いらっしゃいませ!」
女性のお客「あっすみません。ケーキを買いたいんですけど、何かオススメありますか?」
野阪母「今だと旬のフルーツを使ったこちらのケーキなんかオススメになってますがいかがでしょうか?」
女性のお客「美味しそうですね。それを1つお願いします。あとはこの抹茶ケーキもお願いします。」
野阪母「かしこまりたした。」
野阪母「海城君。ケーキを入れる箱を用意してもらっていいかな?」
昌磨「はい。分かりました。」
俺はケーキが2つ入るサイズのケーキの箱を用意した。
その箱に野阪君のお母さんがショーケースから出したケーキを丁寧に入れていく。
2つ共入れ終わったので会計をしてお客様に商品を手渡した。
女性のお客「ありがとう。」
昌磨「ありがとうございました!」
女性のお客様はこちらにお礼を言って店内から出て行かれた。
野阪母「お客様からお礼言われると嬉しいわよね?」
昌磨「そうですね。俺もアルバイトやっててお客様からお礼言われると嬉しいです。」
野阪母「そうよね。海城君アルバイトやってるのね。どこで働いているのかしら?」
昌磨「居候させてもらってる所が喫茶店をやってるのでその喫茶店で働かせてもらってます。」
野阪母「そうなのね。今度行ってみてもいいかしら?」
昌磨「はい。是非来て下さい。」
そんな会話をしながらお客様の対応をしたりケーキ屋さんの仕事を体験して職場見学は終了した。
橋本「今日は貴重な経験をさせて頂いてありがとうございました。」
野阪父「いえいえ、こちらこそ色々助かりました。またいつでもお店に来てよ。」
野阪母「海城君もありがとうね。」
昌磨「こちらこそありがとうございました。」
野阪君のお父さんとお母さんに別れを告げてその日の職場見学は終わった。
次の日。
俺達相談部と橋本さんとで改めて話し合うことになった。
先日の職場見学で自分なりに感じたことを報告するつもりだ。
アイリス「それじゃあ、早速だけど各自の結果報告をしましょうか。まず、私達の方から報告させてもらうわね?」
昌磨「あぁ。頼む。」
アイリス「私達はコンビニに置かれている商品とパン屋さんの商品との比較とうちの学生が何のパンを買っているのかのヒアリングを行ったわ。」
アイリス「私の方はコンビニの商品とパン屋さんの商品の比較。茜さんには生徒の聞き込みをやってもらったわ。」
茜「聞いてきたっすよ。」
アイリス「まずコンビニの商品だけど基本的なあんぱんやジャムパンの様ないわゆる菓子パンと呼ばれる物やコロッケパン等の惣菜パンと呼ばれる物も置いてあったわ。」
アイリス「他にもサンドイッチや複数個入っているパンなんかも置かれていたわね。一方橋本さんが働いているパン屋さんもラインナップは似たような感じね。でも、パン屋さんの方が種類は多かったわね。価格はコンビニの方が安かったわ。」
茜「次に私から報告します!うちの生徒に聞き込みをしたところ、殆どの生徒がコンビニを利用してたっす。女子は主に菓子パンで男子は惣菜パンって感じっすね。」
茜「ちなみに、パン屋じゃなくてコンビニのパンを買う理由としては安いからとかパン以外にも買うからとかでした。」
昌磨「大体は思ってた通りって感じかな。問題なのはどうやってパン屋さんにお客さんが来るようにするかだな。」
アイリス「貴方達はどうだったの?」
茜「そうっす。ちゃんと仕事してたんすか?ケーキ食べてただけじゃないんすか?」
昌磨「一応学校行事だからな。ちゃんと仕事はしてきたよ。」
橋本「それじゃあ、私から報告しようかな。私は基本的に製造の方を手伝ってたんだけど、既存の商品をただ作ってるだけじゃなくて新商品の開発にも力を入れてるみたい。」
アイリス「例えばどうやって?」
橋本「店長さんが家族で人気のスイーツを食べに行って調査して実際に作ってみたりしてるみたい。」
茜「色んなケーキが食べられて羨ましいっすね。」
昌磨「だから、仕事だっての。」
アイリス「昌磨はどうかしら?」
昌磨「俺は販売の方を手伝ってたけど、気になったのはSNSを活用してることかな。」
橋本「あ〜。店長さんも言ってたな〜。SNSで人気のお店を探してるって。」
昌磨「SNSを活用して自分の店の商品を宣伝してるみたいだな。実際に食べたお客さんのレビューとかも見れるからそれを参考にして改善したりもしてるらしい。」
アイリス「なるほど。ちなみに、橋本さんが働いているパン屋さんはSNSはやってるのかしら?」
橋本「いや、やってないね。うちのパン屋を経営してるのはおじいちゃんとおばあちゃんの夫婦でやってるんだけどSNSは使い方が分からないからやってないって言ってた。」
茜「お年寄りには難しいっすよね。」
アイリス「なら、代わりに橋本さんがやってあげたらいいんじゃない?」
橋本「前に一回言ったことがあるけど、断られたんだよね。うちの店長ちょっと頑固でさ。」
昌磨「なるほどな。けど、今のところ俺達で手伝えることってなるとSNSを活用することと新商品を作る手助けをすることぐらいか?」
アイリス「そうね。とりあえず、1度お店に伺って橋本さんから話をしてもらうしかないんじゃないかしら?」
茜「そうっすね。行きましょう!」
橋本「分かった。それじゃあ、今から行こうか。」
俺達は橋本さんがアルバイトをしているパン屋さんに向かうことになった。
パン屋のおばあちゃん「いらっしゃいませ。橋本ちゃん。そちらはお友達かしら?」
橋本「はい。私と同じ学校の人達で実は少し話したいことがあるんだけど、今いいかな?」
おばあちゃん「分かったよ。お爺さん。橋本ちゃんが話がしたいって。」
おじいちゃん「なんじゃい。また大勢で来たの。ほれ、こっちに来なさい。」
俺達はお店の奥の部屋に案内された。
椅子に座るとおばあちゃんがお茶を出してくれた。
昌磨「ありがとうございます。」
おじいちゃん「そんで?話ってなんさね?」
橋本「前にも話したんだけどSNSを活用するのはどうかなって思って。」
おじいちゃん「それならやらんでええって言ったじゃろ?」
橋本「でも、最近近くにコンビニが出来てからお客さん減って来てるじゃないですか?これからはSNSも使っていかないと駄目だと思うんです。」
おじいちゃん「そんなもん使っても変わらんよ。」
おばあちゃん「お爺さん。橋本ちゃんがせっかく心配してくれてるんやから少しは話聞いてあげんと。」
おじいちゃん「心配してくれてるんは有り難いけど、この店は儂と婆さんの店やから儂らでなんとかやる。」
昌磨「それは少し違うと思います。」
おじいちゃん「何がや?」
昌磨「話に割り込んですみません。でも、橋本さんもアルバイトとしてこのお店で働く従業員の1人です。だから、心配になって俺達に相談してきて一緒にこのお店を良くしようって努力してます。」
昌磨「そんな橋本さんを部外者だと言うのは違うと俺は思います。」
アイリス「お爺さんの気持ちも分かりますが私達の考えも少しだけ聞いてみてくれませんか?」
茜「このお店のパンはコンビニのパンよりも美味しかったっす。だから、皆にも食べて欲しいっす。」
おじいちゃん「そこまで言うんなら自分達でやってみぃ。勿論こっちも手伝えることは手伝う。それで駄目やったらもう口ださんでくれ。」
昌磨「分かりました。」
こうして自分達でパン屋にお客さんが来るように考えることになった。
次の日。
俺達は相談部の部室で作戦会議を始めた。
昌磨「まずはSNSを活用しよう。SNSのアカウントを作ってパン屋の商品の写真を投稿してみよう。」
橋本「それは、私がやるわ。」
アイリス「それじゃあ、私達は新商品の開発ね。」
昌磨「あぁ。そのために今日は助っ人を頼んでるんだ。ということで自己紹介よろしく。」
憂「野阪憂です。海城君と橋本さんと同じクラスです。よろしくお願いします。」
昌磨「わざわざ悪いな。野阪君の力を借りたいと思って。」
憂「別にいいよ。パン屋さんの件は橋本さんにも相談されてたからね。僕も協力させて欲しい。」
昌磨「それじゃあ、早速パン屋の新商品についてだけど思いつくやつを黒板に書いて行くか。」
茜「はいはーい!私はチョココロネとか好きっす。」
昌磨「チョココロネと。」
アイリス「ちなみになんだけどこの前の話し合いで私達が何かする許可は得られたと思うんだけどその新商品も私達が作るってことよね?」
昌磨「そうだな。場所とか作る際のアドバイスとかは協力してくれると思うけど、飽くまでも新商品を作るのは俺達ってことになるな。」
アイリス「橋本さんはパンを作った経験はあるのかしら?」
橋本「手伝いぐらいならあるけど、1から全部は無いかな。私は基本は販売の方をいつも手伝ってるから。」
昌磨「野阪君もパンは作ったこと無いよね?」
憂「そうだね。僕も簡単なケーキとかはあるけどパンは無いね
アイリス「そうなると新商品を開発したとしても作ることが出来るか心配ね。」
昌磨「確かにな。もし作れる様になってもそれをお店に置かせてもらうには多分店長の許可がいるだろうな。」
橋本「そうだね。店長そのへんは厳しいからね。だから、うちの店にはあまり新商品が並ばないんだけどね。」
茜「うーん。そうなると新商品を開発して作るのはかなり厳しそうっすね。」
改めてお店にお客様を呼び込むことの難しさを痛感した。
新商品を作るのが難しいならあとは何をすればいい?
アイリス「コラボとかどうかしら?」
昌磨「コラボ?パン屋と何かがコラボするってことか?」
アイリス「えぇ。コンビニを調べていた時にコラボ商品が売られていたの。商品事態は普通の商品なんだけどアニメや映画なんかとコラボすることでそのアニメや映画が好きなお客さんが買っていたわ。」
茜「確かに聞き込みをした時もコラボグッズが欲しいからコラボ商品を買いに行くって言ってたっす。」
橋本「確かにコラボするのは良い案だけど何処とコラボするの?」
昌磨「野阪君のケーキ屋さんは無理かな?野阪君のケーキ屋さんって結構人気だよね?」
憂「僕が言うのもなんだけど雑誌で取り上げてもらったりしたことはあったかな。」
アイリス「野阪君のケーキ屋さんとコラボするとして何の商品をコラボするの?」
昌磨「コラボするにしても自分達で作った物じゃないと駄目だからお店で置いてある商品の中から野阪君が作れる商品ってある?」
憂「僕が作れるとしたら苺のショートケーキかな。でも、多分うちの店の商品として出すんならお父さんの許可がいると思う。」
昌磨「分かった。野阪君はパン屋さんとコラボ出来るかどうかお父さんに聞いてもらってもいいかな?そして、コラボ商品としてショートケーキを出したいってことも。」
憂「分かったよ。」
アイリス「それなら、パン屋の方もコラボ商品を考える必要があるんじゃないかしら?」
昌磨「そうだな。パン屋の商品とセットで販売するのがいいかもしれない。パン屋の商品で橋本さんが作れそうな商品はある?」
橋本「うーん。あんぱんかな。うちの目玉商品なんだよね。自家製の餡を使ってるからめっちゃ美味しいよ。」
茜「確かにあのあんぱんは美味しかったっす!」
昌磨「なら、橋本さんはあんぱんをコラボ商品として出す許可をパン屋さんと店長さんに聞いてもらっていいか?」
橋本「分かった。」
アイリス「方向性は決まったかしら?」
昌磨「あとは両方の店長次第かな。」
その日は解散し橋本さんと野阪君は店長にコラボ商品の件について確認することになった。
翌日の放課後
橋本「店長から許可を貰ったわ。但し、あんぱんを自分で作って店長の許可を貰わないと販売は出来ないって。」
憂「僕の方も同じ。コラボするのはいいけどちゃんとしたショートケーキが作れないと認めないって言われた。」
昌磨「とりあえず、スタート地点には立てたかな。2人はこれからは商品を作ることに集中して欲しい。俺達は広報活動に周るよ。」
アイリス「SNSの更新は私の方でやるわ。」
茜「チラシを作ってビラ配りとかどうっすか?」
昌磨「生徒会に許可が必要だろうからそれは俺がやるとしてチラシの方は茜ちゃんにお願いしようかな。」
茜「了解っす!」
こうしてコラボ商品を販売するために各自行動することになった。
橋本さんと野阪君は店長達に指導されながら毎日商品を作る練習を行った。
練習してから数日が経ちコラボ商品を販売出来る許可が降りた。
コラボ商品を販売する日程を決めてチラシを作成し放課後に学校でビラ配りをすることになった。
校内でもチラホラとコラボ商品の話題が聴こえてきていた。
コラボ商品販売当日
俺達はパン屋で開店の準備をしていた。
橋本さんと野阪君は少し早く来て前日に仕込んでおいた物を仕上げの作業をしている。
俺達は接客とビラ配りをする予定だ。
開店するまでお客さんが来てくれるかドキドキしていたがその心配は一瞬で消え失せた。
開店と同時にお客さんがお店に来店して来てくれたからだ。
俺達が用意したコラボ商品とそれ以外の商品も次々に売れていった。
黒井「よっ!心配して様子を見に来たが問題なさそうだな。」
昌磨「そうですね。暇なら先生も手伝って下さいよ。」
黒井「オイオイ。私は客だぞ?それより、コラボ商品って言うのはまだあるのか?あるなら買っていこうじゃないか。」
アイリス「ありがとうございます。まだありますよ。」
黒井先生はコラボ商品を買って帰って言った。
それ以外にもうちの学校の生徒や近所の人やケーキ屋さんのお客さんも来てくれた。
お陰様でコラボ商品は完売することが出来た。
その日の営業は無事に終わった。
パン屋のおばあちゃん「皆さんお疲れ様だったね。皆さんの協力のお陰で沢山のお客様が来てくれて嬉しかったよ。ねっ。お爺さん。」
パンの店長「そうだな。皆さんには感謝している。皆さんのお陰でもう一度頑張ってみようと思えたよ。ありがとな。」
橋本「皆。今日はありがとう。今日まで大変だったけど無事に商品が売れて良かった。憂君もありがとう。」
憂「いやいや、僕の方こそありがとう。お父さんに初めて認められて自分でも納得いく商品が作れて良かったよ。」
こうして初めてのパン屋とケーキ屋のコラボは成功に終わった。
これからもたまにコラボをしていくようだ。
今回の件でお店を経営することの難しさを知ったが同時にお客さんに商品を売る楽しさやお客さんが喜んでくれた時の達成感を味わうことが出来た。
これからもまだまだ大変なこともあるだろうけど、皆で力を合わせればどんな問題も乗り越えられるんじゃないかなと思えた。
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