続 村の少年探偵・隆 その3 お宝

山谷麻也

第1話 地名考

 千足は、すり鉢状の隠れ里のような村である。

 今でこそ、消滅寸前だが、1920年(大正9)にI街道が抜けるまでは、四国の大河・Y川と秘境・I地方を繋ぐ交通の要衝であった。

 古来、人々は峰に沿って抜かれた往還を行き来した。千足村の峠には旅の安全を願って祀られた道祖神が、わずかに往時を偲ばせている。


 千足村は中世に、ある産業で栄えた。今でいう、地場産業である。

 千足村では良質な矢が製造されていた。矢に適したシノメ竹が繁茂し、製品に加工する職人も多数いた。なかでも千足村で作られた蟇目がまめは魔除けの矢として珍重された。矢先に、蟇蛙の目のような穴が数個空けられ、射ると独特の音を発する。鏑矢かぶらやの仲間で、もとより殺傷の道具ではない。


 この蟇目の矢20本で1そくと数えた。量産地なので千束とされたが、常に四国の東方をうかがっていた長曾我部の目をくらますために千足としたのではないか――隆は祖父からそう聞かされて育った。

 祖父もまた、その祖父から聞いた話だった。


「奥の谷のそばに、材料の竹が生えとったんや」

 と祖父が教えてくれた。

 ここまで分かっているのだから、言い伝えに大して誤りはないと思われた。

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