人生は予定どおり
尾八原ジュージ
人生は予定どおり
遅刻遅刻と叫びながら食パンを咥えて走っていた私は、角を曲がってきた原付と危うく正面衝突しそうになった。慌てて避けたけれど接触は免れず、私は左腕を骨折してしばらく病院に通うこととなる。
原付を運転していた男の子は、なんと事故ったその日、私がいるクラスに転校してきたばかりの子だった。傷物にしてしまったからには責任をとる、なんて言われてドキッとしたけど、要は回復するまで通院に付き合うという意味だった。
とはいえ年頃の男女がいっしょに行動していれば、自然と好意をもつこともあるものだ。特に相手はイケメンだし、私も見た目はぶっちゃけかなりいい。夕焼けの中をふたり並んで歩くところなどは、おそらく最高にエモい。
そのうち彼は当然のように私への愛を告白し、私は喜んでそれを受け入れた。こうして二人はいつまでもしあわせに暮らしました――となればよかったのだが、程なくして想定外のことが起こった。なんと彼が、不治の病にとりつかれたのである。
かくして彼は病院のベッドの中、日に日に巨大な鳥へと変身していくのだった。私は泣いた。これが泣かずにいられるだろうか。果たしてこの物語にハッピーエンドはあるのか。あるべき予定調和はどこへ行ってしまったのか。色々考えた結果、運命を正さねばならないと私は決めた。
私は神のもとへ赴いた。窓口で面会の手続きをしてから三時間待った。神は台帳のようなものをペラペラめくりながら、
「何も間違っていませんよ。お二人とも、ちゃんとわたしが敷いたレールの上を歩いています」と平坦な口調で言った。
「彼にはこれから鳥としての人生があります。お前はお前で、自分の人生をお探しなさい」
そんなもの、ハッピーエンドに向かう以外あるもんですか。
私はしょんぼりと肩をおとし、神のもとを後にした。うつむいて歩く私は、前をよく見ていなかったため、曲がり角で何かにぶつかった。イテテとぼやきながら見ると、それは入院しているはずの私の恋人だった。完全に鳥へと変じていたが、すぐに彼だとわかった。
「おっ、完全体。かっこいいじゃん」
私が褒めると、彼は長い首をゆらゆらさせて照れた。それから急にこちらに向かって飛んできた。
気がつくと、私は鳥の背にいた。滑らかな羽毛が私の体を包んでいた。街を離れ、風を切り、いつの間にか眼下には煌めく海、そして空は夕焼け。
「最高にエモい」
私が言うと、彼はギョーンと鳴いた。
鳥は夕焼け空の中をどこまでもどこまでも飛んでいった。やがて空の果ての果てにたどり着いた私たちは、そこにあった星の上に小さな巣を作り、いつまでも幸せに暮らした。
人生は予定どおり 尾八原ジュージ @zi-yon
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