Not a human 『Human lost』

@Maccha11

Human lost

いつもの学校、いつもの日常

下らない雑談に、意味があるかもわからない勉強

ただただそれを繰り返す毎日。

でも、そんな当たり前を享受できている人間は

今の世界には三人に一人ほどしかいない。

それは何故か、今一度考えてみよう。

通常、人間に完全なる平等というのは存在しない。

それは知っての通りだと思う。

だが、その完全なる平等はなくとも社会によって

ある程度の平等、と言うのは保証されている面が多い。

では何故、その多くの人が得ている平等、いや

『当たり前』を享受できている人間が、今の世の中で

三人に一人ほどしかいないのか。

その答えを百人に聞いたら、百人がこう答えるであろう。

『デモンズのせいだ』、と。

ある時、拡張次元と今は呼ばれている未知の次元に

人類が接触した時、その拡張次元から

人間の敵として現れた生命体。

それがデモンズ。

平たく言ってしまえば、デモンズは

人間界への侵略者そのものであり

数々の虐殺を引き起こし、多くの都市を滅ぼした厄災。

だが、そんな時にデモンズと相反するもの

後に『天使』と呼ばれるものが出現し

人間を守るため、戦った。

そして、その天使の力によって戦況は均衡し

何とか人類は絶滅を免れ、徐々に文明を立て直し

そして、デモンズを抹消するため

A&Hという、対デモンズ特殊機関を立ち上げた。

多くの人は、このA&H『正式名称Angel and human』に

救われ、当たり前の日常を享受できるようになった。

だが、私はこう思う。

人類のたった三分の一、それしか守れない組織に

意味などあるのか、、、と。

「小難しい事並べて何を言うかと思ったら

 結局A&Hを叩きたいだけかよ。

 、、、つまんねぇ本買っちゃったなぁ。」

公園のベンチで本を読んでいた少年

新宮 友也(にいみや ともや)は、そんな愚痴を

呟きながら立ち上がり、いつもの帰路につく。

「それにしても、当たり前の日常を享受できてるのが

 三分の一ってなんだよ。」

その言葉が実感できないのか、はたまた

嘘だと自分に信じ込ませたいのか

彼はそう呟く。

「それにしても、、、隻眼のエージェントねぇ。」


少し時は遡り、昼休み。

「なぁなぁ友也ってさ、何で片目だけ真っ白なんだ?」

「俺だってわかんねぇよ。

 まぁでも、普通にこの眼は見えてるし

 変なのは色だけだぞ?」

そう、俺の右目はなぜか真っ白。

何の事故に巻き込まれたでもなく、親が

特殊なわけでもない。

なのに、何故か生まれた時からそうなっている。

医師によると『特異体質』と、判断された。

まぁ、特異体質って言っても

他の特異体質の様な、1km先まで見えるとか

空中でジャンプできるとか、そんな大げさなものじゃなく

ちょっと不気味なくらいなモノなんだが。

「なあ、ちょっと思いついたんだけどさ

 友也お前、A&Hに入ってみたらどうよ?」

「、、、はぁ?!」

俺はヒーローじゃないしヒーロー体質でもないんだぞ?!

「だってさ、だってさ

 片目真っ白の隻眼のエージェントとか 

 最高にかっこいいじゃねぇかよ!」

「お前バカかよ。

 そんなん無理だっつーの!

 そんなんやるんだったら、お化け屋敷のお化け役の方が

 俺に向いてる職業だろ。」

自ら進んで戦いに行くほど俺は勇敢でも勇猛でもないのに。

そんなことを思っていると、小声でこう言ってきた。

「お前がもし、ナンバーズになって

 二つ名で呼ばれたら、絶対モテるようになるって。

 だって隻眼だぜ? 隻眼。 

 ハンデがあるのに強いって、最高に

 かっこいいじゃねぇか!」

「まぁ確かにモテたいのは分かるけどなぁ。

 俺そもそも隻眼じゃねぇぞ?」

そう言うと、肩をポンポンと叩き

「んな細かい事、お前が言わなきゃ

 誰も気づかねぇっての。」

うーん、でもなぁ、、、、

その時、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り

「おっ、もう授業の時間か。

 えーと次は、、、」

「お前の大嫌いな現代文だよ。」

「うげっ、マジか!

 、、、やべぇ、教科書家に忘れてきた。

 すまん!友也、教科書貸してくれるか?」

、、、どうしよっかなぁ。

これで何かを忘れたのは今週に入って5回目

というか、思い返せばほぼ毎日だな。

なら、今日ぐらいは少し痛い目にあってもらうか。

「そんなんじゃモテる男にはなれないぞ?

 ほらほら、ちゃんと先生に叱られて来い。」

「そんなぁ、、、

 もちょっと優しくなろうぜ? 

 な? な?」


、、、今思い出すとクッソ下らないな。

でも何故か、『隻眼』っていう

アイツが言ったあれが引っかかるんだよな。

「うーん。」

少し立ち止まって考え込んでいると

唐突に後ろから声が掛った。

「やっほー、あれ? 友也君じゃん。

 聞いたよ~? A&Hに入って

 隻眼のエージェントになるって。」

いきなり意味の分からないことを言われ友也は一瞬固まる

が、すぐに今日の昼休みの事を思い出し

大体の状況と、その犯人の顔が頭に浮かび上がってきた。

クッソアイツ、余計なことばっかり言いやがって。

、、、こんな報復されんなら

教科書貸してやればよかった!

そんなことを思いながら後ろを振り向くと

そこには、演劇部に入っている西原 優が満面の笑みで

立っていた。

「演劇部、、、なるほどね。

 俺をスカウトでもしに来たのか?」 

そんなことを言うと、少しいじけた顔で

「ん~、せっかちな男子はモテないよ~?

 そ、れ、に。

 演劇部は君が向いているところだと思うけどな~。」

まぁ確かに片目真っ白だったら化粧要らずの

バケモノ、もしくは中二病キャラにはうってつけか。

「まぁ向いているかもしれないけど。

 俺はあいにく帰宅部で、、、ね?」

俺はいわゆる部活、というものが肌に合うタイプでは

ないらしく、高校に入ってからはずっと帰宅部だった。

だからこそ、その提案は少し興味があった。

けれども、演劇部は入ったら間違いなく役をたくさん

貰える、というか逆に休みがなくなりそうで

怖い、という思いもあった。

「そんなこと言わずに~ね?」

こいつ引く気がねぇ!

、、、どうしよう。

そうして悩んでいる時

何かの歌声? のようなものが聞こえた。

「綺麗な歌声、、、ねぇ! 

 隻眼君も一緒に見に行こうよ!」

、、、隻眼君って。

「まぁいいけど。」

幸い興味がそれたみたいだし

隙を見て逃げ出すか。

にしても、演劇部で歌って、、、いるかそれ?

そんなことを思いながら、歌の聞こえる方向に

どんどん進んでいくと、いつの間にか

狭い路地にたどり着いていた。

「、、、なぁ、流石にまずいんじゃないのか?」

その路地は、まるで人間の侵入を拒んでいるかのように

曲がりくねっており、一見すると景色そのものが

歪んでいるようにすら見えた。

「へーきへーき、それよりこんな綺麗な歌を歌える逸材を

 とり逃す方が痛手だよ。」

、、、今すぐここから逃げたいけど、こんな路地で

女子一人残して逃げんのはなぁ。

そんな風に考えていると、その次の瞬間。

『ヨウコソ、哀レナ犠牲者サン。』

と言う声が脳内に響き、同時に

激しい頭痛が襲ってきた。

その次の瞬間、理解したくなくても理解できた。

『このままじゃ死ぬ』と。

「今すぐここを離れるぞ! 早く!」

そう言って、彼女に手を伸ばすが返事はかえってこない。

「おい! 聞こえてるんだろ! おい!」

そう言い、何度も何度も彼女の体を揺らすが

彼女はピクリとも動かず、ただ一点を見つめていた。

その目線の先に何があるのか確かめるため

すぐにその方向を向くと

そこには『デモンズ』、、、いや、バケモノが

確かにそこに居た。

助けを呼ぼうとした。

でも、声が出なかった。

逃げようとした。

でも、動くことができなかった。

そのバケモノがゆっくり、ゆっくり

歌いながら近づいてくる。

その歌を聞く度に、まるで自我を溶かされるような

何かに自分が侵食されていくかのような

まるで自分が自分でなくなるような感覚が

どんどん強くなっていった。

怖かった、怖かった、怖かった。

でも、それ以上にそのバケモノが自分の隣にいる彼女を

生きたまま食おうとしている事が、それ以上に怖かった。

俺が先に死ぬなら、、、まだ、よかった。

それ以上の地獄を見なくて済むから。

、、、でも、それ以上に自分の前で知っている人が

殺される地獄を見るのは、大嫌いだ。

だから、願った。

願った。

願った。

『自分はどうなってもいい。

 でも、自分の前で誰かが殺されるのは見たくない。』

、、、と。

「離れろ! クソ野郎!」

力一杯その体を押しのけて

そして、バケモノの前に立ちはだかった。

、、、何で喋れたのか。

何で動けたのかは、自分でもわからない。

でも、一つわかるのは

気づいたら体が先に動いていた事だけだった。

「掛って来いよバケモン!

 俺が相手だ!」

そう言って構えていると、デモンズは

自身以上の何かを見たかのように、こう言った。

「、、、呪い、呪われてる。

 、、、私たちと同類? いや違う。

 天使? それも違う。

 、、、何なの、あなたは?」

「ごちゃごちゃ御託を並べてうるせぇな!

 俺の前から、とっとと失せやがれ!」

正直、カッコつけすぎたな。

さっきの臭すぎるセリフもそれに該当するのだが

それ以上に、右目が熱い、眼球が焼けるように痛い。

、、、正直気を抜いたら意識が飛びそうだ。

そして、啖呵を切って少し経った、その時。

「、、、なに、これ。

 体が勝手に、、、?」

そう言うと、デモンズは何故か、ゆっくり

ゆっくりと、路地の裏に引っ込んでいった。

「行った、、、か?」

、、、とりあえず助かった、のか?

あ、そうだ。

まずA&Hに通報しないと。

そう思い、ポケットからスマホを取り出すと

「なんだよ、、、これ。」

スマホのまだ電源が付いていない黒いスクリーンには

右目から血と白色の光を流している

他ならぬ自身の姿が写っていた。

その自身の姿に戦慄していると、後ろに居た彼女が

やっと我に返ったみたいで

「だ、大丈夫?」

と、こちらの顔を覗き込むようにして聞いてきた。

「え、目から、、、」

彼女にとっても衝撃だっただろう。

ただの弄りネタとして隻眼、とか言っていた人間の

片目だけに明らかに、人間のソレではなかったのだから。

内部から白色の光が漏れ出し、ここではないどこかを

見つめて、血を流す純白の右目。

これが何かのパフォーマンスなら、納得できる。

が、、、バケモノとついさっき対峙し

恐怖に脳のほとんどを支配されていた人間にとって

それは、どう見えただろうか。

『未知の恐怖』『人ではない何か』

あるいは、『バケモノ』。

彼女の脳は、目の前の人間

友也の事を、そう判断した。

「あなた、、、何? 何なの?!」

震える声でそう言い、まるで何かから逃げるかのように

彼女は立ち去ってしまった。

突然のデモンズの襲来、今まで特異性と言われる様な

特異性がなかった右目の突然変異。

そして、自身の体の筈なのに制御できない

右目の恐怖。

「何なんだ、何なんだよ、クッソ!」

脳内で混乱する情報を必死に整理して

何が起こったのかを理解しようとした。

そして、その脳の情報を必死に整理し

やっと落ち着いたときには、もう日が落ちていた。

「、、、三分の一、三分の一か。

 俺はその三分の一に入ってるんだろうか。」

きっとこれはただの特異体質による一時的な

特異性、きっと何とかなる。

当たり前を享受できる。

その言葉を自分に言い聞かせ、帰路についた。


そして家に帰り、自身の部屋に戻った。

、、、何故か、家族には話しかけられなかった。

「ケガしてんだから、心配くらいしてくれたって、、、」

まぁいいか。

にしても、あの光と血は何だったんだ?

落ち着いて帰る時には、血はまぁ、、、まだ

少し付いてたけど、右目の白い光はもうなかった。

そんなことを思いながらスマホを弄り

自分の体に起こった事とと似た現象を調べてみるが、

どれも役に立たないオカルトの域を出ない何かだった。

まぁデモンズの居る世界でオカルト、

時によっては事実とも考えられるが、

俺はあいにく人間の為、それが適応されることはない。

「考えたって仕方ねぇか。

 、、、よし。 寝よう!」

そう自身に言い聞かせ、ベットに横になり

目を閉じる、、、が

「どういうことだ?」

何故か、閉じた筈の右目から

、、、目を開けている時と、同じ景色が見えたのである。

「幻覚? 夢?」

もう一回瞼を強く閉じるが、、、ずっと

その景色は消えない。

それどころか、同じ場所なのに

違う景色が何個も何個も、重なるように

ぼやけて見えるようになってきた。

「あぁ! もう! どういうことだよ!

 俺が何をしたってんだ!」

その大声に反応したのか、姉が部屋の扉をノックしてきた。

「友也、ちょっといい?」

「あぁ、、、うん。

 大丈夫だよ、多分。」

ちょっとさすがにうるさくし過ぎたか?

でもそれにしてもさっきのは、、、

いや、さっきじゃなくて今もだな。

瞬きは一瞬だから気づかなかっただけで

閉じた筈の目に、目を開いたときと同じ光景と

それ以上の何かが、見えてたのは。

「あの、友也。

 、、、本当にあなたは友也だよね?」

「、、、あぁ、ごめん。

 ちょっと考え事がしちゃってて。

 というか、友也だよね?

 ってどういう?」

「いや、、、だって、、、。」

そう言うと、姉は何も言わずに

スマホの画面を見せてきた。

「ネットの掲示板?」

そこには、こう書きこまれていた。

『同級生だと思ってた隻眼の子が

 デモンズみたいな姿をしてた。』

、、、あ、、、あ?!

「隻眼、俺の事?!」

そして、画面をスクロールすると下に行くにつれ

どんどんどんどん、人間社会に溶け込むデモンズの

特徴や情報、そして恐らくだが俺の悪い噂が広がっていく。

「、、、ねぇ、本当にあなたは友也なの?」

「本当に友也だよ。 

 ったく何でこんなに不幸が集まって、、、」

人は、未知を恐れる。

そして、未知によって生まれた恐怖、その恐怖に限らず

全ての未知、恐怖は人を狂わせる。

そして、狂った人間は自身のために

他のモノを、傷つける。

『本日未明、正体不明のデモンズと思われる少年

 新宮友也が発見されました。

 まだ、危険度等が判明していないため

 近辺の皆さんは、十分に注意を払ってください。』

ふと、電源の付いていたテレビから

意味の分からない速報が流れ出す。

、、、は?

「何言ってんだこのクソメディア!

 何で命かけてデモンズから同級生守ったのに、

 俺がデモンズ扱いされんだよ!」

ついカッとなって、テレビを蹴り飛ばしてしまった。

そして、人間の負の感情は

恐ろしい勢いで拡散し、そして

人間は例外なく、その感情に飲まれる。

「デモンズ、、、デモンズは倒さないと、

 倒さないと。」

、、、母の声だ。

、、、母の声? 母は一体何を言ってる?

デモンズを倒す?

その疑問が脳裏をよぎり、声がする後ろを振り向くと

「、、、私の子を返して! バケモノ!」

と、誰をだれだかすら分かっていないほど狂乱した母が、

こちらを何度も、何度も執拗に包丁で切り付けてきた。

「何してんだよ! 母さん!」

咄嗟にそれを右手で防ぐが、生身で刃物を

防げるはずもなく、痛々しい傷が右手から全身へと

広がっていく。

痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。

切り裂かれるたびに、自身がバケモノと言われるたびに

体が、心が悲鳴を上げる。

「やめろ! もうやめろ、、、落ち着け。」

それを止めてくれたのは父だった。

でも、その父すら俺の事を、、、今までの

息子としてではなく、何か知らないものを

見るような目でしか、俺の事を見てくれなくなっていた。

顔にそう書いてあったわけではない、でも

直感的に、何故かそう分かった。

「、、、ねぇ、俺が何をしたって言うの?」

この世の不条理に、未知と言う恐怖が引き起こす

人間の悪意に、そして、、、善意に対する悪意に

全てに一日で晒され、苦しまれ

、、、そして、全てを失った。

「答えてよ、、、ねぇ、答えを教えてよ。」

俺が悪いわけじゃない。

何が悪いの、何で全部、、、何で?

涙を流しながらそう問う。

だが、人間が選んだのは、少年の涙と悲しみより

本能にある恐怖に、従うという選択肢だった。

「、、、お前は、もう息子じゃない。

 出てってくれ。」

そう言われ、されるがままに

家の外に放り出された。

ただでさえ体中に付けられた切り傷が痛むのに

無造作に顔から地面に投げ捨てられ

全身の傷から来る痛みに、体が悲鳴を上げる。

何かの喧騒が聞こえ、その喧噪の発生源である

自分を取り囲む何かに、視線を向ける。

するとそこには、悪意に満ちたメディア

特定厨、騒ぎをネタにしようと集うクソ野郎ども。

そんな奴らの歪んだ悪意が俺をお出迎えしてくれた。

「、、、なぁ、俺が何したって言うんだよ。」

そんな問いは、その悪意で形成された人の形を取った

なにかの問いに、かき消された。

「あなたは本当にデモンズなんですか?

 なら何で他のデモンズを撃退したんですか?」

「何で今まで潜伏していたんですか?」

「人間の家族に潜んで、一体何を企んでいたんですか?

 本物の息子さんは、どこにやったんですか?」

、、、黙れ、黙れ、黙れ、黙れ。

「黙れ、道を開けろ。」

「いい加減人間のフリなんかやめちまえよ、デモンズ。」

不条理だ。

もういっそ殺してやろうか。

そう思った瞬間、『〇せ白の■』という文字に続くように

脳内に意味の分からない文字列が浮かぶ。

それと同時に、情報が濁流のように頭に流れ込んでくる。

「答えてください!」

、、、うるさいなぁ。

こいつを黙らせるには、これでいいのか?

「黙れ。」

右目に見える景色、それらすべての中から選ぶ。

俺の望む未来を。

その瞬間、その悪意の塊は黙り、喋ることはなかった。

「ちょ、何をやったんですかあなたは!」

次、右前方数メートルから刃物を持った男。

「刃物なんて物騒だな。

 一度しか言わない、道を開けろ。」

そう言い、刃物を持った男の背をすれ違いざまに

そっと押してやる。

すると、その男はバランスを崩し

無様ともいえるようなコケ方をしながら、倒れる。

本当に見えたとおりの光景なんだな。

「な、やっぱりあなたは、デモンズなんですよね?!

 だったら家族も、、、全員?」

今のは、聞かなかったことにすらできないな。

いっそ殺してやろうか。

いや、殺すのはよくない、か。

でも、殺した方が。

『黒を、倒せ。

 白で、守れ。』

その瞬間、脳内に意味の分からない文字列が

また浮かび上がる。

、、、それには何故か強制力のようなものがあり

どうしても、殺すという判断を躊躇ってしまった。

「どうなんですか? ねぇ!」

でも、殺すくらい脅すのなら、いいか。

「死にたくなければ、俺と

 俺の家族だった者に関わるな。」

、、、さっき、脳内に流れ込んできた情報で

理解できていた。

俺は確かに人間だ。

でも、持っている力の本質はバケモノのそれだった。

でも、俺はバケモノにはなりたくない。

だから、、、こいつらを、殺したくても殺せない。

だって、本当に殺してしまったらいくら弁解しようとも

俺は、バケモノとしてずっと見られるだろうから。

まぁ、人を殺さなくとも

この先ずっとバケモノとして見られるのだろうが

それでも、デモンズと同じレベルまで

堕ちるのだけは、絶対に嫌だ。

どう考えようとも、結局

頭の中の変な文字のせいで殺すことは

なぜか躊躇ってしまうが。

それ以降、その人間の形をした悪意の塊は

喋ることはなく、何をするでもなく

全員、足早に逃げていった。

「、、、さて、何処へ行こう。」

さっきのあれで理解した。

俺はバケモノとして生まれ、バケモノを殺すための人間。

、、、でも、あいにく金の一銭も無いし

今さっき、人との信頼もすべて失った。

文字通り、全てを失ってしまったわけだ。

そんなことを思いながら、当てもなく

ふらふら歩きまわる。

「もう、きっと諦めがついてんだろうな。

 、、、今、こんな状況なのに冷静なのが

 一番の証拠、か。」

何をしても、どう頑張っても

この力が、当たり前を享受できないのを突きつけてくる。

『殺せ、黒の頁を』と、頭の中に文字として

何かの意志が俺の中に流れ込んでくる。

「なんだよ、黒の頁って。」

気づけば、俺が能力を初めて発現させた

あの路地に戻っていた。

「他に行くところもないし、社会の邪魔者には

 うってつけの場所か。」

ヒーローになる力を手に入れた。

でも、それは同時に呪いを内包していた。

、、、隻眼ね。

本当にただの隻眼だったら楽だったんだけど。

そんなことを俯きながら考えていると、頭上から

一つの声が降ってきた。

「やぁ、君が噂の隻眼君、かい?」

その声の方向をふと見ると、胸にはA&Hの証である

翼の生えている盾が描かれているバッジを付けており

そして、そいつの傍には数人の護衛が付いていた。

護衛が居るってことは、 

相当のお偉いさんってことだな。

「A&Hのお偉いさん、か?

 となると、俺を殺しに来たのか。」

そう問うと、そいつはこう言った。

「なぁ、隻眼君。

 私と来ないかい?」

、、、はい?

「あんた、正気か?」

「いやいや、私は正気だよ。

 と言っても、信用されないだろうから

 簡単にだが、理由を説明しようか。

 君は凄く貴重な力を持っているんだ。

 だから、スカウトしたくてね。

 ほら、スカウトを受けてくれれば

 君自身を新しくしてあげる事ができるよ?

 『A&Hのエージェント』として、ね?」

その目の前の男は、真剣そうな

でも、どこかへらへらした表情でこう告げた。

、、、今の俺には、何もない。

本来持っている日常も、信頼も、そして

明日生きるための食い物すらも。

酷い話だ、選択肢すらないってわけか。

いっそ死んでもいいと思ったが、どうしても

何故か、『殺せ黒の頁を』と言う文字が脳内から離れない。

それに、デモンズによって

全てを奪われた、他ならぬ俺自身が

奴らに何もせずに、ここで野垂れ死ぬのは気に食わない。

「まぁ、確かにここで何もせず終わりってのも

 気に食わない。

 だから、その話、、、受けてやるよ。」

「おっ、ちょっと生意気だね。

 でも、それくらいの方が僕は好みかな?

 じゃぁ行こうか、隻眼君。

 、、、いや、エージェントなんだから

 君の新しい名前である

 コードネームで呼んであげた方がいいかな?」

新しい名前、ね。

人間でありながら、バケモノの力を有し

バケモノと呼ばれる。

でも、生物学的には人間に分類される。

、、、この存在自体が矛盾と言ってもいい俺の新しい名か。

「人間でありながら、バケモノである。

 バケモノと見られながら、人間である。

 表裏一体、、、メビウスの輪。」

メビウスの輪には、裏も表もない。

裏を辿れば、それは表になるし

表を辿れば、それは裏になる。

正に、二面性を有しながらも

一個体として成立している俺に、ピッタリだ。

「お、それいいね。

 じゃぁ、君は今日から、、、【メビウス】だ。」

そして、その男の手を取った時。

俺は、新宮友也ではなく、【メビウス】として

生きていくことになった。

後に、俺はナンバーズになって、青の死神と

呼ばれる、、、が、ここではその話を記すするのはよそう。

だって、あくまでこれは、俺が俺になるまでの

言うなれば、記録みたいなものなのだから。

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