ユトランド公国

 ハァハァ……




 海輝は草原を走っていた


 激しいトレーニングの中、息を荒げる海輝。


 体はすでに限界を超えている、しかし体を休めることは出来ない……




 油断していた、トレーニングがこんなにつらいものだったとは




 それは俺が発した言葉が原因だった。




 ユトランド公国に到着した4人。


 イレーナと景が宿の手配に行っているため今は俺と広希の2人だけになっている。




 街並みを見てみる、今までの町と比べると建物が埃かぶっていたり、古かったりしていた


 国自体が貧しいのだろうか、どこか暗くてさびれている雰囲気だった




 そこで俺は相談する、今の自分の考えを




「え?もっと強くなりたい?」


 今までの3人の戦い、それを見て俺が広希に相談したことだった。




「ああ」


 彼やイレーナ、景は俺が見てきたこれまでに戦いで自分自身に与えられた役割を果たしていた。




 景は俺達の指針を指し示すための情報を、広希は魔獣を60体も1人で消滅させるほどの大活躍、イレーナは傷つきながら、あの結界を乗り越え超人的な力を手にして敵の黒幕を打ち破った。




 でも俺は何も出来ていなかった、イレーナの活躍をただ見ているだけだった。




「つまり、俺もみんなのように強くなりたいと」


 目をつぶり始め、彼の言葉から広希は結論付ける。




「ああ、何でもやるつもりだ、頼む!!」


 今の自分の思いを全てこめて頼み込む。




 そして意外にもそっけなく返事が返ってくる。


「いいよ、今からやってやるよ」




 意外にもそっけない返事に驚く海輝。


「いいのか?じゃあよろしく頼むよ」




 そして1時間後




「ハァハァ……」


 帰宅部だった俺には今までないほどの息の上がりよう、彼が用意したトレーニング。


 それは25メートルほどの間をひたすら往復でダッシュすることだった。




 それもいつまでやるかも知らされずに




「おい、ペースが落ちてるぞ!!早くしろ!!」


 彼の声で落ちていたペースをもう1度上げる。


 それから10分ぐらいはしただろうか、彼の「もういい、終わりだ!!」という声が発せられた途端、俺はバタッと倒れた。




「まだ倒れるな!!」


 そう叫ぶと俺の所にまでやってきて無理やり立ち上がらせる。




「走った後いきなり倒れると明日筋肉痛で動けなくなるぞ!!まずは歩け!それからストレッチだ」


 彼に無理やり立たされ歩き始める、そして5分ぐらいした後ストレッチをし始める。




「鬼、鬼畜、人でなし……」


 海輝、広希への思いを口にする。




「褒め言葉かな?ま、最初はこんなもんだ、今はつらいけど少しずつ体は出来てくるから」


 その想いに彼はほほ笑みながら答える。




 一生分は走った気がする。


 ストレッチが終わり、広希から倒れていていいと告げられすぐに倒れこむ。




「お~い、トレーニングは終わったかい」


 聞きなれた声が背後から聞こえる。


「終わったよ」


 倒れたまま答える。


「お疲れ様です」


 イレーナと景がこっちへやってくる。




「宿、どうだった?」


 2人に宿の確保を頼んでいた広希が質問する。


「何とか取れたよ、取れたけど……」


 景、視線をイレーナに送る。


「ちょっとね、ま、そこは後で話しますよ」


 視線を泳がせながら何かありげな返事をする。




「トレーニングは……終わったみたいだね」


 彼が倒れこんでいるのを見てすべてを察する景。




「どうでしたか?」


 イレーナも話しかける。




「感想?しいて言えば、詐欺にあった人の気持ちがわかった気がする」


 不満たらたらの表情。




「え、まさかお前何のトレーニングもせずに勇者になれると本当に思ってたの?」




 広希が話し始める。




「うわ~」


 それに同調し、はやし立てる景




「これ、下手したら詐欺罪だぞ」


 2人の開き直りに不満の表情で反論する。




「別に嘘なんか付いていないよ、真実を半分しか伝えていなかっただけだよ」


 開き直った様な口で景が答える。




「それもお前にとって都合のいい事実だけを意図的に抜け出して」


 何の罪悪感も持たずに淡々と広希が答える。




「ひでぇ開き直りだ」


 そう言うともう何も言う気力が無くなり倒れたままになる。




「終わった」


 かすれたような小さな声で囁きながら死体のようにうなだれる海輝。




「おーい、ここにいたかーい!!」


 そこに聞きなれた声の叫び声。




 聞きなれた声、そう確信してイレーナが返事をする。


「エーディン!!」


 視界にはあと二人いる。


「サラも」




 広希も口にする。


「エマナ、どうしてここに?」




「ああ、ユトランドとその先の新連邦に行くことになってね」


 答えるエマナ


「兵士たちも後から来ることになってる」




「ま、話は宿に着いてからにしよう、色々あるしね」


 なにか思わせぶりな答え。




「そう言えば、何で彼は戦場の死体みたいになっちゃったの?」


 この子はサラの友達、アンゲラー・エーディン、金髪でショートヘアーの女の子。


 エーディンが倒れている海輝を指差して質問する。




「あーそれはね?」


 気まずそうに景が答える。




 ひそひそ……




 イレーナが説明する。


「あーそういう事か」


 納得するエーディン。






「それでは私の出番だね!!」


 彼女が得意げな表情になる。




「どういう事なの?」


 倒れながらその表情が気になる海輝。




「あれ、イレーナがあっちの世界でもらってみんなで食べたあれ、レシピ通り作ってみたよ、今日も作るからみんなで食べよう!!」


 エーディンは依然イレーナがあっちの世界から持ってきたお土産にあった一つの料理が気に入ったらしく、そのレシピをイレーナに持ってくるように頼んでおいたようだ。




 そしてこの前あっちの世界へ行ったときにレシピを受け取りその通りに作ってもたらしい。




「じゃあ、私たちの宿に案内するよ」


 エーディンが自信に満ちあふれた表情をして案内を始める。




 そして彼らはエマナ達の宿に入る。


 流石は王子様がとった宿だった宿だと思った、俺達が前に取った宿より内装は豪華だったし、何より部屋の広さが違う、ここに7人いるはずだったのにそれがちょうどよい広さに見えるくらいに……




 そして1時間くらいで料理が出てくる。


 出てきた料理は……




「これは……パイ生地?」


 料理を見た海輝がまず発した言葉。




「うん、そうだけど、知らなかったの?あっちの世界ではよくある料理って聞いたけど…」


 それに聞き返すエーディン。




「いや、料理自体は知っているけどここで出てくるとは思わなくて……」


 海輝は何か悪いことを聞いてしまった感じがしてフォローしようとする。




 サラが説明に入る。


「ああ、彼女はこう呼ばれているんです」




「炎の料理人ってね!!」


 これ以上ないくらいのエーディンのドヤ顔。




「エーディンは料理が得意でイレーナから料理のカタログを以前もらっていたんです。それでパイ生地のレシピをこの前こっちに来てから教えてもらって、こっちの調理器具で作ってみて成功したんで、今ここでも御馳走しているんですよ」


 サラがそう説明する。




「いただきまーす」


 一斉にみんながそう言うと海輝も食べてみる。




 まず鶏肉をパイ生地で包み焼きしたもの、それにチーズがまぶしてある野菜サラダ、そしてそのほかに豆などのおかずがいくつか




「たしかにおいしい……」


 彼女の料理を食べて一言。




「うん、おいしい」


 イレーナやエマナ、広希も同じことを言う。




 そして食事中に広希が言い出す。


「さっき加地とも話をしたんだが、今回の作戦について話す」




 俺は視線をそっちに向ける。


 同時に全員の雰囲気も真剣な物になる。




 広希が全員のやることを話し始める。




 その話は30分ほどで終わった。




「本当に俺がやるの?初めてなんだけど」


 作戦の内容に驚きの表情を見せる海輝。




「お前の場合は何でも初心者マークだろ、まだ何が向いてるかの適性だってわからない段階なんだ、やってみろ」


 広希の反論、それに何も言い返せない海輝。




「わかったよ」


 どこか納得いかないような言い方で彼は承諾する。




 そこに景が一言。


「大丈夫、初めての大君には経験豊富な私がちゃんとリードしてあげるからね!!」


「誤解されるような言い方するなよ!!」




 そんなやりとりをした4人は自分たちの宿へ戻り、明日を迎える。

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