Death invitation
ゆめのみち
第1話 Death invitation
放課後、高野圭司は走って木野萌花先輩の両親がやっている定食屋に向かった。彼女の家は学校からそう遠くないので、いつもそこに集まることになっている。
彼女の親の許可を得て、UFO好きが集まる非公式のUFO研究部の部室として使っている。高校に入るまで圭司と幼馴染の宮川悟司しかそういう話が出来なかった。話をすれば、エンタメとして聞かれる。それが高校に入り、仲間が増えた。それが嬉しくて入部してからずっと走って向かっている。
「あっれー!今日も一番だね!さっすがー!」
ゼェハァと息を切らしながら定食屋の扉を開けた。入って歩きながら、オレンジ…と言っていつもの場所にバタリと座る。萌花は伝票に注文されたものを書きオレンジジュースを用意した。長時間使うのに何も注文もせず場所代も支払わないのは失礼なので、部費として自分たちのバイト代やお小遣いで最低1つは注文する規則になっている。圭司たちの親もそれを知っているので、迎えを装ってそこで晩ごはんにする時もある。
「はーいこれー」
息が切れているので合間に少しずつ飲んだ。半分飲み終えると、うはーと声が出た。
萌花は他のお客に呼ばれたのでまた伝票を持って行った。奥からは萌花の父が野菜を切る音が聞こえる。上からダダダと階段を降りる音が聞こえた。戸が開き萌花の母が、あったあった、と興奮気味に言って出てきた。
「あら、圭司君来てたのねいらっしゃい。工具見つけたから行ってくるわ、萌花もうちょっとだけお願いね!」
「まっかせてよ!」
そう言いながら萌花は袖をまくるジェスチャーをした。
「何かあったのか?」
と圭司が聞くと、色々古いから立て続けに壊れてねーと萌花は言った。母は厨房へ行ったのでその中の何かが壊れたのだろう。
ガラガラガラ、と店の戸が開く音がした。先輩か悟司、どっちだろうと振り返ると二年の有田柚子先輩だった。行き倒れそうなくらい死にそう顔をしていた。心なしか体が震えているように見える。よろけながら席に向かったので、圭司は先輩から一番近い椅子をすぐに座れるように引いた。パタリと力なく座ると、これまた力ない声で、からあげ定食、と言って机に突っ伏した。タイミング悪く萌花はレジをしている。一組しか居ない事を確認し、圭司はレジの近くに行った。
萌花がありがとうございました、と言ってお釣りを片付け終えるのを確認してから、柚子さんからあげ定食だって、と伝えた。へい!と萌花は元気に返事をし伝票を書いて厨房に行った。
有田柚子は授業の合間にご飯を食べるがそれでももたないらしく、放課後はいつもこの定食屋で晩御飯の前に食べる。前に萌花が焼肉に食べ放題の店があることを知らなかったので、柚子が連れて行った事があった。その時に、あり得ない量を食べていたと萌花が興奮して言っていた。趣味でゴスをしていて学校でも黒髪を2つくくりをしている柚子とは思えない食べっぷりだったそうだ。
また戸が開いた。次はお客さんらしく、萌花がすぐいらっしゃしませーと言った。それから休む事なく別のお客の料理もできたのでそれを持っていった。圭司はそのチゲ鍋定食を見て、今すぐ食べようかと悩んだ。よだれが物凄く出ている。けれど、サワラ定食も気になるし、日替わりの焼き魚定食も食べたい。はあ、とため息をついて手で顔を覆った。今日はずっと焼き魚のあの味が食べたかった。おむすびもついていて、ここの店の塩加減が最高で、塩もまた美味しい。けれど、サワラを食べたことがないのでずっと気になる。いつも試そうと思って別のに行ってしまうから食べる事ができないのだ。そして今日は今日で先程の客のを見ていたら、チゲの味を思い出して凄く惹かれる。
「圭司!なになに、どしたの」
あまりにも酷かったのか萌花が聞いた。
「焼き魚定食も食べたいし、でもサワラ食べたことないから気になるし、さっきのチゲ鍋の香りが…」
話している最中、圭司は心のなかで、あぶな!と焦っていた。話していたら、よだれが垂れそうになったからだ。お腹も空いているしチゲの香りにやられている。止むこと知らないのかたくさん出てくる。
「なんだ!そうなら言ってよ!チゲ単品でつけて、どっちかの定食にしたらいいじゃない!」
「焼き魚定食で」
前をすっと見据えて即答した。サワラは今度で良い。今は体が欲しているものを食べよう。
あいよーと萌花は笑いながら言って伝票に書いた。
5分ほど経って、柚子のからあげ定食が来た。目を瞑って力なく倒れていたはずなのに、香りとこちらに向かう足音で一瞬で飛び起きた。目の前に置かれる前に、柚子は先にいただきますと言った。置かれたら、ありがとうと言ってがつがつと食べ始めた。うんま!という声が聞こえる。
また戸が開く音が聞こえた。
「あ、ドミニクくん宗介くん。後は悟司だけだね!」
と萌花は言った。
「萌花…倒れそう、俺…とんかつ定食と月見うどんと卵焼き頼むわ」
「僕はホルモン焼きうどん定食お願いします」
二人とも力のない顔でふらふらと席についた。
「体育もうやりたないわ…もう無理…」
とドミニクはそう言って突っ伏した。宗介は、追加でサイダーをお願いしますと言って、突っ伏さないように踏ん張っていた。だがいつも背筋が伸びてキレイなのに、今は猫背だ。炭酸で時間を引き伸ばすくらい辛いのだろう。
「はーい、まずサイダーねー置いとくよーん」
机にサイダーが置かれた瞬間、宗介はサイダーをグイグイと飲んだ。
また戸が開き、萌花がいらっしゃいませと言った。
「あれ?ママは?」
「あー今厨房で色々直してんの!」
「そうかそうか、大変だね。あとで2人来るから!さき生ビールちょうだい!」
はーい、と元気よく言って用意しに行った。
「ん?あれ?ドミニクさん。髪…」
と圭司が言うと、負けてん…と突っ伏したまま答えた。ドレッドヘアーをキレイに上の方でくくっていたのが、今は何もなくなって濃い茶色の肌が見えている。
「友達にゲームで負けてん。罰ゲームで坊主に…」
「え、あのドミニクさんが?」
「や、それが、知らんゲームでさあ。ズタボロよ」
あのゲームが得意で上手なドミニクが負ける姿は想像もできなかった。けれど、なぜだか笑ってしまった。
「あ、ごめん、ふふ、はは、いつも勝ってるから、なんかはは!」
「次こそは勝つけどな!知らんゲームでも勝ってやる!」
「あら、でもそんなドミニクも可愛いですよ」
と言って宗介は彼の頭を撫でた。うう、好きぃ、とドミニクは呻いた。
「はーい、焼き魚定食ねーチゲはもうちと待ってね」
置かれて一呼吸置いて、いただきますと言って圭司は食べた。我慢ができないので先に焼き魚を一口。口いっぱいに広がる旨さが幸せだ。
また戸が開き、萌花がいらっしゃいませと言った。遅れて来ると言われていた2人で、生ビール2つ!と言いながら先に来ていた人の所に座った。
と思ったら、1人だけこちらに来て座った。驚いて見ると悟司だった。
「すみません、UFOの本を買っていたら遅くなってしまって」
「いや、悟司、お前、どっから湧いたんだよ」
「ああ、彼、他のお客さんの後ろについていましたよ」
「そういう事だよ。はあ、喉が渇いた。アップルをまず頼もうかな」
「はーいチゲね。悟司、注文聞きにくるからちょっと待ってね」
そう言って萌花は、また厨房に戻り、ドミニクと宗介が頼んだ品々を運んできた。それを終えるとポケットから伝票を出して、悟司の注文を取り、また他のお客の料理を運んだ。
「あーやっと終わった。萌花、ありがとうね、あとは任せて部活しな」
萌花は、はーい、といってアップルジュースをグラスに入れこちらに来た。そのジュースを悟司の前に置き椅子に座った。
ちょうど柚子も定食を食べ終え、生き返ったですう、と言って元気になった。
「ママさん、もっかいからあげ定食お願い!あとチゲとホルモン焼きうどーん!」
はーい、と元気のいい声が聞こえた。
「ふっふっふ…」
柚子は突然腕を組み笑った。
「皆、ぼくにひれふすが良い」
と言いながら鞄からスマホを取り出す。画面を操作して、皆に見せた。
「なんと!あの地元で有名なミステリーサークルのお場所の近くの家がっ8月から1ヶ月、お泊りしてよいとっ抽選始まりますた!」
皆様にもリンク送りますね、と言ってスマホを触った。皆もすぐに鞄からスマホを取り出しリンクに飛び抽選をしていった。それを終えると、よくやった、など、何を持っていくか、など盛り上がった。
「おや?研究部、あそこに行くのか?」
3人組のお客のうちの1人が聞いてきた。
「あそこなードのつく田舎だから、駅ですら何も店がないから、食材とか先に街で買いいかなーならんからな。気ぃつけろよー。あと、歩くと地獄だから、車で行ったほうが良いぞ」
「へー田舎って聞いとったけどそんななんやーありがとうな教えてくれて」
「げげげ、ぼっとんトイレとかだったらヤダなぁぼく…」
「えー?でも柚子ちゃん、猪鍋あるかもしれないよ?」
皆思い思いに話していく。まだ抽選に当たってもいないというのに話は盛り上がっていった。
家主は8月に長期休暇をとって旅行に行くらしく、元のようにキレイに使ってくれるなら泊まって良いとの事だ。不規則で行っているらしく3年ぶりだと宗介は言った。
使って良い寝室は5部屋だ。それは別に2人同じ部屋に泊まれば良い。もっと良いのは値段だ。そんなに泊まれて、何人来ても一律5万という。大人数で来れば1人あたり安くなる。その家の隣が、UFOが来ると言われている場所になっている。運がいいとミステリーサークルも見られるそうだ。抽選結果は1ヶ月後の7月に通知されるみたいだ。
皆は当たったらどうするかなどわくわくしながら考えていた。
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