第3話 二束三文

 この話を聞き、権蔵爺さんは地団駄を踏んだ。

「古い箱やったら、ウチにもぎょうさんあるわ」

 隆が通りかかるのを待っていて、爺さんは家に上げた。


「ジャガイモ入れは、どんな箱やったん?」

 隆は納屋に連れて行かれた。かますが積み上げられ、わずかに壊れかけたミカン箱があるくらいだった。


 台所に戻ると、暗い中に細長い木箱が見えた。

 ネズミが隅をかじり、穴を空けていた。尿の匂いがして、箱はシミだらけだった。

「あんな感じの箱やったけどなあ」


 権蔵爺さんは喜んだ。

 もう隆は用済みだった。

 隆がめずらしそうに、古銭の入った木箱を見ていると

「それ、やるけん、持って帰りな」

 初めて見る、権蔵爺さんの優しさだった。


 爺さんは婆さんに命じ、木箱の米や麦を出させた。

 それにしてもきたなかった。

「これでは教授先生に見せられんなあ」

 夫婦の意見は一致した。婆さんは半日かけて箱を、たわしでゴシゴシと水洗いした。


 銭も劣らず汚かった。

 すり減って字が読めないものが多かった。カビが生え、触るのもはばかられた。


 隆と洋一と修司、3人で山分けしたものの、この宝物の処分に困った。

「おはじきくらいやなあ。洋ちゃん・修ちゃん」

 隆は比較的きれいなのを親指ではじいた。

「ええ考えやなあ」

 洋一と修司も丸い古銭を順に弾いた。


「お前ら、何やっとんや」

 勲叔父さんに見られてしまった。

 隆はいきさつを話した。


「爺さん。めずらしいことがあるもんやなあ。まあ、箱が売れて大金が入ると思うたら、そんなガラクタは要らんわなあ」

 叔父さんは大笑いした。

「今度、町に行ったら、それ鑑定してもろうてやるよ。クルマは買えんでも、自転車くらいは買えるかも知れんで」

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