ユトランドの闇

「森垣広希、騎士の一人です。薬はやっぱりいりません、では、さよなら……」




「イレーナ、行こう」


「あ、はい」


 そう広希は言い残し、イレーナとともにこの場を去った。






一方 深夜、再び工場に潜入した4人




 景、海輝、幸乃、モルトケ




 人が3人くらい通れそうな真っ暗な道を10分ほど進む、


「この辺りだね」


 前日の偵察で、資料がありそうな部屋に目星をつけておいた景。




 その近くにまで潜入に成功していた。




 コッコッ


 誰かがこっちへ向かっていく音


「たぶん警備よ!!あんたの出番ね!!」


 幸乃が小さな声で景に話しかける。




「わかったわかった、じゃあ手をつないで……」


 景が両隣りにいる幸乃と海輝と手をつなぐ、幸乃が右隣りにいるモルトケと手をつなぐ。




「さっきも言ったけど絶対に手を離しちゃだめだよ!!」


 景が3人にたしなめる。




「はいはい、離さないわよ……」


 それに幸乃が答える、もう説明はいいから、と思いつつ…




 タッタッ


 警備の兵士が来る音が近づく。


 そして…




 漆黒の影の力、我に暗黒の眠りに就く黙秘を破り、真実を伝承する力を…


 サンセットリレイス・掩蔽のアンブレラ・オーシャン




 スッ














 影海アンブレラ・オーシャン


 それが彼女の力




 この力を使うと彼女と彼女に触れている者の影の下が海になっていて、そこを泳いで誰にも気づかれずに移動出来るもの、だから彼女はポケットにゴーグルを持っていてその海を泳ぐ準備をしていた。




 海中


 景が泳ぎながら4人を先導していた。


(もう60秒、そろそろ息継ぎをしなきゃ……)


 景は海の中から地上を見ていた、彼女の視界からはどこに壁があるか、どこを人が歩いているのかはわかる、だから誰にもばれない場所を探して息継ぎのために4人が地上に上がれる場所を見つける必要があった。




(ここなら大丈夫)


 兵士に見つからない場所を見つける、そして




 ぎゅっぎゅっぎゅっ


 手を3回強く握る。


 それが4人で決めた息継ぎで外へ出る事の合図だった。




 ぶはっ


 4人が地上に出る。




「ここは?部屋?応接室かしら?」


 あたりを見回す幸乃、薄暗くてよく見えないがソファーと机があることからそう予想を立てる。




「意図的に部屋で息継ぎをしているのか?」


 モルトケが景に問いかける。




「そうだよー、だってこれが1番安全なんだよ、廊下だと息継ぎ中に敵に出くわすかもしれないし、部屋ならドアの右横の下あたりならドアが開いても敵の視界にはすぐにはいらないし」


 今までの経験から得意げに景が答える。




「ふ~ん、やるじゃない、ただの広君のおまけではないようね……」


 幸乃が感心した表情で答える。




「じゃあもう一回潜るよ、3つ先の部屋が怪しいからそこに行くから」


 スッ


 景がゴーグルを手に取る。




「わかった」


 海輝がそう返事をして4人は再び影海に潜る。




 1分後、




「ぶはっ」


 影海から頭を出す4人




 すっすっ


 ゴーグルを外し周囲を見渡す景。




「うん、当たりだね」


 あたりに無数の本棚。




「そうね、手当たり次第に読みましょ!!」


 どこかわくわくした表情の幸乃。




 鍵がかかっているのを確認するモルトケ。




「わかってるとは思うけど、物音出さないようにね」


 景が3人にたしなめるように注意し、資料をあさり始める。




 まず幸乃が発見する。


「ベルブ山研究所?聞いたことないわね」




 3人が集まる。


「これは西のほうにある山だ、火口付近にあるみたいだな……」




 資料の内容からモルトケが推測する。




「こっちには人体実験の記録が残っているよ」


 景が3人に資料を見せる。




 何々、薬品サリエル、濃度別に分けた時の運動の記録。






 濃度80%投与の場合。


 被験者、12歳、奴隷の男性、大金を条件に薬物の投与実験に契約。


 100メートル走、他の成人男性を圧倒する走りを記録。


 しかし、4時間ほど経って容体が急変、その3時間後、容体は回復せず息を引き取る。




 会議の結果、濃度を下げて実験を継続。






 60%から40%の場合でも容体が悪くなる場合が続出。


 13人の犠牲者を出しながら10~7%の濃度でも飛躍的な効果が出てくることを確認。




「何だ、これは」


 内容を呼んだ海輝が思わず口にする。






「これがこの国の闇だ」


 モルトケが口にする。




「北部同盟に取り入れるために彼らの闇を一身に請け負っているわけね……」


 幸乃が推測する。


「どういう事なの?」


 海輝が質問する。まだ彼にはこういう暗部の部分がよく理解出来ていなかった




「トカゲのしっぽきりってことよ、何かあったらこの国が単独でやったってことで逃げ切って成果の報告をさせているってことよ、北部同盟の盟主、ソンム共和国がね」




「仮にもこの世界を統一しようとする国がこんなことしているってわかったら大問題になるからそう言う事を属国たちにやらせているってことよ」


 幸乃の説明が終わる。そして景に気付く。




「さっきっから黙ってるわね、何読んでるのよ?」


 景に話しかける幸乃、そして呼んでいる本をのぞき見する。




 元帥パーシキヴィ・アウグスト、恐らくこの世界で最もカリスマ性と強さを兼ね備える戦士だった。


 何十人という騎士が彼を慕って配下になっていた。


 その配下も世界で指折りの騎士の集まりだった、彼らなら独立しても一級品クラスの師団になるだろう。


 森垣、音野、フォッシュ、ヘイグ、どれも素晴らしい実力……






(この国の人がその人にあった時の記録みたいね)




「これ、あなたや広君の連隊のことでしょ、トラウマを抉る気なの?」


 本に夢中になっている景に彼女は話しかける。




「ひっ」


 突然の話しかけに思わず声を上げる景。




「ちょっと、大声出さないでよ、ばれるわよ」


 それに幸乃が注意し、提案する。


「資料は持ち帰りましょ、長くいるとばれる危険もあるし、それに……」




 幸乃は一呼吸置いて話を続ける。




「広君にも見せたいし」




「─そうだね、じゃあ必要なのだけ持ちかえって後でみんなで見よう」


 そう結論づける景。




 そして4人は必要そうな書類を持ち帰り、4人のホテルへ戻っていった。

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