16.大団円か?
「先生…私……。担当を変えてもらいます」
ポツリと表情の抜けた男が発した声は小さい。
電話は繋がらなかったのかの。床に頽れるように両手を床について項垂れておる。
しかし、声音はスコーンと飛び込んで来た。
下僕が即座に反応した。
「困るッ!」
彼氏がビクッと離れた。
押し潰されるかと思ったぞッ。助かった。
下僕以上に心音をうるさくしておった奴がやっと離れて、ひと息つけた。
「困るよッ。ここで仕事出来るのも、今までの仕事だって。君がいなかったら、こんなに上手く回ってないよ」
彼氏を押し除けるように『担当』のところに駆け寄った。我も不本意ながら一緒じゃ。
「えっ、でも…」
「ね?」
我、知っておる。この数ヶ月この下僕と寝食を共にしてよーっく分かった。
コヤツ、やればできるのじゃ。本人に自覚がないようじゃがな。そして、本質はモノグサじゃ。残念な生き物じゃが、何故か放って置けぬ。
あれじゃな、放って置いたら衰弱してしまう気がするんじゃな。庇護欲を刺激するようじゃ。何がどうかは、よく分からんがな。
「君との仕事が一番やり易いんだ。的確な指摘もくれるし」
「先生の為な…」
顔を上げたが、弱々しい。やめてしまいそうじゃ。
下僕はお前が居ないと困るとよッ。
しっかりせいッ!
下僕の緩んだ腕から飛び出ると『担当』の胸に突撃した。
ゴフッ!と上で音が発した。
我ごと抱えて胸を押さえとる。強すぎたかの?
「ケホッ、コホッ…先生!」
『担当』が我を離して、下僕の手を両手で包むようにしっかり握った。
我はやっと下に降りれた。やれやれじゃ。
「めちゃくちゃイイの描いて下さいッ」
いつもの明るい『担当』の声と口調。調子が戻ったようじゃの。
肩をほぐして、プルプルと全身を振るった。プリティなしっぽもプルル。
「もちろんッ。本命の少女マンガは当然、あっちのエロいのもバンバン描いちゃうよッ」
下僕がつられるように明るい声で返しておる。あー、これは……。我は知らぬぞ。
調子に乗って要らぬ事まで言ってしもうたヤツじゃ、きっと……。
「言いましたね。編集長と話して来ます」
スクッと立ち上がると、荷物を纏めて、勿論、机の上の便箋とペンも回収して出て行った。ウキウキしておった。いい土産話が出来たようじゃの。
あー、なんというか、下僕、諦めよ。
「あ、あれ? やっちゃった?」
ボサボサ頭を掻きながら、混乱しておるようじゃが。
やってしもうたの。
バゥと声をかけてやった。我の事じゃないから気が楽じゃ。
まぁ、逃げられずに済んだようじゃから、良かったのではないかの。知らんけど。
耳の後ろをカリカリと後ろ足で掻いていた。
締め付けから解放されて、清々しい。
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あと少しかな。
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