15.参ったかッ!

「拠点? 編集長? 聞いてませんよ?!」


さっきまでニコニコの余裕だったヤツが、顔色を変えよった。


「だって、今日、電話で話したところだし…。出るちょっと前だったかな。編集長の事だから、帰社後か、メール?」


質問に思い出しながら答えておる。

丁寧じゃの…。まぁ、よい。

お陰で風が変な感じじゃが、こっちに向いたようじゃ。


「先輩、俺…」

漸く『彼氏』が話し始めようとしてる。

なのに、下僕、話し始めるし…。


「オレさ、ロドリンド・・ル3世のお陰で、お前に頼りっきりだって、気づいた。これじゃ依存だって。お前の好きを利用してたんだ。お前は、若いし、オレみたいなおっさんにかまけてるのは、時間の無駄だよ…別れよ」


名前を間違えよったが、ここは我慢じゃ…。

我、空気の読めるお犬様じゃからのッ!


「先輩、そいつ、変顔してる。なんか気に触る事言ったんじゃ…」


彼氏ッ!お主は空気の読めんヤツじゃのッ!

歯を剥いて見せた。


「ん? コイツ?」

下僕が我を見ようとしておる。お前に見せる気はないぞ。


「あっ、そうじゃなかった。

はっきり言いますね。

このままで良いんです。俺、先輩の世話出来るのが、今までの人生で一番幸せで。これから先も、老後だってお世話出来る自信ある。

俺の幸せ取らないで……」


彼氏野郎が、目の前に立っておった。

我を挟んで、なんだか、これは、和解の匂いがする。

仲直りのご挨拶じゃ。

ほれ、鼻先くっつけて…仲直りのご挨拶を…。


お? 我…邪魔じゃな。

これでは挨拶が出来ぬな。降りるとしようか。我の役割も終わりじゃろ…。

えーと、下僕? 何故、我を抱き直しておる?

我、下に降りたいのじゃが?

おい?


「…老後?」


「一生一緒にいたいんです。イズミさん」


「へ?」


心臓がドクンとなっておる。トクトクうるさく打っておるの…。


「“先輩”の方が良いですか?」


「は? え? お、お前ッ…」


熱いッ!

我を掴んでおる手が熱いゾ!

体も熱いの?!

我、熱いのは苦手じゃ!

離せッ!


ウニョウニョ、クニクニと体をくねらせ、足でカリカリと蹴ってジタバタしてみるが、この腕はびくともせん!


我、更に近づいてきた彼氏との間で挟まって来つつあっての…。狭い。狭いのじゃッ!


はっ! もうひとり人間を忘れておった!

『担当』ッ! 助けろォォォォ…


ウグゥ、グヘ、グフ…

抱きしめられて、上手く鳴けぬ。


下僕ッ!盾になるとは言ったがぁぁぁ!

もう終わりじゃろ?

仲直りでよかろう?


少し顔が動けた。更に目を動かして、かろうじて、『担当』を視界に捉えた。


固まりながらもスマホを耳に当てておる。

表情が無に近いの。余程ショックじゃったか?

『編集長』とかに掛けておるのか?

下僕に相談されなかったのが、ショックじゃったかのぉ。

しっかし、役に立たぬ男じゃ。こっちを見ろ。

あー、二人は見たくないか?


困ったのぉ…。


だか、その顔はなんじゃぁ〜。傑作じゃのッ。ぐふふ…笑いが止まらんわ。どうじゃ、参ったかッ!


はっ!

それより我を助けよォォォォ!



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