18.我、知らん…
彼氏の脚に突進。
ヒョイっ
ムニュ…
避けられた上に踏まれた。
踏みよったッ! ガウゥッ!
「ロドリ
「ロドリゴル3世ね。惜しかった」
慌ててる下僕に優しく語りかけてる。
余裕じゃの、『彼氏さん』よ。
我の名前の間違えも訂正しよるし、なんだか癪じゃ。
暴れても仕方がないので、力を抜いて伏せた。
もう降参じゃ。
敵意のようなのも感じられん。
力を抜いたら、足の指がモニュモニュ動いて、、、マッサージしてくる。
器用なヤツじゃ。しかもコレ気持ち良い。
「くすぐったい…って。あーもー、こうなるのも嫌だったんだよぉ〜」
なんじゃ、下僕にもマッサージか?
本に器用じゃ。
「この格好してみます?」
「それは空想! あー! もうヤダ! こんな事するなら、本当に出入り禁止にする!」
思いっきりガタガタと下僕が暴れ出した。
それを難なく抑え込んでるようだ。
「大っ嫌いになってやる! これ以上したら、もう会わないからなッ!」
あー、涙声じゃ。
ほっぺた舐めてやりたいが、コヤツの足の下じゃから無理じゃ。
彼氏よ、責任取れ。
「え? 泣かないで下さいよ。ね?」
「嫌ッ! キライッ。触るなッ! 離せッ!」
あーあ。。。我、知らん。。。
彼氏が拘束を緩めたのであろう。下僕が男をペシペシ叩きながら立ち上がる。
下僕が必死に宥めながら、二人ソファの方に移動して行った。
我、ちょっと心配なので、ついて行った。
下僕がソファの端っこに座ったところで、膝に飛び乗った。ほっぺたを舐めてやる。大きな大人が泣くでないぞ。
彼氏が台所へ行った。
戻って来た手にマグカップ。湯気が立っておる。甘い香りじゃ。ミルクの匂い。
下僕は、無言で受け取ってちびちび飲んでおる。
我一匹分離れたところに彼氏が座った。
「先輩、ここを拠点にするのは、俺の為?」
静かに訊ねて来た。
「…そうでもあったけど、今は違う。ゆっくり遺品整理と母の終活、オレもかな…してやりたくなった」
「整理?」
「初めは、さっさと全部処分して更地にして売っぱらう事考えてたんだ。だけど、手続きとかしてたらさ。もう少し時間かけてもいいんじゃないかなって。
思い出をひとつずつ、少しずつ、自分と折り合いつけて、さよならしてもいいんじゃないかなって…」
優しく、ゆっくり、ゆったりと下僕の手が我を撫でる。
膝の上でゆったりとその手と声音の振動に身を任せた。
「ここで、父さんと母さんは過ごして、オレも育った。父さんは何を思ってここで過ごして、母さんと暮らしてたんだろうなって思ってさ」
「処分出来なくなるんじゃ…」
「するよ。処分する。ただ、丁寧にお別れしたいってだけ。それにまだここの名義は、父のままさ。なにせ、オレひとりで手続きしてるんでな」
やっと明るい声になった。
「俺が手伝ってもいいですか?」
「……」
下僕は黙って、温かなミルクを飲んでおる。
ゆっくり、少しだけ、彼氏が近づいて来た。
下僕は緊張もせず、じっとしておる。
「オレのペースを崩さないなら…」
ポツリと返した。
「見てます」
「ありがとう」
触れ合える位置に彼氏が近づいて来た。
ふわっと空気が和らいだ。
もう大丈夫じゃな。
我は下僕の手の温もりを感じながら目を閉じた。
鼻を擦り合わせられるキョリじゃ。仲直りの挨拶も出来たであろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます