8.本心とはどういったものじゃろの…。
電話じゃな。
日向ぼっこでうつらうつらとしてると我と下僕しかいない家の中で声がする。
この感じは何度も聞いておる。
前は声の感じは、違ったのだがな……。
強い口調で相手を突き放すように話しておる。
今日は更に少々語気が荒い。
そっと覗いた。
机に向かっておるが、スマホを耳に、手の上でペンが回ってるだけで、画面はついておらん。
「だから、お前の事は好きでもなんでも無くなった。むしろ嫌いになった。うざったい。
ーーーーそうだよ。オレの視界に入らないで欲しいね。そうか。そう言うなら、オレがここ出て行った方がいいな。
ーーーそうだな。犬のお迎えが来たら、オレは自由だし。また都市部に出てってもいいかもな。
ーーーーそうだよッ。もうお前は用済みなんだよッ」
切ったであろうスマホをじっと見ておる。
コトリと机に伏せると下僕も机に伏してしまった。
小刻みに肩が震えてるおる。
そっと離れた。
ここに来た当初は、あんな重苦しい感じはなかった。むしろ楽しそうでこちらまでウキウキする感じがして、耳がぴこぴこ動いて、鼻がヒクヒクしたものじゃ。
それが、段々と、下僕の様子が変わってきて、今に至る。
コレは言うなれば、別れ話というヤツであろうのぉ…。
今まで下僕1号の振られ形態を見てきたが、逆は初めてじゃ。
振る側というのは、こんなに悲壮感が漂うものなのか?
我は知らぬが、なんとも苦しそうじゃの…。
水を飲みながら、この重苦しい空気をどうしたものかと思案…。
「散歩行くぞぉ〜」
似合わぬ色眼鏡を掛けてリードを振っておる。
洗面所で顔でも洗っておったのだろうか。前髪が濡れておる。
相も変わらずボサボサの髪じゃ。
目が腫れておるの。
「今日はお前の写真を飼い主に送る約束してるから、いい顔してくれよ〜」
明るい声で我を撫でる手にうっとりじゃ。
嫌いじゃ、嫌いじゃと言っておるが、嫌ってはおらぬのは見れば分かる。
コヤツが相手に会いたくないのはそういう事であるにだろうの。
『担当』という男も分かっておるから協力をしておるように見える。
この男の本心というのはどこにあるのやら。
何かあるのだろうが、我には分からぬ。
コヤツとは出会ってまだ数ヶ月。怒涛の日々であった。
「聴いてくれるか? と言っても仕方がないよな…」
コヤツは朝早くに朝飯を食う。
ほとんど寝ておらんのではないだろうか。
いつも何かに向かっておる。
手を動かしておる。
上の空でも…。
何もしてない時は、ぼんやりしておる。
食後のコーヒーを飲んでおる男の腕の中でナデナデとゴッドバンドの施術を受けておる。
ただ撫でられ、モニュモニュされてるだけであるがな…。
「オレ、気づけたんだ。遅いよな…。コレ、依存だよ…。アイツは若いんだ。こんなおっさんの世話で終わるのはダメだ。オレが悪いんだよ…。幾ら気が弱ってたとしても流されちゃダメだったんだ…。アイツの為にならない…」
んー、好きだけど、離れたいという事か?
よく分からんが、別れたいのだな?
それが本心か?
………。
分かった。よーく分かったぞよ。
任せよッ。
我、ロドリゴル3世が協力してやろうではないかッ!
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お犬さま、ひと肌脱ぐか?!
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