第2話

 7月になった頃。悟司は通知が来ていないかスマホを開いた。

「ちょっと、悟司、靴はかないなら私と変わってよ」

「あ、ごめん姉さん」

 姉はスーツに身を包み、ベージュのフォーマルなスニーカーを履いて家を出た。その間も悟司はスマホを確認するが、まだ何の連絡も来ていない。心のなかでため息をつきながら学校へ向かった。


 1時間目も終わった頃、悟司はまたスマホを開いた。

 通知が来ていた。抽選に受かっていた。倍率が高いと思っていたので、落ちると覚悟していたので、頭の整理が追いつかなかった。まだまとまらないまま、圭司のクラスに行き呼んだ。

「どうしたんだよ、悟司」

「こ、これ、何書いてると思う?」

 そう言って見せると、圭司は嘘だろ、と呟いた。

「凄いじゃないか!俺さっき見たら落ちててさーショックだったけど、悟司ー!さっそく先輩たちにスクショして送ろうぜ!」

「うん、うん!そうだね!」

 研究部のグループを開き、写真を貼る。抽選、受かりました。というたったその文章も興奮と緊張で打ち間違えたまま送信した。

「親に連絡しなきゃな!」

 その後2人で親にメールをした。


 放課後。珍しく圭司以外の部員も走って部室に向かっていた。

 定食屋に着くと部員の皆が息を切らして集まっている。入ってすぐ、喉が渇いているのでそれぞれ飲み物を頼んだ。

「で、悟司様、ちょいと見せておくんなまし」

 柚子が両手をわきわきさせて言った。

 はい、と悟司が渡すと皆も覗き込んで、おおー、と言った。

「ちょっと僕、先に親に電話してきます。車借りないと」

「頼んだよ、免許持ちあんたしかいないんだから!」

 と皆がわいわい行動し始めた。

「どうしたんだい?皆そんなに盛り上がって」

「あ!ママ!あたしたち受かったの!例の場所!」

「じゃあ、楽できるように先に出来るものはしないとね!萌花、あんた宿題に専念しなさい、夏休みは配られるプリントだけにしとかないと辛いからね」

「うん、ありがとう!実はさっそく持って帰ってきてたんだー!今からするよ」

「おお、俺もや。奇遇やな」

「実はぼくもでござるー」

 皆考える事は同じなのだろうか、自分も自分もと鞄から出していった。

 ご飯を食べながら、何持っていくか話し合ってから、勉強にとりかかった。




               ---

「うっわーほんまに田舎やな。こんなん海外ドラマでしか見たことないわ」

 ドミニクが窓を見ながらそう言った。田んぼのような物があるが、かかしも建物もない。稀に家がポツンとある。けれど、この調子では使われているかも怪しい。道路だって都会の様に塗装されていなくて揺れる。最寄りの駅だって、本当に駅しかない。自販機すらなかった。そして、その最寄駅からですら、歩きでは難しい。歩いていたら1時間以上かかるのではないか。

「ホントだーうう、これは水洗トイレじゃない可能性大ですな…」

 柚子のその言葉に部員全員がげんなりした。最初は、さすがにないだろうと思っていたが、この場所を見たら現実味を帯びてきた。


 特に代わり映えのない道を行くと、一般市民から見ると豪邸が見えてきた。その隣がUFOスポットだ。

 家は奥行きも横も広く、二階建てだ。家の隣に謎の建物が増設されている。茶色が混じった落ち着いたピンク色の壁に、赤褐色の屋根。周りは長い間使われているのでくすんでいるが、白色で植物の形をした柵で囲ってある。

「ん?あれなんだろ??ねね、もえもえ、あれ何に使うのかな?」

 柚子が指さした先は、敷地内にやけにボロく小さな建物が建っていた。窓も扉も壊れているのか見当たらない。けれど中には何か物が入っている。

「見た感じ要らないもの置き場じゃないの?あんなのでも中に物いれてるし…」

 よねー、と柚子は言って先にインターホンを鳴らした。インターホンごしに、はい、と男性の声が聞こえる。

「あ、抽選に受かった者です。番号は…7635です」

「ああ、UFO研究部さんですね。今行きます」

 と言ってから家からすぐに出てきた。小太りの髭を整えた男性だ。2重で彫りが深い。赤いシャツにオーバーオールを着ている。

 わぁ、と柚子は心の中で呟いた。黒髪なのだが目が灰色で、彫りの深さや肌が白いのでハーフに見える。そういえば俳優で彫りが深い顔というので有名な人がいた。その類なのだろうか。

「特にガレージはないので庭の好きな所に停めておいてください」

「はい、ありがとうございます。皆さん、荷物は持ちましたか?」

 宗介が聞くと、持った、と皆元気に返事をした。

「こちらです、どうぞ」

 最初は緊張していたが、彼は爽やかに優しく話すのですぐに解れていった。中年なのだが全く年齢を感じさせないカラっとした接客で心地よい。

 中で靴を脱いで片付けていると意外ともたついていたようで、宗介も来た。

 それぞれ使って良い寝室に案内され、1人1人中に入った。ドミニクと宗介のみ一緒に入っていった。荷物を置くとスマホを持って説明を聞くためにすぐにリビングに集まった。

「食材は少ししか余ってないけど全部使っていいです。それと調味料もご自由に。もう年で一人暮らしなので足らない分は近くの街まで買いに行ってください。代々受け継いだ家なので私にも知らない物があるかもしれません。特に、あの外にある朽ちた建物。実は私もあまり入ったことがなくて…親曰くささくれていたり、腐っている所もあると言っていたので入る場合は気をつけてくださいね。見取り図はこれです。近くの街はスーパーは朝の7時から夜の8時、ドラッグストアは朝の9時から夜の9時、飲食店は朝の10時から昼の3時で一旦終わって、夜6時から夜10時まで開いてます。今からですとちょうどいい時間に着くかもしれません。家を探検していいですが触った物は元の場所に戻しておいてください。うーん、そのくらいかな?それでは楽しんでいってください。もうそろそろ迎えが来るので失礼します。バタバタしていてすみません」

「いーえ!やぬっちゃん楽しんでって!あんがとねい!」

「ありがとーUFO見たら送るね!」

「悪いやつが入ってこんよう見張っとるから安心しい!」

「ありがとうございます、大事に使わせていただきます」

「ありがとう。僕たちとてもいい経験になったよ」

「いってらっしゃい!気をつけてな!」

 とそれぞれ挨拶をしていった。彼は早歩きでどこか部屋に行き、大きな鞄を持って外へ出た。数分後、車の音が聞こえた。

「じゃ、皆荷ほどきしよっか」

 萌花のその言葉に皆も動いた。

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