第2話 持ち腐れ
隆が小学校の高学年の頃、県内の大学の教授がやってきたことがあった。
中世の歴史の研究者だった。
「藩の史料に、千足村の小杉家から蟇目の矢を献納していた、という記録があるのですよ。何かゆかりのものがこちらにないかと思いまして」
「そりゃあ、権蔵爺さんのとこへ行くのがええやろ。うちは分家やからなあ」
父親は爺さんの家を教えた。
教授は引き返してきた。
「貧乏して、昔のものは残っとらん。バカにするにもほどがある」
権蔵爺さんは怒ったらしい。
爺さんは身持ちの悪さから落ちぶれた、というのがもっぱらの噂だった。昔、庄屋だったことに触れられるのを、何よりも嫌がった。
「ですから、一応こちらに残っているものを見せていただけませんか」
教授のたっての頼みだった。
教授は仏壇の位牌を見て、資料と突き合わせていた。
「確かに、一致する名前がありました。後、納屋を見せていただけませんか。何かあるかも」
父親と母親が教授を納屋に案内した。
「あ、あの箱!」
教授は四尺ほどの箱に走り寄った。細かく点検している。
「これで運んだのですよ。これは大変な発見ですよ。新車が買えるくらいの値打ちがありますよ。早く中のジャガイモなんか出してください」
母親は訳が分からないまま、ジャガイモをミカン箱に移していた。
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