第4話海城昌磨の奇妙な夏休み
体育祭も終わり季節は夏である。
毎年この季節になると年々暑くなってるんじゃないかと思うぐらい暑いが我々学生にとっては待ちわびた時期でもある。
そう夏休みがあるのだ!
学生だけの特権とも言える夏休み!
今年は何をして過ごそうかと期待に胸を膨らませていた俺のスマホに1通のメッセージが届く。
母「夏休みは家に帰って来なさい。」
俺の計画が早くも崩れさるのだった。
という訳で俺は実家に帰ってきていた。
改めて田舎だな〜と実感する。
周りは山に囲まれビルと呼べる建物はほとんど無い!
だが、空気が美味しい。
都会から田舎に帰ると田舎の良い所も見えてくるな。
そんな事を考えながら家に1日中いても居づらいので外に出歩くことにした。
さてと、何処で時間を潰そうか。
外は暑いし何処かお店の中がいいな。
そんなことを考えながらぶらぶら歩くことにした。
久しぶりに帰って来たが新しいお店が出来た訳でもなく何も変わらないな。
でも、そこが安心するんだよな。
しばらく歩いて行きつけだった喫茶店にやってきた。
ここの喫茶店には学校帰りによく立ち寄っていた。
店に入りいつも座っていた席に座って待っているとこの店で働いているパートのおばさんが注文を取りに来た。
パートのおばさん「あら、昌磨君じゃないの!久しぶりだね。夏休みで帰ってきたの?」
昌磨「はい。お久しぶりです。そうですね。夏休みなので母から帰って来いって連絡がありまして。」
パートのおばさん「そっかそっか。注文はどうする?いつものコーヒー?」
昌磨「はい。お願いします。」
パートのおばさん「はいよ。ちょっと待っててね。」
相変わらず元気な人だ。居候先の喫茶店のコーヒーも美味しいけど、ここのコーヒーも上手いんだよな。
しばらくするとおばさんが注文の品を持ってきた。
パートのおばさん「はいよ。コーヒー。あとこれはお店からプリンアラモード!良かったら食べてね。」
昌磨「はぁ。ありがとうございます。」
マジか。こんな量1人で食べられないぞ。
でも、残す訳にもいかないしな。
どうしたものか。
とりあえず、コーヒーを飲みながら問題を後回しにすることにした。
俺は少し悩みながら不意に窓の外を見た。
すると1人の女の子がコチラをチラチラ見ている。
金髪の長い髪の女の子で白のワンピースを着ている。
年齢は俺と同じぐらいだろうか。
だが、俺が知る限りあの女の子はこの辺で見たことがない。
夏休みだし観光とかかな?
まぁいいや。
そんなことよりこのプリンアラモードだ。
どうしたものか。
考え込んでいると先程の女の子が店内に入って来た。
金髪の女の子「ちょっとアンタ。私のこと無視したわよね?」
昌磨「へっ?いや、無視した覚えはないけど。」
金髪の女の子「嘘ね。さっきから私が見てたのに無視したじゃない。」
昌磨「いや、確かにこっち見てるな〜とは思ってたけど。」
金髪の女の子「ほら、気付いていたじゃない!それなのに無視するなんてヒドイんじゃない?」
昌磨「分かったよ。すみませんでした。これでいいのか?」
金髪の女の子「まぁいいわ。そんなことより、貴方そのプリンアラモードをどうするのかしら?」
昌磨「どうするって食べるけど。」
金髪の女の子「嘘ね!貴方はこのプリンアラモードをどうやって食べずに帰るか考えていたに違いないわ。」
昌磨「いや、そんなことはないぞ。」
金髪の女の子「これ以上嘘をつくのは止めなさい。代わりに私に良い解決方法があるのだけど、聞きたいかしら?」
昌磨「まさか代わりに食べるって言うんじゃないだろうな?」
金髪の女の子「そのまさかよ!貴方中々察しが良いじゃない。私が代わりにそのプリンアラモードを食べてあげるわ。感謝しなさい。」
昌磨「食べたいなら自分で頼めばいいんじゃないか?」
金髪の女の子「だってメニューにないじゃない!」
昌磨「えっ?」
俺は言われてからメニューを確認してみた。確かに何処にもプリンアラモードは載っていなかった。
パートのおばさん「あ〜それはお店からのサービスだから、メニューには無いのよ。ごめんなさいね。」
金髪の女の子「ほら、言ったでしょ?だから、そのプリンアラモードは特別なの。分かった?分かったら私にそのプリンアラモードを寄越しなさい。」
ついに願望丸だしになってきたな。
まぁいいか。食べるのに困っていたのは本当だし。
昌磨「分かったよ。じゃあ、俺の代わりにこのプリンアラモードを食べてくれ。」
金髪の女の子「いいわよ。仕方ないから私が代わりに食べてあげるわ。」
そう言うと金髪の女の子は向かいの席に座りプリンアラモードを食べ始めた。
とても幸せそうにニコニコしながらプリンアラモードを食べ進めている。
そして、あっという間に完食してしまった。
金髪の女の子「ご馳走様でした。大変美味しかったわ。」
昌磨「それは良かった。」
金髪の女の子「そんなことより、貴方。この辺に住んでいるのかしら?」
昌磨「まぁそうだけど。」
金髪の女の子「そう。私はちょっと観光で来ていて少しの間この街に滞在する予定なんだけど、良かったら私にこの街を案内してくれないかしら?」
昌磨「まぁ別にいいけど。」
金髪の女の子「そう。ありがとう。それじゃあ、早速行きましょうか。」
そう言うと金髪の女の子は席を立ち喫茶店の外に出て行ってしまった。
俺は仕方なくその女の子に付いていくことにした。
金髪の女の子「そうだ。名前がまだだったわね。私の名前はアシュリーよ。貴方は?」
昌磨「海城昌磨。」
アシュリー「海城昌磨。じゃあ、今からの昌磨って呼ぶわ。貴方も私のことをアシュリーって呼んで構わないわよ。」
昌磨「はぁ。分かったよ。アシュリーさん。」
アシュリー「さんはいらないわ。2度は言わないから気をつけなさい昌磨。」
昌磨「分かったよ。アシュリー。それで、街を案内しろってことだけど、何処か気になっている所とかある?」
アシュリー「昌磨に任せるわ。」
昌磨「分かった。」
俺は駅前の商店街に案内した。お店はチラホラとやっていてパン屋さんで惣菜パンを買って食べた。
アシュリー「このコロッケパン美味しいわ。お土産にあと2つ頂こうかしら。」
気に入ったようで何よりだ。
パン屋のおばさん「昌磨君。デートかい?」
昌磨「いや、そんなんじゃないです。観光で来てるらしくて色々あって街を案内してるんですけど、何処かオススメの場所ありますか?」
パン屋のおばさん「そうだね~。今確か美術館で展示会をやってたと思うから良かったら見てきたらどうだい?」
昌磨「美術館か。どうする?行ってみるか?」
アシュリー「そうね。行きましょうか。」
次に俺達は美術館に向かった。
パン屋のおばさんが言った通り美術館では有名な芸術家が描いた絵画が展示されていた。
絵画のことはさっぱり分からないがアシュリーは興味深げに絵画を見ていた。
昌磨「絵とか好きなのか?」
アシュリー「そうね。絵に限らず芸術作品は好きよ。その人が伝えたい想いが作品に込められているのだもの。その想いや考えを私なりに汲み取って解釈するのは楽しいわ。」
昌磨「なるほどな。」
それから美術館を歩いていると出口付近で似顔絵を描いてくれるらしくアシュリーは似顔絵を描いてもらうことにした。
しばらくしてアシュリーの似顔絵が出来上がった。
アシュリー「上手に描けているわ。ありがとう。」
昌磨「確かに良く描けてるな。」
アシュリー「昌磨は良かったの?」
昌磨「自分の部屋に自分の似顔絵を飾りたくないからな。」
アシュリー「あらそう。」
昌磨「さて、じゃあそろそろあそこに行くかな。」
俺はアシュリーを連れて高台に向かった。
時間はちょうど夕暮れ時。
高台からちょうど夕日が見えるのだ。
アシュリー「わぁ〜。綺麗ね。」
昌磨「そうだな。」
アシュリー「今日はありがとう。楽しかったわ。」
昌磨「それなら良かった。」
アシュリー「そうだわ。良かったらまた明日も会えないかしら?」
昌磨「まぁ別にいいけど、もう見て回る所はないぞ?」
アシュリー「明日は今日のお礼に私達が滞在している館に招待するわ。」
昌磨「分かった。何処に行けばいいんだ?」
アシュリー「駅前で待ち合わせしましょう。時間は10時でどうかしら?」
昌磨「分かった。」
アシュリー「それじゃあ、また明日ね」
そう言うとアシュリーは家に帰って行った。
私達ってことはアシュリー以外にもいるってことだよな。
普通に考えると家族かな?
まぁ明日になれば分かるか。
俺も自宅に帰りその日は終わった。
翌日。
俺は約束通りに10時に駅前に来ていた。
アシュリーはまだ来ていないようだ。
それからしばらくしてアシュリーがやってきた。
アシュリー「お待たせ。それじゃあ、行きましょうか。」
昌磨「あぁ。」
俺はアシュリーの後ろに付いて歩く。
少し林の中を歩いて行く。
こっちの方は地元の人もあまり行かない。
何故ならあるのは洋館だけだからだ。
この洋館は俺が子供の頃からあるが誰かが出入りしているのを見たことがなかったから幽霊屋敷と言われていた。
あくまで俺達が子供の時の話だが。
しばらく歩いてやはりあの洋館にたどり着いた。
まさかアシュリーの滞在先がここだったとは。
アシュリー「素敵な所でしょ?」
昌磨「あぁ。そうだな。」
アシュリーに案内され建物の中に入って行く。
中は思っていた通り洋風の造りになっていてかなり広そうだ。
アシュリー「早速だけど私の師匠を紹介するわ。」
昌磨「師匠?」
アシュリー「失礼します。師匠。昨日話した昌磨を連れてきました。」
ナギ「あぁ。どうぞ。入りたまえ。」
昌磨「お邪魔します。」
部屋に入ると奥に机がありその机の奥の椅子に座っている女の人が1人いた。
髪はグレーで肩にかかるぐらいの長さだ。
ナギ「やぁ。君が昌磨君か。私はナギ。アシュリーの師匠で魔法使いさ。」
昌磨「えっ?魔法使い?」
アシュリー「師匠!いきなりバラしてどうするんですか?!」
ナギ「とは言っても私は嘘がつけない質でね。それに魔法使いだと言っても昌磨君は信じないだろ?」
昌磨「まぁいきなり魔法使いだと言われても信じられないですね。」
ナギ「そうだろう?それにもし信じたとしてもどうしようもないのさ。誰かに言いふらしたところで誰も信じないさ。」
アシュリー「それはそうかもしれませんが。」
ナギ「それに、アシュリーは昌磨君がそんなことはしないだろうと信用して連れて来たのだろう?ならば、私も彼を信用しようじゃないか。」
アシュリー「分かりました。それで、昨日話した通り昌磨にお昼ご飯をご馳走様しようと思うのですが、よろしいですか?」
ナギ「まぁアシュリーがそうしたいのならそうしたまえ。」
アシュリー「分かりました。ありがとうございます。それでは、早速食事の準備に取り掛かるので昌磨はここで待っていてくれるかしら?」
昌磨「あぁ。分かった。」
そう言うとアシュリーは部屋から出て行ってしまった。
俺はとりあえず近くにあった椅子に座り待つことにした。
ナギ「アシュリーから聞いたよ。昨日は街を案内してくれたそうだね。ありがとう。」
昌磨「いえ、俺も暇だったんで。」
ナギ「昌磨君は学生さんかな?今は夏休み中ってところかな?」
昌磨「はい。そうです。」
ナギ「そっか〜。夏休みか。いいね〜。私も欲しいな~。夏休み。」
昌磨「ナギさんはさっき自分のことを魔法使いだと言ってましたけど、もし本当に魔法使いだとしたらどんな魔法が使えるんですか?」
ナギ「そうだな〜。それじゃあ、後でお見せする機会があるかもしれないから楽しみにしててよ。」
昌磨「はぁ。分かりました。」
しばらくしてアシュリーが作ってくれた昼食を食べにダイニングに向かった。
テレビとかで見たことがある金持ちの家にしかないような長いダイニングテーブルが置いてあり1番奥の席にナギさんが座った。
その隣の右隣の席にアシュリーが座っていて向かいの席に料理が置いてあったのでその席に座ることにした。
テーブルの上にはライスと魚料理とサラダとスープが置かれていた。
ナギ「それじゃあ、温かいうちに頂こうか。いただきます。」
昌磨「いただきます。」
アシュリー「いただきます。」
料理に手をつけようとした時、隣のナギさんが徐ろにポケットから調味料を取り出した。
あれは見た目からして七味唐辛子か?
ナギさんは料理に七味唐辛子をかけていく。
アシュリー「師匠。またそんなにかけて。身体に悪いですよ?」
ナギ「すまないがこれだけは止められないんだ。」
アシュリー「それじゃあ、料理の味が分からないじゃないですか。」
俺はそれを横目に料理を口にした。
すると、途端に吐き気がしてきた。
なんだこれ?!見た目は普通なのに味がめちゃくちゃだ。
昌磨「アシュリー。これちゃんとレシピ見て作ったのか?」
アシュリー「レシピ?そんなもの私には必要ないわ。1度食べた物はこの舌が覚えているもの。」
昌磨「じゃあ、聞くけどこの料理の味とアシュリーが食べた時と同じ味なのか?」
アシュリー「違うに決まっているじゃない。あくまでこれは私の料理なんだから私なりに隠し味を入れてあるわ。」
昌磨「なら、最後に聞くけどアシュリーはこれで満足なのか?」
アシュリー「満足ではないわ。悔しいけどやはりプロには敵わないわね。でも、これも食べられなくはないでしょ?」
アシュリーの舌は絶対に感覚が麻痺している。
まさか、この料理だからナギさんはあんなに辛くしているのか?
ナギ「どうやら昌磨君にはアシュリーの料理が合わなかったようだね。」
昌磨「ナギさんは知ってたんですか?」
ナギ「あぁ。すまない。1度だけアシュリーがどうしても調味料無しで食べて欲しいと頼まれてね。それで食べたらこの有り様さ。」
ナギ「それ以来、調味料をつけて食べるようにしているんだよ。だが、お陰で新しい発見も出来た。私は辛い味付けが好みだということが分かった。昌磨君もどうだい?」
ナギさんはそう言うと俺に七味を向けてきた。
昌磨「いや、遠慮しておきます。」
ナギ「そうかい。そんな頑張り屋の君には私がある魔法を使ってあげよう。」
昌磨「魔法ですか?まさか、さっき言ってたやつですか?」
ナギ「そうだよ。試しに私がいいと言うまで目を瞑っていてくれないか?」
昌磨「目を瞑ればいいんですか?」
ナギ「あぁ。ほんの少しの間ね。」
昌磨「分かりました。」
俺はナギさんに言われた通りに目を瞑った。
ナギ「もういいよ。」
まだ数秒しか経っていないが何が起きたのだろうか?
俺はゆっくりと目を開けた。
特には変わったことはないと思うが。
ナギ「魔法をかけてその料理を君が想像した通りの味覚にしておいたよ。」
昌磨「俺が想像した通りの味覚にですか?」
ナギ「そう。食べる前に料理の味を想像してから口に入れてごらん。その通りの味になるから。」
昌磨「またまた〜。騙されないですよ。」
ナギ「さっきも言ったが私は嘘や誤魔化すのが苦手でね。まぁ私を信じて食べてみなさい。」
昌磨「はぁ。分かりました。それじゃあ、いただきます。」
俺は料理の味を想像してから口に入れた。
すると、驚いたことにさっき食べた料理とは全く別の味がした。
俺が知っている魚料理の味だ。
俺が驚いてナギさんの方を見るとナギさんはドヤ顔でこっちを見ていた。
昌磨「何をしたんですか?」
ナギ「言っただろう?魔法だよ。」
俺は納得いかなかったが味が変わったのは確かだ。
昌磨「確かに俺が想像した味になりました。なったんだけど、やっぱり元に戻してもらってもいいですか?」
ナギ「何故かな?」
昌磨「この料理はアシュリーが作ってくれた物なので味はどうあれ本来のアシュリーの料理として食べないといけない気がするんですよね。」
アシュリー「昌磨。そこまで私の料理が気に入ったか!おかわりもあるからな。」
昌磨「いや、味はヤバイって言ったよな。」
ナギ「なるほどな。だがそうなると調味料をつけて食べている私の立つ瀬がなくなるな。」
アシュリー「師匠も昌磨を見習って下さい。」
ナギ「いや〜でもほら、人には味の好みがあるわけだし。私は私の好きな味付けで食事がしたい!」
昌磨「まぁアシュリーももう少し料理を勉強してくれ。」
結局俺の分の料理は元の味に戻してもらってなんとか残さずに食べた。
ナギ「よく食べたね。流石は男の子だね。」
昌磨「男とか関係あるんですか。」
ナギ「それはそうと昌磨君は今学校が夏休みで暇を持て余しているんだったっけ?」
昌磨「まぁそうですけど。」
ナギ「そっかそっか。なら、ここで働くのはどうだい?」
昌磨「ここでですか?」
ナギ「そう。見ての通りここは今私とアシュリーの2人で住んでいるんだが、2人で住むには広くてね。そこで、君にここの掃除とかあと出来たら料理なんかも頼みたいんだけど、どうかな?勿論、お金は支払うよ。」
昌磨「うーん。まぁいいですよ。ただ、俺が来れる時でいいなら。」
ナギ「それで構わないよ。よしっそうと決まればアシュリー。昌磨君に屋敷の案内と仕事の指示をしてあげて。」
アシュリー「分かりました。」
昌磨「えっ。今から働くんですか?」
ナギ「勿論さ。何か問題でもあるのかな?」
昌磨「ちなみに、どれくらいここに滞在する予定なんですか?」
ナギ「うーん。1週間ぐらいかな。」
昌磨「分かりました。じゃあ、その間はここで働きますよ。」
ナギ「頼んだよ〜。」
アシュリー「よしっ。それじゃあ、屋敷の案内から始めるか。付いてこい昌磨!」
なんだかやる気満々だな。
アシュリーに屋敷の中を案内してもらうことになった。
屋敷の中は広く建物は2階建てで中庭が建物の真ん中にありその周りを建物が囲っている感じだ。
昌磨「この建物はナギさんの所有物なのか?」
アシュリー「いや、魔術協会の所有物だよ。世界各所に魔術協会が保有している施設や建物があってそれを私達は借りてるってところかな。」
昌磨「もう普通に魔術協会って言うんだな。」
アシュリー「仕方ないでしょ。師匠が言っちゃったんだから。」
昌磨「アシュリーはナギさんの弟子でいいんだよね?」
アシュリー「そうよ。」
昌磨「アシュリーはなんで魔法使いになろうと思ったの?」
アシュリー「なろうと思ったと言うのは違うわね。私の家系は代々魔術師の家系なの。だから、その家に産まれた時点で魔術師になるしか選択肢がないの。」
昌磨「そっか。」
今では大分マシになったと思うがその家に産まれたからその家の家業を継がなければならないというのはやはりまだあるようだな。
仕方ないと言えば仕方ないし本人が納得しているのなら外野がとやかく言うことじゃない。
アシュリー「昌磨は将来の夢とかあるのかしら?」
昌磨「将来の夢か。子供の頃は漫画家とか映画監督とかに憧れてたな。単純に漫画と映画が好きで自分で作りたいと思ったからだけど。」
昌磨「でも、今は特に決めてないな。多分何処かの会社に勤めると思うけど。」
アシュリー「そう。漫画家と映画監督。目指せばいいじゃない?」
昌磨「いや、流石に無理だよ。」
アシュリー「どうして?何も試してないのに無理だなんて決めつけるのは良くないわ。」
昌磨「まぁ理屈は分かるけどね。この年になると現実が見えてきて俺なんかには無理だなってやる前に悟っちゃうんだよ。」
アシュリー「この年ってまだ高校生でしょ?これから頑張ればいいじゃない!」
昌磨「アシュリーには敵わないな。まぁ俺ももう少し自分に自信が持てるように精進するよ。」
アシュリー「それがいいわ。昌磨は私の友達なんだもの。もっと胸を張りなさい!」
友達か高校生になるとなかなか言い出しずらい言葉だな。
こういう所がアシュリーの良さなのかもしれない。
アシュリー「何を笑っているのかしら?」
昌磨「いや、すまない。そうだな。頑張るよ。」
それから屋敷の中の案内と簡単に仕事の内容を教わった。
屋敷内の掃除とアシュリーの料理の手伝い。
これだけ広いと大変そうだ。
料理の方もちゃんとレシピ通りに作るように誘導しないとな。
一通りの説明が終わり早速部屋の掃除を始めることになった。
なんだか、ホテルマンになった気持ちだ。
部屋の掃除をしていくが流石に今日では終わらなそうだ。
アシュリー「お疲れ様。夕飯の買い出しに行くのだけれど、付いてきてくれないかしら?」
昌磨「あぁ。分かった。」
お礼はアシュリーと夕飯の買い出しに出掛けることになった。
昌磨「夕飯は何を作るか決めてるのか?」
アシュリー「まだよ。商店街に行って商品を見てから決めるわ。」
昌磨「了解。」
アシュリーと一緒に商店街に行くと八百屋さんで人参とジャガイモが安かったのでカレーを作ることになった。
アシュリーが次々とカレーに必要な具材を購入していく。
昌磨「ちょっと待て。」
アシュリー「どうかしたかしら?」
昌磨「なんで味噌を買ってるんだ?朝は味噌汁でも作るのか?」
アシュリー「何度も言わせないで。私はカレーを作るって言ってるじゃない。」
昌磨「てことは、カレー作るのに味噌を使うつもりか?」
アシュリー「そうよ。隠し味にね。」
昌磨「アシュリー今日からはレシピ通りに作ろう。そういうのはまともに料理が作れるようになってからだ。」
アシュリー「仕方ないわね。昌磨の意見を取り入れてあげます。」
案外物分かりが良いな。
それから普通にカレーに必要な具材を買って帰ることにした。
屋敷に着いてから早速夕飯を作ることにした。
俺はアシュリーが余計なことをしないように見張りながらアシュリーのサポートに徹した。
そして、夕飯が完成した。
アシュリー「師匠!夕飯の準備が整いました。」
ナギ「はいよ〜。今日はカレーか。いいね!」
アシュリー「私と昌磨で作りました。」
ナギ「そっか。昌磨君も手伝ってくれたんだね。ありがとう。それじゃあ、頂こうか。」
アシュリー「師匠。良かったら一口目は何もかけずに食べてみて下さい。」
ナギは昌磨の方をチラッと見て昌磨はナギに軽く頷いた。
それを確認してナギは何もかけずにカレーを口に入れた。
ナギ「ん?美味しいよ。」
アシュリー「それは良かったです。」
昌磨「良かったな。」
アシュリー「えぇ。昌磨が手伝ってくれたお蔭かしら。」
昌磨「いや、普通にレシピ通りに作れば普通に食べられる物が作れるから。」
ナギ「うん。美味しい。けど、私には少し辛さが足りないかな。」
そう言うと、ナギはポケットから取り出した七味をカレーにかけて食べ始めた。
ナギ「うん。七味を入れた方が美味しい。」
アシュリー「師匠〜。」
昌磨「ナギさんように少し辛めにしたんだけど、やっぱり足りなかったか。」
ナギ「これからもこの調子で頼むよ。」
それから、俺達も夕飯を食べてその日のバイトは終わった。
俺は家に帰ることにした。
親も心配するしな。
翌日も朝から屋敷に向かいアルバイトに励んでいた。
それから数日が経った。
アシュリー「師匠。魔術協会から手紙が来てました。」
ナギ「ありがとう。ふむふむ。どうやらこの街で事件が起きているようだね。」
アシュリー「事件ですか。どんな事件なんですか?」
ナギ「人が1人いなくなってしまったようだよ。年齢は16歳で男性。名前は山田歩。」
アシュリー「人がいなくなった。その事件のことを調べろということですか?」
ナギ「あぁ。魔術協会はこの事件がただの失踪ではなく我々のような人ならざるモノの犯行だと思っているようだよ。」
アシュリー「そうですか。それじゃあ、休暇は終わりですか。」
ナギ「いや、とりあえずは私が1人で動いてみるよ。アシュリーは今まで通り昌磨君とこの屋敷のことを頼むよ。」
アシュリー「分かりました。」
ナギ「昌磨君にはとりあえず、事件のことはまだ言わないでおいて。いずれ知ることになるかもしれないけど、それまではいつも通りで頼むよ。」
アシュリー「分かりました。お気をつけて。」
ナギ「ありがとう。アシュリーもね。」
俺はいつも通りに屋敷に向かっていた。
屋敷に着くとナギさんは急に仕事が出来たらしく、しばらくは帰って来ないらしい。
昌磨「そっか。仕事なら仕方ないな。」
アシュリー「そうね。私達はいつも通り仕事をしましょうか。」
その日もいつも通り仕事をして家に帰った。
次の日。
俺はテレビで朝のニュースを見て驚いた。
何故なら俺の中学時の同級生の行方が分からなくなったというニュースが流れたからだ。
しかもこの街で2人も。
母「この2人って昌磨の同級生よね?」
昌磨「あぁ。中学の時にのね。」
母「何があったのかしらね。昌磨は何か知ってるの?」
昌磨「いや、俺は何も知らない。」
母「そう。ならいいけど、昌磨も気をつけなさい。」
昌磨「分かったよ。」
気になることはある。
2人がこの街で失踪。
そして、この前にに滞在している魔法使い。
何か関係があるんじゃないか?
俺は朝食を食べた後にいつも通り屋敷に向かった。
アシュリー「おはよう。昌磨。今日もよろしく頼むと言いたいけど、しばらくはアルバイトは中止にしてもらっても構わないかしら?」
昌磨「それは構わないけど、理由を聞いてもいいか?」
アシュリー「昌磨ももしかしたらもう知ってるかもしれないけど、この街で2人が行方不明になっているわ。」
昌磨「あぁ。そのニュースならさっき見て知ったよ。それがアルバイトを中止する理由か?」
アシュリー「そうね。昌磨も気が付いてるかもしれないけど、師匠は今その事件を調査しているわ。これがどういう意味かわかるわよね?」
昌磨「魔術協会が絡んでくるってことは、犯人はそっち系の可能性があるってことか。」
アシュリー「その通り。まだ確定ではないけど、師匠はそう判断した。そして、被害者の共通点は昌磨と同じ学生でしかも昌磨の中学の時の同級生だった。」
昌磨「そこまでもう調べたんだな。そうだよ。2人共俺の同級生だ。」
アシュリー「だから、昌磨も被害に合うかもしれない。だから、昌磨にはしばらくは大人しくしていて欲しいの。」
昌磨「分かった。アシュリーもナギさんと合流するのか?」
アシュリー「いえ、私は別の仕事を頼まれているから。」
昌磨「そっか。なら、しばらくは家で大人しくしていることにするよ。」
アシュリー「えぇ。それがいいわ。事件が片付いたらまた屋敷に来てちょうだい。」
昌磨「分かった。ナギさんに気をつけて下さいって伝言頼めるか?」
アシュリー「分かったわ。伝えておく。」
俺はアシュリーに別れを告げて自宅に帰った。
自宅に着いてから今回の事件のことを考えていた。
犯人の目的は一体何なのか。
俺達に恨みがある奴の犯行なのか。
その時に俺はある可能性が思い浮かんだ。
俺達に恨みがある奴に俺は心当たりがあった。
俺はその人物に連絡を取ることにした。
危ないかもしれない。
けど、同時に犯人であってほしくないとも思っている。
何故なら、そいつは俺の中学の時の友達だからだ。
俺には中学生の頃に友達がいた。名前は田中卓(たなかすぐる)。
よく2人で遊びに行ったりしていた。
だが、その関係が崩れることになる。
中学3年の頃。
卓はクラスメイトにイジメられるようになった。
主犯はクラスでもヤンチャな5人だった。
最初は宿題を写させることから始まりお昼ご飯を買いに行かせたりさせていた。
俺はそれを知っていたし見てもいた。
けど、何も出来なかった。
何かしたら次は俺がイジメの標的にされると思ったからだ。
その結果、卓は不登校になってしまった。
当時のことを俺は未だに後悔している。
俺にもう少し勇気があれば卓を助けてあげられたんじゃないか?
そんなことを毎日考えていた。
だけど、時間が経つにつれてその記憶は少しずつ俺の中から薄れていった。
だけど、今回の事件をきっかけに俺は今また選択を迫られている。
このまま何もせずに犯人が捕まるまで大人しくしているか犯人かもしれない田中卓に連絡するのか。
今までの俺なら大人しく傍観していただろうな。
俺なんかに何が出来る?
俺が行動したところで何が変わる?
そんなことをしてなんの意味がある?
俺なんかには無理だ。
けど、前にアシュリーと話した内容が不意に蘇る。
何も出来ないから何もしないのか?
俺が行動したことで何も変わらないかもしれない。
けど、行動しなきゃ変わらないままだ。
俺はまた知らない振りをするのか?
もう嫌なんだ後悔するのは。
だから、俺は例え無駄でも行動することに決めた。
俺は連絡先の中から田中卓の名前を探しメッセージを送った。
内容は今回の事件について話したいことがあるから会えないかということ。
俺はメッセージを卓に送った。
しばらくして卓から返信がきた。
内容は卓も俺に会いたいという返事だった。
今日の夜に公園で会う約束をした。
約束の時間になった。
俺は約束通りに公園のベンチに座っている。
しばらくしてこちらに向かって歩いてくる人がいる。
卓だ。
中学の時よりも少し背が伸びたかな。
前髪が眉毛にかかるぐらい伸びていて黒のパーカーに黒のズボン。
夜だからなのもあるだろうけど、まるで闇の中から突如現れたような錯覚に陥ってしまう。
昌磨「久しぶり。わざわざ悪いな。」
卓「別にいいよ。俺も会いたいと思ってたからさ。それで、話って何かな?」
昌磨「今この街で人が行方不明になる事件が起きてるだろ?しかも、俺達の中学の時の同級生がさ。」
卓「そうだな。」
昌磨「それで、俺は今回の事件は俺達同級生に恨みがある奴の犯行だと思ったんだ。」
卓「なるほどな。それで、思い当たることでもあったのか?」
昌磨「あぁ。あの頃、卓はクラスメイトにイジメられてたよな?俺はそれを知りながら何も出来なかった。そのことに関しては本当にごめん。」
卓「別にいいよ。もう昔のことだ。」
昌磨「けど、今回の事件が起きて俺はまた昔の様に傍観者のままじゃいけないと思ったんだ。だから、卓、何か困ってることがあったら俺に相談してくれないか?」
卓「そうか。昌磨は変わったんだな。けど、昌磨に相談することは何もないよ。だって昌磨にはわからないだろ?イジメられた者の気持ちは。」
昌磨「卓。俺はお前の力になりたいんだ!自分勝手で悪いけど、俺はもう自分が何もしないことで後悔したくないんだ。」
卓「昌磨。お前じゃ俺の力にはなれないよ。俺に必要な力はもう手に入れた。お前らに復讐する為の力をな!」
そう言うと卓は手を前に出した。
卓「見せてやるよ。これがお前の力だ!来い!魔獣ダスウルフ!」
卓が叫ぶと卓が出した手の下の地面から黒い狼が現れた。
普通の狼よりも大きく尻尾は2本あり足の爪もかなり鋭い。口から見える歯はとても鋭く息も荒い。こちらに敵意を向けているのが見た目からわかる。
卓「昌磨。お前の考えは当たっているよ。俺が2人を殺した。そして、今からお前もこのダスウルフに噛み殺されるのさ。昔の様に傍観者だったらもう少しは生きられたのにな。殺れ!」
卓の命令を聞きダスウルフは俺に向かって来た。
大きな口を広げ飛びかかってくる。
こんな鋭い歯で噛まれたら人間なんて一溜まりもない。
俺は後ろに尻もちをつき目を閉じた。
あぁ死んだな。
でも、後悔はなかった。
何もしないままじゃなくて行動して良かった。結果的には卓の助けになれなかったし状況も何も変わらないままだけど。
アシュリー「諦めるのはまだ早いんじゃなくて?」
幻聴か?アシュリーの声が聴こえた。
俺はゆっくりと目を開けると尻もちをついてる俺の前にアシュリーが立っていた。
昌磨「アシュリー?!なんでここに?ていうか、危ないぞ!」
アシュリー「大丈夫よ!こんな犬っころ私にかかれば造作もないわ。」
アシュリー「魔術結界発動!」
アシュリーが何か唱えるとアシュリーの足元から円状に広がり魔術結界が展開された。
魔術結界は外部の世界と一時的に別次元に切り離された世界である。
その為、結界内でのことは外部からは認識されない。
アシュリー「昌磨。私少し怒っているのよ?」
昌磨「えっ?あっ。黙っていてごめん。」
アシュリー「いいわ。私を巻き込みたくなかったのでしょう?だけど、次からは許さないわよ?私は貴方の友達なのだから。」
昌磨「あぁ。分かった。」
アシュリー「なら、宜しい。それじゃあ、少し離れていてくれるかしら?」
昌磨「分かった。」
俺はその場から少し後ろに下がった。
アシュリー「それでは、始めましょうか。武装展開!」
アシュリーは前に手をかざすと魔法陣から剣を取り出した。
日本の刀とは違う西洋の剣だ。
剣には豪華な装飾が施され刀身には何かの文字が刻まれている。
素人の俺が見ても凄い剣なのが伝わってくる。
取り出した剣をダスウルフに向けて構える。
その姿は美しくお手本の様な構えだ。
それを見たダスウルフは動きを止めてアシュリーを威嚇している。
アシュリー「どうした?来ないのか?来ないならこっちから征こうかしら。」
卓「何してる!ダスウルフ!その女を殺せ!」
卓の命令を聞きダスウルフはアシュリーに向かって攻撃してきた。
大きな口を広げ飛びかかって行く。
アシュリー「フッ!やぁ!」
アシュリーは正面から来るダスウルフを横に躱しながらダスウルフを剣で切り裂いた。
ダスウルフはそのまま消滅してしまった。
卓「なっ。俺のダスウルフが?!」
アシュリー「フッ。これで終わりかな?終わりならば大人しく降伏したまえ。」
卓「降伏だと?舐めるな!俺は力を得たんだ!復讐する為の力をな!俺の力はこんなもんじゃない!見せてやる。俺の取っておきの魔獣ミノタウロスを!」
卓は再び手をかざすと地面からまた魔獣が姿を表した。
ミノタウロス、頭が牛の化け物だ。
身体は3メートルぐらいある。
片手には金棒を持ちその金棒を軽く振り回す事ができるぐらいの大きな身体をしている。
卓「ハッハッハ!どうだ!怖いだろう?逃げるなら今のうちだぞ?まぁ逃げても追って殺すけどな。」
アシュリー「なるほど、確かにコイツはさっきの犬っころとは違い手強そうだな。」
卓「当たり前だ!コイツは俺が殺した2人分の魂を糧に召喚したんだからな!さぁ殺れ!ミノタウロス!」
ミノタウロスは大きく咆哮しアシュリーに向かって行く。
ミノタウロスは腕を大きく振り上げて金棒をアシュリーに向かって振り落とす。
だが、それをアシュリーは躱してミノタウロスの横腹を剣で切り裂く。
だがしかし、その傷は直ぐに塞がってしまう。
ミノタウロスはピクリともせずにそのままアシュリーに向かって攻撃を繰り返していく。
その攻撃を躱しながらアシュリーも反撃するがミノタウロスに攻撃が通用していないようだ。
アシュリー「なるほどね。おそらくは超再生かなにかのスキル持ちかしら。このままでは倒しきれないわね。なら。」
アシュリーはミノタウロスの攻撃を躱してミノタウロスに反撃するのではなく卓に向かって行った。
アシュリー「魔獣が倒せないなら術者を狙う。魔獣使いとの戦闘の基本よね。悪いけど、ちょっと眠っててもらうわ!」
アシュリーは卓に向かって剣の柄で攻撃して気絶させようとした。
しかし、攻撃は魔法の防壁によって防がれてしまう。
アシュリー「なっ。」
ノア「おっと。そうはいかないぜ。」
卓「ノア。助かった。」
ノア「なーに。いいってことよ。」
アシュリー「やはり、悪魔が付いていわね。」
ノア「すまんね。流石に卓1人ではまだ魔法使いの相手は荷が重いんでね。このぐらいのハンデは許してくれや。」
アシュリー「貴方が田中君に取り憑いている悪魔ね。田中君から出ていきなさい。」
ノア「それは無理な相談だな。俺と卓の契約は既に完了している。引き離したければ卓を殺すしかないな。」
アシュリー「そう。とりあえず、貴方の相手は後回しにしますわ。」
アシュリーの後ろからミノタウロスが迫って来ている。
アシュリーはミノタウロスからの攻撃を躱しながら距離をとっている。
だが、このままでは何も変わらない。
何か変えなければ。
この状況を変える何か。
ミノタウロスの動きを少しでも止めることが出来ればアシュリーなら何とかしてくれるかもしれない。
根拠はないがもうコレしかないと思い俺はミノタウロスに近づきミノタウロスに向かってスマホを投げつけた。
俺が投げたスマホはミノタウロスの頭にぶつかりミノタウロスはこちらの方を向き大きく咆哮をして向かって来た。
その瞬間ミノタウロスの後ろでアシュリーが剣に手をかざし演唱を始める。
アシュリー「我の剣に炎の力を授け給え!炎の精霊サラマンダー!」
アシュリーの剣は炎を纏いアシュリーは大きく飛躍する。
そのままミノタウロスの頭上から剣を振り下ろした。
その結果、ミノタウロスは真っ二つに引き裂かれ消滅した。
アシュリー「ふ〜。危なかったですわよ!私が間に合ったから良かったものの。」
昌磨「アシュリーなら何とかしてくれると信じてたからな。」
アシュリー「当然ですわ!でも、もう無茶しないでほしいわ。」
昌磨「善処するよ。」
卓「バカな?!ミノタウロスまでやられてしまうなんて。」
ノア「あちゃ〜。これはマズイな。卓。このままだとお前は終わりだ。でも、まだこの状況を打開する方法はある。」
卓「本当か?!なんだよ?その方法って。」
ノア「俺にお前の肉体を明け渡すことだ。」
卓「俺の肉体を明け渡す。けど、そんなことしたら俺は。」
ノア「そうだな。お前と俺の立場は逆転する。だが、このままだとどっち道終わりだ。このまま終わっていいのか?お前にはまだやるべきことがあるんじゃないのか?」
卓「そうだ。俺はこんな所で終わる訳にはいかないんだ。彼奴等に復讐するんだ!」
ノア「そうだ。なら、どうするかわかるよな?」
卓「分かった。お前に俺の全てをやる。だから、彼奴等を殺してくれ!」
ノア「了解した。ここに契約は完了した!よってお前の身体は俺が頂く。心配するな悪魔は契約は守るさ。」
その瞬間、卓の身体は闇に包まれその闇の中から現れたのはさっきまでの卓とは違い髪の毛の色はグレーになり目は真っ赤に充血し肌は褐色に染まっている。
体つきも前より筋肉質になり一回り大きくなっている。
頭からは2本の角が生えている。
アシュリー「しまった。田中君の身体が悪魔に乗っ取られてしまった。」
昌磨「悪魔に乗っ取られた?じゃあ、卓は?」
アシュリー「もう助からない。田中君の魂は悪魔に喰われてしまった。」
昌磨「そんな。」
俺は結局また卓を救えなかったのか。
ノア「あ〜。まだ身体が馴染まんな。だが、問題なかろう魔術師見習い1人ぐらいなら今の俺でも殺せる。その後に人間を殺して強化していけば問題あるまい。さて、それじゃあ殺るか!」
その瞬間ノアは一瞬でアシュリーの所まで飛躍し鋭い爪でアシュリーに攻撃してきた。
アシュリーは咄嗟に剣で攻撃を受け止めた。
ノアの攻撃は早くアシュリーはノアの攻撃を受けるのに精一杯の様子だ。
ノア「ほらほらさっきまでの威勢はどうした?」
アシュリー「くっ。」
このままじゃマズイ。
けど、動きが早すぎて目で追うのがやっとだ。
それに、俺が変に動けばアシュリーの負担になってしまう。それだけは避けなくてはならない。
そんなことを考えているとアシュリーはノアに蹴り飛ばされ後ろの建物にぶつかっていた。
アシュリー「がはっ。」
ノア「終わりにするぞ。」
ノアは手を前にかざした。すると、魔法陣が現れノアが演唱すると魔法陣から大きな火の塊が現れた。
ノア「さらばだ。魔術師見習い。」
ノアはアシュリーに向かってその大きな火の魔法を飛ばした。
ナギ「ここまでかな。」
次の瞬間アシュリーの前にナギさんが現れた。
ナギさんは目の前に魔法防壁を発動しノアの魔法を消し去った。
アシュリー「師匠。すみません。」
ナギ「仕方ないさ。君にはまだ少し早かったようだね。でも、もう大丈夫。あとは私に任せなさい。アシュリーは昌磨君の側にいてあげて。」
アシュリー「分かりました。」
ノア「なんだ?次は魔女のお出ましか。弟子のピンチに駆けつけたって訳か。」
ナギ「まぁそんなところだ。悪いがこのまま大人しく退治されてくれるかな?」
ノア「オィオィ勘弁してくれよ。俺は今さっき数十年ぶりに受肉したばっかだぜ?少しぐらい目を瞑ってくれよ?」
ナギ「そうはいかないだろう?君達は既に2人も人を殺しているんだ。いや、正確には3人か。しかも、私の弟子まで殺そうとした。許容範囲を超えているね。それに、この件はもう魔術協会の管轄になった。つまり、君を生かしておく理由はない。わかるかな?低俗な悪魔君?」
ノア「なるほどね。まぁ一応聞いてみただけだよ?だけど、アンタがお喋りな魔女で良かったよ。お蔭でこっちの準備も完了した。」
ナギ「ほう?何の準備かな?」
ノア「ここから逃げる準備さ!」
そう言うとノアの足元に魔法陣が展開される。
ノア「さらばだ。魔術協会の犬共。次に合う時は必ず殺してやるからな。」
そう言って魔法陣が光りだした。
だが、次の瞬間その魔法陣は消えてしまった。
ノア「なっ?!何故だ。転移魔法が使えない。」
ナギ「残念だったね。予めこの結界に少し細工をさせて貰った。転移魔法を無効化するという細工をね。」
ノア「バカな?最初からこうなることを見越していたとでも言うのか?」
ナギ「あらゆる状況を想定し準備する。それが、戦いに備えると言うことだよ悪魔君。戦いは戦う前の準備が大切なのだよ。」
ノア「クソが!だったらもういい!お前を殺すまでだ!」
ナギ「それが出来ないから逃走しようとしたのではないかな?まぁ逃げ道を塞がれてはこうするしかあるまいか。」
ノア「うぉぉぉ!」
ノアは鋭い爪でナギに迫る。
ナギ「君に本当を魔法を見せてやろう。」
ナギは目の前に手をかざす。
すると、魔法陣が現れ先程のノアの火の魔法よりも大きな火の塊を出現させた。
ノア「バカな?!無詠唱でこの規模の魔法を扱うだと。」
ナギ「消えなさい。低俗な悪魔よ。」
ノア「ぐわぁぁぁ。」
ノアは火の魔法により消滅した。
ナギ「とりあえず、終わったかな。」
アシュリー「お疲れ様です。師匠。お手を煩わせてしまい申し訳ありません。」
ナギ「もういいって。疲れたし帰ろうか?昌磨君も色々あって大変だったね。」
昌磨「いえ、俺は何も出来ませんでした。」
ナギ「そんなことはないよ。結果的に田中君を救うことは出来なかったが君の行動によって救われた人もいる筈さ。ねっ。アシュリー?」
アシュリー「そうだわ!昌磨は十分頑張った。それでいいじゃない?」
昌磨「はい。ありがとうございます。」
ナギ「それじゃあ、帰ろう。昌磨君も気を付けて帰りなさい。」
昌磨「はい。」
こうして今回の事件は幕を下ろした。
次の日。
ポストに俺宛の手紙が投函されていた。
手紙はナギさんとアシュリーからだ。
内容は今回の事件の報告に行かなくてはならなくなったから朝早くにこの街を出ることになったということだった。
その為、直接挨拶が出来なくてすまないと書いてあった。
あと、今回は事件の事であまり自分を責めすぎるなということや短い時間だったけど楽しい時間をありがとうと書いてあった。
感謝したいのは俺の方だ。
あの2人と出会わなければ俺は過去と卓と向き合おうとはしなかっただろう。
変われたのは間違いなくあの2人のお陰だ。
次に会えた時は今よりも成長した姿を見せたいな。
そんなことを思い俺の奇妙な夏休みは終わったのだった。
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