第4話 が当たれば不と化す
私は愛するお兄様の隣で並列に歩いていた。
私はお兄様が好きで好きで愛おしくて、困った顔も、焦った顔も、凛々しい顔も、怒った顔も、どんなお兄様も好き。
好きで好きで堪らなくて、だから拒絶されたくない、離れたくない、側にいたい、お兄様さえいれば、お兄様と一緒にいれるのなら、どんなことでもする意気でいる。
今、私が平然を保てれるのはお兄様が今も尚ずっと側にいるから。屋敷で不安定になったりしていたのは離れることが多くて、ずっと一緒にいたいのに、それが出来なかったから。
これからは大丈夫、側にいるから。
愛してます。心の底から、お兄様を♡
でも……少し前から、違和感を感じるようにもなった。私を拒絶している訳じゃない、けどお兄様が何かに対して今まで感じなかった感情のようなものを抱いていること。
それが先日の襲撃の日で確信に至った。
お兄様は戦いに慣れ過ぎている。
あの時、私は恐怖と驚きで足がくすんで立てなくなりそうだった。お兄様の匂いでなんとか平然を保てられていましたが。
お兄様は私と違って、護衛として雇っていた従者と違って、今まで見てきた誰よりも戦いに慣れていた。
あの忌々しい女、あの女は強い、それは私でもわかること。
そんな女にお兄様は勝っていた。
お兄様を下にみる従者では勝てない強者だというのにお兄様は勝っていた。
お兄様と出会ってからお兄様が強いというのは分かっていた。でも私が予想していた実力より遥かに上回っていた。
お兄様はかっこよくて、優しくて、ヘタレで捻くれてるけどそこが愛おしくて。
そんなお兄様の過去を私は知らない、
お兄様は頑に話そうとしない。
お父様に聞いても、同じように話さない。
あの親子が何を隠しているのか見当もつかないけれど。
愛さえあれば関係ないよね?
うん、今考えてたことが馬鹿みたい、愛さえあれば、愛さえあれば、愛さえあれば。
いいよね?
今すっごい寒気がしたんだが?
……数日前にふざけて裏庭にあった苔を食ったせいで苔の神様にでも怒られたか?
今思えば俺何やってんだ。
…そういえば、そん時やることがあって飯食ってなかったんだっけ?
よし、水に流すとしよう。
俺たちが歩いてから十数分程が経った。
視線の奥の方で花が一面に広がっているように見える場所が映る。
ここまで来るのに警戒するような気配も音もしなかった。
どういうことだ?
ただのデマか?しかし、村の様子からしてそれは無いだろう。
しばらくして、開けたところに出る。
そこは木々がなく円の形で大きく花が咲き誇っていた。
近くにこんな所があるなんてな、俺も知らなかった。
俺が景色に圧倒されながらも横にいるサージュを見る。
俺と同じようにこの景色に見惚れているようだ。
「…行くか」
俺達はそこに足を踏み入れる。
昼だからこそ花が照らされ、本当にたくさん咲いているのが分かった。
「…綺麗ですね」
背後からサージュの声がしたので振り返ると、サージュは花の前で屈んでよく花を見ているようだった。
俺も周りの花に対して視線を送る。
多種多様な花があり、ある程度の花があることがわかった。
…待てある程度の花?
思考を巡らせようとした時。
「っ!?」
一瞬、一秒にも満たない時間だったが何かの気配がした。
人でも、動物でもない、何かの気配。
俺はそこで思考が中断され周囲に対して最大限の警戒をする。
ここ数日で二回も起きるか?こんなこと。
俺の様子に気付いたのだろう、サージュが不思議そうにこちらに歩んでくる。
「お兄様?」
言おうとした声を咄嗟に口で塞いだ。
今は我慢して貰おう。あとで土下座でも火炙りでも、罰は受ける。
「身構えとけ…何かいる」
そう言った数秒後、向けていた視線の横で轟音が鳴り響く。
村にも聞こえそうなほどの轟音。
けれどそれよりも、今の轟音が大地を抉った音も混じっていたのだろう、数本の木と岩がこちらに迫ってくる。
サージュを抱き寄せて魔法を使う。
【縮地】で安全圏まで一瞬で移動する。
しかし、それで安心できる訳でもない。
土煙が舞う中で奥から何か大きなシルエットが見えた。
機械兵器?しかし、そんな技術あるのか?
俺が疑問に思っているとその正体が見えた。
俺は目を見張っていた。
それは明らかに俺達の知る技術を逸脱した未知なる技術の産物だと直感で理解した。
今の感情はなんだろうか、恐怖?畏怖?いや違う、理解出来てないのだろう。
思考が停止しかける中でなんとか冷静になろうと呼吸を整える。
「確かに、これは化け物だな」
機械のようで機械じゃないような異質な存在に対して俺は苦笑いを浮かべて今、対峙していた。
何度も騒音が鳴る。
奴との戦闘が始まってから体感で三十分ほどが経過した。
宙に浮き、脚らしき物には輪っかのようなものがあり、腕と思わしき物の関節の全てが離れている。
移動速度がはまり早くはないが力が途轍もなく強い。
奴が腕らしき物を横に振るだけで何本もの木が薙ぎ倒され場合によってはこちらに飛んでくる。
ブレードでの攻撃も試みるがあまり効果的ではなさそうだ。
サージュも焦っているには焦っているがそれでも応戦は出来ている。
サージュが危ない時は縮地を使って回避しているがそろそろきつい。
まだ完全に回復していなかった魔力にされに使ったのだ、より使えば頭痛が酷くなりそうだ。
今でも平然を保つのに必死だと言うのにこれ以上負担が増えると…。
「お兄様!」
「っ!?」
思考を中断し標的に視線を向ける。
どうやらこちらに攻撃を仕掛けてくるようだ。
腕を振り上げこちらに降ろしてくる。
そう予測し身構えて回避できるよう思考を回す。
しかし、その必要はなかったようだ。
腕は振り上げたままに停止し、その化け物は動かなくなる。
その後に宙に浮いていた隣接していたであろう関節は機能を停止したのか。
落下してそのまま動かなくなる。
「……エネルギー切れ?」
生物では無い、生物に関連する生気は感じられなかった。無機物の何かしらなのだろう。
ともかく、こいつについて調べるべきだろう。
本当に三つ目の可能性が当たったのか?
俺の勘が当たるとか、きっと明日槍でも振るだろうな。いやそれだと俺が常に不幸体質みたいな言い方なんだが、間違ってないな。
と言うか俺が調べても大丈夫なのか審議が必要だと俺は思うのだよ。
もし勝手に調べたとしてそれを知られたら「え?あいつそんなんわかんの?キモ」となると俺は思うのだよ。
イメチェンも同じ部類だ。ジメジメした隠キャが成人に合わせて服装とか変えたとしよう「何あいつ、服装変えてイキろうとしてね?」と周りからの視線に死ぬ思いをする。これに近い経験を俺はしたことがあるのさ。悲しいな。
話を戻そう、こんな轟音や騒音が鳴り響き、時間が経ったのだ。
そろそろ人が来たとしてもおかしく無いだろう。
人に見られる訳にもいかないから早めにここを立ち去りたいが、この存在についても調べないと同じことが起きるやもしれん。
呼吸を整えて落ち着きを一時的に取り戻す。
そして結論を俺は叩き出す。
「逃げるか」
「逃げるのですか!?」
サージュの安全は分かっていたし、魔力消費したのはほぼ俺だけだ。
サージュは走れるだろうし、俺も走れる。
ならば誰かが来る前にここを立ち去るのがいいと俺は判断した。
と言ってもすぐ旅立つ訳でも無い。
今回も人に見つからないように村に戻るとして、休憩をとってから王都に向かうのがいいと俺は考えた。
それを簡単に、簡略して、誰でも分かりやすいようにサージュに伝えるとしよう。
「我が妹よ、村の人来るかも、バレずに村戻る、OK?」
「私のこと馬鹿にしてませんか!?」
「ソンナコトナイ、ジェスターウソツカナイ」
「カタコトなのがそうですよ!」
くっ、俺のレジェンダリーな嘘が効かないだと!?
俺はこの嘘で何人もの人から潜り抜けてきたと言うのに……こいつ、出来る!
「はぁ、ほら行きましょう?お兄様」
おっと?妹の何度目かわからない俺に対しての溜め息と、その存在を調べる前に手を掴まれ森の方に引っ張られる。
「え、どした?家族とは言えお金は出せないぞ?」
女の子に手を握られるとか、普通ないんですよ。つまり、隠キャの弱みを握り金を取るのがレースなのだよ。ソースは俺。
「そこでお金の話にはなりませんから、捻くれても良いですから自虐的な思考はやめて下さい」
俺から自虐的な思考を取り除いたら何が残るって言うんだ。捻くれが残るぞ、そして自虐的な思考が復活する。いや、復活すんのかよ。これが負の連鎖か。
「捻くれた思考には私がさせませんから」
そう言うこと言うんじゃないよ。勘違いするだろ。
俺みたいな思春期な隠キャに言うと自分に好意を持ってると認識して告白して振られる。そう振られる。
「お兄様の全てを私で埋めれば…ふふ♡」
小声で言ってるんだろうけどバリバリ聞こえてるんですよ。
今の声で手汗やっばいことになったんですけど。
森の深い所に足を踏み入れては早めな足取りをする。
草木を踏む音が鳴り響くが、途中から俺もまともに歩くようにした。
どこからか人の声がする。
大凡、音がしなくなったから様子を見るために近づいてきたのだろう。
しかし、この様子じゃ村に辿り着くのに三十分くらいかかりそうだ。
足が重い。
完全にオーバーワークだ。
連続して魔力を多く消費する戦闘を行ったのだ。
魔力が枯渇しかけていてもおかしくないだろう。もし、さっきの戦闘で秋風月狼を使っていたら?
魔力欠乏で意識が途切れるか血反吐を吐いていただろうな。
出血はしていないが、骨に罅が入ってないことを祈るしかないな。
アドレナリンで痛みが引いているのだろうか。痛みの間隔が曖昧だ。
「っあ…」
「お兄様!」
躓いて転けてしまう、バランス感覚を保ちにくくなっているようだ。
ここまで疲労があったとは、魔力残量は感覚でしかわからないが半分を切っているか?
詳細にはわからんな。
自身のことを分析しながら立ち上がろうとするとサージュが支えてくれる。
「すまん、サージュ」
「私は大丈夫ですから、自分のことを心配して下さい」
その声はヤンデレな妹ではなくサージュとしてしっかりとした声で言ってくる。
サージュに支えられながらもなるべく、足に力を入れて歩く。
歩いていると森をぬけ村が見えてきた。
村人にバレる前にサージュはローブを着て俺はフードを深く被る。
出血が殆どないのが不幸中の幸いだ。
とにかく宿を取りたい。
これじゃまともに動けそうにない。
村に入っても何か注目を浴びるわけでもなかった。
極力誤魔化している為、なんとかなっているのだろう。
宿を取るべきか今日中に王都に行き、そこで休憩するか。
脳内で予定を変更しつつ、駅の方に足を向けようとする。
するとサージュは疑問に思ったのだろうか顔を向けてくる。
「汽車がそろそろ来そうなんだ、先に乗る準備を済ませて汽車内で休憩を取るのが効率が良い」
「でも、お兄様はこの前のもあって魔力が枯渇しているじゃないですか!このままじゃ…」
「だから汽車内で休憩するって言ってるだろ?俺は大丈夫だ」
でも、と抵抗するが乱暴にフード上から頭を撫でると黙り込んだ。
「……あの化け物は王都で知り合いに会ってからにするか」
多少、気になることがあるが、後回しにしよう。
村に隣接している汽車の駅に向かい乗車準備をする。
少しだけ時間に合間があったが何事もなく汽車が来ては俺達は乗る。
汽車内は綺麗で何十人か乗っている人が居た。
空席に二人で腰掛けて、汽車は発進する。
揺れて、金属と金属が激しく交差する音がこもった音で耳に届く。
窓の景色は平原が広がっており、周りに何もなく、ただ自然が広がっていた。
次第に眠気が誘ってくる。
疲弊した体は限界に達しているようだ。
悲鳴を上げる体が休むように眠気として強引に襲う。
それを察したのだろうか、サージュが隣で呟く。
「大丈夫ですよ、お兄様。私はローブを羽織っていますから正体は見えにくいでしょうし、王都までは数時間ありますから、寝たいのでしたら膝枕だってしますよ」
自身の膝をポンポンと叩いてそう言う。
「ばっかお前、女の子に膝枕してもらう俺とか通報案件だろ」
「私の膝では不服ですか?」
意地悪そうにそういうサージュはヤンデレの面影がなく普通の少女の声だ。
何故いきなりヤンデレモードがなくなったか夜が寝れるくらいには気になるが、気にしないでおこう。いや気にしないのか俺。
「意地ばかり張ってないで寝て下さい、魔力が少ないのにまともな思考はできません」
確かに、サージュの言う通りでもある。
考えるのが疲れたのか俺はサージュに言われた通りサージュの膝を借りて横になる。
次第に目が閉じていき、気がつくと意識は落ちていた。
私は心配です。
お兄様は優しいです。
いつも他者を優先して、どんなことでも背負おうとして。
私のことも助けてくれて、陰口を言うクズ共を見逃して、毒に刺される想いでいるのに平気な顔を無理にして。
私にも誤魔化そうとして、さっきだって王都だと私の身は最優先で保護されることを思って早めに移動しようとしたのでしょう。
自身が限界に限りなく近い状態でも、そんなの気にせずに私を優先してくれた。
お兄様の頭を優しく撫でる。
いつも気だるそうな表情をして、でもかっこよくて、そんなお兄様が今は幼く、可愛らしく見えた。
私は怖いです。
いつかお兄様は壊れるんじゃないのかと、無理難題も背負ってしまって潰れてしまうのではないかと。
頼って欲しい、救わせて欲しい。でもそれはお兄様が望んだことじゃない。
……だから、救って欲しいと思わせて、救って、私がお兄様を包んであげます♡
お兄様なら、お兄様の為に、お兄様が望むように、お兄様といられるから。
私は好きです。
お兄様のことを。
自身がお兄様に対して依存していることは自覚しています。でも、それで良いと思ってます。私はお兄様がいないと成り立ちません。
私の今の存在意義はお兄様にあります。だから、これ以上無茶をしないでください。お願いします、お兄様。
何か、懐かしい夢を見ていたような気がした。
しかし、それは必ずしも良い夢とは限らない。
そんな曖昧な感想をうろ覚えに持って意識が覚醒する。
頭が良く回らない。しかし、頭に柔らかい感触があり、心が落ち着く匂いも相まってまだ堪能したいと思ってしまう。
そんな思いと普通に寝にくいから寝返りを打つ。
「ひゃっ!?お、お兄様!?」
そんな高い声が聞こえる。車両にはあまり人はいないが声量が小さめと伺える。
頭は回っているようで回っていない。
意識はあるようでないような。
しかし、今の声で寝ぼけていた感覚は徐々に引いていき思考が回り始める。
「ん…?」
体を起こし、状況を確認する。
「………」
「………」
なーるほど、把握したぜ。
この状況で俺の取るべき行動は一つしかないと言う訳だ。
「すいませんしたあぁぁぁ!」
「……え?」
席にあるスペースを最大限活かし且つサージュからある一定距離を保ちつつ、サイクロン・オーシャン・ジャンピング・土下座を繰り出す。ふ、我ながら今回の土下座は高得点だ。120点あげちゃう。
「この度は、疲れていたとは言え寝てしまい挙句の果てには膝枕をしてもらうことになってほんとマジですみません、追放だけはしないでください、金なら渡すので本当に警察のお世話にだけはなりたくないんです。俺まだ捕まりたくないし」
ここまで噛まずに早口で言える俺凄くね?謝罪なら誰にも負けない気がするね。
これまでの人生で幾度となく土下座をし、謝罪文を口にしたと思っている?
…イキっている理由が悲しすぎるだろ俺。
「え、いや、お兄様…私、怒っているわけではありませんよ?」
あ、まじ?
ここまでやる必要なかった?
親に媚び売って金貸してもらった時と同じくらいの勢いを乗せてやったんだけど必要なかったか。媚び売ったことないけど。金貸してもらった事はあるぞ。ふっ、聞いて驚け、俺は貸してもらえる額を聞いて誰の認知できない綺麗で川を泳ぐ魚のように土下座でお願いしたからな。
やめろ、引くな。
さっと土下座をやめて普通に座る。
「さて……あとどれくらいだ?」
「切り替え早いですねお兄様……王都まであと1時間くらいです」
と言うことは正午過ぎってところだろうか。
少し時間があるから、これからについて考えられそうだ。
まずは、世間で俺は破門された扱いなのかを調べる。親父は昨日のうちに通達は済ましているだろうし、しかし形的にだからそこら辺の説明も済ましてくれているとありがたい。それの有無でこれからの行動が大きく変わる。
あと、安全確保だな、王都内とは言え、治安が悪いところは悪い。反吐が出るくらいにはな。だから、安全に日々を過ごせそうな場所の確保を最優先でやる必要がありそうだな。
それから、襲撃してきた集団についての情報、あのスノウとか言う女は名前させ聞いた事ない。有名な掃除屋や裏社会の情報は興味本位で調べたことがあるからちょいと知っているが、その名前は聞いたことない。この集団については情報が少なすぎる。しかし、後回しにしては情報を消される可能性も捨てきれない、なるべく急いで動くのが良いだろう。
最後に一番気になるのは、あの化け物。創作に出てくるような存在なんてこれまで信じてこなかったが、解明されてない文明が今の技術を上回っているのを考えれば世界に何かしらの秘密があってもおかしくない。可能性としてでしか考えられないが、あれが昔の遺産なら世界が大騒ぎになるぞ。それにあの花畑、なぜ場所、季節、気候を通り越した花が集中していたんだ?普通なら気付くはずだ。なぜ他の人間は気づかなかった?これについても調べる必要がありそうだ。
まとめるとしたらこんなもんか。
まずは王都内の中心にある城で安全確保とあの集団についての情報を調べるとしよう。一応、宛てはあるにはあるからな。
サージュはと言うと俺の方に体を傾けている。
「サージュ」
「どうされました?お兄様」
「王都についたらまず城に向かうぞ」
「分かりました」
「お前っていつも作戦とか深く聞かないよな」
「だってお兄様の作戦を理解するのは苦労しますから」
「え?そんな分かりにくい?」
まじか、説明力に関しては随一だと思っていたんだがな、因みに俺と言う参加者のみで検査した結果を指している。
「言ってしまえば分かりにくいですね」
ガクッと首の力も抜いてしまい、本気で落ち込む。
人生で十番目くらいに落ち込む。一番はと言うとこの性格を肯定されること、反面教師でいたいのにな〜。
「あ、いえお兄様の作戦がどうとか言葉選びがどうとかじゃなくてですね…」
説明がおかしいって言うんじゃなくて普通に分析してでの励ましって逆に心に来るんだが?人生で十番じゃなくて二番になりそうだぞ?一番は譲らないからな!
いや、何に対してだよ。
「お兄様の作戦は全て効率と結果を重視したものが多くてですね、その内容が細かくて情報量が多いんですよ。だから、作戦を全て伝えられたとしても全てをそのまま実行できる自信が無いですもの」
「いや、別に作戦の全てが上手く行くとは思ってないぞ?そのために保険の作戦を考えているからな」
「それですよ、お兄様」
「え?何が?」
「普通なら作戦は一つを基準に、その分岐して臨機応変に変えるものです。それでもプランA〜Cと三つか二つなんですよ」
少しだけ怒り口調で言う。
「でもお兄様はプランA〜Zまであるじゃ無いですか」
「……………」
「お兄様は天才です。それを理解してください」
「いや、お前も天才扱いされているだろ」
そうだよ、お前も天才枠として世界で重宝されている存在やろがい!
「天才枠でお兄様はトップレベルの実力だと思うのですが?」
「んなわけねーだろ、天才なんて世界でちらほらといる。名を馳せてないだけで俺らを超える存在なんているだろ、世界に絶対なんて言葉はない。絶対と言えるのは何かしらの条件を付け足した状態や状況を限定つけて言っているだけだ。ギャンブルでルーレットを回すとしよう」
「そこでお金関連が出るのがお兄様らしいと言うか…」
「うっせ、ともかくルーレットに賭ける滑稽極まりないチキン野郎のJ君がいたとしよう。そのJ君が安牌を狙って黒に全賭けしたとしよう。ルーレットの確率では半分と言える。50%だ。これは絶対とは言わない、当たり前だ100%じゃ無いからな。じゃあ例えば0と赤と黒に賭けたとしよう。ルーレットの数は0〜36だ。その全てに賭けていたら100%と言えるだろう。ただ、それはルーレットが正常に作動した、と言う前提的で一般的な思考で生み出された可能性だ。事前に俺達は、高い確率が導き出される状況を勝手に想定した上で考えているのだ。もし、ルーレットが正しく作動しなかったら?誰かの邪魔が入ったら?緊急停止なんてことが起きたら?急に自分が死んだら?全て0%では無い、絶対という言葉は何かを前提条件に他の確率を無視した上で出される違う確率なのさ」
なるべく分かりやすく説明する。実体験も交えての説明だ。と言うか0含めて37あるのに一箇所に賭ける時は36倍なんだよ。37倍にしてくれ、おかしいだろ。
「……本当にお兄様は捻くれているというか、屁理屈を捏ねりまくっていると言うか」
呆れた声色と表情で言うサージュさん。
いいじゃん別に。屁理屈は時に救うんだぞ、特に俺の自由を救ってくれている。
「それとJ君ってお兄」
「よーし、話していたらそろそろ着きそうだな。動けるように準備しとけよ」
サージュの言葉に被せるようにやや大きめに発言する。
「……お兄様」
やめて、そんな目で見ないで、そんな粗大ゴミを放り投げるゴリラみたいな目で見ないで、ぼくないちゃう。
ぼくのこころはせんさいなんですぅ〜〜。
キモイからやめるか、もし俺が幼児退行したらどうなるのだろうかなんて考えたことあったが、追放されて施設生活になると脳が信号を送っていたからその考えそのものをゴミ箱にスパーキングした。
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