第5話 フォティアの残り滓

 フォティア国、その歴史は373年前にまで遡る。セウド家と言う今となっちゃ王族に上り詰めた元農民の家系。

 元々、ここの土地はあまり質がいい訳じゃなかったようだ。しかし、セウド家の祖先であるローレンスは質が悪くも農業を行う周りからは愚か者と思われていたようだ。

 それでもその行いを信じ続けたからだろうか、その土地に最も適した作物が育つようになったようだ。

 そこからは簡単に事が進んだらしく、それを神の商業と崇める人も出てきたそうで、地位を高めては人を束ねる為に国を設立したようだ。詳しい動機についてはまだ判明されていないらしい。

 汽車を降り駅のホームから王都内に踏み込む。

 王都内の南側から広がる王都は人々の移動で忙しく、多くの声は混ざりに混ざりって波長のように動く。

 なんて詩人みたいにポエムゆうてみたけど実際よくわかんね。

 だって俺、ここにきたの久々よ?

 俺だって知らん事多いんねん、俺だって理解できない事多いねん、俺だって友達多いねん、最後だけ嘘つきました。

 最後だけ嘘つきました。重要な事なので二回言いました。

 これジェスター検定の問題に乗るのでよく覚えておくように。

 因みに十級から一級まであるから。

 やる人いないけどな。

 そんなくだらない思考を回して歩いていると袖を引っ張られる。

 引っ張られた方を見るとサージュが不安そうに握っていた。

 可愛いなこの子。

 ヤンデレなければ告白していたところだ。そして振られる流れね、知ってるよ俺。

「少し、何だか怖くて…」

 あぁ、魔力消費の影響か。

 心に若干の罅が入りそうな感じだな。

 となると大体、35%ほどか?

 違和感を覚える程度だ、明確な恐怖はない。

 俺はそう予想し、手を繋いであげる。

「こっちの方が落ち着くんじゃないか?」

 我ながら普段しない行動だ、だが魔力消費の影響なら仕方ない。俺の性格云々は関係ない。

「っ…ありがとうございます、お兄様」

 そう微笑みを返してくるサージュ。

 俺でなければやられていたね。

 だが、これでやられる俺じゃない。

 これ以上の甘えは禁物だ、反撃を易々と喰らう俺じゃない。

「まぁ、たまにはな」

 うん、無理だったよ。

 知ってた。

 照れくさいような反応をしてしまう。つまりこれは俺の負けである。知らんけど。

 くすっと小さく笑うサージュ。

 そのあとは特に会話もなく、黙々と歩いて城に足を運んでいた。

 そうしていたら目的の城が見えてきた。

 今いるところは城をつなぐ橋を渡っている。

 昔の構造の名残りなのだろうか、橋の下は水の流れがあり、城下町の方に続いている。

 というかここまでくるのに何段の階段登ったの?エレベーターあるやん、今の時代エレベーターあるやん。昔を重んじるとかあるけどさ、今の時代なら今の時代にあった使い方するのが普通じゃないんか。

 俺足痛いんすけど、むっちゃ痛いんすけど。ここでギャン泣きしてもいいくらいには痛んだけど?

 橋をそのまま歩いて久々に見た城に何かを感じることもなく、そのまま入ろうとする。一応、兵士に入ることを言っておこう。何か問題あったらそいつを囮に逃げる戦法よ。

 というわけで左右にいる兵士に声をかける。

 近づくと少し警戒したような様子が見られるが関係無しに言う。

「一応報告として俺がここに入ったことを覚えておいてくれ」

 あまり見られたくないからフードを被っていたがそろそろ外すか。

「こ、これはジェスター様!?し、失礼しました。私が覚えておきますのでどうぞ中に」

 どうやら大丈夫そうだ。半ば賭けに近いやり方だったけどな。

「場内に入るし、ローブは脱いで良いんじゃないか?サージュ」

「そうですね、場内なら人集りなどは発生しないでしょうし、少し暑かったですから」

「まぁ、この季節にその服装の上にローグを着るとしたら暑いだろうな」

 俺なら溶けているだろう、んでもって草に吸われる。つまり俺が大地と一体化するのさ。

 自分で言ってて意味わからん。

 俺も暑さで頭やられてんのかね、元からか。

 使用人らしき者からの視線が来るが、俺はそう言うのに慣れているし、サージュも同じだろう。

 いざ、扉を開け、城内へと足を踏み入れる。

 エントランスはだだっ広く、ちょっとした集会が開けそうなほどだ。ここに金使うのなら他のところに使えって思うが口に出さないでおいて後で言っておこう。

 左右に廊下に続く道があり正面には二回へと上がる階段に、階段先の少し進んだ所に王室への扉がデカデカとある。

 本来なら訪問した際に挨拶をするのが礼儀とされているらしいが、今は王に用はないから無視してっと。

 サージュからはコイツマジかみたいな顔されてそうだが、それもスルーする。

「とりあえず、目的のフェレストを探すぞ、多分書庫か図書室にでもいるだろ」

「フェレストですか?確かにあの人はいつも多種多様な書類を読んでおりますが、宛てとはフェレストのことだったんですね」

「あいつは昔から俺に本やら書物やら何やら押し付けてきたしな、暇だったし全て読んだが」

 おかげで古代文字すら覚えてしまった、あいつには俺にキャパオーバーな程に知識を蓄えさせようとした罪がある。過労死するぐらいには利用してやる。

 まずは書物に落書きでもしてやろ、あいつのメンタルぶっ壊すのが優先だ。

「お兄様…また良からぬ事考えてませんか?」

「良からぬ事とは何だ良からぬ事とは、俺はあいつのメガネを叩き割ってやろうとしただけだ」

 嘘はついていない、実際やってやったことあるし、これで十五回目になる。

 左の廊下に進み、目的の書庫まで足を運ぶ。

 城内は石造りであり、それも昔の名残りだそうだ。

 一定間隔に柱があり、窓があり、と代表的な城の作りと似ている。だがまぁ、設計者の趣味らしきものも入ってんな。

 一箇所だけ、模様違うし、わかりにくい場所に名前書いてあるし、設計者の名前だし。

 地味なところで主張してくんな。俺みたく卑屈な方法で主張するんだ。

「お兄様、ここまで来るのに見た国民達が」

「言いたいことはわかる、だが此処で言わない方がいい」

「……はい」

 妹の言いたいことはわかる。城に来るまでに国民の生活を見ていたが何処となく差があるように見える。

 確かにここ最近、フォティア国ではあまり良い噂は聞かない、表面を見れば綺麗に見えるが裏側を見ればそうでも無い。

 まぁ俺には関係無い。

 廊下を進んでいき、目的の書庫に辿り着いた、扉を開けて中にはいる。

 少し埃っぽい部屋の中には大きなファイルが多く棚に詰めてあった。

 目的のフェレストの姿は見えなかった。

「ご不在…のようですね」

「みたいだな、何処にいるんだか」

 しかし、ここにいないとしたら図書室か?だが、あいつが図書室に行く時は何かしらの連絡をここに残していた。無いのなら本当に不在か?

 俺らが書庫から出て廊下に出てから図書室に向かおうとした時、後ろから声を掛けられる。

「フェレストなら今は不在だよ」

 声のする方、後ろを向くと長く白い白衣を着た一人の女性が立っていた。

「それは短期間による不在か?それか長期によるものか?」

「どちらかと言えば長期に入るだろうね、一般的な常識の範囲に逸脱しない考え方で、と言う前提が入るがね」

 あいつがいないとすれば此処に滞在するか、近くで隠居生活すっかね。

「なるほどな、教えてくれてあんがとさん」

「礼を言われるほどでもないさ、けど受け取っておこうジェスター君」

 俺の名前を呼ばれるので少しだけ体が反応する。普段名前を呼ばれることが無いため慣れないからである。ぼっち言うな。

「そんな、俺の存在を知っていながらも俺に接触した理由はあるんじゃないか?」

「おぉ、話が早くて助かるよ、君達のように天才を呼ばれる者達はやはり思考が早い」

 表情が少ないって表現があってそうだな。顔に現れる表情が機械のように決まった形にしか動いてないように見える。表情から思考や感情が読み取れん。

「そう言うお前さんは名乗らないのか?」

「おっとこれは失礼、私の名前はラモール・アクアマリンだ。天才の中の一人だ」

 俺はその名前を聞いてこいつについてのことを思い出す。

 ラモート・アクアマリン、スネェーフリンガ大陸出身の人間であり、生まれながらにして常人を超えた思考、物覚えの良さに人々は様々な期待を持っていたようだ。天才的な思考やアイデアは技術革命と言って良いほどに優れていた。

 そこから時間が経って確か魔法の研究をしているんだっけか。

「おいおい、前代未聞かもしれないな、この場に世界を騒がせる天才が三人もいるからな」

「そうかもしれないね、ジェスター君は特にね」

「お兄様が何かあるんですか?」

 サージュはアクアマリンの言葉を聞いてから俺の袖を強く握っている。

「いや?大したことはない、ただジェスター君は他の天才より世間に出ないからね世界じゃ底知れない天才とも噂されているんだよ」

 まじか、俺そんなふうに噂になってんの?

 一種の黒歴史よ。逆に考えてみ?これがどうやったら黒歴史にならんのよ。

 反面教師が成り立たんのよ。知らんけど。けど恥ずくね?アンケート取ったら9割は恥ずいって答えるって。残りの1割?絶念。

「それはそうとジェスター君とサージュ君は災難だったようだね」

 言い方的に俺らの事件を既に知っていると考えて良いだろう。

「あぁ、確かアクアマリンだったか、お前さんに聞きたいんだが俺らを襲った集団について何か知っていたりしないか?」

「ふむ…すまない、集団の居所は分からないが名前なら噂程度に耳にしているよ」

「それを教えてくれないか?只でとは言わない、何かしら対価は払うぞ」

 交渉を相手に持ち掛ける場合は先にこちらが対価を支払うと言う意思表示をした方が相手の印象的に悪くはないはずだ。

 相手の要求にもよるが、俺が考えている対価は金じゃなく俺のこれからの行動を交渉材料にする。

 簡単に言えば頼み事を聞いてやるから情報くれって訳だ。

「いや、対価は必要ないよ、その代わり私も君達の行動に同行させてくれないかな?」

 同行させろ……だと?

 そんなもん良い訳ないだろただでさえ俺はサージュの面倒見るだけで程いっぱいなのにアクアマリンが加わったら絶対に面倒なことが多くなる。俺の第六感がそう言っている。

 それと美少女と美女に囲まれたら俺の頭がパンナコッタになる、つまり俺の理性が死ぬ。

 だからここは丁重に断らせてもら。

「あぁ、もし断っても無理に着いて行くからね」

 くっそ!俺に安泰の時は無いのか!

 あぁ死ぬ、俺死ぬ、絶対過労死するて、人生終わりよ終わり、人生オワタ。

「お兄様の表情がどんどん曇ってます…」

「君の兄は分かりやすいね、相当嫌がっているのがわかるよ」

 そんな表情でやすいんか、サージュにも言われたけど、こいつらが異常なだけですか?天才と重度の愛が重い依存ヤンデレなブラコン、この二人が異常なだけですか?

 それなら俺まだ健常者じゃね?

 というか嫌がっているのがわかるなら着いていくのやめてもらって良いですか?

「だから、無理に着いていくと言っているだろう?君が嫌がっていてもその事実は変わらないよ」

「ナチュラルに心読むのやめてもらって良いですか?つか、合わせるタイミング完璧すぎだろ、どうなってんだお前ら」

「私はお兄様のことを愛してますから」

「私は人の表情を読むのが得意でね」

「アクアマリンはともかく、サージュの場合はニュアンスが違うよね?」

 君の場合違うよね?愛が重いだけだよね?

 俺の行動を愛で理解してるって言うけど実際は俺の行動パターンや思考パターンを把握してるだけだよね?

 言葉に表したら狂気度が増したな。

 今更か。

 何もかも諦めがついた俺はアクアマリンが同行することを許可する思考になる。

「はぁ…分かったよアクアマリン、お前さんの同行を認める」

「踏ん切りが付いたみたいだね、流石は思考の天才だ」

「はいはい、皮肉なら後で思う存分言うと良いさ」

 アクアマリンの発言を軽く流しながら、本題の話にする。

「それで、本題だが、まず俺達を襲った集団について知っている限りで良い、教えてくれ」

「あぁ、構わないよ。まず襲撃を行った集団の名前はクラシクス・ディエティティス」

「クラシクス・ディエティティス……」

 サージュが言葉の意味がわからないと言った感じに復唱する。

「高尚な審判……ってところか」

 言葉の意味を直訳するならそう言う言葉になる。

「あぁ、私も流石にその名前に何の意味が込められているかはわからない、私も私でクラシクスについての情報は持っていないんだ、すまないね」

「いや、名前が分かっただけかなり探しやすい、ありがとな」

「いやいや、例には及ばないよ」

 アクアマリンの方が俺よりポーカーフェイス上手いモンだな。

 ふっしかし、俺にはお前らが持っていない技を取得している。

 あらゆる人から認識されなくなる技だ。

 別に影が薄いわけじゃないからね、ないからね。

「そういや、お前さんは何で同行することを条件に出したんだ?」

「ただの興味本位だよ」

「…本当か?」

「あぁ」

 何となく嘘クセェがアクアマリンにも何かしら事情があると考えればいいか。

「追及しないのですか?」

「それ言ったら相手も追及するもんだ、相手がしないなら俺もするつもりはない」

「一方的ではなく対等な立場にいる事で情報を不用意に言う必要を無くしつつ信頼を保つ、と言う事だね」

「まぁ、そうとも言えるな」

 そろそろ行動しないとな。

 それとアクアマリンと会話してのこの違和感、こいつ…確実に俺のことを探りに来ているな。

 周りから宝の持ち腐れだの何だの言われる俺、才能があるが何も出来ない無能と言われる俺。

 大凡、そう見えないから自身の目で確認しようとしている。

 はぁ、面倒だな。

 色々察せられる前に移動すっか。

「詮索するんだったら後にしてくれ今は」

「少し待ってくれないか?」

 そうクラシクスの情報を探るために街に出ようと思った時アクアマリンに遮られる。

「どうした?何か用意するもんでもあるのか?」

「いや、そうではないのだが、先に寄りたい場所があってね」

「寄りたい場所か…聞いても大丈夫そうか?」

「あぁ、ファレンス村近くの森に用があってね」

 …そんなピンポイントで用があることなんてある?

 驚きのあまり悲鳴あげるところだったぞ、殺人事件が起きたかのような悲鳴あげるところだったぞ。

 俺の叫びなんて需要ないだろ、だから俺のことを驚かせるのはやめるんだ。俺のこの捻くれた思考が社会的地位の悪夢を見させるぞ。

「君達にも少し付き合って欲しいのだよ」

「やーよ、めんど」

「ついて来きたらその分の報酬として金を支払うぞ」

「やらせて頂きます」

「お兄様、もう威厳がないです……」

 何を言う、お金をもらえるのなら何だってやるぞ俺は、それに俺に羞恥心というものは無い、と言いたいけども人間に必要な最低限の羞恥心ならあるがプライドなんてもんは親の腹の中に捨ててきたんでな。

「それじゃ、付き合ってもらうぞ、ジェスター君、サージュ君」

 色々と情報が飛び交っていたが、クラシクスか…調べないとな。

 天才三人が協力関係となった後、城を後にし俺らは来た道を途中まで戻るのだった。

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