6.チグハグというやつよの…
「先輩ぃぃ…」
泣き落としというヤツやの…。勝手口の向こうで情けない声を出しておる。
「帰れ。もう来るなって言ってるだろ」
やっと口を開きよった。
強い口調。突き放すような声音。
なんじゃその顔は、……泣きそうじゃないか。
人という生き物は、顔というか気持ちと声を別物で操れるのじゃの…。
器用なものじゃ。
「ちゃんとオレは出来てる。お前は必要ない。お前はお前の事をしろ」
静かだけど、よく通る声。
勝手口はカタリとも音を立てなくなった。
「俺は要らないって事? 別れたくない。離れないから。つ、付き纏ってやるッ」
涙声じゃ。こちらもなんだかの…。
「そうだ。いらんいらんッ。ストーカー? いいよ。警察にお願いして接近禁止にして貰うから、してくれていいよ」
こやつら何をやっておるのだ?
紙袋が取手に掛けられた。
外の男、帰るぞ?
骨ガムを噛むのも忘れて、勝手口と下僕を交互に見遣る。
いいのか???
いいのか?!
よくない気がするぞ?
行ってしまうぞ?
「また来ます…」
去っていく足音。引き摺るような重い音…。
「来んな…来ないでくれ」
テーブルに肘をついた手で顔を覆っておる。
呟きは手の中でくぐもって相手には届かなかったであろう。
脚に身体を擦り付けた。
クーンと鳴いて、抱っこを要求してやった。
下僕1号は、メソメソしてる時は我を抱いておったでの。お前もそうであろ?
「お前は出来る犬コロだな…」
グルゥと唸って抗議。ロドリゴル3世じゃ。ま、今回はこれで許してやる。
泣いてはなかったが、頬を舐めてやった。
クスッと笑った。
笑うのはいい事じゃ。
スマホが鳴っておる。
アラームというヤツじゃの。
いつの間にか朝の散歩の時間になっておった。
=============
困っちゃうワン!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます