恐れていること

「海君―――」


 叫びながら景がやってくる。




「大逆転だよー」


 彼女は彼の前で叫ぶ。




「まあ、なんとかね……」


 気力を振り絞りかすれた声で彼は言葉を返す。




 タッタッ


 モルトケと幸乃が歩きながら近づいてくる。


 そして言い放つ


「時間差詠唱、良く使えたじゃない」




「ああ、未熟な俺が接近戦を戦うには、これしかないって思ってさ……」


 海輝がほほ笑みながら説明し出す。




(確かに武術の特訓はしている、でもどんなに一生懸命やったって広希やイレーナに追い付くには時間がかかる、それは相手をしていて1番わかった。でもそれまで接近戦になったり、更衣室みたいに奇襲をくらう事は想像できる、それで強い戦士と戦わなきゃいけなくなった時にどうするか、俺が出した答えがこれ……)




 幸乃に助けてもらったあの夜


 みんなが寝静まった後、彼は幸乃と表に出ていた


「話って、何?」




 そして打ち明ける、自分が足を引っ張ってしまったこと、だからもっと強くなりたいこと


「じゃあ、今の実力を知りたいからちょっと手合わせするわよ」




 そして2人は模擬戦をすることになったのだが……




 ドン!!


「ぐはっ」


 海輝が悲鳴を上げふっ飛ばされる、勝負は瞬殺だった




「ま、まだ初心者の中の下って行ったところね……」


 幸乃は吐き捨てるように言い放つ




「やっぱ、弱いのか、俺……」


 倒れたまま海輝はうつむいてそう話す…




「まだまだってこと、もっと訓練しないと」


 そう言いながら彼女は剣を彼の首へ向ける




「でも、勝てない方法があるわけじゃないわ」




 その言葉に海輝は反応する


「教えてくれ、頼む……」




 その必死そうな態度に幸乃は子供を見るような気持ちで微笑を浮かべながら対応する


(ちょっとこの子、私色に染めたくなっちゃった……)


「ま、仕方ないわ、奇襲性が高くって強い術式を教えてあげる、


 でも出来るようになるかはあなたの気持ち次第よ……」




「わかった!」


 即答で返事をした海輝、すぐに立ち上がり手ほどきを受けるが




 シュウゥゥゥゥゥゥ


「ううう……」




 習得には大変深い精神の集中が必要なこの術式、


 30分たってもなかなか成功せず




「はい、もう一回!!」


 幸乃の声が鳴り響く


 度重なる失敗に思わず弱気になる海輝




「もう駄目なんじゃないかって気がしてきた……」


 思わずそう声を漏らすと




「ダメ、あんたが習得できるようになるまで、今夜は寝かさないんだから!!」


 幸乃がそう叫ぶ、成功するまで返さないらしい




 業を煮やした幸乃は彼にアドバイスをする


「こういうときは…どうしてここにいるか、思い出して、そしてそのために手に入れたいって願ってやってみるといいかもしれないわね……」




 ふぅ…


 海輝は思い出す、望美への気持ちを


 そして囁く


「そうだ、思い出せ、この気持ちを……」




 今までにないくらい集中し




 そして……




 ドォォォォォォン!!




 彼が放ったプロトスペルが時間差で爆発


 やっと習得に大変な精神の集中な時間差呪文を海輝は手に入れた






 そして幸乃の声。


「ま、付け焼刃だけどやるじゃない、あんな難しい術式を覚えるなんて、素質はありそうね……」






 そして現在に至る




 スッ


 モルトケが海輝に肩を貸し、持ち上げる。




「ありがとう、もう動けなかったから助かった……」


 彼がそう言い放った時




 パチパチパチパチ




 どこからか拍手の音が鳴り響く。




「彼を、カルノーを倒すとは、よくやるじゃないか」




 彼はうすら笑いを浮かべながらこの部屋に入ってくる。




「あんたがシュライヒャーね……」


 幸乃が彼を指差しながら言い放つ。




「え?こいつが」


 困惑した表情の海輝。




「良く知っているじゃないか、まあ同じ七恒星同士だからな、それと……」


 彼は眼鏡の位置を右手でずらしながら言い放つ。




「お前達には研究所を破壊した貴様らには国家転覆罪を適用し、私自ら死刑を執行せねばな、今この場で……」




 彼の放つ言葉に全員が表情を引き攻める、その時




「待ってください、相手なら俺がする!!」


 どこからか叫び声がこだまする。




「広君」


 その叫び声を聞いて幸乃は反応する。




 そう、叫び声は彼が発した、中に侵入し、今この部屋にイレーナと一緒にたどり着いた。




「ほう貴様か、いいだろう……」


 互いにすでにデバイスは発動していた。


 それを確認しその言葉と同時に2人が戦闘態勢に入る。




 タッ


 2人が接近し合う。




 スッ


「え?」


 驚きの表情を見せる海輝。




「そう、これこそが彼の能力、自らの姿を視界から消すことが出来るの……」


 彼の力を噂で知っていた幸乃が説明し出す




(そう、俺も知っていた、彼の力、だから対策はしてある……こうすればいい!!)




 そう考え彼はポケットに右手を突っ込み




 サッ


 ポケットから当たり1面に砂をまき始める。




 パッ


 そして彼の背後だけ砂かはじかれる、何も見えない場所なのに……




(そこだ!!)


 広希は振り返る、そして




 天竜の力、力となり解放せよ!!


 スペルビア・オブ・バースト!!




 そこに渾身の汎用術式プロトスペルを解き放つ。




 天鳥の光、守護の力となり拡散せよ!!


 アクセディア・オブ・シャインフレア!!




 シュライヒャーが汎用術式プロトスペルを解き放つ。




 彼の周りに障壁が出来、ひびが入りながらも何とか守り切る。




 しかし


 スッ




 ひびの入った障壁ぎりぎりに広希の姿


 そして……




 応身なる姿、神々に轟かせる力示し、今ここに解脱せよ


 衆生のスフィア・バハムート






 ドォォォォォォン!!


 彼の剣から渾身の1撃。




 3mは吹き飛ぶ彼の体




(障壁がなければ即死だった、流石創造主の痣を持っているだけはあるな……)


 そう、ただ能力を使うだけでは彼には勝てないと考えた彼はある作戦を考える。




「広希君、流石だよ」


 ゆっくり立ち上がった彼が広希に話しかける。




「何のつもりだ?」


 広希は何か来ると思い、強気に返答する。




「素晴らしい実力だ、だが私には貴様に負けていないところがある」


 彼が語り出す……




(なんだこいつ……)


 そう考えながら彼の話を聞く広希。




「お前はかつて元帥パーシキヴィ・アウグストとともに行動していた」


「そして彼を失った後、その配下たちの間で例の事件が起こった……」




 ピクッ


 彼の表情が一瞬変わる。




 そして貴様は変わった、いや、退化した。


 貴様は自分を慕ってくれた景や傭兵として雇ってくれたエマナやそのおまけに甘えてここにいるわけだ




「何が言いたい、はっきりと言えよ」


 広希が言葉を返す。






 タッ


 シュライヒャーが接近してくる。




 広希もそれに応戦し、再び接近戦となる。




「そうか、だったら時間をかけてゆっくりと言おう……」




 たった4人の小さな師団長、それもただ一つの国に買われているだけの存在…


 貴様の実力を考えるとあまりに不相応すぎる、貴様ほどの実力があればもっと世界を動かすほどの年百人の連隊長や国の中でも大指揮官クラスになってもおかしくないはずだ。


 いや、貴様にもそんなオファーが来ているだろう、なぜそうしない……




(……)


 闘いながら広希は思い出す、確かに身に覚えがないわけではなかった




 エマナにも、もっと要人としてついてくれないかと最初はよく頼まれた


 だが…




「興味がないな、第一誰かに着くという事はそいつの傀儡になるという事だ」


(確かにそれもある、だがそれだけじゃない……)




「貴様は恐れているのだ、誰かに利用されることを、そして逃げているのだ……」






 ゆえに、何も責任もない、とりたくない弱い立場でいようと


 臆病ものもいいところだ…ただ傷つきたくないだけだ


 何も言われない立場から何も出来ないくせに文句だけは元帥クラスでいる奴に私を愚弄する資格はない。






 ドン!!


 シュライヒャーが広希に1撃を加える。




 広希はどことなく落ち着いていなかった……




「こんなことで動揺してどうすんのよ!!」


 幸乃の叫び声。




 タッ


 再び接近するシュライヒャー。




 カン!!カン!!


 再び接近戦で戦う2人。




「私は違う、非道と言われようとも構わない!!悪となってもいい、全てを踏み越え、この国を立てなおさらければならない!!」


 彼は戦いながら語り出す。


 今政治は各派閥が争う内乱状態。内閣も季刊内閣ともいわれ3ヶ月で変わっている状態。


 政府としての方針も全く決まらない




 七恒星の私なら簡単にこの陸軍大臣の座を、内閣を渡すことはない。


 おまけに国民からの人気もある。導かなくてはならない。






 全てはあれのために……




 ドン!!




 再び吹き飛ぶ広希の体。


 その中で考える




 確かにそうだと……


 俺は、あの事件以来世界の表舞台からは遠ざかった、エマナの傭兵としてイレーナや景と行動し、ただ彼の命に従って行動していた、今回だってそう……


 確かに夢はある、だがどこか恐れている、またあんなことになるんじゃないかって……




 ドン!!


 彼の1撃が広希の体を直撃する。




 吹き飛び、倒れる広希の体




(終わりだ、これでとどめだ……)






「動揺してどうすんのよ!!」




 叫び声が聞こえる。


 聞きなれた声、イレーナの叫ぶ声

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