第11話 正の気、悪の気、邪念の

 俺が大凡の経緯を話す、と言っても全て知っているわけではなくサージュがどんな心境をしていたかは本人にしか分からない、俺ができるのはサージュの情緒を平然に保つこと。

「だから、君はサージュ君の愛を素直に受けないのか」

「あぁ、それが俺が判断した最善の策だと思っているからな」

「一つの選択肢としてありそれをジェスター君は選択したってことかい」

「これしかねぇよ」

 俺らはサージュの状況を確認し合い、この関係性を維持するのが一番だと判断する。

 維持し続ければいずれ聞いていた話のサージュに戻ると信じて。

 現状維持は良い印象もあれば悪い印象もある。今回は良い印象に携としよう。

「だが、君達のような関係性は聞かないね」

「そりゃ、レアケースだろうよ」

 何せ天才判定二人の義理兄妹に方や依存ヤンデレ、方や怠惰を極めし優男よ。

 俺ほどサボることを極めた人間はいないくらいには俺はサボる。

 それに俺ほど優しい人間はいない、職場に俺一人いるだけでヒエラルキーが保たれるからな、ちなみに俺が一番下。

 扉が開く音が聞こえる。そちらに視線を向けると俺らが泊まっていた部屋。つまり、サージュが部屋から出てきた。

「ちょうどって感じだな」

「狙ってたんじゃないかい?」

「買い被りすぎだ。俺はそこまで器用な人間じゃねぇよ」

 サージュは俺のことを見るやいなや俺のところまで駆けてくる。

 小動物みたいで可愛いけど、ヤンデレなんだよな。そこが残念ポイントである。

「おにいさま♡」

 俺に抱きついてくるサージュ、からの上目遣いをしてくる。

 くっそ…可愛いなお前。

 俺が自身の欲で撫でてみたとしよう、社会的な死がくる。つまり俺のやる行動はやらなければならないことである。

 というわけで危険を承知でサージュを撫でる。

 目を細めて気持ちよさそうにするサージュ、俺の頭を撫でる技術が高くなっている気がする。

 要らない技能多くね?俺。

 よし、もっと増やすか。器用貧乏が俺の生き様と世界に知らしめてやるわ。

 んなことしても何の意味も成さないのでやめることにする。

 とっとと外に出て目的の村に行こう。

 俺は三人でチェックアウトする。

 外は快晴だ、さっき確認したからな。

 なるべくサージュの近くにいるとするか、つっても以前からサージュの近くにいるんだけどな?

「なぁサージュ」

「なんですかぁ〜おにいさま〜?」

「出来れば正面じゃない方向からで頼めるか?歩きづらいんだが」

 ここで注目、そう俺は否定していない、別の方法でやってくれと提案をしている。こうする事により、俺の理性への被害を最小限に、そしてサージュの精神を傷つけないやり方である。

「わかりました〜じゃあこうします〜」

 そう言って正面じゃなく俺の腕に抱きついてきた。

 まだ、その方がマシ、理性に鑢で削ってきてくるけどな。

 しっかし、今のサージュはどうなってんだか。

「サージュ君は魔力に違和感はないかい?」

「…♡」

「…聞こえてねぇのか」

「これは思ったより深刻かもしれないね」

 アクアマリンの声が聞こえていない様子だ。

 俺の声しか聞こえていない、意識に他の人物が写っていないのか。

 俺達が思っていたよりも深刻だなこりゃ。

 純粋に考えて、それ以外の情報が遮断されていると考えるのが妥当か?

 あいつが過去のことを思い返したことでもう一度、心が壊れかける。それによって脳が刺激を与えないように最低限の情報だけを受理しているんだろう。そこに安全な存在として俺が入っている。だから俺の声が聞こえていると考えるべきだろう。

 この状態で戦闘にでもなったらかなり面倒だ。時間もないし、先に行動するのが先決だな。

 この症状は行きながら考えるとしよう。今はやるべきことを先にやらねば。

「アクアマリン、サージュの面倒は俺が見る。移動の手配や扇動の大凡を任せても良いか?」

 アクアマリンに任せないと俺としても負担がきついからな、ここは素直に頼るべきだろう。

 そう言うとアクアマリンはいつもとは違う表情をする。

「ふふ、単純に任せると言えば良いのに、それが君なりの優しさなんだろうけどね」

 彼女は微笑んでいた。

 ちょいと驚いてしまった。俺みたく完璧な陰を極めし物じゃないと告白するぞ。え?俺がした場合?豚箱エンドだよくそ。

「…余計なお世話だ、時間ねぇしさっさと行こうぜアクアマリン」

「…ラモールと呼んでくれて構わないよ、苗字じゃ呼びにくいだろう?」

「……」

 いきなり、そんなこと言わんといてくれます?俺の心臓弾けそうだったじゃねぇか。

 え?なに?俺名前呼びさせられそうなん?美女に向けて?

 おい、年齢差考えろ。

 いや、待てジェスター…お前にはまだ言いくるめることが出来るはずだ。捻くれた思考を持つお前なら!

「いや、情緒不安定な妹いるし」

「サージュ君なら疲れたのか寝ているよ」

 え?と思って見てみたらマジで寝ていた。やけに重いなと思ったらそう言うことかよ。

 すやすや寝やがって、たわわな果実が俺の腕にぐってくるから起きて、いや起きたら起きたらで面倒になりそうで嫌だな。

 ともかく、言いくるめる理由の一つがなくなってしまった。いや、まだだ!

「それとな、俺には女性、ましてや美女と話したことがなくてな?俺にも心の準備という前段階があってだな、世の中の俺の同胞にも同じこと言ってみろ、俺以上に動揺とキョドりを見せるからな、つまり何が言いたいかと言うと俺には異性を名前で呼ぶことに恥ずかしさと邪念と邪念と無気力が入るのさ」

「ただ、君が呼びたくないだけだろう?」

「そうとも言う」

 ふ、俺のことわかってるじゃないか、ジェスター検定準二級あげちゃう。

「それと、アクアマリンとラモールで呼びやすさが違うだろう?楽したい君だ、そんな細かいところでも楽さを見出すだろ、君なら」

 本当に俺のこと理解してんな、え何?

 サージュのように俺のことガチ理解してんの?

 それはそれで怖いわ。

「……ふふ」

 あ、違うわこれ、アクアマリン俺が困ることに笑ってるわ。

 そんな表情してるわこいつ。

「お互い人間観察が得意な分、お互いに煽り性能高いんだよな」

「君の場合、経歴に関わってそうだけどね」

 とりあえずサージュをおぶって歩くことにする。

「それで、移動手段は歩きか?」

「私達の移動速度なら昼過ぎぐらいには着くだろう」

「昼過ぎ…大体五時間くらいか、なら距離は大凡三十キロぐらいか」

「計算が早いね」

「普通だろ」

 実際これは普通だと思っている。これぐらいなら俺ら天才と言われる部類に入っていない人間もいるんじゃないか?

 しかし、現在の時刻からすると少し早めが良さそうだな。

「ちょいとだけ急ぐとするかね」

 アクアマリンもそれに同意してくれたので少しだけ早めに歩く。

 村方面の道に出てから俺らは歩く。

 都心ではあるため平原が広がるところまでは意外と家が多かったりする。だが、どちらかと言うとスラムに近い状態の家がちらほらと見えたりする。

 案外過去を思い出してしまうが一旦忘れる。

 人気も少なくなってきては静寂に包まれる。

 残る音は風と足音くらいだ。俺ら二人分の足音しか基本的に音はなかった。

 そんな中でアクアマリンが口をひらく。

「ここら辺のスラムは国側が対処しても良いように感じるんだがね、だが」

「上が上だからな、今の俺らがどうこうできる問題じゃねぇ」

 フォティア国は結構腐った政治工作が行われていたりする。俺にはあまり関係ないが、まぁ見ていて良い気分になる訳じゃないな。そこら辺はゲスな貴族と違う部分だろう。知らんけど。

「そうだね、けれどサージュ君なら怒るだろう。確かにジェスター君に依存しているが根はまともだ、苦しんでいる民がいれば心配するだろうね」

 根はまとものところでツッコミたくなったが堪える。

 確かに正常な時のサージュは心優しい少女である。

「…サージュが目覚ましていたら正常になっていて欲しいんだよな、対処が面倒だし」

「君は度々正直だね?だが、同意はするよ」

 アクアマリンも対処は面倒だと感じるみたいだ、そりゃ依存ヤンデレってまじで対処むずいぞ?離れようにも離れん、プライベートなんて言葉はブレイクしてくるし、個人情報なんて筒抜け、監視、ほら面倒だろ?

 俺誰に言ってんだ?

「歩き始めて大体一五分くらいか?」

「記憶が正しければあっている筈だね、そろそろスラム街も抜けて整備が進んでない平原の方に出る筈だ」

「一応俺もフォティア国の一貴族ってなってんだから多少の地理は理解してる」

 これでも読書が好きだったんだぞ、決して動くのが面倒で手元で時間を潰せるものが本だったなんて訳じゃないからな。

 それから、アクアマリンと他愛も無いような会話をし続けながら歩く。

 基本的にアクアマリンが話題を振り、俺が答えて、互いの意見を言い合う。そんなことを繰り返しながら、時に俺から話題を振ることもあった。

 そしてかれこれ二時間くらい経過していた。

 周りの景色には家が無く、緑が広がっていた。

 その街に続くと事前準備時に調べていた道を進む。

「あとちょいで半分くらいか?」

「私にも正確に把握できるほど脳の稼働は出来ないよ、だが感覚的に半分だろう」

 流石に疲れて来た、妹を背負ったまま二時間歩き続けているのだ疲れるだろう。

 そろそろ起きてもらいたい気持ちと起きたら面倒に思える気持ちでどうすっかと悩んでいる。

「そろそろ休憩したいところだな、足と腰がやべぇ」

「ふむ、近くに休憩ようなのか木が一本生えているし、そこで休憩しても良いんじゃないかい?」

「だな」

 ちょうど良い、逆にちょうど良すぎて怖いレベル。世界に監視されて疲れると言った場所に休憩所を用意されているんじゃないかと思うほどに。

 木によって一度サージュを下ろす形で座らせる。

「ふう、そろそろ骨から悲鳴が聞こえるところだった」

「そこまで足腰が弱い訳じゃないだろう?」

「何を言う、あと一分でも遅かったら口から嘆きの悲鳴が聞こえるぞ、疲れたってな」

「ただ単に、君が疲れたと言ってるだけじゃないか」

 それが骨から出る悲鳴と分からぬか、やはり今の時代には若者の理解者が少ないようだ。

 そんなことを心の中でスパーキングして俺も気を背に座る。

 その隣にアクアマリンが座る。

「二時間歩いたんだ多少なりとも疲れるね」

「俺は多少じゃなくかなり疲れた、もう歩きなくないぐらいにはな」

「おや?君は体力なら私よりあると思うが」

「どうだろうな?案外そこら辺の子供の方が体力あるかもしれんぞ」

 最近の子供はかなり体力あるみたいだし、分からんけど。

「一旦サージュが起きそうなまでここで待つとしようか」

「だな、昼食でも持ってこればよかったか?」

 俺は正直いらないんだが、 サージュやアクアマリンが昼食抜きにするのも気が引ける。と言っても何も持って来てないからどうしようもできないけどな。

「あぁ、それなら私が軽く買っておいたさ」

「え?マジで?」

 なんだこいつ、くっそ出来る女や。貼り付けた表情と煽り性能が高いことを除けばかなり良い物件だろ。

 確かアクアマリンって二十ちょいだったよな。そろそろ付き合いもあっていい歳だと思うが、それを言ったら拳か何かが飛んできそうなため止めておく。

「ジェスター君?今、余計なことを考えてなかったかい?」

 声色でわかる、若干怒ってんな。

 ふ、見せてやる。俺の脳の処理を最大限活かした言いくるめ文を!

「イッテナイ、ジェスターウソツカナイ」

 よし、完璧だ。

「カタコトが物言ってるようなものじゃないか」

 おい、そこは見事にスルーところでしょうよ。

 まぁ、話を戻して、アクアマリンが昼食を持って来てくれているのなら話は別だな。

 多少遅くなっても夕方に着くようにしても良さそうだ。

 俺と違ってちゃんと食うんだな、二人とも。

 …俺が特殊なだけか。

「さて、どうすっか」

「暇を持て余してるのなら寝ても良いんじゃないかい?」

「俺はそこまで眠い訳じゃないから遠慮しとくわ」

 そもそも、この中で一番寝てたの俺だろうし、体力は使ったには使ったが、まだ起きてから五時間も経ってない。

 ぼーっと時間潰すかね。ぼっちは一人の時の時間潰しのプロだからな。

 自分で言ってて悲しくなるな。

「なら私は寝るとしようか、私は魔法や化学の研究、何かしらの論文を書くのが好きではある。しかし、元から睡眠を取るのは好きではあったからね」

 意外だな、寝るのが好きってのは。

 いや、俺の考え方が間違っているか。

 俺ら天才も一人の人間だ、一般から見れば変人とも見える部分もあるかもしれないが、部分でしかない。全体を見ればそこまで変わらないのだろう。アクアマリンもサージュも俺も、一人の人間だ。好きもあれば嫌いもあり、価値観もそれぞれ、当たり前は認識しにくい。溶け込んでいるからだ、溶けたものは分別しにくい、普通の水と塩水があったとしてぱっと見じゃどちらがどっちかなんて分からず、触れたり蒸発させたり口に含んだり、自身から調べにいかなければならない。それと同じように自ら考えなければその思考には至らない。

 なんて、今至ったみたいな思考に浮かぶ言葉使い。そんな人間の当たり前を人間観察を得意とする俺は理解している。

 それでも、相容れない奴が存在することもな。

 隣から小さな寝息が聞こえる。

 本人にとって楽な姿勢なのだろう、と思う姿勢で寝ていたアクアマリンがいた。

 左右で寝ている中、俺は起きていた。

 こうなると真面目にやることがないため、空を眺めることにする。

『ジェスター様、聞こえますでしょうか?』

 突如と脳に声が響く、驚きはしたが声の主を思い出し何かあったのだろうと理解する。

「聞こえてるぞ、ラミナ」

 遺跡管理をしているシステム、ラミナが俺に干渉して来たようだ。脳に声が聞こえるということは俺以外には多分聞こえていないのだろう。そう考えると案外一人の時間の時に意見をもらえそうだ。思考や至った答えに意見をもらうと言うのはどのような形でも大切である、ソースは俺。

 しかし、今接触して来たのは何だろうか?何かしら報告でもあるのだろうか?

 それか俺自身についてなのか、祖先についての話でもしてくれるんかね。知らんけど。

「それでラミナ、お前が接触して来たのには理由があるだろ?」

『察しが早くて助かります。では本題に移ります』

 やっぱり世間話という訳ではないようだ。

 今会話できてる理由もあるだろう。大人しく聞くとしよう。

『まず、私がジェスター様と会話出来ていることについての説明から致しましょう。ジェスター様に権限を譲渡する際に生じた脳に罹った頭痛の現象、それは脳から情報を取得するためであり、ジェスター様の血筋のみが行える偉業でもあります』

 あん時の頭痛はそう言うことか、あの頭痛の中で言葉が聞こえたのは大凡、脳から情報を取得しあの時点で権限が譲渡されシステムが動き出したからだろう。だが、あまりにも都合が良いとも思うけどな。

『ジェスター様が疑問に思うのも仕方ありません。その疑問にお答えしましょう。防衛システムが作動したのは私にも分かりませんが、ジェスター様は遺跡の認識阻害の影響を受けず、遺跡の発見ができました。その時点で血筋であることが確定していますので、遺跡内に入ったときに情報取得プログラムが作動しました。そして、その条件の一つに前権限者が血筋の者が遺跡に入った時、情報取得プログラムが作動するように設定されていましたので』

 なるほどな、前任者が次の血筋の者が来るときに備えて設定していた。だから前触れもなく情報取得が起きたのか。

 すっげぇ痛かったけどな?まぁ、結果オーライみたいな所あるけどさ。

 流石に二回目はごめん願いたい。

『そして、脳の情報をもとにジェスター様に届く周波数、広範囲に広がり特定の人にしか聞こえない音波と捉えてください。それが今会話出来ている理由です』

 普通に規格外の技術だな、なぜ昔と違いここまで技術が落ちてしまったのか。科学と魔法、両立は難しいが、昔より技術の進歩は期待しても良いような気はする。

『それと、ジェスター様が睡眠をとる際に、深層意識の世界に飛ばすこともできます。その場所でしたら私も姿を見せたまま話す事ができます』

 まじか、何でもありだな。つっても思考を深める時ぐらいしかないが、時間をあまり気にせずにできるのはありがたい。

「なら、一度行ってみても良いか?」

『分かりました。ではジェスター様、おやすみなさい』

 声が聞こえなくなったので、俺も目を閉じることにする。左右から柔らかいものが当たったり良い匂いがしたりする中で何とか眠りにつく。

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