7.我は分からんぞ。

「先生って結構マメですよね。でも…、こっちは、どうして?」


久しぶりのオヤツを食べておったら、下僕の下僕が大きな封筒を持ってきた。


車を結構走らせてくるらしい。

普段は画面の向こうで遣り取りしておるが、定期的にやってくる。


部屋の中の本などをちょいちょいと片付けておる。この男、雑用も出来るようじゃ。

そういえば、この前、運転手をしてくれたのだったな。あの時は世話になったので、ちょっと愛想良くしておいた。


壁に貼られた紙を見ておる。


アレは確か、我をピッと鳴るヤツの上に置いて計った結果を書きこんでおるヤツじゃ。

ちなみに後ろに別の紙があるが、それは殆ど埋まっておらん。

あちらの方が古いと思うがの…。


「自分のだとなんていうか……あれだ。そうそう。自分の事は自分がよく分かってるから、たまに計るぐらいでいいんだよ」


画面から目を離さず手を動かしておる。


「たまに……。コレ、体重減ってますよ? 先生、痩せ型なのに…」


「そう? 気の所為だよ」


「数字はウソつきませんよ」


「これだから理系はキライだ。えーと、ワザと、そう、ワザと数字は変えてんだよ」


「理系は関係ないでしょ。そう言う先生も理系じゃないですか。改ざんしてるんですか? 変えてるんなら普通増やすでしょう。数字に正直なんだから」


「あーもー、うっさい。ソコのデータとネーム持って行けよ。来なくても遣り取り出来るのに、何故来る」


「だって、顔見たいし、生きてるかなって。それに彼氏さんに頼まれたのもあるからですかね」


「裏切り者。さっき体重表撮った写真、削除しとけよ。じゃなかったら、もう仕事しないぞ」


「うっわぁ〜、そういうのは見てるんだ。脅すしぃ〜。悪い大人がいますよぉ〜」


戯けて言っておる。

この男、どこまで本気かよく分からぬ。


「台所にある紙袋、持ってってくれ。アイツに会うんだろ?」


「会いますけど。なんで会わないんですか? 電話ぐらい出てやって下さいよ。

この用紙だって、ご飯も色々お世話してたの彼氏さんじゃないですか。居ないと生活ガタガタになりません?

担当としては健康管理もしっかりして貰いたいんですけど。あ〜、痴話喧嘩に挟まれるの辛いんですけどぉ〜」


「今日はよく喋るなぁ。ほら、ネーム送った。次々作のプロットも。会社帰って見ろ。

ちゃんとオレは仕事をしている。犬の世話も出来てる。数年前のオレに返り咲いたのだよ。復活さッ」


椅子でふんぞり返っている下僕。ボサボサのヨレヨレだか顔色は悪くはない。


コヤツの言う事に間違いはない。

飯は食っとる。

掃除もそこそこしておる。

我のお世話は完璧じゃ。怠惰なホテル暮らしで増えてしもうた体重も適正に戻った。禿げかけていた毛も元通りじゃ。毛艶も良いじゃろ?

褒めて良いぞ。そこな男、愛でて行けッ。


我の事に比べれば、自分の周りがいい加減じゃが、やっておる事はやっておる…。


だが、まぁ…、この床の上の惨状はのぉ〜。だから、下僕の下僕が手を貸しておるのだな…。


「先生、全盛期の若い頃とは違いますから、自重して下さいね。冷蔵庫に彼氏さんの差し入れ入れてます。では、帰りますね」


「お、お前! いつの間にッ」


男の去るスピードの速い事。もう外じゃ。


「アイツに言っとけ。もう関わるな!」

下僕がつんのめりながら男を追いかけつつ、叫んでおる。


我、分からん。


戻ってきた下僕の視線が台所の方を寂しそうに見ておる。でも、嬉しそうな匂いがする。


我、ますます分からんぞ…。


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