19.さらばじゃ!
快適じゃ。
下僕は相変わらず、仕事と我の世話、合間に書類の入った封筒を持って出掛けた。
『オレはやったぞ。やり切ったッ。見たか、司法書士の野郎ぉぅ!』
机の上に書類を並べて、両拳を振り上げて叫んでいたのは、伏せておいてやる。
よっぽどの事をその『司法書士』とやらはやりよったのじゃの。
なんというか、下僕からドロッドロの呪詛紛いの気配を感じるわい。
そばにいるとゾワゾワして体調が悪くなるので、そそくさとその場を去った。
『彼氏さん』は、下僕の世話をして、時々我の世話もしてくれる。もう敵意を向けてくる事もない。
家の中は益々快適になり、下僕のモノグサおっさん度合いは進行しておるのが、ちょいと気掛かりじゃ。
『彼氏さん』も甘やかすばかりではいかんぞと言ってやりたいが、生き生きしておるので、やめておいた。
家の中の物も随分無くなった。
ガランとした部屋が幾つか出来た。
『担当』もやってくる。
ニコニコとしておる。下僕が喚いても動じない。肩を揉みつつ餌付けしたりしておる。我にもお土産をくれる。
貢ぎ物持参とはよく出来た奴よ。
しっぽを振って愛想よくしておいた。
大きな封筒の中身はカラーの原稿とやらだったり、ゲラとかいうのだという物らしい。よう知らんが下僕には必要なモノのようじゃ。
あと、小説の原稿の時もあるようじゃ。
だが、その時は、彼氏がおると妙にコソコソしておる。
我は出来るお犬様だからの。そういう時は『彼氏』の気配を教えてやっておる。
そうすると、おやつが貰えたり、ご飯が豪華になったりするからやめられぬ。
許せ『彼氏』よ。
とは言え、我もずっとここにいる訳ではないから、対策は早めに考えて置く事じゃな。
そうこうしてる内に、下僕1号がやってきた。
我、しっぽをこれでもかと振ってお出迎えしてやった。
両手を広げたヤツに飛び込みたいのに、体がその場をくるくる回ってしまう。
足が空回りするように床を掻いてしまう。
だから、千切れてもいいと思う程、思いっきり想いを込めてしっぽを振った。
もう我を置いていくでないッ!!!
抱きしめてくれる下僕1号のほっぺたを舐めまくる。泣くでないぞ。
この二人はよく似ておる。オイとオジの関係らしい。
下僕1号の腕の中から、下僕2号を見遣れば、ちょっと寂しげに手を振っておった。
「いつでもおいで、ロドリゴル3世」
ちゃんと言えるではないか!
バウッ!!!と吠えてやった。
我のお世話、大義であった。
横に『彼氏』がおる。
この家で一緒に暮らすらしい。
良かったの。
皆の者に元気よく吠えてやった。
では、さらばじゃ!
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次で終わりです。
あと少しお付き合い下さい。
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