第6話 謎は問いを呼び混沌は混乱を呼ぶ

 一度ファレンス村まで戻ってきた俺達。

 まぁ、正確に言うとファレンス村入り口の少し前だけどな。

 つまりは駅でファレンス村には辿り着いたが駅内でどうするか少し話している。

「まぁ、俺のことはバレてもいいか」

「身分を隠す必要性はあまりないと思ったが、ジェスター君に関しては要るだろうね」

「あぁ、どんないちゃもんつけられるかわかったもんじゃ無いからな」

「そんな輩がいましたら私が切り刻みますよ?」

「やめとけ、豚箱エンドだけはやめてくれ」

 俺としてもそうなったら介護できんのよ。

 まぁ軍が動くかどうかなんてわからないけどな。

 正直、今の軍はかなり不安定だ。上の奴らが何を考えてるのか俺にもさっぱりだが、不穏な空気は住民も感じているようだ。

 俺としてはそろそろ動きそうな予感はするんだよな。そうなったら国から出るのもありか、戦争にでもなったら逃げるが勝ちよ。

 実際にどう動くかなんてはその時にならんと断言できないけどな。

 それはそれとして、と思考を別のことに切り替える。

 二人にバレんようにほんの少し風を動かしてみる。

 自身のコートを揺らそうとして風を動かすが、揺れはするものの弱々しい、そして腕に入れていた力がどっと抜けた。

 ……やっぱ魔力不足だ。何故だか知らんが魔力不足に関して耐性があるのだろうか。基本的、一般的にはこの魔力量なら錯乱、混乱、あるいは精神崩壊。

 だが、俺はどうだ?昔から魔力量は一般より多いのは自覚していたがそれよりも魔力不足によって弾き起こる精神の劣化、衰弱があまり見られない。耐性が強いと自身の中では完結させていたが、まぁこれに関しても調べる必要ありそうだな。

 個人的には才能の一言で済ましていい内容じゃ無いように感じる。

 ただの勘だ…されど勘何だよな…。

「お兄様?大丈夫ですか?」

「ん?あぁ、すまん」

 自身のことを考えることに集中して周りの声に気づかなかった。

 サージュが俺のことを呼ぶ声で思考を中断する。

 声のするサージュの顔を見る。

「ほ、本当に大丈夫ですか?痛いところとかありませんか?何かあったらすぐ言ってください私にはお兄様しかいませんし」

「わかったわかったから、大丈夫だ」

 ヤンデレ戻ってきたのか?まじか

「君達兄妹は噂以上に愉快だね」

 これを愉快というか常に笑顔の表情筋があまり動かない天才。

 ん?ちょっと待て。

「俺らの会話って噂になってんの?」

 え?マジで?

 俺引きこもりで外なんて出てないんだが?

 サージュとの会話なんて自宅でしかやってないんだが?

 となると従者が噂してんのか?いやそうに違いない、おのれ従者め!俺の平穏で完璧な無職隠居生活を邪魔しやがって!

 こうなるなら予防線張れば良かったわ。

 いや面倒だから良いや。

「君の家の者たちが城内まで来る時があるからね、その時の話を少し盗み聞きしてね」

「盗み聞きすんな」

 こいつの近くで厄介事起こしたら絶対ネタにされる、俺の第六感がそう囁いてくる。

 第六感が囁いてくるってどういうことだ。俺が言ったけど意味わからん。

「それはともかくとしてジェスター君」

「ん?どうした」

 改めて、と言った感じに俺の名前を呼ぶアクアマリン。

「君の身分はなるべく明かしたほうが良いと私は思う」

 その手の話か、いつもなら直様否定するが、アクアマリンだ何かしら理由があるだろう。

 そう思っているとアクアマリンはほんの少し驚いたような様子を見せる。

「ふむ、否定しないようだね。君ならすぐ否定すると思ったのだが」

「お前さんは客観的な理解とその応用となる思考が得意だ。何もなしにそんな提案しないと俺は判断したから、これで良いか?」

「なるほど、それに君の口ぶりからして私が理由を聞くことを想定していたかのようだ」

「さぁな?それに関しては黙秘する」

 いや、ただ思考がまとまらないだけですはい。

 俺普通に疲れてんのよ、魔力消費半端ないんすよ。

 それに…いや良いか。

 とにかく疲れてるんだ。

「それで私の意見としては明かしつつ行動した方が情報を得るという点においては効率が良いということ、しかしその分危険も伴うのだがね」

「大体言いたいことはわかった、要は自身のことを噂にし、その噂を餌に敵を呼ぶ、その敵から情報を得る、そう言うことか?」

「流石、ジェスター君と言ったところかな、ご名答合っているよ」

 確かに情報を得ると言う点においては良いかもしれない。

 ただ、俺の名前で良いのか?

 いやしかし、相手の一人は俺を標的にしている。なら俺で良いか。

 と一人で納得して理解しているところで声がする。

「お兄様?私のこと忘れてませんか?」

 おっとここに話に入れなくて若干ヤンデレ発動しつつ殺気が漏れてる面倒な妹が。

「忘れてないぞ、断じて忘れてない、思考の中に虚無が発生したが忘れてないぞ」

「忘れてるじゃないですか!」

「おいおい俺は思考に虚無が発生したと言っただけだ、別に頭の中が空っぽになったわけじゃない」

「うぅ…お兄様…」

 こいつ…涙目からの上目遣いで攻めてきやがっただと!?

 くっ、これはかなりのダメージが精神にくる!

 だが……これで折れる俺じゃない、俺の意思はウルツァイト窒化ホウ素並みの硬さを誇る。

「…すまんかった、頭撫でるから許してくれ」

 負けたわ。

 俺の意思は豆腐並だったわ。

 いやね?普通勝てる?超絶美少女の涙目からの上目遣い勝てる男いるのか?

 可愛いは正義と聞くがその説は案外濃厚なのかもしれん。知らんけど。

「ふふ、お兄様の手は気持ち良いです」

 ふにゃっと蕩けるような表情をして満足そうにするサージュ。

 改めて思うけど可愛いよなこいつ、ほんとヤンデレ属性なかったら普通に告ってるレベルなんだよな。

 まぁ、振られるのがオチか、と言うかそもそも関わりがなさそうだしな。自分から関わろうとする奴なんて変人か俺にようがある奴ぐらいだろうし。

「さて、戯れるのは良いが…ここからどう動くんだい?」

 アクアマリンの声でサージュの頭から手を離す。

 離すときにサージュが名残惜しそうな表情をしていたような気がしたが気にしないようにしとこう。

「まぁ、お前さんの意見を受け入れるとして、そんまま森まで行くのが良いだろうな」

 そん時に呼び止められたら身分を明かして無理に行くのが良さそうだしな。

 口止めとかしとけば時間稼ぎにはなるだろう。そんじゃそこらの人に口止めをしても簡単に吐くだろうし、そこまで期待していない。

「分かった、ではそのまま直行するとしようか」

 アクアマリンが歩き出してから俺はその後を追うように歩く、隣にはもちろんサージュがいるのである。俺が意図しているわけではないのである。

「んで、森にどんな用があるのか聞いても良いか?」

 大体の人は普通”聞いても良いか”なんて言わないだろうが、これは安易に聞いて良い内容なのかどうかを確認するためでもある。

 こういう質問の仕方によって本人がどう言った意図で話すのか、話さないのかが考えやすくなる。

 これは言うなれば誘導尋問もどきである。

 しかし、これは嘘を吐かれては対処できないため、あまり実用性には欠けている方法でもある。

 なぜかというと、仮にこの質問で嘘を吐かれたとして、それをどう見破るのかと言う一点で行き詰まる。だから、この返答は、他の可能を考えるときに候補の一つとして、まぁ言ってしまえば参考資料みたいなもんだな。

 それが本当の可能性もあるけどな。

「この奥に、開けた花畑があるだろう?」

 俺とサージュが言った、あそこのことだろう。

「私はその場所に少々興味を持ってね」

「……季節にそぐわない花が咲いていることか?」

「おや、その発言からして知っているようだね」

「あぁ、ちょいとこの街の人にな」

 実際は、現場で俺が疑問に思ったことなんだけどな。

 しかし、俺もあれには少々興味もあれば疑問もある。

 自分で言うのもあれだが、俺は知識に関してはかなり持っているはずだ。咲いていた花の種類も、季節も、名前もすぐに分かった。俺ってば天才。

 まぁ、そこで思ったのが何故すぐに気付けなかったのか、普通、夏に咲く花が冬に咲いていたら気付くはずだ。冬に向日葵が咲いていたらおかしいだろ?気付くはずなんだ。しかし……疑問を抱くのに時間が掛かった。

 魔法の類か?それか何かしらの認識阻害…だが、年中展開できる筈がない、そもそも範囲が広い上に、俺らのような適性が高い人じゃなければ気付けないほどのもの。そんな高度な認識阻害の魔法を常に展開なんて機械を使っても不可能だ。そもそも、術者、機械が魔法の現象に耐えられない、術者の場合なら1分で失神、機械の場合ならオーバーヒート。

 それと気になるのはあの謎の機械生物…いや、あいつ機械なのか?それすらも疑う敵だった。

 もし、あれが古代兵器だったとしたら…なぜ今になって起動したんだ?

 謎が多すぎる。アクアマリンはそれの調査が目的だろうけど…あそこ調査できなくね?

 三人で俺らが一度訪れた花畑へ来たが。

「ふむ、クレーターのようなものと周りの木が見境なく折れているようだね」

 知ってた。

 時間経ってねぇもんな、そりゃ何も変わってないだろう。

 にしても、立ち入り禁止にしないもんなんだな。

 俺らがここに来る時、村の人はそのまま通した。

 そういや……あの機械の残骸は残っているのか?

 村の人が無闇に触るとは思えないし、原動力と思える部位は破壊したしな。

「君はフォティア国に来る前にここに訪れているはずだろう?ならここの騒動について知っているんじゃないかい?」

 知ってるも何も、当事者俺なんすけどね。

 隣にいるサージュも当事者っすね。

 しかし、問い詰められて慌てる俺ではない、そう俺にはこの捻くれた思考がある。言い訳でもなんでも思い浮かぶに決まっているだろう?

 いける、これなら。

「ななな、なんのことだろうな!?」

 いけない、これじゃ。

「お兄様、慌て過ぎです…というかわざとやってません?」

「バレたか」

 しかし、こうも簡単に見破られるとはな。ジェスター検準一級を授けよう。

 一級は俺をヒモニートにできれば授けよう。

「何か知っている…と言うより当事者のように見えるね」

「…まぁ最初から言う気だったからな」

 こいつにはあの機械について調べて欲しいところだったしな。

「ふむ、では当時のことの説明を頼むとしようか」

「へいへい、んじゃ順序辿って説明するか」

 と言っても所々省略するけどな。

「俺らがファレンス村に着いた時に住人が森で奇妙な生き物に襲われるといった報告が多数出ると困っていてな、それを気まぐれで調べに行ったら本当に謎の生物がいたんだわ、んでそいつとの戦闘で此処がこんな荒れてる」

「なるほどね…その謎の生物についてどう思ってるんだい?」

 どう思っている…か、俺の知識の中にない生物と理解した上で見解を聞いてくるか。

 ここは素直に言うか、面倒だしな。

「そうだな…俺としては、古代の魔法兵器が今になって動き出した……と思っている」

「ほう?理由はあるかい?」

「あぁ、理由は二つ…いや三つか」

「ふむ、今聞くより謎の機械を調べてから聞くとしよう」

 今のような不確定な理由より根拠や理由づけとなるものがあったほうが俺としても考えやすいしな。

「謎の機械は倒したのだろう?」

「あぁ、一応な」

「一応?」

「倒したかどうかと言われると断定できない、機能停止したかと聞かれればそう言えるが…って感じだな」

「なるほど、とりあえず謎の機械のところまで案内してくれるかい?」

「おう、確か向こうだったな」

「えぇ、向こうでしたわ」

 サージュと共に謎機械の残骸まで案内する。

 もう一度考えよう。

 仮に古代兵器だとして、俺らに太刀打ちできるのかと言う話が出る。

 もしかしたら…神との接触があるのか?俺は神なんて信じちゃいないが、あの化け物を見たんだ。

 可能性として考えて良いだろう。

 それか、古代の人間が生きている?

 ……いや…まさかな。

 もし、死人が生き返ったなんてことが起きたら?もし、見ることないと思っていた人物にあったら?

 …まずいな、魔力消費で思考がネガティブになってきている。

 常にネガティブ思考の俺を凌駕するネガティブなんて滅多にない筈なのにな。

 ……大丈夫…だよな?

 思わず、頭を抱えてしまう。

 自身の手を額に当てる。

 ……大丈夫、大丈夫だ。

「それにしても、この木々を倒したのはその化け物のように見えるね」

 内に篭っていたらアクアマリンの声で我に帰る。

「ん?あぁ、そうだな。この木々はその機械の化け物の仕業だ、決して俺の仕業ではない」

「ふむ、君のせいとは言っていないのだがね」

 興味深そうに小さい頷きをしつつ周りを見ている。

 歩いていたらその場所へ着く。

「あまり時間が経っていないから残っていたな」

「まだ一日と過ぎてませんからね」

「いや、私としては時間が早いほうが調べやすい、感謝するよ」

「別に自己防衛でやっただけなんだがな」

 アクアマリンは早速、倒れている、と言うより部品がバラバラに散らばっているところへ行く。

 そのまま観察に入ったアクアマリン。

 一応、俺も興味があるから見るとするか。

 俺も謎機械の残骸を見る。

 よく見ると文字が内部で動いているように見える。

 そしてその文字には見覚えがあった。

 しかし、今まで見たことない文字でもある。

 だが、なんとなくだが検討がついた。

「これは…」

「……多分、私もジェスター君が予想しているのと同じ答えだろうね」

「…古代文字、それもルーン文字…だよな?」

 古代の文字は何種類かある。分かりやすい例えを言うのなら方言に近い。

 古代文字の大体は同じ形でもあるが、ルーン文字もその一種である。

 しかし、ルーン文字は滅多に見ない。文字の特徴は他と違ってあるため判別はしやすい方ではあるが、事前知識がなければ無理だ。

「やはり、古代文明の兵器だったようだねジェスター君」

「まさか、可能性の一つとして置いていたものが当たるとはな」

 となると古代文明に関わるものが近くにある…と考えるのが妥当か。遺跡でもあるんかね、一攫千金狙えないかしら。

「さて、周辺の探索をしようじゃないか。もしかしたら遺跡があるかもしれないからね」

 面倒だが、調べれば収穫は十分にありそうだしな。

「了解、んじゃ俺は向こうから調べるとするかね」

 ちょうど良い、一人の時間はあまりなかったしこれで一人でのんびり探索が。

「それでは私も付いていきます」

 なんとなく予想してたけど、付いてくんな。

 なぜ声に出さないか?ヤンデレになるからに決まってんだろ。ヤンデレって対処むずいんよ?俺現在進行形で遭遇してるからわかるよ?

 というかアクアマリンはアクアマリンでこいつのこと止めてくれても良いんじゃないでしょうか、と俺は思う。いやまじで。

「各自に行動しては合流も難しいだろう、ここは全員で動くべきだと私は思うよ」

 まぁ、ごもっとも。

「しかし、俺の自由な時間というものがなくなるのですが、それに関しては如何なもので?」

「君ならば大丈夫だろう」

「おい、ふざけんな」

 何が俺なら大丈夫だコラ、俺の胃に穴開くぞまじで。

 いつも思うんよね、期待とは時に毒だと。

 確かに期待というのは寄せてもらうものだけど、その分やる側は重荷を背負うことになる。

 つまり俺には荷が重すぎるということで、丁重に断らせてもらって俺は待機しようそうしよう。

「これでは行くとしようか」

「無視すんな」

 とうわけで三人で森へ足を踏み入れる。

 静かな森の中ではあるも、違和感は常にある。

 あの季節を問わず様々は花が咲いていた時に感じた違和感。

 おそらく木もその対象なんだろう。

 しばらく歩いていたら。

 ほんの少し開けていて、苔むした人工物の遺産、建物のようなものを見つける。

「十中八九ここが遺跡だろうな」

「ふむ、こんな所に遺跡があるとしてどうして住民は気づかなかったのか」

「まぁ、おそらく認識阻害のようなものがあったんじゃないか?出なければ季節を問わずに咲いている花が世界中で知り渡っているはずだ」

 住民はこれが普通、または認知していないのだろう。

 そうなれば知らないのも当然とも言える。

「それもそうだね」

 俺の発言に納得している様子。

「んで、今から調べるのか?」

「私としては少々疲れたのですが…」

 お、奇遇だな。俺も家に帰って引き篭もりたい気分だぞ。

「できればついて来て欲しいのだがね…確かに魔法や機械についての知識については随一と自負しているが、肉体的な力はなくてね」

「瓦礫があるかもしれないから力仕事でついて来て欲しいと」

 そういうと「そういうことだね」と頷く。

「……まぁ、俺としても気になることがあるからな、俺はついていくとして」

 問題はサージュだな、こいつはついてくる理由が無いし、疲労しているみたいだしな。無理について行かせるのも申し訳ないし。

 サージュはどうすると言おうとしたら、そこに被せるようにサージュが言う。

「お兄様のところに私が常にいますから、もちろん付いて行きます」

「良いのか?疲れているのもあれば、お前がついてくる理由なんて」

「だから、お兄様がいくのでしょう?それでしたら行く理由なんて決まってます、離れたくありませんから」

「本人も良いと言っているみたいだ、三人で行こうじゃないか」

 まぁ、そんなこんなで遺跡探索を開始する俺らであった。

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