5.嵐のようなヤツよの…
「はぁ、や……ん…」
久々にベッドで寝ておる下僕。
部屋の隅のゲージでぬくぬくと寝ておったが、何やら魘されるようだから様子を見にきた。
上掛けがモソモソ動いておる。
動けてる様じゃから『金縛り』というヤツじゃないの。アレの時はゲシゲシと踏んで吠えつけば良いと下僕1号に教えて貰った。貰ったがまだ実践した事はない。
初実践かとワクワクしてやってきたというのに残念じゃ。
ガバッと起き上がった。
タタッと後退りしてしもうた。我ビビってしもうたわ。
バウっと照れ隠しに吠えてしもうた。
やってしもうた…。
失敗続きじゃ…落ち込むぞよ。
オヤツがあれば気分も上がるのじゃが。。。
「マジかぁ〜…」
頭を抱えておる。
どうしたのじゃ?
何やら臭うの…。
確か、下僕もこの匂いがする事があったが……。ティッシュボックスはどこじゃ? アレを使うのじゃったの。
持ってきてやろうと薄暗い部屋の中をキョロキョロ。
「ああ、お前居たの? 起こしたか。ごめん。オレなんか言ってたかな…」
のっそり立ち上がった。
何処かに向かった。
我を置いていくのか?
何処かに行ってしまうのか?
下僕は我から離れぬでないぞ?
分かっておるか?!
慌てて着いて行く。
風呂場に入って行った。
ここは木造の二階建て。
古い臭いがする。
板張りのと廊下。
リフォームがしてあるのであろうな。板間ばかりで畳というのは、ひと部屋しかない。
大きな黒い箱がある部屋。あそこは香の臭いがキツイから行きとうないので避けておる。
風呂場の入り口に寝そべって待つ。
アヤツの心音が変な音じゃ。汗も変な感じじゃ。心配じゃから、ここで待ってやる。
シャワーの音の向こうで何やら苛立っているようじゃ。どうしたのかの…。
締め切りとかいうには終わったと言っておったのに、ゆっくりできん男よの…。
そうじゃ!
腹が減っておるからイラついておるんじゃ!
我は賢いの!正解が分かっておる。
ただ、これをどうアヤツに伝えるかじゃ……。
!
駆けた。
机の下。
あった。
咥えて戻る。
足元に置いてお座りで待つ。
『待て』が出来る賢いロドリゴル3世。褒めてよいぞッ。
「ん? ゴミ拾ってくれたの? 賢いなぁ。掃除もしないとなぁ」
黄色い空き箱を受け取ってくれて撫でる男は濡れ濡れじゃ。髪からボタボタと雫が。
「スッキリした…腹も減ったなぁ…」
ポイっとゴミ箱に箱を捨てて、服を着ると夜明けの陽が徐々に満たしている台所に入って行った。玉のれんが音を立てる。
我も餌入れを持ってきた。
いい匂いがしてくる。
コヤツ、ちゃんと料理というのをするではないか。
余程いつもが……うん、あの状態ではこんな風にしておれんかもしれんな…。
仲良く飯を食っておると、玄関が賑やかになった。
台所横の扉が叩かれた。勝手口というヤツじゃ。
「先輩? ご飯中? 良かった食べてるんだ。おかず持ってきたよ。担当さんが終わってるって教えてくれたから」
「聞き出したの間違いだろ…」
ボソリと呟いておる。
下僕は、食後のコーヒーを飲んでおる。さっきまで換気扇が回っておったから匂いが外に漏れておるのじゃろう。
確かこの男は、追い返された男じゃのぉ。
骨ガムを貰えて、ご満悦でガシガシしておる我。
「先輩? 玄関鍵は開くんだけど、引き戸開かないんだけど……つっかえ棒してる?」
情けない声じゃのう。
カジカジしながら、下僕を見上げる。
寂しそうに勝手口を見ておる。
そんな顔しておるなら、入れてやれば良いのに。居なくて寂しかったんじゃろ?
我よく分かるぞ、その気持ち。
遠吠えがしたくなるぞよな?
しかし、突然吹き荒れる嵐のような男じゃの…。
勝手口が叩かれる音を下僕と一緒に聴いておった。
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