第4話

 悟司とドミニクは、物をどかしたり持ったりして写真を撮っていた。

「圭司、なにか変なものあった??」

 悟司が黒くなった木の様な物を触りながら聞いた。が、一向に返事は返ってこない。不思議に思い部屋を見渡すと、ドミニク以外は誰も人は見当たらない。

「あれ?ドミニクさん…」

 近くでしゃがんで棚の下の隙間を撮っているドミニクを見てから聞いた。ドミニクは、ちょっと待って、と言ってスマホのライトをつけパシャリと撮ってから悟司の方を向く。

「圭司見てない?」

「え?圭司君?そこ、あれ?」

 ドミニクも部屋を見渡した。

「やっぱりいないよね。出ていく音は聞こえなかったんだけど…」

 ワンルームもないくらいの部屋で、隠れられる大きの物もない。

 ドミニクが軽く庭を見渡すが誰もいなかった。分かったのは車がないので宗介が買い物に行ったということだけ。

「庭にもおらんわ。家にでも戻ったんか?」

「うーん、なんか心配だから探してくるよ」

「俺も行くわ」

 改めて庭に出て見渡す。まだ夜ではないので他のUFO好きも来ておらずとても静かだ。鳥の声もなく、夏だというのに虫もなく、ただ寂しく風が吹くだけ。柵の外も見える範囲で見てみるが人も動物も居ない。その雰囲気のせいか8月だというのになんだか肌寒い。

 ドミニクは家に行ってみよか、と言って2人は向かった。鍵は閉めていないのでドアノブを回して入る。やたらしんとしていて、家に飲まれているようだ。電気がついて明るいはずなのに、暗く感じる。

 皆と歩いていた時は気にもしなかったが、今は不思議な事もあって床の軋む音が怖い。

 きっと萌花や柚子は荷解きも終えて探索しているのだろう。まずは玄関近くの謎の扉を開いて覗いた。が、誰も居ない。一応中に入って確認するがやはり誰も居ない。物置部屋にしているからか薄暗くひんやりとしている。

 部屋を出て斜め向かいのダイニングに入って中を覗く。が、ここも誰も居なかった。先程の様に中まで入って確認するが誰も居ない。

「んーここまで来て会わんねやったらスマホで連絡しよか」

「だね。圭司にちょっと電話してみる」

「俺も萌花たちに電話するわー。宗介にもメールしたいし…」

 2人はお互い邪魔にならない様に部屋の端と端に分かれた。かけた瞬間、おかけになった電話は…と流れたのでもう一度するが二度目も同じ事になった。不審に思う事が続くので胸がざわつく。不安なので、どこにいるの?連絡して。とメールを送った。

 どうやらドミニクは萌花と電話が繋がったらしく話している。

「あ、萌花。2人、今どこおるん?…そっち圭司君行ってへん?…うーんそうかー。あ、車なかったからそれは気づいた。ちょっとさ、圭司君おらんくなったから一旦ダイニング来れる?…うん、じゃ待っとるわー」

 ドミニクは電話を切って悟司の方へ向かった。悟司はチラっとスマホを見るが全く何も来ていない。

「圭司…電源入ってない…いや、電波かもしれないけど」

 悟司のその言葉を聞いてドミニクは胸がヒヤリとした。この場所は曰く付きだったのだろうか。昔から不定期ではあるが、宿泊施設として今までも機能していた。だから何もないと思っていた。

「ヤバイんちゃうか…。宗介は運転中やろからまだ分からんけど、萌花と柚子君は探索してたって。こっち来てくれるって言ってたけど…圭司君、犯罪に巻き込まれたんか?それとも…」

 その先は言葉が出なかった。もし幽霊関係であれば何もする事ができない。人間は人間で危ないが警察は呼べる。

「よ、4人で探せば見つかるやろ!もしかしたら隣のUFOスポットで草むらにしゃがんどったんかもしれんし!夜までに帰ってこんかったら警察呼ぼな!」

「う、ん…そうだね」

 とにかく今は2人以外にも人がいる事を感じたい。人の温もりを感じたい。言いようのない不安感に2人は、夏なのに寒いな、と思っていた。


「あ、あっつー!エアコンつけてよー!」

 扉を勢い良く開けて萌花はそう言った。彼女たちはそのまま中に入る。手で顔を拭っているので相当暑いのだろう。

「ああ、よかった。おってんな。あんな、庭にある謎の小屋あったやん?あそこの中を見てたら圭司君が突然消えてん。部屋も大きないし…隠れる場所もないし…出ていく音もなかったし…」

「え、ドミニン、それってまさかのUFO到来ですか?」

「うーん。なんかちゃうような気がする。あそこな、家主があんまはいらん言うてたやんか。その割には汚れてへんかったんよな」

 その話が出てから悟司が慌ててスマホから画像を出した。古い高級そうな布やガラスの白鳥、謎の黒い木などを見せると、2人は拡大したり縮小したりして見た。たまに、新品?など感想を言っている。

「でもあそこ、窓も扉もなかったよね?」

「ないで。やのにこんな綺麗やから…他のもヒビも入ってへんかったし」

 ほら、とドミニクは自分の撮った写真を見せた。2人は覗き込んだ。

 写真を見ては次、としていると思ったら途中で柚子が、ん?と言ってとまった。拡大したり自分が後ろに下がって見たりしている。悟司も、失礼、と言って一緒に見た。

 ドミニクが鉢植えの欠片を持っている写真だった。その下の方。棚の下の段が少し写っている。そこに悟司はなにか違和感を感じた。見られている気がする。どれだどれだと目を動かしていると、カチリと目があった。その瞬間全身に嫌な気が肌を撫でた。年齢も性別も分からないが、正面の顔の右側半分だけ写っていて、目はこちらを見ている。半透明なので分かりづらい。けれど気づいてしまえばしっかりとそこに居る。

 それに気づいた柚子と萌花も同じ反応をした。皆固まって唇を真っ青にしているので、ドミニクも見てみた。ちょうど拡大されているので目があった。何か嫌な感じがするので目をそらしたが、家具しかないこの部屋に出てきている気がする。どこに逃げても目が合うような。

 ドミニクはそっとスマホから写真を消そうと1枚1枚選んでいたら、最後に撮った棚の下側の隙間に目がいった。板と床で途中で途切れていて目だけしかないが、仰向けになってこちらを見ている。なるべく目が合わないようにして選んで削除ボタンを押した。

「さ…さっきね、1階を探索していたら、さ…」

 震えながら萌花はチラっと柚子を見た。

「ぼくの腕にびたびたって子供の手のようなものがついてたんだ…」

 柚子は自分の腕をさすった。鳥肌がたって肌触りが悪い。考えがまとまらないまま悟司とドミニクは柚子の腕を見た。

「い、今はなにもないの?柚子さん」

「痛ないん?」

 今は大丈夫…と小さく言った。

「こ、これからどうしよう?宗介も圭司くんもいないんでしょ…」

「さっき宗介にメールしたけど、運転中かもしれんから返事は来んとして…」

 悟司の方をチラっと見る。

「圭司も返事がまだ来てない…電話も電波か電源かで出なかった」

 無意識に萌花と柚子は手を繋いだ。

「まあ先にUFO見に行っとるかもしれんし、2人一組で探そ。まず家の中から。大きいとはいえ海外の豪邸ほどやないし。いつでも連絡とれるようにしといてな」

「分かった。じゃあ私と柚子は1階の右の方から見る」

「ああ。俺と悟司君は2階から見る。あ、2人の部屋は見んから」

 じゃあね、と言って分かれた。


 2階について、ドミニクが圭司の部屋を開けた。後ろで悟司がスマホを持って他の部屋から出てこないかキョロキョロしている。中は誰もおらず、入って布団を引っ剥がしたりするが居ない。

 次に悟司の部屋とドミニクたちの部屋も同じように見ては中に入って確認するがどこにも居ない。奥のつきあたりの扉を開いたらトイレだったので、中に進み見るがそこにも居ない。その間も悟司は、スマホを確認したり電話をしたり、廊下の方を見ているが反応もせず誰もいなかった。

「もっかい外のやつ見よか。その後隣のスポットに。て、ごめん、先行っといて、すぐ追いつくから。お腹が痛い」

「分かった。庭の小屋に先に行ってる。いたら連絡するよ」

 痛い痛い、とお腹を抑えてドミニクはトイレに戻っていった。


 外に出て、柵の向こう側をさっと見ながら小屋に向かった。

 何も巻き込まれていませんように、と思いながら小屋に入ると圭司が本を読んでいた。顔も唇も真っ青にしている。余程怖い内容なのか、それとも幽霊を見ているのか。肩に手を置くと圭司は肩をビクっとして振り向いた。ひどくげっそりとしている。

 どうしたの、と聞いたら、変な内容という事らしい。それでは済まないような感じだが、ここを出た方がいいだろうと思い飲み込んだ。本を見るとほとんど読んでいた。途中でどこかに行ったと思ったが、そうではないのか。

 ずっとここにいたのかと聞いたら、そうだと返事が来た。

 悟司はまたゾワリとした。思わず独り言も出てしまった。

「ええ…?なんかここ、気味悪いから皆の所に行こうよ。ドミニクさんも探してるし」

 といって悟司は歩いていった。

 瞬間、体も息も考えも止まった。さっきまでなかった扉があるのだ。ボロくて立て付けの悪い木の扉。色もくすんでしまっている。

 圭司は慌てて窓から出られないか見たが窓もついていた。砂のようなおがくずのような謎の粉が下についており、浅い傷がついている。外は来た時と変わりないが、この小屋だけが変わった。窓を割れないか叩いたりするがびくともしない。近くにある置物などを使ってもう一度叩くが、見た目はボロボロなのに壊れない。

 悟司も扉をガタガタとするが小さく揺れるだけで何もならなかった。思いっきり蹴っても何故か壊れない。どころか動く気配すらない。

 胸がドクドクとする。死ぬのではないか。こうなるまでは薄々そう感じてはいたが、まだ遠く感じていた。

 悟司は震える手でグループ通話のボタンを押した。誰か気づいてほしい。

 圭司も同じ事をしようとしたが何故かスマホがつかなかった。いつでもUFOの動画が撮れる様に充電をきっちりとしていたはずなのにつかない。その事も合わさり、酷く恐怖を感じた。早くここから出たいので、続けて窓が割れないか叩き続けた。

 2分程したところか。ドミニクが通話に入ってきた。

「どうしたん?」

「こ、小屋で圭司を見つけたけど、今度は小屋から出られなくなって!さっきまで窓と扉もなかったのに、今はあって!ドミニクさん外からなんとかどうなっているか見てほしい…!」

 返事は来ないが走る音が聞こえるので向かっているのだろう。2人はただ待っているだけでは気が遠くなりそうなので、扉と窓を叩き続けた。




            ---

 ドミニクはトイレもすみ手を拭いて、なんとなくスマホを出した。誰かがなにか連絡してるのかな、というくらい漠然とした感じでグループを開いた。

 開くと悟司がグループ通話をしているので入ってみたら、あの謎の小屋に閉じ込められたというのだ。なかった扉や窓がどこから来たのか不思議だが、そんな話をする余裕はない。返事する時間も惜しく感じたので全力で走った。

 元々警察官になりたくて走っていたおかげか思っていたより早く着いた。中から蹴る音や物で叩く音が聞こえる。本当に扉があった。ボロく色もくすんで、周りも欠けている。鍵は左上に後付けした簡易的な引っ掛け鍵がついてある。そんな扉なのにさっきから小さくしか揺れていない。シルバーのそれを取ろうと手を伸ばしたら、心臓が酷くドキっとなった。この鍵は新品のように綺麗だ。汚れてもなくネジが緩んでもいない。

「二人共!今から開けるから!!ちょっと待ってて!!」

 大声でそう言うと、中から分かった!と声が聞こえて静かになった。

 ドミニクはゴクリと唾を飲み鍵を開けた。するりと違和感なく外れる。念の為周りを確認し、ドアノブがないので押してみた。抵抗感なくすんなりと開いた。

 中にいた2人は酷くやつれていた。

「い、行こう、宗介にはここに戻らんようメールするから…萌花たちと合流してここを出よう」

 小さく頷いて家の中へ走っていった。

「俺が2人に伝えるから悟司君圭司君は皆の財布持ってきて!」

 はい!と言って2人は上に向かった。

 階段下の家主の部屋の扉が開いている。中を覗くと萌花と柚子がいた。こちらを見て震えている。ドミニクは萌花たちの見ていた場所に目を向けると謎の祭壇が置いてある。大人であろう人の頭の上半分の骸骨が一番上に置かれていて、その下に謎の箱があり、その目の前に作り物なのか、小さな骸骨の模型らしきものがぐたっと置かれている。そしてその箱の隣に本が開かれている。

 一歩、中に足を踏み入れると部屋の中は異様に寒かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る