第13話 不審は不信、新陽での信用
時間帯は日を越す一時間前、人はほぼ居ない、多少はいるが、目撃情報は少なくて済む。時に、ナンパというものをご存知だろうか?男性が女性に対して口説くと言われているあれだ。しかし、逆ナンというのもあるみたいだ、女性が男性に対して口説く、一部の界隈には人気が出そうな単語である。しかし、何故それを話題として出したか。んなもん分かってるだろ。
「ねぇねぇ、なんでフードなんてしてるの?かっこいいんだから外しちゃおうよ」
「そうそう、それとさこれからお茶しない?きっと楽しい事多いよ」
「…つか、今時逆ナンなんてあるんだな」
絶賛、俺がされているからである。いやね?嫌な気持ちになるわけじゃない、寧ろ俺の優しさオーラが漏れ出ていたことに驚きを隠せないぐらいである。
だが、俺が危険だと思っているのはもしこの場面をサージュが見たとしよう。
そうすると、鬼のような形相で走ってくることなんて容易に想像できる。
だから俺は、この二人の命を案じて断ることにする。
「いいか、美人な女性さんら、悪いことは言わない直ぐに此処から逃げた方がいい」
ふと周りを見てみた。サージュがいた、なんなら目が合った。
「…………」
止まらない汗、回る思考、どうすれば被害を最小限に抑えることができる?
考えろ、考えろ。
ドンと音がしたからそちらを向くと、サージュが鬼の形相で走ってくるではありませんか。
二人の女性は悲鳴をあげながら逃げていった。
俺の方に向かって止まる事を知らないサージュの突撃を真正面から受けることになる。
「ぐふぉっ!?」
溝、ではなく少し上に当たったので急所は外れたが激痛が走る。
「おにいさま?」
口から血を吐いても良いぐらいの痛みと胃もたれだが、なんとか喋る。
「い、妹よ。今兄はなお前の激突でマジで死にそうなんだわ…」
「そんなことはどうでも良いんです」
おい、兄の容態をどうでも良いと申すか、いや実際どうでもいいか。
ともかく弁解をするしかない、常にないようなものになりつつあるハイライトが今回もない。
「逆ナンに合っていたのだ妹よ、俺は悪くない」
「そうですか、なら多少の面は許します」
ん?今思ったけど依存ではなくなってね?でもヤンデレに変わりない、つまりヤンデレの系統が変わった…!?
妹の変化にもはや救いと困惑がくる。いや救いと困惑ってなんだよ。どんな感情になるんだよ。あ、今の気持ちだわ。
「サージュ君、物音を立てては深夜に行く必要がなくなるだろう?」
「そう、ですね。わかりました」
いや、妹の変わりようすごいな?これはこれで慣れるのに時間かかりそうなんだが。
まぁ、茶番は此処までにしてそろそろ行くか。
「んで砂浜だっけか」
「あぁ、それで合っているよ」
「砂浜だと、此処からなら大体二十分くらいでしょうか?」
「町に近い場所に遺跡、ファレンスと似た感じだな、昔の名残…としか考えられないな、そこに認識阻害で位置がずれて今の場所になったんだろ」
「確かに、そうかも知れませんね…先日遺跡でみた世界にある遺跡の位置と今の街や村の位置を照らし合わせると近くにありますし」
「んじゃ行くか」
そのまま、街を歩いていく。人気は多少はある。日を越しての時間ではないため人はいる。電灯が夜の街を照らす。
伝統の灯りで俺たちに現行の影とは別の影ができる。
物音はほぼせず、歩いていく。
「と言うかサージュ、お前なんか変わったな」
「そうですか?そうですね…そうかも知れません。私は私で変わるべきだと思ったんです。お兄様のことは愛してますし、結婚したいです。ですが、数年間のお兄様から言われた言葉を信じることにしたんです。お兄様は捨てないと言ってくれました。その言葉を信じます」
おぉ、と心の中で感動する。サージュが成長している…これは兄として物凄く嬉しいことである。子供や兄弟の成長を見るのが楽しいって言ってる奴の気持ちがわかってきた。
「そうか、なら」
と言うと、腕に抱きついてくる。いつもより力は緩めだがしっかりと抱きついている。
「ですが、それとこれとは違い独占欲というのはありますよ?お兄様♡」
やっぱりヤンデレか〜。
だが、だいぶマシになったな。これなら別行動になっても情緒が不安定になる事は余程のことが無い限り大丈夫だろう。
そんな会話をしつつ、俺らは砂浜のところまで来る。そこからも歩くが、波と風、俺らが歩く音しかない。だが、一つおかしいところがあった。
『ジェスター様、一人追跡している者がいます』
あぁ、気づいている。
ラミナが言ったように後ろ側に一つの気配がする。だが、この場所で戦闘するのは難しいだろう。水属性か土属性なら、多少はって感じだろうが三対一は蛮勇と言ってもいいだろ。それぐらいの自信があってもおかしく無いのか。まぁ、警戒するに越した事はない。
右には湖、ここは上に崖がありその下に位置する。つまり左側は土や石の壁である。
「…いますね」
「あぁ、なんの目的かわからない。周囲にも気を回しておこうか」
小声で言う、二人も気づいているか、気配を消すのは上手い方だが、この消し方が中途半端感じ、戦場で指揮を取るような奴だな。戦場で先人を切る。つまり気配を出すことを専門にできるのだろう。敵の圧倒するために。
そこで俺はいつもの声で話す。
「そういや、そろそろ腹が減る時間だな」
二人とも、少し驚いていたが、俺の考えを察したのか。同じように会話に入る。
「そろそろ五時間くらい経ちますからね」
「それでも早い方じゃないかい?」
俺たちは歩いていく。前方に少し大きめの洞穴を見つける。遺跡じゃない?と思ったが洞窟内にあるのかも知れない。
『この先にあるのは間違いありません、接続のしやすく、会話がしやすくなってきましたので』
どうやら合っているようだ。
あとほんの少し、のところで俺は一度止まった。
気配が殺気に変わったからだ、だがほんの少しの殺気。気づいたのは俺のみで殺気のする後ろ側の崖上を振り向く。
三人めがけて飛んできたナイフ、咄嗟にブレードを抜いて去なす。しかし、俺へめがけてきたナイフの後ろに隠してあったもう一本のナイフには気付けず。頭を傾けて避けるが、少し掠めてしまう。
「お兄様!?」
「…どうやら隠す気がなくなったようだね」
刺さったナイフの方向を見る。
夕方に見た男性がそこに立っていた。
「夕方とは違って手荒な歓迎だな、なぁ?ゼラニウムさんよ」
立っていたのはダガーを持ち、複数のナイフを隠しているであろうコートを着たヘンカー・ゼラニウムが立っていた。
「恨みは無い。君達…いやフォティア国の貴族、クロッカス家のジェスター・クロッカスとロードクロサイト家であるサージュ・ロードクロサイト」
下目で俺たちを見る。
手練れな事はさっきので確信した。
「だが、ナイフを弾かれたこと、避けられたのは予想外だったがな」
口調が違うか、あれが素なんだろう。つまりは出会った時から俺らのことを観察していた可能性が高い。
その理由は分からないが、戦闘になるのなら俺らも容赦が要らなくて助かる。模擬戦とか苦手なんだよな、手加減が難しいし。
「一応、俺たちはこの先の洞窟に用があるだけだ」
「フォティア国の貴族を信じる義理はない」
「ふむ、なら私ならと普通なら思うが、共に行動している視点で私も見逃さないのだろう?」
「あぁ、S・H同盟連邦の科学技術研究員代表ラモール・アクアマリン殿」
「ふふ、既に調べていると言うことか。確かに戦う予定である敵の情報は事前に入手すべきだからね」
S・H同盟連邦、スネーフリンガ・ヒョニの頭文字を取った名前の同盟連邦。その科学技術研究員代表か。そこまでの調べはしてなかったな。今まで他人に興味を持つことなかったし。だが、代表と言われても違和感はない。彼女の頭脳と論理的発言は一種のカリスマでもある。研究員では人気出ているんだろう。美人だしな。
「んで、お前さんは何時まで其処にいるんだ?」
「…戦闘を真正面からする。と言う意で捉えるぞ」
「こちとらにナイフ飛んできてんだ。喧嘩は売らねぇが売られた喧嘩は必要な分だけ買う主義なんでな」
「そうか」
ゼラニウムは高さ八メートルはありそうな高さから降りてくる。身体能力強化魔法か?それか重力魔法か。どちらにせよその衝撃は無効化される衝撃と捉えておいた方が良さそうだ。
着地した後に向き直る。
二本ダガーを逆手持ちに構えるゼラニウム、それに対するように俺はブレードの柄と鞘に手をかける。サージュはブロードソードを構え、アクアマリンは懐から二本の銃を取り出す。
「三対一で私はショットガンだ、武が悪い事は理解しているんじゃないかい?」
「いや、俺の方が優勢だ。戦場とは自身が有利な場所を言う。そして如何に戦場を優勢な状況へと誘導するかも大切だ」
「ご教授あんがとさん、俺は学がないもんでな、初めて知ったわ」
「戯言を、では真正面から戦闘を始めよう。いざ、参る!」
俺とゼラニウムが足に力をいれ砂の音が聞こえる。刹那、お互いに地を蹴りお互いに距離を縮める。
ブレードの距離に入った時振りかぶるが防がれる。火花が散って赤く光る。
上に弾かれた後、顔目掛けて蹴りがくるが先ほどの如く頭を傾けて避ける。
アクアマリンやサージュは音でなんとなく位置がわかる。アクアマリンは銃だ。ショットガンはよく広範囲な散弾銃と勘違いされるがそうでもないのが現実、しかし三人の中で近距離、中距離が対応可能、後ろに下がってタイミングを見計らっているのだろう。サージュは俺の背後にいる。追撃の準備をしている。
「サージュ!」
「はい!お兄様!」
バックステップで退がりサージュが前に出る。
サージュは軽い身のこなしで攻撃をする。サージュの戦闘スタイルは手数勝負、レイピアよりも重いブロードソードでさえレイピアを使っているかのように連続の刺突をする。そして、普通の刺突でもない。
敵に当てる刃の部分が黒い靄がかかる。その靄が形を型取り刃にカバーでもつけているかのように刃だけが黒くなる。
「【黒刺兎十刃】!」
十連撃の刺突、さらにサージュの属性、闇を纏う。切れ味が格段に上がる。鋼だろうと簡単に突き刺す。それどころか重力で起きてくる物体全てを切ったのだ。勢いがなくとも常に切れる。だが、長時間はサージュでも無理だ。そもそも、物体に闇を染み込ませるなんて芸当がサージュしかできない。
蓮撃時や攻撃時だけ纏い、技が終われば解除する。
「っ!?」
咄嗟の攻撃の手数、ナイフで防ごうにもナイフが斬られる。擦り傷のみを残しつつもゼラニウムは全て避けた。
「それを避ける…ならば!」
闇は纏わず、そのままでサージュは斬撃をする。
「三散桜!」
三角形を作る形で三回の斬撃。蓮撃をした後に繋げるサージュの繋ぎ技だ。
「【フュシスコントラル】」
ゼラニウムが言った言葉、確実に魔法だ。警戒するために下がろうと思ったが、距離的にサージュが一番近い、どうにかこちら側に連れて来れないか。
「サージュ!」
縮地をしようと思ったが、縮地は短距離移動でしかない。往復するとしたら二回するしかない。だが、二回目の間を狙われる可能性は高い。
だが、俺の予想…いや、アクアマリン、サージュも予想外の魔法だった。
横の崖が変形したのだ。
蔓のように俺たちがいるところに無造作に伸びてくる。
「どんな魔法だよくそ…!」
蔓のように伸びた、いや蔓の形を保っている?土石が蔓のように形作られ操っているのか!
『ジェスター様、この魔法は事前に用意されたものと予想します。現在の人間ではこのような芸当を本人の魔力のみで行うのは不可能です』
ラミナの声が聞こえ、一度冷静になる。
「ともかく、この魔法は俺らを離れさせる魔法だったか」
ブレードで土石の蔓を切っても再生する。
何本もの太い鶴でお互いの姿が見えない。
「っ!?、上か!」
上から気配がする何かがくる。十中八九ゼラニウムだ。
ブレードでダガーを防ぐが落下の勢いも含めて強い衝撃が走る。
「ほんと、お前人間かよ!」
「君に言われたくない、底の見えない天才」
弾いたことでゼラニウムはダガーを落とす。それと同時に武器を持っている俺の手首を掴んで捻る。
痛みで俺もブレードをその場に落としてしまうが、すぐさま溝に向けて膝蹴りを放つ。
手のひらで受け止められたが、掴まれている手を逆に掴んでこちらに引っ張る。すぐに自由に動く手で拳を放つ。
「っぐふ!」
当たったが、まだだ。
お互いに手を離しほんの少し距離を取り武器を取らず武術で戦闘続行を選ぶ。
だが、ここで違和感に気づいた。お互いの武術が似ているのだ、お互いにアレンジのようなものはあるが大元が全て同じ。
「国軍式戦闘格闘術か、ジェスター・クロッカス…君は何者なんだ?」
「さぁな?貴族は基本戦闘訓練なんて習わないなんて言いたいんだろ?」
学校でどうなのかはわからないが、基本貴族は戦闘訓練を受けない、サージュの家系はそう言った家系だからとしか言いようが無いが、俺の場合は違う。
「ちょいと習い先の伝があってな、護身用に習っただけだ、それよりもお前さん、国の親衛隊隊長格の一人だったヘンカー・ゼラニウムだろ?」
「…正解だ」
やっぱりか、この魔法、こいつの固有魔法だ。事前に広範囲にかけて魔力を流し込み、後からその流し込んだ魔力で魔法を発動する。だからさっきの膨大な範囲で魔法が使えたんだ。
「それに、お前さん街の周り全体に魔力を敷いているな?だから簡単に俺らのことを付ける事ができた。違うか?」
「そこまでバレるとはな、敵ながら天晴れと言わざる負えない実力のようだ」
だが、俺らの勝ちは確定した。
「んで、こんな話してていいのか?」
「…っまさか!」
こいつの敗因は障害物で壁を作ったことによる敵の場所の位置を理解できなかったこと。そして俺らが全員がお前と同じくらいの実力である天才三人による集まりであること。
つまりは、最初から実力差が出ていたのだ。
元々、ここに障害物がなかった、なのに三対一で勝ち筋があるのがおかしかった。つまり相手は何かしら障害物を作る柵があると言うこと、そして俺らが気づいているとわからなかったのだ。俺らが普段のような会話をしたのは、相手に勘づかれないためである。その作戦が見事、いや計算通りにハマってゼラニウムは敗北するのだ。流石に蔓のような魔法には流石に驚いたけどな。あれが予想できるのならもうちょっと対策できたと思うが、名前で気づくべきだったな。もう少し敵になり得そうな奴の名前や容姿を調べるべきだな。まぁ、もう勝負は終わった。ずっとアクアマリンの場所が勘づかれないように俺はヘイト買ったのだ。銃を持つアクアマリンは俺らに当たらず、敵に撃たなければならない、だから分散し一人一人相手すること予想し、その間に銃が当たる世に俺が銭湯の中で時間稼ぎと位置調整をした。
崖上からショットガンを構えるアクアマリン、それに気づいたゼラニウムだったが、遅かった。
アクアマリンと俺の声が重なる。
「「チェックメイト」」
ここら一帯に一つの銃声だけが鳴り響いた。
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